ブレイク・フリー 作:路傍の砂利
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俺たちはなにもすることができなかった。その光景をただ見つめること以外には。
なぜならそれがあまりにも慈悲深いものだったから。聖女が喪に服すさまを見ていると錯覚するほどに、それが手厚く葬られていたから。
その厚葬が一通り終わると、目の前にいる彼は最後に祈りを捧げた。見たこともない所作であったが、俺たちはそれを強く神聖なものに感じた。
「さて、俺も自分のやるべきことをしよう」
そう言って彼は立ち上がると俺たちのほうに向き直る。
「堺……」
「あぁ……」
格が……いや、次元が違う。
俺たちは言葉を交わすこともなくそう直感した。得体のしれなさはもちろんのこと、目の前にいる男の気迫は先ほど戦っていた男をはるかに凌駕するものだった。
さっきの男は紛れもなく強かった。二人がかりでなければ自分たちが負けてしまっていたのでは、と思うほどに。それは紛れもない事実だ。
しかし、それは明確に勝てないと思うほどの実力差ではなかった。
目の前にいる彼は違う。まるで始まりの村に魔王が現れたのと同じように、彼は俺たちが戦ってはいけないレベルの人間だと本能が訴えてくる。
「……っ!」
足が震える。頭では立ち向かうことを考えていても体がそれを断固として拒絶している。
「……ブレイク・フリー!」
しかし、隣にいる彼は違った。
それは見る人によっては無謀な蛮勇にうつるかもしれない。だが、それはけして無謀ではなかった。
それは立ち向かう勇気。実力差ではない。有利であるか不利であるかでもない。人間にはどんな逆境にも立ち向かわなければならないときがある。
西宮にとって今がそのときであった。
それを目の前の彼も分かっているのだろう。彼はニヤリと笑うと自らのスタンドを発現させた。
「ウラララララララララ!」
西宮のスタンド……ブレイク・フリーは圧倒的なスピードと優れたパワーをもつ。こと、スピードに至ってはおそらく世界中を探しても右に出るものがいないほどに。
故にさっきの戦いで、ホットリミットはその攻撃になすすべがなかった。
しかし……
「ふっ……」
男はそれを初見で……それも至近距離であるというのにも関わらず、すべてさばききって見せた。
ありえない。
それが俺たちの抱いた総意だった。ホットリミットのように能力による特別な防御法があるのならまだわかる。しかし、彼のスタンドはなにか特殊な技を使うこともなく、さばききったのだ。そもそも、反射神経では追い付けない、異常なスピードなのにも関わらず、だ。目で追えるはずがないのである。それなのにまるでどこに攻撃がくるのかあらかじめ分かっているかのような、まるで未来がわかっているかのような、そんな骨董無形なことをこのスタンドは成し遂げてみせたのだ。
「西宮!下だ!」
「っ! ああ!」
俺は地面に両手をつく。もう四の五のいってはいられない。俺も覚悟を決めなければならない。
彼らの立つ地面がぼこぼこと動き出す。すると地面は剣山のような姿になり男を突き刺さんとする。
しかし、その攻撃は当たることはなく、紙一重で避けられる。
「ブレイク・フリー!」
しかし、あの攻撃はブラフだ。本命は今俺が作り出した物質による攻撃。
「俺のスタンドが打ち出したものは重力にしたがって加速度的にあんたに向かう……」
その物質は金。鉄の約三倍も重たい物質。力は速度×質量。当たれば勝てるし、速度からして当たらないはずがない。
これが今の俺たちにできる全力だ。
「まだ……拙い……」
しかし……男は俺たちの渾身の一撃を見ることもなく避けてみせた。
終始、まるで相手の手のひらの中で踊らされているような、不気味な……すごく、いやな感じだった。
「はぁはぁ……」
「くっ……」
おそらくすでに限界だった。俺の能力はもう使えなくなっていたし、西宮に至ってはすでに先の戦いでの負傷が大きすぎた。ここまで動けていたのがあまりに不思議なほどに。
それに対して男は息を切らすどころか、俺たちに攻撃すらしていない。
完敗……だった。
だというのに西宮はまだ立ち上がった。限界などとうに越えているはずなのに。
「お前たちが何者で……何が目的で俺を狙い……そして俺の親友をさらったのかは知らねえ……
だが、俺はどんなに現状が絶望的でも……手足をもがれて相手を睨み付けることしかできなくなっても……必ずお前らを殺し、絶対にあいつを取り戻して見せるっ……!」
そこには何があろうと、必ずそうなるのだろうと確信させるほどの凄みがあった。
初めて知った。西宮に親友がいて、その人がいま危険であることを。
そして理解した。そんな状態だというのに、彼が俺を助けてくれたということを。
ならば、今俺がすべきことはなんだ?
ただ、呆然と敗北を認め、死を待つだけか?
違う……!
今俺がすべきなのは、どんなに無様であろうが足掻くことだろうが!
「おい、西宮……お前は一人じゃあねえ。
お前が親友を救うのなら、俺はそれを助ける!いま目の前にいるこいつがお前を殺すというのなら、俺はなにをしたって……血反吐ぶちかまそうがそれを止めてみせる……!
だから……」
言葉を続けようとしたが、それは他ならぬ目の前の男によって遮られた。
「……広瀬絵里、彼女はいまイタリアにいる……」
「っ!?なに!?」
明らかな動揺ともに西宮は目を見開いた。
広瀬絵里……
おそらく女性の名前だと思われるそれが西宮の琴線に触れたのは、広瀬という女性が、彼が死んでも救うと豪語した西宮の親友で他ならないからだろう。
「広瀬がイタリアに……? いや、それが事実かどうかよりも、お前は……」
「なぜそれを知っていて、そして君に教えるか……か」
「……!?」
「その問いに対して俺はなにも答えない。俺はただ道を示すだけだからだ……
その道になにがあるかは他ならぬ君自身が探さなくっちゃあならない……」
道を示す……?
これが罠だという可能性も一瞬考えられたが、やはりそれはありえないと確信できる。なぜならいま目の前にいるこの男は遠回しに罠を張り巡らす必要もなく、俺たちをいとも容易く殺すことができるからだ。
では、道とはなんだ。そしてなぜ俺たちにその道とやらを示す。目的がわからない。
だが、それについてこいつは答えないと断言した。ならば俺がこいつにきかなければならないのはこの男が俺たちの敵であるか否かだ。
「……あんたは今、その問いに対して答えないといったな?っていうことはよぉ、答えられる質問もあるってことで間違いはねえよな~?」
「……冷静さは必要だ。どんな状況であっても冷静ささえ保てれば、次になにをすればいいか自ずとわかるからだ。
あぁ、そうだよ堺。すくなくとも君が今聞こうとしていることに対してはノーに限りなく近いといっておこう。」
「っ! こんなに不気味なのは初めてだぜ。でっけえ仏像に虚ろな瞳で見透かされてるようなよぉ」
本当にくそほど気持ちが悪い、いやな感じだ。
だがわかったこともある。それはこいつが間違いなく敵ではないということだ。限りなくノーに近いということは、この男が敵でも味方でもなく、しかし味方に限りなく近い、おそらく俺たちと利害が一致しているということだろう。
ならば俺はこの男を信用できる。なぜなら下手に友好的なやつよりも、こういう自らの目的にそって他人を利用しようとするやつのほうが信用に値するからだ。
「敵ではないというのは理解したよ。だがよぉ、なら尚更あんたは俺たちの問いに答えなければならないんじゃあねえのか?
あんたの目的とやらに俺たちが必要だってことはよお!」
「……いまこの場で君たちを殺さない、これが俺にとっての君たちに対するリターンのつもりだったんだが、それでは足りないというのだな?」
「あぁ、その通りだ。すくなくともあんたの目的かそれと同等の価値がある情報じゃねえと俺は納得しねえ」
「俺がいますぐ君たちを殺すといっても?」
「……あぁ。しかし、あんたに本当にできるのか? あんたにとって俺たちを殺すっていうのはなんのメリットもなければ、損しか生まないんだと思うんだがな」
「……確かに一理はある」
なかなかにリスキーな賭けだった。おそらく殺すなんてことはしないだろうと思っていたが、それはあくまで俺の予測でしかなかったからだ。だが、賭けには勝てた。だというのに、妙なことに俺には男の口角が少し上がっているように見えるのだ。
そして男は答えた。
「君の記憶の答えも、そこに行けば見つかる」
西宮は意味がわからなさそうにその言葉を飲み込み損ねていた。普通なら俺もそうなっていたことだろう。しかし……
「……なぜ……そのことを……!? それに……!?」
俺にとってそれは自分自身の根幹に触れるものだったのだ。
「……それ以上は答えない。それに君はいったはずだ。私の目的と同等の価値がある情報ならば納得すると……
そして君は私の答えに納得している……違うか?」
「……違わない」
西宮には悪いが男の言うとおりだった。しかし、尚更この男を俺は理解しなければないないと強く感じた。
それは西宮もきっと同じ風に思ったに違いない。
「君たちとはまた出会うことになる。そのときに君たちが道のはてになにがあるか、探し当てていることを祈るとするよ」
そして男は消えた。もう空も白みはじめていい時間になったというのにまだ夜はあけない。ただ、俺たちの目の前を照明の光が明るく照らしていた。
スタンド名:???
【破壊力 - A/ スピード - A / 射程距離 - C / 持続力 - A / 精密動作性 - C / 成長性 - E】
能力:???
彼ら二人を相手に無傷で、かつ児戯のごとくもてあそんでみせた。
彼が何者なのか、一体なにを目的にしているのか、そしてそのスタンド能力がどんなものなのか想像できない。しかし、彼が彼らの過去を知っていて、それを利用してまで何かを成し遂げようとしていること、そしてそのスタンドがあの無敵のスタープラチナなどと並ぶ最強のスタンドであることは間違いないだろう。