ブレイク・フリー   作:路傍の砂利

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ホット・リミット その③

 凄まじい爆発音とともに俺は目を開いた。

 そこにあったのは知らない天井……どころではなく、真っ暗な闇だった。というか空だった。

 状況がまるで飲み込めない。ただ右肩に鋭い痛みが走るばかりだ。

 いや、そうだ。俺は矢のような何かを刺されたんだ。

 それであのクラスで一番いけ好かねえ野郎の声が……って、そういうばあの二人はどうなったんだ。

 視線をあげる。そして彼らがいた場所に目を向ける。

 

 「なんだってんだよ……これ!?」

 

 眼前にさっきの光景はなかった。いるはずの二人の姿も見当たらない。ただ、霧のように砂ぼこりが舞っているだけだった。

 

 「ぐっ……」

 

 どこかでうめき声が聞こえる。

 そこにいたのは西宮だった。しかしその姿はさきほどの彼からは想像がつかないほどに傷だらけだった。上半紙は服がほとんど破けているし、ところどころに裂傷をおっている。

 あまりにも傷だらけだったから、思わず駆け寄る。すると、どうやらやつは俺に気づいたようで、安心したように微笑を携えた。

 

 「堺……だよな? 無事なようで何よりだぜ」

 「お前っ……なにが無事でなによりだっ。おれのことなんかよりまず、自分を優先しやがれ!」

 

 早く手当てしなければならないというのに、この現状はそれを許さない。

 

 「アレを食らってまだ立ち上がるとはな……」

 

 さっきの男だった。しかし、西宮とちがってこちらの方はほとんど無傷で、余裕そうにこちらに近づいてきている。

 

 「おお!」

 

 突然、男の余裕は崩れた。といっても男の優位は依然変わることはなく、それは歓喜といった感じだった。

 

 「君が生きてるってことは俺の仕事はもう終わったってこと……なはずなんだがね」

 

 しかし、男はどこか不思議そうに俺を覗きこむ。その瞳はまるで虚構だった。本当に、肝っ玉が底冷えしてしまうほどに、温度を感じられなかった。

 

 「なんで君には"でていない"んだ?」

 

 恐ろしい。

 俺はこのとき初めて殺気というものをもろに受けたのだと思う。率直にただ恐ろしかった。だがそれ以上に俺は自分自身に失望していた。

 

 西宮はこんなものに晒されながら、それでもなお……

 

 情けない。心底情けない。

 どうして体は動きやしないんだ。

 腹立たしい。とにかく腹立たしい。

 だというのに、俺には力がない。

 

 「まぁ、失敗だったっていうならそれはそれで俺には関係ないんだがね。 あー、そうそう、巻き込んでしまって悪かったね。いま楽に……っ!?」

 

 突如、兎のようないでだちをした、人形ような何かが男に殴りかかった。

 西宮だった。確証はないけれど、確信できた。

 

 「おいおい、勘弁してくれよ。本当に、どれだけタフなんだよ?」

 「これくらいでタフなんていってくれるんじゃあねえよ」

 「誇張なしで大型トラックに轢かれるくらいの衝撃なんだがな」

 「大型トラック? トミカの間違いじゃねえか?」

 

 西宮がおどけるようにそう答えると、何かが男の琴線に触れたのか、みるからに不機嫌になった。

 

 「気にいらないな。なぜそうまでして他人を助けようとする? それも家族でもない赤の他人だ。あんたは誰かを助けることの意味を理解しているのか?」

 「意味……だと?」

 「ああ、そうとも……海に溺れている二人のうち一人を助けるということは、もう一人が溺死することを容認するということ!あんたがいましようとしてるのはそういうことだ……」

 

 男は矢継ぎ早に問いただす。

 

 「あんたに覚悟はあるのか? 」

 

 その時、俺が真っ先に感じたのは男の凄みだった。それは西宮も同じだっただろう。

 

 「お前がただの外道じゃないってことは分かったよ……ただの外道は戦いに覚悟を求めないからな……」

 

 男のその言に感じるものがあったのだろう。西宮は真剣な面持ちでなおも続ける。

 

 「だがな……お前にどれだけの理由があったとしても……お前のやってるそれは正道じゃない……邪道だ」

 

 さっき俺が感じたのは決して凄みだけではなかった。そのとき、実に勝手な解釈だが、それでも男がただの悪人には見えなかった。男が私欲のためではなく、自分以外の誰かのために目的を果たそうとしているように見えたのだ。

 きっと西宮もそう感じたのだろう。

 だが、西宮はそれでも男を否定する。

 

 「覚悟があるかと聞いたな? 俺にはある!ただそれはお前とは違う……正しい道をゆく覚悟だ!」

 

 かっこいいじゃねえか。

 素直にそう思った。

 

 「……ならば、果たしてみろ。そんな状態で、そこの彼を守りながら、俺を倒すなんていう骨董無形な話をな!」

 

 「……上等!」

 

 西宮と男の戦いの火蓋は再び切られた。

 

 

 だが、なんの力も持たない俺は男の言うとおりなにもすることができない。

 だが……それでも……

 

 足手まといになんて、なってたまるか。

 

 そのとき、何かが目の前に現れた。

 それは妖精のように小さくて、だっていうのにウルトラマンの星人みたいにグロテスクな姿をしていた。

 

 『きゅみー』

 

 なにかを訴えているのか。まるで自己主張しているかのように、それは音を発した。

 するとどうだろうか。俺の足場は確かに土だったはずなのに、石工が何年も磨かねえとできないような、つるつるの大理石に変わりやがった。

 これをこいつがやったっていうのか。

 

 『きゅー』

 

 そうみたいだった。しかし、それがなんだっていうんだ。こいつがこんな物質を作り替えるような、魔法みたいな能力を持っていたとしてもそれは俺の……

 そのとき、俺はそいつの額に矢の紋様があることに気づいた。それは自分に突き刺された矢と同じものだった。そして同時に思い至る。

 なら、この力は……いや、こいつは俺の……

 

 「スタンド……」

 

 無意識に、誰に聞くでもなく、そう呟いていた。

 

 

 

 




スタンド名:???

【破壊力 - なし / スピード - なし / 持続力 - A / 射程 - E / 精密動作性 - A / 成長性 - A】

能力:???
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