東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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第39話:秘匿された幻の契約~動き出す賢者と強者~


Count Scarlet's perspective

 

 

「・・・あぁ。君の言う通りだよ。だが、その運命の帰結は、僕もはるか昔から知っている。覚悟もできているし、後悔もない。」

 

そんな僕の言葉に、居合わせた古くからの友人である2人は、驚いた様子で、無言で顔を伏せた。

 

「君の言う契約にも、異議はないよ。アズール嬢には迷惑をかけるかもしれないが、君なら信用できるさ。・・・という訳だから、小悪魔?契約の成立を頼むよ。」

「・・・・・・うぅ。・・・本当に?・・・グニールさんはこのままで良いのですか?どうにかする事はできないのですか?」

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古くからの友人の1人である、心優しい悪魔は悲しそうな顔でこちらを見ている。

 

「出来ない事はないさ。運命の改変は可能だよ。・・・でもね。30年前のアズール嬢の件があって確信したのさ。」

 

30年前のあの時。

彼女が背負うものの正体を垣間見た時、僕は謎めいた彼女の秘密に少し触れる事ができた。

 

「〖運命の改変には犠牲が伴う〗。恐らく、僕達の運命の帰結を知れば、心優しい彼女は動いてしまう。」

 

彼女の秘密を知り、今までの運命の改変は、彼女の犠牲の上に成り立っているものであると知った。

 

「彼女は、自身を犠牲にしてまで、たくさんの僕らの不幸せな運命を変えてくれた。これ以上彼女に背負わせるべきではないのさ。だから、僕はこの運命を受け入れる事にしたんだよ。」

 

そんな僕の答えにもどかしそうな、悲しそうな顔で言葉に詰まる小悪魔。

そんな小悪魔に僕は苦笑しながら、言葉をかける。

 

「そんな顔しないでおくれ?小悪魔。僕ははるか昔にした君との契約も忘れた訳じゃないよ。だから、大丈夫。なんとかなるさ。」

「・・・分かりました。」

 

僕のそんな言葉に小悪魔はしぶしぶといった様子で頷く。

 

「・・・」

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「おやおや。君までそんな顔するのかい?僕は君にも感謝しているし、大切な友人だと思っている。そんな友人である君からのお願いなら、できる限り聞いてあげるさ。それに、後悔は無いって言っただろう?」

 

もう1人の古くからの友人。

八雲紫が珍しく悲しそうな顔でこちらを見ている。

 

「伯爵・・・いいえ、グニール。貴方はずっと前から、この運命の帰結を知っていたのかしら?」

「それはもう、かなり昔から朧気ながら見えていたよ。明確に見えたのは彼女、〖特異点〗と出会えてからだね。」

「・・・そう・・だったのね。・・・貴方の覚悟は理解したわ、グニール。約束しましょう。貴方達の運命の帰結を、私は全て受け入れる。()()()()()()()()()()()()()()。」

 

おぉ。

それは助かるねぇ。

 

「幻をあまねく受け入れる理想郷、〖幻想郷〗・・・か。良い名前だね。・・・そこでなら幸せに、楽しく生きていけそうだ。」

 

遠い未来、僕達の運命の帰結が幸せそうに、楽しそうにその理想郷で暮らしている姿を幻視する。

 

「ネーミングセンスが壊滅的な貴方に、名前を褒められるのはなんだか嫌だけど、私もこの名前は気に入っているの。」

「・・・え!?僕ってそんなにネーミングセンスおかしいの!?ねぇ、小悪魔!本当なの?・・・って目を逸らさないでぇ!」

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うぇ!?

僕ってそんなにネーミングセンスおかしいの!?

 

・・・そう言えばレーヴァにも一緒に子供の名前を考えてた時に『私が名前を考えるから、貴方は口出ししちゃダメだからね!』って悲しい事言われたっけな・・・。

 

「はい〜。準備出来ました〜。大掛かりな契約なので、伯爵からもらったダサ・・・かっこいい私の名前を借り受けますね。」

「え!?今ダサいって言いかけた!?ねえ、絶対にダサいって言いかけたよね!?」

「はいはい。グニール。いちいち反応してたら日が暮れてしまうわ。」

「うぅ。友人達が冷たいよぉ。・・・じゃあ。〖カーディナル〗頼むよ!」

 

深紅の髪を揺らした美しい友人の悪魔に名前と共に、僕の力が授けられてゆく。

うぐぐぐ。

やっぱりこの全身から力が抜けていく感じは苦手だよ・・・。

久しぶりの名付けでもあったし、ちょっとしんどいね。

 

カーディナル〗の名を受けた小悪魔が、膨大な魔力を迸らせながら大規模な魔法陣を展開していく。

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そして展開した魔法陣が完成し、僕と紫が手を添えて、契約を宣誓する。

 

僕、グニール・スカーレットは、自身の運命の帰結を受け入れ、その後、来たるべき時期に紅魔館並びに月光館を幻想郷の帰属にする事を誓うよ。

私、八雲紫は、将来、来たるべき時期に紅魔館並びに月光館に住まう住人諸共、全てを幻想郷に受け入れる事を誓うわ。

「その契約は、私、カーディナルが見定め、確認しました。〖紅魔館、月光館の幻想郷への帰属契約〗を認めます。なお、我が名と魔力を持って、この契約は我ら三者以外の何者に対しても秘匿され、これから先、どんな悪魔であってもこの契約の破棄は認めない事とします。発動(アクティベイト)、〖契約(コントラクト)〗。」

 

小悪魔の詠唱を受けた魔法陣が、一際輝き、光の残滓となって、空気に消えていった。

 

世界に認めさせる、世界から秘匿する契約。

 

一見矛盾が生じている契約であるが、そこは最上級の悪魔である〖カーディナル〗にとってはおちゃのこさいさいに世界に認めさせる事が可能らしい。

本当に有能な悪魔を秘書に持てて、僕は幸せ者だよ。

 

「はい〜。終わりました〜。力をお返ししますね〜。」

 

深紅の魔力に溢れていた〖カーディナル〗から僕へと力が返還され、彼女は小悪魔へと戻った。

 

僕にはじわじわと力が戻ってきたが、脱力はまだまだ続いている。

 

「・・・ふぅ。久しぶりにすっごく疲れたよ。・・・というか、小悪魔?僕が名付けた名前に文句言わないでよ・・・。悲しくなっちゃうじゃないか・・・。」

「あらら〜。すみません〜。でもしょんぼりしちゃった伯爵は、とっても可愛らしかったですよ〜。」

「・・・かわいいとか言われても嬉しくない。・・・ってちょっと、突っつかないでよ。ひぁ!?っこあくまぁ!!今は脱力しちゃって感覚も敏感になってるから突っついたらダメ!!」

「・・・すみません〜。ついつい私の中の悪魔が伯爵を突っつけと囁いてましたので〜。」

 

脱力しちゃった状態をさっそく、小悪魔にいじられた。

小悪魔は謝りながらも、まだ僕の隙を見てくすぐろうとじわじわとにじり寄ってくる。

・・・うぅ。

やっぱり小悪魔の前では、絶対に弱みを見せてはいけないな・・・。

 

そんなこんなで、くすぐろうとしてくる小悪魔から逃げていると、紫が声を掛けてきた。

 

「では、私は困った悪魔姉妹の様子を見にいくので、これで失礼するわね。」

「・・・うわぁ。アズール嬢の事だから上手く運命は見られなかったけど、やっぱりあっちはそうなってるよねぇ。アズール嬢、頑張れ。」

 

あぁ。

朧気に見えた運命通り、アズール嬢が困ってる姿が想像できるよ。

 

「・・・グニール。・・・これから暫くは会えないと思うから、レーヴァにはもうしたけれども、貴方にも別れの挨拶はしておくわ。」

 

紫が帰り際、振り向いて、改まった様子で別れの挨拶をしてきた。

随分と急な話だが、神出鬼没な彼女らしいね。

 

「・・・貴方達と過ごした時間はとても楽しかった。色々と大変な事もたくさんあったけど、そんな思いも含めて良い思い出になったわ。これから寂しくなるけれど、貴方達の運命の帰結は、将来必ず受け入れるから、安心してね。・・・じゃあ、またね。」

 

そう言って紫は、見た事ないような、見た目相応の、あどけない表情で、ニコリと笑ってこっちを見つめてきた。

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「・・・初めて素の紫を見れた気がするよ。・・・紫もこれから大変だろうけど頑張ってね。妻ともども応援してるよ。」

 

そんな話を最後に、紫は手を振ってスキマへと消えていった。

 

 


 

 

紫が帰った後、小悪魔が持ってきてくれたぶどうジュースを小悪魔と一緒に飲みながら、のんびりとくつろぐ事にした。

 

「紫さん、帰っちゃいましたね〜。まぁ、いつかまた再会できますから、気長に待ちましょうか〜。」

「そうだね。寂しくなるけど、紫はこれから忙しくなるだろうし、出来る限り応援してあげたいところだね。」

 

そんな感じで2人でほのぼのとぶどうジュースを飲んでいると、気にしていた気配が地獄へと帰っていった事に気付いた。

 

「おっと、どうやらへカーティアさんもお帰りになられたようだね。」

「そうですね〜。お茶でもしていけば良かったんですけどね〜。」

 

彼女は優しい女神だけど、恐ろしく力を持った女神だから変に刺激しないように気を付けないとね。

 

「まぁ、いーや。とにかく、一段落したし、ぬくぬくほのぼのとしておこうかな。」

「そうですね〜。」

 

そう言って2人してぶどうジュースを1口飲んで、ホッと一息つく。

 

ふむふむ。

このぶどうジュースもなかなか。

果汁の甘みや酸味が絶妙にマッチしている。

多少の渋味、エグ味はあるから今度はそこを調整して・・・。

 

そんな事を考えながら、ぶどうジュースのテイストを確認していた、その時。

 

 

ドゴォォォォオオオオ

 

 

目の前で執務室の壁が吹き飛んだ。

その惨劇を見て、優雅に口に含んでいたぶどうジュースを盛大に吹き出す。

 

ゴホッ...ヴ...ゲホッゴホッゴホッ...。

 

・・・変な所、入っちゃった。

 

ガラガラガラ

 

あちこちに瓦礫が落ちて土煙がもくもくとあがる。

 

突然の出来事に小悪魔ともどもびっくりして声も出ない。

とにかく、心を落ち着かせて、誰がこんな事したんだ!と少し憤りを覚えて土煙の方を確認する。

 

すると、土煙の中から、美しい緑の長い髪を靡かせて、見た事ある大妖怪が姿を現した。

 

・・・その姿を見て、僕は早々に文句を言うのを諦めた。

 

「あら?伯爵。お久しぶりね。」

「・・・久しぶり、幽香。・・・一応言っておくけれど、ここは玄関じゃないよ?」

「あら、そうね。じゃあ、ここにも玄関を作る事をおすすめするわ。」

「「・・・」」

 

目の前の大妖怪は冗談ではなく、大真面目に言っているのだと、長い付き合いになる僕達は理解している。

理解しているけど、理解できないし訳分からない。

僕と小悪魔は目を合わせて一緒に肩をすくませて、ため息を吐いた。

 

「・・・気配からして、さっきまで、ここに紫がいたようだけれど。私が近付いて来たから逃げたのかしらね。」

「いや、何か別の用事があるようだったよ。」

「・・・まぁ、良いわ。秘密のお話には首を突っ込まない事にしてあげる。そんな事よりも・・・。」

 

そう言って幽香は周囲をぐるりと見回す。

 

「アズールちゃんがここにいると聞いたのだけれど、どこにいるのかしら?」

 

そう言って、幽香は綺麗な日傘をどこからともなく取り出した。

 

「タイミングが悪かったね。アズール嬢なら、夢幻館に向かったよ。君に挨拶する為にね。」

 

そんな僕の言葉に、チッ、と舌打ちして少しイライラした様子の彼女は、日傘の先端にとんでもなく濃厚な妖力を集めながら再度口を開く。

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「どの口が言っているのかしら、グニール。私が今日、夢幻館を留守にする事くらい、運命を見ている貴方には分かっていたはずよ。私に挨拶をする為であれば、月光館に向かわせるべき。・・・それなのに貴方は夢幻館に向かわせた・・・貴方の狙いは一体何なのかしら?」

 

破壊の力が集まった日傘が、僕の首元に突き付けられる。

 

「・・・正直に言うと、僕の狙いじゃなくてね。ある悪魔姉妹のわがままを聞いてあげようと思ってね。」

 

そう言って、僕は執務机の引き出しから一通の手紙を取り出して、幽香に渡す。

 

「読んでごらん。僕は、彼女達の気持ちがちょっとは理解出来たから、きっかけだけは作ってあげようとしただけだよ。」

 

首に突きつけてきた日傘を置いて、手紙を受け取る幽香。

受け取った手紙を読んだ幽香は、読み終わった後、手紙をビリビリに破り捨てた。

 

「あの子達の言い分は理解したわ。でも、直接話し合わ(殴り合わ)ないと納得は出来ないわね。」

 

なんとなく、予想していた幽香の答えに苦笑して肩をすくませる。

 

そんな時、ビリビリに破いた手紙が光となって空中を漂い、メッセージとして現れた。

 

『夢幻館で待っているわ、幽香。』

 

そんなメッセージを見て、獰猛な笑みを浮かべる幽香。

 

「へぇ。・・・今日は楽しい1日になりそうね。」

 

まるで、楽しみを待ちきれない子供のように、すぐ様、執務室に空いた穴から空へと飛び立った幽香を見て苦笑する。

 

・・・やれやれ。

今度はあの2人がぶつかるとなると、また紫の時みたいに周辺環境がおかしくなっちゃいそうだね・・・。

 

とりあえず、いつでも止めれる様に僕も近くで待機しておこうかな。

 

「・・・小悪魔。ちょっと僕も行ってくるよ。留守は任せたよ。」

「は〜い。行ってらっしゃいませ〜。執務室も直しときますね〜。」

「助かるよ。ついでに壊されたとこに玄関も付けといてあげてね!・・・あぁ、それと、月光館の子達にアズール嬢の帰りがかなり遅くなるかもと伝えておいてくれるかな?」

「分かりました~。この様子だと1週間位は長引きそうですね~。伝えておきますね~。」

 

そう小悪魔に告げて、飛び立った幽香の後を追って僕も飛び立った。

 




【後書き】
どうも、最近こんにゃくゼリーにハマっているまほろばです。
シュボッと吸い込んで食べるのが好きで、そんな食べ方ばかりしてこんにゃくゼリーを食べていました。
・・・・・・・はい。
結果から言うと、死にかけました。
気道に詰まったのかどうかわかりませんが、息できなくなったのは初めてでしたのでめっちゃくちゃパニックになりました。
なんとか、食道の方へ戻っていってくれたので事なきを得ました、がめっちゃくちゃ怖かったです。
みなさんもこんにゃくゼリーを食べるときは吸い込むのではなく、飲み込むようにしましょう。

それはそうと、37話です!
今話も、閑話の主人公以外をスポットしたお話でした!
今話でも出てきましたが、伯爵は小悪魔に【カーディナル】と名付けています。
カーディナルとは深い紅という色の種類でスカーレットと同じような意味のある色です。
しかし、その色合いは紫色にも寄っており、カトリック教会の枢機卿が着ている法衣の色という意味合いもあるため、悪魔である小悪魔にとっては少々ダサく感じるのかもしれません。

伯爵のネーミングセンスについては本作品の裏設定といいますか、裏ストーリーでおかしく奇抜な名前ばかり考える伯爵に、夫人と小悪魔がドン引きするというストーリーがあります。
閑話でそういうストーリーも書いてみても良いかもしれませんね笑。
一応元ネタは、東方原作【紅魔郷】に登場するレミリア・スカーレットさんの奇抜で素晴らしい?スペルカード名の名付けから取っています。
是非原作のレミリア・スカーレットさんのスペルカードを見てみてください笑。


さて、恒例ですが、今話での作業用BGMを勝手ながら紹介させていただきます。
まずは、東方原曲から
「東方憑依華 ~ Antinomy of Common Flowers.」より
『憑坐は夢と現の間に 〜 Necro-Fantasia』

そして、DOVA-SYNDROME様より
MATSU様が手掛けるフリーBGMから
『時計図書館』

藍舟様が手掛けるフリーBGMから
『密林の神殿B』


これらの神曲を今話の作業用BGMのプレイリストや、使用した理由、、感想など、活動報告にあげさせていただきますので、宜しければ御覧になってください。


アズール復活:夢幻世界脱出編も残すことあと2,3話となりました。
さて、、無事にアズールちゃんは皆が待つ月光館に帰ることはできるのでしょうか?
お楽しみに!!

庇護録はまだまだマイペースに続いていきますので、これからもよろしくお願いいたします!!
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