エボルヴ 【挿絵あり】   作:かわだ

2 / 2
第二話  三人目の可能性

 

【挿絵表示】

 

 

 

第二話  三人目の可能性

 

「があっ――!」

 

 

 苦痛に顔を歪ませ、ナギトが頭を押さえる。

 

 

「どうした⁉」

 

 

 呼びかけるが、電池の切れた機械のように気を失い俯いたままだ。

 

 

「くっ……」

 

 

 モニターに映し出される銀の機体、シロガネを睨む。

 

 

「せっかく終わったと思ったのにこれかよ……っ! なあ、なんでお前らはいつも奪うんだ!」

 

 

 レイカは泣き叫ぶように訴える。

 

 

「――⁉」

 

 

 突然、銃口を下した。

 

 

「どう、いう……ッ」

 

 

 瞬間、真っ白な光が放たれる。

 

 反射的に目を閉じた。

 

 

「………」

 

 

 再び開くと、

 

 

「居ない……」

 

 

 シロガネの姿はもうどこにもなかった。

 

 殺気に満ちていた戦場は消え、無音の荒野と化した。

 

 ピピピ――

 

 

「!」

 

 

 静寂を打ち砕く警告音。

 

 とっさにモニター下のレーダーに目を向けた。

 

 

「軍、か……。来るのが遅ぇよ」

 

 

 二十余りの機体の急接近が確認できた。

 

 

「そこの機体! 大人しく武器を捨て投降しろ!」

 

 

 程なくしてエボルヴの軍勢がやって来る。

 

 

「潮時、だな……」

 

 

 呟いて目を伏せた。

 

 

 その後レイカたちは機体ごと軍に回収された。

 

 

 

  ◇

 

 

「レイカ・フリューゲル、と言ったかのう」

 

 

 クリアパネル越しの着物老人に問われる。

 

 この都リーベルアルトの領主、天涯絶空。

 

 

「ああ」

 

 

 レイカは機体から降ろされ、拘束。そして面会室に監禁された。手足を縛られ椅子に座らされている。

 

 

「壁の破壊、及び脱出。許されざる大罪じゃ。破壊組織ディバインとなんらやっていることに変わりはない」

 

 ただ、と付け足し、

 

 

「礼は言おう。先の争いを鎮圧したこと、感謝する」

 

 

 深々と頭を下げた。

 

 

「相手が違う。ナギトに言え」

 

「あの少年か」

 

「ああ」

 

「……もしや、外の人間か?」

 

 

 老人は探るように彼女の瞳の奥を覗く。

 

 鋭い視線に何もかもさらけ出されそうで、レイカは目を逸らし思考する。

 

 

(ナギトに関心を向けられるのはマズい。一つでも興味を減らすか)

 

 

「スラム街で拾った産物だ」

 

「ほお……?」

 

「アイツは利用価値がある。戦闘を見たなら分かるだろ?」

 

「クロストリガー……」

 

 

 こくりと頷く。

 

 

「まさか三人目がおるとはな」

 

 

 悪夢でも見ているような苦い顔をした。

 

 

「要件は済んだか? 解放してくれ」

 

「よかろう」

 

「……!」

 

 

 手足の拘束具が解除され自由になる。

 

 

 こうも簡単に……? と呆気にとられる。しかし、彼女にとって絶好の好機。立ち去る以外に選択肢は無かった。

 

 

 レイカは立ち上がり老人に背を向けると、声がかかる。

 

 

「一つ、良いかの?」

 

「なんだ?」

 

 

 振り返る。

 

 

「嘘をつくには感情が乗りすぎておる」

 

 

 その言葉にぴくりと反応してしまう。

 

 

「なるほど……。それでいて見逃すのか?」

 

 

 苦笑しながら言った。

 

 

「賭け、じゃ。四十年前にディバインが結成し、良くない方向へ動き出しておる。しかし、クロストリガーならば……!」

 

「読めないな。ヤツら二人は都を壊した」

 

「しかし、運命を変えた」

 

「……」

 

「都に仇なすならば、容赦なく切る。じゃが……新たな可能性に賭けてみたいのだ」

 

 

 目を瞑って老人は祈るように呼吸を置く。

 

 

「脱出の罪をディバインを倒すことにで償うことを許そう」

 

「素直に従うとでも?」

 

 

 訊くと絶空は自信に満ちた顔を歪める。

 

 

「従うとも。現にガルダーを倒しておる。そして、お主の姉がそうだったように……」

 

「――っ、黙れ!」

 

「……失言じゃったな」

 

 

 深く頭を下げた。

 

 舌打ちをして怒りを鎮め、顎でしゃくる。

 

 

「まあいい。監視は付けないんだな?」

 

「ああ」

 

「なら、好きにやらせてもらう」

 

 

 吐き捨ててドアの前まで歩く。

 

 

「運命を変えてくれ」

 

「相手が違うんだよ。それができるのは、クロストリガーだ」

 

 

 最後に一瞥して、部屋を出た。

 

 

  ◆

 

 

 レイカは薄暗い廊下の壁に寄り掛かり、天井を見上げナギトを待っていた。

 

 

 

 程なくして鉄の自動ドアが開き、現れる。

 

 

「よお」

 

「レイカ……」

 

 

 少年は魂を抜かれたように力ない姿だった。

 

 

「気分悪そうだぞ?」

 

 

 顔を覗き込む。

 

 

「少し頭痛がするだけで……」

 

 

「……?」

 

 

 戦いで見せた気迫を感じさせない。

 

 雰囲気がまるで違う。本当に昨日ディバインと戦った少年なのかと疑問が渦巻き、首を傾げる。

 

 

「なあ、俺は何をしていたんだ?」

 

「はあ?」

 

 

 あまりに意味不明な問いに素っ頓狂な声が出てしまう。嫌な予感は核心を帯び、少女は叫んでいた。

 

 

「まさか、二度目の記憶喪失なんて言わないよな⁉」

 

 

 苦い顔をして、ぎこちなく頷いた。

 

 

「マジかよ~~!」

 

 

 頭を抱えて壁にもたれかかる。

 

 

「レイカに助けられて、ガルダーを倒したことも覚えている。だけど、思い出せないんだ。俺がどんな人間だったかが」

 

「記憶が抜け落ちていると思う個所は?」

 

 

 首を横に振る。

 

「分からない。穴が開いたみたいだ……。過去の自分がどんなだったか、思い出せないんだ」

 

 

 厄介だ。と頭を抱えてため息をつく。

 

 

「記憶喪失の次は人格喪失ってかあ?」

 

 

 天井を向いて逃避する。

 

 

「人格喪失……?」

 

 

 ナギトは少し驚いた後、納得したように頷いて

 

 

「ああ。そうだな……。人格喪失だ」

 

「なんで満足そうなんだよ」

 

「疑問が解けたからさ……。答えが分るのは嬉しい」

 

 

 微かに笑った。

 

 

「全く、緊張感緩むな。何一つ解決してないだろうが」

 

 

 ホント……昨日とは大違いだ。と、力が抜けきって肩を落とした。

 

 

「! それもそうだな」

 

 

 はっと顔を上げた。

 

 

 そんな危機感のない様子にため息をつく。

 

 

「人格喪失は本当らしいな。今の方がバカっぽい」

 

「バカってなんだよ!」

 

「違ったな。マヌケっぽい。行くぞ」

 

 

 これは面倒だ。解決法も分からないし、とりあえず場所を変えるか。

 

 やや不満げな顔をしたナギトを背に歩き出す。

 

 

「行くってどこへ?」

 

「街案内してやる。お前の新しい世界だ」

 

 

 問題は山積みだが、今はあの景色を見せてやらないとな。せっかく街を守ったんだ。

 

 

「ちょと、待ってくれよ」

 

「待たない。お前の指図はもう受けない。お前はおれのモノだ」

 

 

 ナギトは駆け寄りため息をつく。

 

 

「残念ながらそういう記憶は残っているよ……」

 

 

 長い廊下を歩んだ。

 

 

   ◇

 

 

「さて、この扉の向こうは知らない世界だ。準備はできてるか?」

 

 

 レイカはにやりと笑い、前に立った。

 

 

「……」

 

 

 ごくり。唾を呑む。

 

 

 この先が知らない世界……。変えるべき世界……。確かめるんだ。

 

 

「大丈夫。できてる」

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

 

 レイカが踏み出すと、真っ青で厚いドアが自動で開く。

 

 

「っ」

 

 

 光の眩しさと風の強さでとっさに目を閉じた。

 

 

「……!」

 

 

 再び開けた瞬間、俺の心は奪われた。

 

 

「すごい……」

 

 

 言葉が勝手に口から出る。

 

 広がるのは白と青で彩られた街。

 

 高すぎる塔の上からそれを見下ろしていた。

 

 

「ここはリーベルアルトの中心の塔、クオーツだ。いい眺めだろ?」

 

「真っ赤な世界が嘘みたいだ……」

 

 

 ロボットが街を破壊し、人がたくさん死んだ昨日とは真逆の平和がそこに在った。

 

 

「……そうだな。アレが分るか?」

 

 

 指を差したのは街の彼方、地平線だ。真っ青な空の下に真っ白い線がある。

 

 

「壁、か?」

 

「そ。こんな遠くからでも見えやがる。都へ侵入したのはあそこだ」

 

「じゃあ……」

 

「あの町の残骸は消えてない。でも……」

 

 

 一歩、二歩、前に出て青空を背に立った。

 

 

「戦いを終わらせて、この都を、世界を守ったのはお前だ。ナギト」

 

 

 微かに、女の子らしく笑った。

 

 

「よくやったな」

 

 

 俺は世界を変えれたんだろうか。そのときの自分のことも分からないのに……。

 

 でも、胸は感情でいっぱいで……。

 

 

「ありがとう」

 

「は?」

 

 

 不意を突かれたように目を丸くして顔を上げる。

 

 

「救ってくれて。この街を守らせてくれて、ありがとう」

 

 

 思ったままの事を口にした。

 

 

「ぷっ……」

 

 

 片手で目を覆って吹き出した。

 

 

「はははっ、自分で守っといて、おれに言うのか?」

 

「だって、お前が居なかったら死んでたし、ワガママに乗ってくれたからこの街を救えた。だから、ありがとう。レイカ」

 

 

 瞳を見つめて真っ直ぐに告げた。

 

 はあ……、とため息をついてそっぽを向いた。その時彼女の眼尻がぴくりと動いた気がした。

 

 

「アホか……そんなことはいいや。行くぞ」

 

 

 ポケットに手を突っ込み速足で歩きだす。

 

 

「おい、次はどこにっ!」

 

 

 一足出遅れて後を追いかける。

 

 

「黙って来い」

 

「なんか、変なこと言ったか?」

 

 

 当たりがさっきと全然違っていて無性に焦りを感じる。

 

 

「言った」

 

 

 ぶっきらぼうな小さな声だった。

 

 

「そ、そうか……?」

 

 

 何かしたか……?

 

 俺はレイカの後を追いかけた。

 

 

 

  

「広いなあぁ……」

 

 

 たどり着いた先は巨大な建物と人混みだった。

 

 

「ここはショッピングモールだ。買い物したり、遊んだり、飯食ったりと大抵のことがここで完結するって便利施設だ」

 

 

 五階建てで奥行きのあるここは白と水色を基調とした清潔感が溢れていた。多くの子供連れや若者たちでにぎわっていた。

 

 

 一つの疑問が浮かびあがる。

 

 

「なんでこんな所に来たんだ?」

 

 

 そう言うと呆れてため息をつかれ、

 

 

「その服でうろついてみろ。視線集めすぎるだろうが」

 

「そんなに変か?」

 

 

 自分の服を見る。

 

 

 いや、変だな。片腕が無くなったときに服ごとちぎれたからなぁ。

 

 

「そんなボロい服着てたら目立ってしょうがない」

 

「レイカだって十分視線を集めてるぞ。上下紫で色が強すぎだ」

 

「サイバーパンクってジャンルなの。着てるヤツは少ないが、イカした服だから変じゃないんだ」

 

 

 そういうものなんだろうか……。

 

 

「付いてこい。新しい服を買ってやる」

 

 

 目的地であろう奥の方を顎で差してから歩き出した。

 

  ◆

 

「なんだ? ここ」

 

 

 連れられた先は最深部。五階の一番奥。薄暗い影に包まれた店。淡い照明に照らされ、壁面にゆっくりと赤い光の線が流れている。奇抜な店だ。子供連れが居た場所とは真逆な雰囲気を醸し出していた。

 

 

「おれの行きつけの店。いい服が山ほど揃ってるぞ」

 

 

 彼女を見ると確かにこの店にある服と似ているものを着ていた。

 

 

「ただ、店主が厄介で……」

 

 

 レイカが苦笑する。

 

 

「あらぁ~いらっしゃい、レイカちゃん」

 

 

 声の方を向くと、腰をくねられながらスタイルの良い男……? が居た。ピンクのシャツの胸元を開けて着て、ぴっちりとした黒いズボンを履いていた。おまけにサングラスを頭につけ、妙な髪形をしていた。

 

 

「よお、オカマ店長」

 

 

 レイカはジト目で挨拶した。

 

 

「あらぁ、そんなこと言う子にはまけてあげないわよ」

 

「悪い悪い。今日はコイツの服を見繕ってほしいんだ」

 

 

 親指で俺を差す。

 

 すると一気に寄って肩を掴み、じっと見てくる。

 

 

「あらやだイイ男」

 

「……⁉」

 

 

 低い声にぞっとして下がって距離をとる。

 

 

「アハッ、怯えちゃってかーわーいーいー」

 

 

 背筋が凍る。

 

 

「レイカちゃん、こんなコ捕まえてくるなんて成長したわネ」

 

 

 つんつんとレイカの頬をつつく。

 

 

「そんなんじゃなぇ。おれのモノだ」

 

「まあ、なに? この子をペット扱い? あらやだえっちねぇレイカちゃん。でも、その気持ち、分るわァ。この子、犬っぽさがある。調教したらいい声で鳴いてくれそ~う」

 

 

 オカマは腰をくねらせ、早口でマシンガントークを繰り広げた。

 

「はあ……お前の勢いには一生いていける気がしない。勝手に妄想しててくれ……」

 

 

 呆れた様に言った。

 

 

 正直、俺もこの人の勢いについていける気がしなかった。

 

 

「紹介がまだだった」

 

 

 レイカが思い出したように呟いた。

 

 

「このオカマここの店主で名前はデ……」

 

「ちょっとお待ち!」

 

「んだよ……」

 

 

 店主に悪態をつく。

 

 

「アノネ、レイカちゃん。ここでのアタシは女なの。今度ここでその名で呼んだらはっ倒すわよ!」

 

「へいへい……」

 

 

 こちらに向き直り店主が話始める。

 

 

「アタシはラヴィーナ・ラズベリー。ラヴィって呼ぶ子が多いわ。よろしくネ。ペットちゃん」

 

 

 言葉の最後にウィンクした。また背筋がぞっとする。

 

 

「ペットになった覚えはないぞ……」

 

 

 とりあえず否定から入る。

 

 

「あら、やっと喋ったわね」

 

「その隙をくれなかったからだ……俺は焔ナギト。よろしく頼む。ラヴィさん」

 

 

 ラヴィさんに会釈する。

 

 

「レイカちゃんと違って礼儀正しいのね」

 

「こんな所で敵を作ってもしょうがない。礼儀くらい弁えているさ」

 

 

「いい子ネ。ちょっと待ってなさい」

 

 

 ・・・

 

 

 程なくして戻って来て、

 

 

「じゃじゃーん!」

 

 

 ラヴィはうっきうきで服を突き出す。

 

 

「おお! 新作か。やっぱ最高だな!」

 

「………」

 

 

 まじまじと服を見た。

 

 真っ黒な服だが赤いラインと円の模様が入っていて、それが淡く光っている。この店の壁みたいだ。

 

 

「どお? ナギトちゃん。アナタにぴったりのサイズだし似合うと思うのだけど」

 

 うーむ……。

 

「これ派手すぎじゃないか? 赤の主張が激しくて、夜に身を隠せなさそうだ」

 

「あーそういうことね。そっち系の人か。それもそうよね」

 

 

 納得したように頷いて、にこりと笑顔を作る。

 

 

「安心なさい。この明かりは消すこともできるわ。黒基調だから目立たなわよ」

 

「それならよかった」

 

 見る限り他にデメリットは特になさそうだ。

 

 

「なあ、着てみろよ」

 

「そうよ、着ちゃいなさい」

 

 

 強引に服を押し付けられる。

 

 

「あ、ああ」

 

 

 言われるがまま服に袖を通した。

 

 

「ズボンもあるわよ」

 

「ちょ、ちょっと待ってくれレイカが居るだろ」

 

 

 流石に女の前で脱ぐのは躊躇いがあるぞ!

 

 

「気にしないから脱いじまえ」

 

 

 焦る俺を面白そうに笑った。

 

 

「勘弁してくれ……」

 

「ほらっ、早くしなさい!」

 

 

 ラヴィにズボンを引っ張られる。

 

 

「自分でできるからっ、ま、まってくれ!」

 

「待たないわよっ! アタシに食われるのとここで着替えるのどっちがいいわけ⁉」

 

「どっちも嫌だ!」

 

「あー……。ナギト従っとけ」

 

「なんなんだよこのオカマは~~!」

 

 

 危機を感じて反射的に地面を蹴って、ラヴィの胸板めがけてジャンピングキックを繰り出す。

 

 あ、やば……。

 

 我に返ったときにはもう遅かった――のだが

 

 足裏と胸板が接触する直前。

 

 

「ふんっ!」

 

 

「へ?」

 

 

 

 ラヴィは足を掴んで一本背負い。後ろに放り投げられた。

 

 

 ――ドスン!

 

 

 背中から思いっきり地面に叩きつけられる。

 

 

「いってて……」

 

 

 頭を掻いて周りを見回す。店の中は全くの無傷で地面に俺が転がっていた。見上げた先にはラヴィのウィンク。

 

 

「あはは、相手が悪かったな。店長は体術に関して言えば右に出るヤツはいないんだ。お前の負けだよ」

 

「わ、悪いラヴィさん。なんかキモくて、反射的に蹴ってた……」

 

「キモイは余計だけど、素直に謝れる子は嫌いじゃないわ。でも、アタシ以外にしちゃダメよ。ヘタすりゃ死んじゃうから」

 

 

 そう言ってラヴィは地べたに寝そべる俺の――足首を握る。

 

 

「え?」

 

「試着室で頭冷やしてきなさいっ」

 

「うわあああああああ⁉」

 

 

 ハンマー投げみたいに投げ飛ばされ、試着室に頭から突っ込んだ。

 

 

 ガシャン! と大きな音が店内に響き渡る。

 

 

「うわ、アイツ死ぬぞ」

 

 

 顔を引きつらせる。

 

 

「調教(きょういく)よ」

 

 

 個室の中で、逆立ちを崩したようなマヌケな恰好をしてた。

 

 

「これ着なさい」

 

 

 試着室の上から服を渡した。ばさっ、放り込まれた服は顔面に覆いかぶさる。

 

 

「あ、パンツ臭そうだからこれも着なさい」

 

「おいっ!」

 

 

  ◆

 

 

「はぁ……」

 

 

 着替えるだけでどっと疲れたが、俺の体は一新した。

 

 

「おお」

 

「見違えたわねぇ……」

 

 

 二人はまじまじと見てくる。

 

 

「似合ってるぞ」

 

「ええ」

 

「そうかあ……?」

 

 

 奇抜すぎて似合うか分からなかったが二人が絶賛してくれてほっとした。おかしなセンスなのは気にしない……。

 

 

「やっぱファッションセンスに関しては天才だよな」

 

 

「嬉しいこと言ってくれるじゃなあい。これを作るのにも苦労したんだから」

 

 

 上着の手触りを確認。しっかりした作りだ。

 

 

「ありがとうな、ラヴィさん。それとさっきは悪かった」

 

「いいのよ。終わったことよ」

 

「お前がぶん投げてな」

 

 

 あの光景を思い出しため息をつく。

 

 

「アンタの体術はデタラメだ。強すぎる」

 

「そこがギャップで可愛いんじゃない」

 

「へいへいそうだな」

 

 

 レイカはどうでも良さそうにあしらって、パンと手を叩く。

 

 

「じゃ、ここでの目的は終了だ。次行こうぜ」

 

「悪い。少し待ってくれ」

 

 

 自分が来ていた服を拾い上げる。

 

 それらを畳み、腕に抱える。

 

 

「はい、これ」

 

 

 ラヴィは親切に紙袋を渡してくれた。

 

 

「助かる」

 

 

 その中に入れて、

 

 

「待たせて悪かった。行こう」

 

 

 駆け寄ろうとする、その時。

 

 

「ナギトちゃんの境遇、大体見当がついたわ。困ったことがあればポケットの連絡先を頼ってちょうだい」

 

 

 ラヴィが耳元で言った。

 

 

「あんた、一体……」

 

「いいから、行ってらっしゃいっ」

 

 

 疑問は背中を突き飛ばされて断ち切られた。

 

 

 信頼できる人なんだろうか。疑問はまだあるが、悪い人ではないだろう。

 

 ラヴィを一瞥してレイカの元に行く。

 

 

「ありがとう、ラヴィさん」

 

 

 軽く手を振って服屋を後にした。

 

  

  ◆

 

 

 一階の大きな通路を歩いていた。

 

 

「腹減ったし、そろそろ飯でも食うか~」

 

 

 解放されてから結構な時間が経つ。もう太陽はてっぺんまで登っていた。

 

 

「いいな。早く連れてってくれ」

 

「ヘいへい。言われなくても向かってるよ」

 

 

 そうして歩いていると、ピピッ、とレイカの腕につけているバングルから電子音が響く。

 

 

「なんだ?」

 

 

 バングルをいじると空中に青いモニターが投影される。

 

 その画面を見てレイカの眉がぴくりと動いた。

 

 

「悪い、ここで待っててくれるか?」

 

 

 少し焦ったように言うのでぎこちなく「ああ」と頷いた。

 

 

 レイカは人通りの少ない路地に入っていった。その姿を見送って、通りの脇でぼんやりと辺りを見ながら立ち尽くす。

 

 

 一人になって色々と考える……。

 

 この都の科学技術は凄いな。どれを見てもピンとこない。初めて見るものばかりなのだろう。

 

 皆が笑顔で、ここには殺気が無い。

 

 

「この世界は平和だな……」

 

「へぇ、どの辺が平和なんだ?」

 

 

 カチャリと音が鳴るのと同時に俺の背中に金属が当たる。

 

 

「っ!」

 

 

 振り返ろうとするも強く銃口を突きつけられる。

 

 

「おっとぉ……黙ってもらおうか」

 

 

 背後で男は冷たいで告げる。

 

 気を抜いていた……奇襲をしかけられたら詰みだろ。

 

 クッソ……。どうする……?

 

 

「余計なことを考えるな。地の利はこちらにある。他に何人敵が潜んでいるか、分るか?」

 

 

 成す術がない。

 

 小さく両手を上げ、持っていた袋を地に落とした。

 

 

「それでいい。だが、それでは人目を引く。両手を下げて直進しろ。不穏な行動を見せれば容赦なく撃つ」

 

 

 無言で頷き歩き出す。その間男は一定間隔を空け、背後を追ってきた。

 

 

 ショッピングモールを抜け、開けた場所に出る。目の前は河原で左右は一直線の道だった。

 

 

「……それで、どうすればいいんだ?」

 

 

 後ろの男に問いかける。

 

 

「ああ、もう楽にしていいぞ」

 

「なに? ――っ⁉」

 

 

 首元に電流が奔ったのに気づいた瞬間、俺の視界は真っ暗になった。

 

 

  ◆

 

 

「――っ」

 

 

 混濁した意識の中から目を覚ます。

 

 

「ここはっ……!」

 

 

 真っ暗な部屋。静寂の中。

 

 

「!」

 

 

 立ち上がろうとするも、椅子に手足を縛られて身動きが取れない。

 

 

 手首をしならせ、ロープから手を抜こうと試みるが、硬くて外れない。地道に緩めるしかないか……。

 

 

 手首を動かし続ける。

 

 

 突然、

 

 

「おはよーさん。鐵(クロガネ)のガキ」

 

 

 正面から声が降ってきた。

 

 

「アンタはっ!」

 

 

 高身長の男が靴音を響かせながら現れた。

 

 

「神木リョウヤ」

 

 

 革ジャンの男は飄々とした物言いで値踏みするように見下してくる。

 

 

「どういうつもりだ?」

 

 

 気が済んだのか、ヤツは正面にあるもう一つの椅子にどっぷり座り、足を組む。

 

 

「後輩に興味があってな。三人目」

 

 

 口元を微かに歪め、睨まれる。

 

 

 後輩……? まさか――!

 

 

「アンタ、クロストリガーか?」

 

「ご明察」

 

 

 爺さんが言っていた。クロストリガーは俺で三人目。しかし、

 

 

「二人はもう死んだはずだ」

 

「!」

 

 

 その言葉に神木は目を丸くして、上機嫌に歯を見せる。

 

 

「上手く騙せてるみたいだな……」

 

 

 ニヒルに笑う。

 

 

 その笑みで思い出す。爺さんはこうも言っていた。

 

 

『一人目はディバインを結成した張本人。二人目は街一つを消し去った男』

 

 

 つまりは……

 

 

「俺の倒すべき相手……!」

 

 

 ヤツを睨む。

 

 

「おお、怖い怖い」

 

 

 おどける姿が気に食わない。

 

 

「アンタは何人目だ?」

 

「正確に言うと3かな?」

 

「? まだ他に居るのか!」

 

「今は関係ねぇよ。それより、だ」

 

 

 神木は立ち上がり、一歩二歩と歩み寄り、俺の背後で止まった。

 

 

「見せたいものがある」

 

 

 言うと、空中に大きなモニターが浮かびあがる。

 

 

「アレは……!」

 

 

 昨日の光景だ。

 

 

 ガルダーと戦った時、不意打ちのビームが炸裂した時の映像だ。

 

 

 ビームが発射される時で映像が停止した。

 

 

「なあ、坊主。自分が強いと思うか?」

 

 

「どういう意味だ」

 

「答えろ」

 

 

 冷たい一言で撥ね退ける。

 

 

「強い。だからガルダーに勝った」

 

 

 神木はため息をついて、質問を変える。

 

 

「なら、お前の目的は敵を倒すことか?」

 

 

「どういう……」

 

 

 意図が分らず、俯く。

 

 

「分かった。お前は弱い」

 

 

 そう言って、映像を進める。

 

 

 ビームが機体を貫いて煙が上がる。

 

 

「これを見てどう思う?」

 

 

「どうって……ガルダーが一枚上手だった」

 

 

「視野が狭い!」

 

 

「っ」

 

 

 怒号が響く。

 

 もう一度、映像が繰り返される。

 

 視野が狭いって……他に見る所なんて……

 

 機体を貫く光線。それがどこまでも伸びて行き、

 

 見る、所なんて……

 

 

 後ろの街を一瞬で真っ黒に焦がした。

 

 

「――!」

 

 

「分かったか?」

 

 

「……ああ」

 

 

 街の方が拡大されて、もう一度映像が繰り返される。

 

 光線が放たれる。機体を貫通し、街へ飛ぶ。

 

 木々が焼ける。

 

 家屋が壊れる。

 

 人が溶ける。

 

 逃げ遅れた人が死ぬ。

 

 集まって泣き叫ぶ子供たちが死ぬ。

 

 家族を抱いて人が死ぬ。

 

 

「――っ!」

 

 

 あまりにむごい光景に目を背ける。

 

 

「クソガキ!」

 

 

 怒号。

 

 

「目を逸らすな! 焼き付けろ!」

 

 

 瞼を無理やりこじ開け、首を固定し、画面を見続けさせた。

 

 

「うっ……」

 

 

 何度も映像が繰り返され、腹の中がぐちゃぐちゃになる。

 

 

 吐きそうだ。

 

 

「これでもっ、お前は敵を倒すために、ためだけに戦うのか!」

 

「やめてくれ……」

 

 

 光る。

 

 燃える。

 

 溶ける。

 

 壊れる。

 

「やめてくれええっ!」

 

 

 叫びが暗闇にこだました。

 

 

「……」

 

 

 手を放され、蹲る。えづいて、過呼吸になる。

 

 

 画面は消えた。

 

 

「これでも泣かないか……」

 

 

 男は言い残し、俺の前に立った。

 

 

「アンタは、何がしたいんだ……」

 

「洗礼だ。世界を変えるだとかほざいてたが、お前、何にも見えちゃいなかった」

 

「っ!」

 

 

 ……正しい。昨日の俺の覚悟はもう知らない。今の俺も昨日のように、良い世界にする為に戦おうと思っていた……。けど、何も見えていなかった。

 

 

 本当に、ガキの戯言だ。

 

 

「お前は取りこぼした」

 

 宣告。

 

「弱いからだ。このままじゃ、繰り返す」

 

 予言。

 

「……アンタが壊すからか?」

 

 問う。

 

「……かもな」

 

 答え。

 

「――っ!」

 

 怒り。

 

 

 パリンと何かが割れる音がして自由になって、地面を蹴る。

 

 

 

「ふざけるなあああ」

 

 

 顔面目掛けて、拳を思いっきり突き出した。

 

 

「ふっ」

 

 

 しかし、男は鼻で笑って、倒れるように体を傾けて避ける。

 

 

 そして――

 

 

「リレイヴ……」

 

 

 小さく呟いた。

 

 ガンッ――

 

 

 突如。鋼鉄の剣が目の前に落下し、轟音が鳴り響いた。

 

 

「……!」

 

 

 視界が銀色で埋め尽くされ、行く手が阻まれる。

 

 煙が舞い、完全に見失う。

 

 ヤツは……! どこだ!

 

 顔を振っていると、急に全身が寒気に陣食され、

 

 

「――げほっ」

 

 

 溺れそうになって口から血を吐き出した。

 

 

 掌の血を見ると、次第に寒気は収まった。

 

 

「安易に再構成(リレイヴ)を使うな。死にたいのか?」

 

 

 上……⁉

 

 見上げると何かに乗って、上がっていく男が俺を見下した。

 

「感受性の豊かさは満点だけどな」

 

 

 そして、奥のモノに目が釘付けになる。

 

 

「なんだよ……これ……」

 

 

 紅い粒子が宙を舞い、その光に照らされた巨体が姿を現した。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

 阿修羅――。

 

 六本腕の赤い巨人が立っていた。

 

 

 それぞれの手に刀。薙刀。斧。槍。鉈。剣が握られていた。

 

 そして、その頭上にヤツは乗っていた。

 

 機体と繋がったように、彼らの目は紅く輝く。

 

 阿修羅は地面に突き刺さった剣をゆっくりと引き抜く。

 

 

 こんな状況……一撃で殺される!

 

 

「クロストリガー! 後ろの機体、動かしてみろよ」

 

 

 後方を差さした。

 

 振り向く。

 

 

「!」

 

 

 黒い巨人がそこには在った。

 

 

「昨日の機体。無黒(ムクロ)。それを再構築した力がリレイヴ。縄を粒子に変えたのもそれだ。ただ、力はそれだけじゃない。乗らずとも動かせ!」

 

 

 無黒の顔を見つめる。

 

 

 意図は分からないが、やるしかない。でも、

 

 

「……どうやるんだ?」

 

 

 昨日の俺はどうしてた?

 

 分からない。

 

 なら、さっきヤツがやったように!

 

 拳を握りしめ、大きく息を吸う。

 

 

「リレイヴ!」

 

 

 巨人に向かって叫ぶ。

 

 

 が、ぴくりとも反応しない。

 

 

「くっそ……」

 

 

 また、力が足りないのか!

 

 

 機械は冷たく、無言のままだ。

 

 

 後ろからため息をつかれる。

 

 

「不完全か、或いは代償か」

 

 

 拳を握り、神木を睨む。

 

 

「確信できた。お前は弱い!」

 

 

 腕を組み、仁王立ちで見下した。

 

 ガンッ――。

 

 六つの腕が振り下ろされ、得物の檻に閉じ込められる。

 

 何もできない。

 

 拳を突き出すことはできない。今はただ負け犬のように握りしめる。無力さに嫌気がさして、歯を食いしばって俯いた。

 

 守り切れなくて、力すら無い。本当に……弱いっ!

 

 

「悔しか!」

 

 

 ああ……。

 

 

「届かなくて悔しいだろ!」

 

「ああ!」

 

 

 怒りと悔しさんの濁った声。

 

 

「弱いからだ! 覚悟も力も足りてない。全部が弱い!」

 

 

 だから、と付け足し、神木は一番大きな声を張る。

 

 

「俺と来い!」

 

「――⁉」

 

 

 聞き間違えかと思った言葉でとっさに顔を上げた。

 

 白い歯を見せ、ニカッと笑った。

 

 張りつめていた空気が、和らいだ……。

 

 

「……」

 

「俺と来て、強くなれ!」

 

「何言ってる! 人類の敵に着いていくわけない!」

 

「ああ、そうだ! 人類の敵で正義の味方やってんだよ!」

 

「はあ?」

 

「俺は力の使い方を間違えて、世界を滅ぼした」

 

 

 償うように目を細めた。

 

 

「お前は間違えるな! 正義の味方のままでいろ!」

 

「アンタ、ディバインと戦うのか⁉」

 

「おうとも。だが、敵はディバインじゃねぇ。平和を壊すヤツ全部だ!」

 

 

 神木は大きく拳を握りしめた。

 

 アイツは敵じゃなないのか? さっきの嫌な感じが全くしない。

 

 

「坊主、改めて聞く。何のために戦う!」

 

「俺は……」

 

 俯き、心臓をぎゅっと握りしめる。

 

 

「世界を変える為に戦う。それは変わらない。けど――!」

 

 

 顔を上げ、俺の全てを言い放つ。

 

 

「全部助ける! 取り零してやるもんか!」

 

 

 男は噛み締めるように、目を瞑った。

 

 そして、手を差し伸べる。

 

 

「俺と来い」

 

「強くなれるか?」

 

「当り前だ。付き合ってやるよ。お前の進化に」

 

 

 ヤツが洞窟の中に差し込んだ光のように見えた。

 

 

 俺は彷徨っていたのか? ……今は気持ちが楽だ。

 

 

「いい提案だよ。けど、もうご主人が居るんだ。アンタには着いていけない」

 

 

 コイツには多くのヒントを貰った。

 

 答えを出すのは俺だけだ。

 

 

 だから、

 

 

「一人でも強くなってみせる!」

 

 

 決意を言葉に変えてみせた。

 

 

「そのご主人。そろそろ着くぜ?」

 

 

 ニヤニヤして神木は言うと、

 

 バン――!

 

 

「え?」

 

 

 鉄のドアが大きな音を立てて勢いよく開く。

 

 

「ナギト 無事か⁉」

 

 

 息を上げた少女が駆け寄ってきた。

 

 

「どうなって……」

 

 

 状況が把握できなくてポカンとするしかなかった。

 

 

「おい、リョウヤ! 見下してねぇで降りてこい!」

 

 

 ぷんすかと拳を振り上げている。

 

 シリアスな雰囲気は完全に消え去った……。

 

 

「へいへい……」

 

 

 頭を掻くと阿修羅の腕や武器は一瞬で紅い粒子に変わり、霧散した。

 

 

 ひょい、ポケットにてを突っ込んで着地する。

 

 

「一体とういうことなんだ⁉」

 

 

 うんざりしたようにレイカは頭を掻いた。

 

 

「コイツの芝居に付き合わされてたんだよ」

 

「力作だったろ?」

 

 

 イラつくにやけ顔でレイカを煽る。

 

 はぁ……、と大きなため息をついて眉を落とす。

 

 

「?? わけわからないぞ!」

 

 

「説明してやるよ。だが、こんな陰気臭い場所もナンだ。行くぞ、坊主」

 

 

 神木はポケットに手を入れて歩き出す。

 

 

「……?」

 

 

 謎が多すぎて処理できずに、その背中を見ていると、バシッ――と背中を叩かれた。

 

 

「同情する。でも、アイツと話してこい。何かが得られるはずだ」

 

「なんでそう思うんだ」

 

「同じだからだ」

 

 

 そのまま背中を押される。

 

 

 よろけ、数歩前に出て振り返ると、腕を組んで微かに笑った。

 

 

  ◇

 

 

 神木と歩き、エレベーターで上に上がる。

 

 

 チン、と音が響きドアが開くと、オレンジ色の淡い光が飛び込んできた。

 

 

 立つのは山頂。周囲は一面の森だが、遠くには街の姿が見えた。

 

 

 夕日に照らされながらその景色を眺め、佇んだ。

 

 

「いい眺めだろ」

 

「そうだな……」

 

 

 平穏な人の営みと夕日はどこまでも心を落ち着かせる。

 

 

「先に謝っとく。芝居に付き合わせて悪かった」

 

 

 神木は目を伏せた。

 

 

「まず、レイカの通信相手になって引き離した。誘拐。脅迫。その他もろもろ。全部お前を試す為にやっていた」

 

 

 呆れて笑うしかない。

 

 

「二回も死ぬかと思ったぞ」

 

「悪いな。てか、大丈夫か? さっき力使ったろ?」

 

「使った……?」

 

「拘束具を粒子に変えただろうが……」

 

 

 急に自由になったのはそのせいか。

 

 

 神木を殴ろうとした時になった音。アレが力を使った証。

 

 

「リレイヴには代償が付きまとう。安易に使うと身を亡ぼす。絶空の爺さんに言われなかったか?」

 

「吐血も代償か。記憶喪失もその類かもしれないって言ってたな……」

 

「……危なっかしくて見られねぇや」

 

 

 大体の疑問は解決できた。一つ大きなのが残っているが。

 

 

「神木。アンタ一体何者なんだ?」

 

「正義の組織のリーダー。ってとこかな」

 

「組織? レイカもそこに入っているのか⁉」

 

 

 謎が解けてとっさに言うと、神木は嬉しそうに目を見開く。

 

 

「レイカには心開いてるのか?」

 

「命の恩人だからな」

 

「そうか……」

 

 

 微笑んで、俺から視線を逸らし街を眺める。見えない空の向こう側を睨んでいるみたいだ。

 

 風が頬を撫でる。

 

 ひと時の沈黙。

 

 そして問いによって破られる。

 

 

「なあ、坊主。この世界は平和だと思うか?」

 

 

 真剣でいて、どこか切ない横顔を見せた。

 

 

「そんな訳ない。この世界は間違いだらけだ」

 

 

 少し間を開け、更に問う。

 

 

「なら、今この瞬間は、平和だと思うか?」

 

 

 俺も街を眺める。

 

 

 夕日が優しく包み込む。そこには爆発や爆音は無い。争いの無い世界。それを見た。

 

 

「平和なんじゃないか」

 

「なら、お前の平和は戦争のない世界。時がゆっくりと流れる波風の無い世界か?」

 

 

 試す様に、真剣な視線を向けられた。

 

 

「ああ。この緩やかに流れる時間こそが平和なんだと思う」

 

 

 男は再び遠くを見る。

 

 

「それは平和じゃない。平穏だ」

 

 

 ……。

 

「今この瞬間。見える世界で争いは無い。けどよ、違うんだ。見えない所で誰かが殺されて、誰かが争って、誰かが悲しんでる。なのに俺たちは平和の中に居ると感じている」

 

 

 深いため息。

 

 

「俺が目指すのはそこじゃない」

 

 

 向き直る。

 

 

「俺は俺の見えない世界まで、全てを平和にしたい」

 

 

「………!」

 

 

 どこまでも真っ直ぐな言葉と願い。

 

 

 不可能にしか思えない理想を本気で叶えようとしている。

 

 

「きれいごとを叶える為に仲間が欲しい。お前が必要だ」

 

「さっき騙されて、信用はできないけど……思いは伝わったよ」

 

 

 当ても無い。力もない。今やるべきことは一つしかなかった。

 

 

 正しさを見極めるのは、その後でいい。

 

 

「組織に入る。そして、強くなる」

 

 

 神木は感謝するように目を伏せ、

 

 

「ようこそ、『レイズ』へ」

 

 

 顔の横で拳を作る。

 

 

「変えてやろうぜ。この世界を!」

 

 

 俺もそれをまねて、

 

「ああ!」

 

 

 パシッ。拳が重なって乾いた音が響き渡った。

 

 

 

 

「上手くまとまったみたいだな」

 

 木陰から声がして、振り向いた。

 

 

「レイカ?」

 

 

 神木を見ると右手で顔を覆い、空に向けていた。

 

 

「――っ、はぁ……聞かれてたのか……」

 

 

 妙に恥ずかしそうにぼやいた。

 

「雰囲気は似てたぞ?」

 

 

 意地悪そうに眼を細めた。

 

 

「やめてくれ……」

 

 

 にしっ、と笑って催促する。

 

 

「話が終わったなら本題に入れよ。お前の事だ、次の狙いも決まってんだろ?」

 

「お見通しだな」

 

 肩をすくませせて、

 

「秘密」

 

「はあ?」

 

 

「コイツにミッションを与える。達成したら教えてやるよ」

 

 

 肩をバンと叩かれる。

 

 

「ミッション?」

 

 

「一カ月以内に俺を倒せ!」

 

 

 高らかに言い放った。が、

 

 ぐ~ぅ。と俺の腹の虫も鳴った。

 

 

「その前に、メシにしないか……?」

 

 

 緊張感は続かないもので、二人に笑われた。

 

 

「いいぜ。付いてきな!」

 

 

 背中を叩かれ、俺たちは夕日の中を歩き始めた。

 

 

 確実に何かが動き出した。

 

 

 そんな予感を抱いて、また一歩足を進める。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。