エミール/友達 または チャプター9:償い   作:TAMZET

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∇ファーデンの研究室にいたあの子。
 蘇生に成功した。
 ホワイトと名付けよう。
 私は穢れに染まっているけれど。
 あなたはそうならないで。


1:エミールと騎士

西暦3460年。

 

風に乗り、赤い雲がやってきた。

雲は穢れを呼び、やがてその地を真っ赤に染める。

穢れに触れた者は穢れを帯びさらに穢れを濃くする。

そんな雲を祓うため、各地を旅する二人の旅人がいた。

白い衣に身を包んだ少女と彼女の隣に付き添う黒衣の騎士。

これはそんな二人の旅路……その終焉の物語。

 


 

赤い雨が降りしきる

二人の旅人は足を止めた。

そこには、古びた洋館があった。

洋館には色が無かった。

正確には、その館付近の空間が全て色を失っているかのようであった。

赤い雨すらも、その館の周囲では色を失うようであった。

 

二人は館の扉の前に立った。

大きな扉であった。

扉はまるで二人を招き入れるように、ギイと口を開けた。

奥には、石造りかと見紛うほどの灰色のエントランスがあった。

 

「……」

 

白い服の少女が黒衣の騎士の手甲に手を寄せた。

小さな両掌が、硬い手甲をぎゅうっと握りしめる。

騎士はその柔らかな手を、優しく握り返した。

 

「穢れの影響は薄いようだ。特殊な作りになっているのか?」

 

空には穢れの雲が広がっているにも関わらず、屋敷の内部は静かであった。

これまで二人が旅をしてきた各地、穢れの雲の下はいずれも穢者がひしめいており、騎士が彼等を斬り倒さなければまともに探索すらできない惨状だったのだ。

静かな屋敷の中に、二人の足音だけがこだまする。

やがて二人は、とある部屋の前で足を止めた。

その部屋の扉の隙間から、明かりが漏れていたのだ。

とはいえ、景色は灰色である。

灰色の光であった。

 

「……」

 

白い服の少女は騎士をじーっと見つめている。

騎士はこくりと頷くと、ノブに手をかけようとした。

 

「お客さん……ですか?」

 

部屋の中から聞こえてきた声に、騎士は手を止めた。

声は未成熟な子供のものだった。

女の子のものか、男の子のものかも分からない。

ただ、柔らかな声であった。

 

「そこに誰かいるんですか?ガチャガチャした音……足音……?鎧を着た人が……1人。もう1人いる……躊躇うような軽い足踏み……女の子ですか?」

 

声の主の推理に、騎士は「ほう」と感嘆の声を漏らした。

主はドアの向こうから、二人の格好を当てて見せたのである。

とはいえ、こうなればもう部屋に入るのを躊躇する必要は無いない。

騎士はノブに手をかけると、勢いよく押し上けた。

 

「驚いたな。まだ姿も現していないのに」

「聞いた事ない声……!?僕の家に、何の用ですか!?」

 

声の主は、すごい剣幕で騎士を怒鳴りつけた。

その剣幕に、白い服の少女はビクンと身体を震わせた。

恐る恐る彼女は部屋の中を覗き込む。

部屋には、背の低い人物が椅子の側に立っていた。

灰色の髪に、貴族が着るようなエリ付きの洋服に身を包んだ人物であった。

服装からして少年のようだが、どこか女の子らしい可愛さを持つ、そんな人物であった。

だが、そんな可愛らしさを相殺するような特徴が彼にはあった。

彼は目隠しをしていたのだ。

丁度顔の上半分全てを覆うような布の目隠しで、彼は両目を覆っていた。

怯える白い服の少女を庇うように、騎士は前へと歩み出た。

少年は口をへの字に曲げ、片腕を前に出して拒絶の意を示している。

騎士はそんな彼に向けて、深く腰を折った。

 

「私達は旅の者だ。突然の訪問をした事、本当にすまない。無人の館かと思い、勝手に入ってしまったのだ」

「旅の人……じゃあ、泥棒さんでは無いんですね?」

 

少年は少し安心したような声でそう答えた。

拒絶の意を示していた片腕が、すっと降りてゆく。

それでも、彼の声色には警戒心が込められていた。

 

「もちろん。この館には、訳あって立ち寄らせてもらった。用が済めば、すぐに出て行くつもりだ」

 

騎士はそう言うと、背後の少女の背中を押した。

少女はイヤイヤと騎士の背後に隠れようとするが、騎士は彼女の両脇を抱えると、自分の前へと持ってきた。

少女は俯いたままだ。

少年はその様子が見えていないのか、キョトンとしている。

 

「失敬。申し遅れた。こちらは当代の白巫女。私はその従者だ。君はこの館の主人の……御子息か?」

 

少年は少し呆気に取られていたようだったが、慌てた様子で腰を折った。

 

「ぼ、僕がこの館の主です!エミールと申します。よろしくお願いします。シロミコさん。あと……」

 

少年・エミールは騎士の方へと視線を向けた。

騎士は最初何の事か分からなそうだったが、やがて自分の名前や書かれていることに気が付き、顎に手を当てて考え始めた。

それも少しの間だった。

騎士は「ふっ」と笑うと、エミールへと歩み寄った。

ガシャガシャと鎧の音がした。

騎士は手甲をガチャリと外すと、エミールに手を差し出した。

白く滑らかな手に、彼の頬がわずかに紅潮した。

 

「私の事は……黒衣の騎士。いや、騎士さんとでも呼んでくれ」

「は、はい」

 

エミールはぎこちない様子でその手を取った。

エミールにとってその手はとても温かく。

騎士にとってその手は、とても冷たかった。

 


 

屋敷の一角に在する応接間にて、3人はソファに腰掛けていた。

執事のセバスチャンが運んできたお茶が、灰色の湯気を立てている。

白巫女は騎士の隣にちょこんと座り、エミールをじぃっと見つめている。

どうやら彼への怯えは解けたようだ。

 

「…………!」

 

だが、エミールは目隠しをしているので、彼女の様子に気がつかない。

白巫女は何を思ったか、テーブル越しに彼の目隠しへと手を伸ばした。

だが、その手は隣にいた騎士によってやんわりと払われる。

 

「ダメだ」

「…………」

 

白巫女は不服そうに騎士を見つめ返す。

表情は無表情に近いが、そこには明らかな抵抗があった。

 

「すまないな……生きている人間と会えて、興奮しているのだろう」

「えへへ!好きなだけはしゃいでください。この屋敷には、僕の他には執事しかいませんから」

 

白巫女の様子を見てか見えずか、エミールはクスリと笑った。

少女のような、可愛らしい仕草である。

菓子を一つ摘むと、彼は騎士の方へと顔を向けた。

 

「騎士さんは、どうしてここに?先程、用があって来たと言ってましたよね」

「ふむ……そうだな」

 

騎士は窓の外に目を向け、少しの間沈黙した。

白巫女はそんな騎士を不安げに見つめている。

 

「すこし長い話になるが、聞いてくれるか?」

 

エミールはゆっくりと頷いた。

騎士は話し始めた。

 


 

今から何年も前……遥か遠く果ての国に、雨が降った。

国全ての空を飲み込んだその雨は、降り続けた。

何年も何年も、止む事なく。

雨はただの雨では無かった。

穢れを含んだ雨だった。

その国に古くから住む民の負の感情……穢れを。

穢れは国に住む民を、兵士を、植物を、全てを巻き込み、果ての国全てを崩れた肉腫に包み込み、蝕んだ。

様々な者達が穢れへと立ち向かった。

研究者……魔女……

永遠に降り続くかと思われた雨だが、そこに一人の少女が現れた。

穢れを浄化する能力を持った少女・白巫女であった。

彼女は果ての国のあちこちを回り穢れを浄化し、やがて穢れを撒き散らす元凶である穢れの王と対峙した。

死闘……そう表現するしかない戦いが続く。

死闘の末、白巫女は穢れの王を撃ち破り、果ての国の穢れを浄化した。

だが、時すでに遅し。

国の人々はもう、一人として生きてはいなかった。

穢れの元凶は消えたが、空を覆っていた雲が消えたわけではない。

雨雲は風に乗り、世界に穢れを撒き散らした。

 


 

そこまで話した所で、騎士は一度言葉を切った。

エミールはあっけに取られたように口を開けている。

話のスケールが大きすぎてついて行けていないのだ。

 

「この館の周囲にも、汚れの雲が広がっている。汚れの雲には、それを生み出す汚れの根が存在しているのだ。根は元へと近づくほど、その濃度を増し、やがて穢れの華を咲かせる。この屋敷にも、その華があるはずだ」

 

華と聞いた時に、エミールの表情が少し変わった。

何か思い当たる事があるのだろうか。

彼の視線の先は窓の方を向いていた。

 

「もしかして、屋敷にマモノが増えたのもそれが原因かも……」

「何か心当たりがあるのか?」

「はい。この館には時々マモノが出るんですが、最近のマモノ達は、嫌な香りがする煙を出しているんです。もしかしたらそれが騎士さんの言う穢れなのかも……」

「そのマモノとやらはどこから来るんだ?」

 

エミールは俯いてしまった。

考えているのだろう。

マモノ……それは騎士にとっても耳慣れない言葉だった。

穢者とは違うのだろうか。

それとも、この辺りではマモノを穢者と呼ぶのだろうか。

やがて、エミールは首を横に振った。

 

「どこから来るのかは分かりません……でも、屋敷の真ん中の方に行けば行くほど、マモノの数も多くなる気がします」

「……?つまり、真ん中にマモノが生まれる場所があるという事か?」

「いえ、そんなものは屋敷には……あっ!?もしかしたら、どこかに外から通じる抜け道があるのかも!」

 

後半の口調は若干興奮気味だった。

自分で話している中で答えを見つけたのだろう。

 

「ここのお屋敷は、少し構造が複雑ですから。それに……」

 

エミールはすっくと立ち上がり、よたよたと歩き出した。

走り出そうとしたのだろうが、盲目故に踏みとどまったのだろう。

彼はバツが悪そうに「えへへ、躓いちゃいました」と笑った。

そして、くるりと振り返った。

 

「久しぶりのお客さんを、危ない目に遭わせたくありません!僕がお二人を案内します!」

 

その表情には、好奇と冒険心の色が浮かんでいた。




メモ帳と言う名の倉庫に残っていたものを文章化しました。
短編なのであと2話くらいですね。
前にpixivの方で、目隠しエミールのリクエストがあったので、曲がりなりにもそれに応えるような形となります。
エミール君の、他作品との絡ませやすさは何なんでしょうね。
素直ないい子が一番!


※まだ更新途中で申し訳ありませんが、最近全体的に小説創作自体のモチベが尽きかけています。
伸びなさそうな作品については、モチベが回復するまで小説の更新を停止する場合があります。
感想等頂ければモチベが回復する事もあると思うので……
申し訳ありませんが、上記ご理解の程何卒よろしくお願いします。

※pixivにも同じものを投稿しています。
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