ブレイク・フリー   作:路傍の砂利

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初投稿です。
いたらぬところなどあると思いますが、どうかよろしくお願いします。
あ、感想などいただけると死ぬほど喜びます。


ホット・リミット その①

 月明かりが眩しい夜だった。

 けれど、それは綺麗な月明かりというにはいささかばかり強烈で、気味が悪いまでもあった。

 今日はできるだけ早く帰ろうとしていたんだ。だっていうのに……

 

 「おい」

 

 なんて誰かの声が聞こえたもんだから思わず立ち止まっちまった。それが一番の間違いだった。

 

 「こんな時間になにをしてやがる?」

 

 声のしたほうに顔を向けると、そこには俺のいる場所とは違う方向を見るやつがいた。俺はそいつの顔を認識するやいなや、思わず「ゲッ」と声をあげてしまう。

 俺が学校で最も苦手にしている野郎、西宮託志がそこにいた。

 西宮の視線をおうとそこには全身真っ黒な衣服をまとった、いかにも不審者ですってやつがいた。

 おいおい……いかにお前がクラスの人気者だからって、こんな夜更けに警察ごっこかよ。

 幸いにも西宮にとってここは死角らしく、俺に気づいていないようだ。面倒事はごめんだ。逃げるなら今しかない。

 しかし、俺は動けなかった。西宮にむけられるはずのその視線が、自分に向けられていることに気づいたからだ。

 それは獲物を狙う猛禽類の目をしていた。そいつに睨まれちまった俺は体がすくんで動けなくなっちまった。さしずめ、なにやらに睨まれたカエルってところだろう。

 

 「もう一度聞く、ここでなにをしている」

 「……」

 

 動けなくなったおれはその光景をただ、じっと見つめることしかできない。

 場に訪れる静寂。その時間を無限のように感じた。

 しかし、その時間も終わりを迎える。

 

 「俺はこの学校の新任の清掃員でね。ほら、君もこの学校に最近、行方不明の事件が頻発しているって聞いただろう?俺はその警備にあたってたってわけ」

 「とぼけるんじゃあない」

 「マジだよマジ。もしかして、俺のこの格好を見て疑ってる? 人を見かけで判断するんじゃあねえぜ」

 「フッ、いや確かに、人を見かけだけで判断するのは人として三流に違いない。だがな……あんたはその内ポケットの膨らみを……俺の疑いをどう晴らすってんだ?」

 「……」

 

 男はニヤリと不適に笑う。いやな笑顔だった。まるで映画の終盤、味方だって絶対の信頼をおいていたやつが、実は自分が敵であったことを明かすときみたいな感じだった。

 

 「ご明察。確かに俺は一連の事件の犯人で間違いはない。ただ……あんたの目的が見えねえな。リスクを犯してまで犯罪者()を問い詰める、理由が見あたらねえ」

 「生憎だが、お前に話すようなことはなにもないぜ。なぜなら、いまからお前は再起不能になるんだからな」

 

 本当にそうしてしまうのだと、確信に似た感覚を覚えるほどに、いまの西宮には凄みがあった。

 しかしそれでも男は不適な笑みを浮かべ、その余裕を崩さない。

 

 「なるほど、この俺が再起不能ね。たとえ仮に、万が一いや、億が一そうだとしても、あんたは重大なことを見落としてるぜ」

 

 そう言うと男は自らの懐に手を入れた。

 

 「俺の目的が何かってことをなぁ!」

 

 男が懐から取り出したのは独特な形状をした弓矢だった。その切っ先は誰が触るでもなく、何故か俺の方向を向いていて、死角にいた西宮も俺の存在に気づいた。

 男はおもむろに振り返り、弓矢を構えた。

 避けられない。

 俺はそう直感した。

 間に合わない。

 そう、誰も間に合わない。ましてや道理がない。

 そして十分に引き絞られた矢が、今にも飛来するというタイミング。

 しかし、実際に飛来したのは石だった。

 普通、飛来しているものは初速よりも速く動くことはないし、減速して最終的には速度を失う。

 だが、それは減速するというよりは、むしろ加速度的に、スピードが増しているように見えた。

 例えるなら重力。

 リンゴの落下。

 しかしそのさまは落下とは呼べない。一流のメジャーリーガーが放った、手元で凄まじいノビを見せる投球のようだった。

 

 「お前も見落としていたな。お前は既に俺の射程圏内だ」

 

 男の手から弓矢が落下する。

 しかし、それは男にとってなんら問題もない、詮なきことだった。西宮もまた見落としていたのだ。男の能力が何なのかを。

 

 「この手はあまり使いたくなかったんだがね」

 

 男はおもむろに矢に手をかざした。

 けして飛ぶはずのない矢は、飛んだ。いや、飛んだというよりは射出されたといったほうがいいだろう。それも凄まじい速度で。

 避けることなど、出来なかった。

 矢は当然のようにとまることはなく、俺の肩に深く突き刺さった。

 

 「ぐああああああああ!」

 

 瞬間、焼けるような痛みが脳内を迸る。赤熱した鉄の棒を肩に突っ込まれてるような、そんな感覚。

 これが何かに貫かれる痛みなのか。

 いや、違う。これはそんな単純な痛みじゃない。

 これは自分のなかにあるはずのない異物をぶちこまれた感覚。

 

 「大丈夫か!?」

 

 駄目だ意識が遠退いていく。ちぃ、死ぬ前に聞く声が嫌いなやつのもんだなんて、俺は一体どこで間違えたんだ。

 




最後まで読んでいただき、ありがとうございます!

短いですけどキリがいいのでこの辺で。

よろしければ次話もお付き合いください。
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