東方庇護録(旧作)   作:まほろばのーぶる

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第6話:絶えず流転する因果と運命~揺れるモナドと物語~

Count Scarlet's perspective

 

「伯爵様〜?そんなにボーッとしてどうかしたのですか〜?」

 

吸血鬼の伯爵としての仕事をこなしていた私はいつものように〖調停者〗として世界の運命を覗き見る。

しばしば覗き見ているせいか変わり映えのない運命を辿る世界に特に問題は無さそうだと判断し能力の行使を止める。

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この一連の能力の行使ももはや流れ作業のようなものだ。

はるか昔に世界から授かったこの権能は途方も無い年月をかけて私の能力へと昇華されてきた。

今となっては無意識にでもあらゆる存在の運命が手に取るように分かる。

 

それゆえに、私の瞳に映る世界は酷く退屈でなんの面白みもない世界なのだ。

 

 

数多の存在の運命の先を知っておく事は〖調停者〗として当然の義務だ。

世界における自浄作用とでも表現できる私の権能は世界のバランスの調律の為にあると理解もしている。

 

しかし、どうせ運命を知ったところで、その運命を()()事はできないのだ。

 

運命を見る程度の能力

 

この能力は問題解決の為の力ではない。

 

何故なら私の見る運命は不可避であり、私がこの権能を持って生まれた瞬間から今までに覆った運命は存在しないからだ。

どんな手段を用いても、あらゆる犠牲を払っても、1度見てしまった運命は覆る事は無かった。

 

 

・・・そして、はるか昔から予見(よけん)されている、私が辿り着くはずの運命もまた変わらない。

 

 

そう、変わらないはずだった。

 

 

「・・・これは・・・一体どういう事だ?」

 

目の前で手をフリフリと降っている友人の悪魔を気にもとめず、ある家臣の運命を見た私はひたすらに困惑していた。

 

私が覗き見た運命が・・・今まさに変化したのだ。

これは、今まで能力を行使し続けてから初めての事だ。

 

この変わった運命を持った対象は、5年前、友人である目の前の悪魔の為に拾った狼男であった。

 

その狼男自身も数奇な運命を辿っていたので、同情とともに好奇心を持った事も記憶に新しい。

 

そんな狼男の恐らく1時間先の運命が突如として変わった。

美しい銀髪を持つ不思議な少女のイメージとともに。

 

「・・・貴方は、一体、何者だ?」

「え?伯爵様〜?私は名も無き悪魔ですよ〜?紅い悪魔です。どうしちゃったんですか~?もう長い付き合いじゃあないですか〜。」

 

目の前で呆けている紅い悪魔がなにやら勘違いしているが、ちょうど良い。

紅い悪魔にも協力してもらう必要がありそうだ。

 

「悪魔よ。お前は、地獄に通じる宝石のようなものを持っていたな?」

「え?伯爵様。急にどうしたのですか〜?まぁ私の本来の力の源なので〜身近な、書庫の机の上にありますけど〜。」

「その宝石だが、壊れても大丈夫か?」

「え〜?・・・まぁ、私の力がかなり弱体化されますが、どうせ現世では持て余す力ですし、別に大丈夫ですよ〜。というか、その運命は変えられないでしょうし〜。」

 

さすがに、長い付き合いなだけ、私の能力の事はよく分かっている。

 

この紅い悪魔も変わり者だ。

本来、悪魔とは大いなる力を持ってして人間に恐れられるべく世界から作り出されたものだ。

・・・と私は考察している。

それなのに、力を捨てる事に躊躇(ちゅうちょ)がない、この悪魔はとても変わっている。

 

まぁ、私も無闇に人間は襲わない為、変わった悪魔、吸血鬼だと言われているらしいが。

 

その後も、犯人はだれか、どのようにして壊されるのかをしつこく聞いてくる悪魔に「また後でな。」と誤魔化しつつ、執務室に待機するように命じる。

 

そして私は大人しく私の椅子に座っている友人の紅い悪魔を尻目に、覗き見た運命の役者として、期待と、少しの嫉妬を胸に狼男の元へと向かった。

 

 


 

 

狼男を追放して執務室に戻る。

 

律儀に紅い悪魔は執務室の私の椅子にもたれかかり待っていた。

・・・先程よりも少し小柄な少女に変化した紅い悪魔に内心驚きつつも、声を掛ける。

 

「不思議な運命の歯車が回り出したぞ。その中で、お前の力の源は壊れてしまったが、すまないな。」

「何度も言いますが、大丈夫ですよ〜伯爵様。でも、犯人が誰かはちょっと教えて欲しいですね〜。」

 

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ふむ。

私が覗き見た運命では、狼男は銀髪の少女と出会い、その少女に心を救われ、そのまま拠点を探しにこの館に出向いて来るようだ。

 

覗き見た運命での狼男は少女の姿になっていたが、そのような、些細な事は問題では無い。

 

しかし、仮にも追放したというのに、すぐこの館を訪れる気とは、狼男は随分と図太いやつだ。

見逃してやるとは言った手前、追放も無かった事になるのでは釣り合いが取れない。

ここは旧友である悪魔に犯人を伝えてしまおう。

 

「犯人はお前のお気に入りの狼男だよ〖カーディナル〗」

「むむむ?・・・伯爵様。私は紅い悪魔。名も無き悪魔ですよ〜。その名前は胸にしまっておくので、ご自愛くださいね〜。」

 

【挿絵表示】

 

そうですか〜、狼さんですね〜。罰としてもふもふしまくってやりますよ〜。

とまるで楽しみが抑えきれないといったような様子で落ち着きがなく、羽を羽ばたかせている。

 

はるか昔に私が名付けた名前は表面上は使わないようにしているらしい。

とても素晴らしい名前であるがゆえに残念ではあるが、恐らく同格であった悪魔に名付けをするのは大変危険なようだ。

悪魔らしくない、優しい紅い悪魔は私に気を使って能力を持って名付けを無かった事にしてくれたみたいだ。

そんな悪魔の真名を口にしてしまう程に今の私は浮かれているようだ。

 

変わるはずの無い運命が変わった。

 

この事はこの世に存在してから今まで変わらぬ運命に諦観を持った私の希望となるのだ。

だから自身の運命を変えられた狼男に嫉妬をし、私や、この館の運命を変えてくれると期待もしている。

 

・・・もしかすると、私が辿り着くはずの運命も変わるかもしれない。

 

この館が焼かれ、数多の家臣を失う運命も変えられるかもしれない。

 

出て行ったっきり帰ってこない困った放浪者も帰ってきてくれるかもしれない。

 

ただただ、私は変わり映えの無い悲劇を、観客席から見ているだけの運命から逃れられる。

そういった期待を胸に館に訪問するであろう2人の〖運命の特異点〗を待つことにした。

 

 


 

 

「伯爵様〜?狼さんは戻ってきましたか〜?」

 

月光館に向かう2人の少女達を見送った後、タイミング悪く紅い悪魔が狼男・・・確か今はヴァルターだったかな?

そのヴァルターを探しにやってきた。

 

「タイミングが悪かったね。もう2人は月光館に向かったよ。まぁこれからは隣人になるんだから何時でも会えるさ。」

「いいえ〜。今の私にはもふもふ成分が足りないのです〜。すぐにも罰を与える必要があるのですよ〜。」

 

もふもふ成分など、訳分かんない事を言う悪魔は、ふよふよと月光館に向けて飛行を開始する。

 

「まって。〖カーディナル〗。」

「?どうかしたのですか〜?」

「ヴァルターには何をしても大丈夫だけど、銀髪の少女アズールさんにだけは粗相を働かないようにね。」

「?珍しいですね〜。伯爵様が忠告をするなんて〜。〖運命は不変であり、忠告ももはや必要では無い〗って言っていた可哀想な伯爵様とは別人のようですね〜。」

 

そう言って少し嬉しそうにクスクスと笑う悪魔。

・・・やはり、この悪魔は付き合いが長いだけに何でも見透かされているようで苦手である。

恐らく苦虫を噛み潰したような顔になった僕の顔を見てクスクス笑う紅い悪魔。

 

「・・・考え方とは変わるものなんだよ〖カーディナル〗。君もアズール嬢に会えば分かると思うよ。」

「ふむふむ〜。興味深いですね〜。あと、伯爵様〜。口調が素になってますよ〜。まぁ周りに家臣は居ませんし、私は家臣というよりは友人みたいなものですから良いですけどね〜。あと、その名前は有事以外はおいそれと呼んじゃあダメですよ〜。」

 

・・・少し浮かれすぎているようだ。

というよりも、混乱していると言った方が正しいか。

だが、友人の注意はしっかりと聞いておこう。

 

月光館に向けて再度ふよふよと飛行を開始した、紅い悪魔の友人を見送りつつ、先程直接的に出会ったばかりの銀髪の少女アズールについて、思考を巡らす。

 

アズール嬢の第一印象は不思議な吸血鬼。

見た目は美しく愛らしい少女のようでいて、内包する魔力、妖力は底が見えない。

 

そして、本来吸血鬼には備わらないであろう霊力も内包している。

だが、種族は恐らく僕と同じ吸血鬼。

それも僕と同じく真祖の吸血鬼と思われる。

 

真祖、つまりは自然に発生した吸血鬼。

人間から生じた紛い物ではなく、言わばこの世界が〖調停者〗として生み出した吸血鬼だ。

僕を含めて出会った真祖はこれで3体目だ。

 

そして、1番不思議で、僕にとっては不気味だったのは運命が見えない事。

〖運命を見る程度の能力〗の一切がアズール嬢には効果がないのだ。

これは今までで経験した事がない事だった。

アズール嬢が関わるありとあらゆる運命がまるで霞のように消えて見えなくなっていく。

 

〖運命を見る程度の能力〗はその運命が現世のものであるのなら、それが館のような建物でも、もちろん人間や悪魔といった生物でも、ありとあらゆる対象の運命を見ることができた。

この能力は言わば世界が持つ権能のごく一部を分け与えられたものであり、世界自体に干渉する事が出来ない存在には本来感知する事も抵抗する事も出来ないはずなのだ。

 

だから、世界の運命に縛られないアズール嬢の第一印象は不思議で、それでいて運命を見ることができない事は不気味なのだ。

 

しかし、アズール嬢の人柄はとても好感が持てる。

挨拶もそこそこに少しばかりしか話せてはいないが、話していてなんというか、とても心が穏やかになるのだ。

 

言葉や仕草、アズール嬢の行動全てが微笑ましく感じられ、抵抗する事を許さず僕を和ませてくる。

近くにいるだけで、僕が背負っている運命の重みが、軽くなるような、そんな気もしてくる程に安らぐ。

 

恐らく、真祖の吸血鬼であるアズール嬢が世界から授けられた権能の如き能力の影響だと思うけど、本人の様子からすると私と同じく意図して能力を行使しているのではなく無意識に能力が行使されているのだろう。

 

 

そして、僕が期待した通りに早速アズール嬢は私達に良い影響を与えてくれた。

 

アズール嬢に月光館を譲った瞬間、この館、紅魔館の運命が大きく変わったのだ。

 

焼け落ち、多くの家臣を失う運命が改変され、末永く無事にいられる運命へと変化した。

館の運命の結末はもう見られなくなったが、1つ悲劇が消え、運命は良い方向に転んだと確信できる。

 

まだ、問題を多く抱えているが、1番大きな問題を恐らく解決出来たのだ。

浮かれて、中々素の口調から元のカリスマっぽい口調に戻せない。

吸血鬼の主たるもの、厳かでカリスマであるべきなのだ。

 

厳かな口調を思い出しながら、これから先の運命に思いを馳せる。

 

願うのだ。

少しでも良い運命を歩めるように。

 

望むのだ。

変わり映えの無い悲劇の運命を無くす為に。

 

 




1話まるまるスカーレット伯爵の視点のお話です。

スカーレット伯爵のイメージ図

【挿絵表示】


さぁ、「東方庇護録」はこれからどうなっていくのでしょうか?
今話のテーマは「変化」です。

スカーレット伯爵の心情の変化。
考え方の変化。
そして、今話冒頭から最後にかけてのスカーレット伯爵のカリスマブレイクによる、言葉遣いの変化。

3つ目の変化はさておき、上2つの変化は良いものであるように感じます。
これから先スカーレット伯爵ともども、紅魔館組にどのような良い変化が訪れるのでしょうか?乞うご期待!
すみません。
偉そうな事言いました。

今話では若干シリアスじみた感じではあったと思いますがいかがでしょうか?
今後のネタバレをちょこっとすると、戦闘描写にも挑戦してみたいので今後戦闘シーンが出てくる予定です!
ですが、基本この物語は平和主義者の吸血鬼がスローライフする過程で周りが救われていく、みたいなスタンスでいこうと思うのでそんなに深いシリアスにはならないかも知れません。

・・・そんなこんなで、後書きも無限に書き続けてしまいそうなのでこの辺で。

沢山のUA、お気に入り登録ありがとうございます!

次回投稿は仕事の関係で不定期となりますが、出来るだけ早く物語を書きたいので早く投稿するので、これからも「東方庇護録」をよろしくお願いします。
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