ブレイク・フリー   作:路傍の砂利

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ようやく一区切りつきました。これから本格的に物語が始まる予定ですのでこれからも是非お願いします!

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イタリアへ

 謎の男の来訪から少しの間、俺たちはたがいに沈黙していた。それは西宮も俺も、自分のなかで彼の言葉を整理する必要があったからだろう。

 そして先に口を開いたのは西宮だった。

 

 「墓をつくろう」

 「……墓?」

 「そうだ。俺たちが殺した彼の墓を……

 それが俺たちが彼の覚悟に対して、負わなければならない責任だと思うから」

 「……そうだな」

 

 そうして俺たちはおそらく昼間でも人気がないような場所に穴を掘って彼の死体を埋めた。

 死体を持ち上げたとき、その首あたりから煤けたペンダントのようなものが転がってきた。

 それを拾い上げ、不躾なことは承知で開くと、そこには小さくてかわいい女の子の写真があった。

 互いに言葉を発することはなかった。男とこの写真の少女にどんな事情があったのか、詳しくは知らない。だが、それでも彼が生き残ることで救われるものがあったのだと強く感じた。

 

 *

 

 あれから夜が明けて、朝になると俺たちはそれぞれの帰路についた。

 明日、またここに集まることだけを約束して。

 俺は人の気配が出てくる前に家に帰ることができた。

 父も母も、兄妹もいない。だからどれだけ俺の帰る時間が遅くなろうが、どれだけ俺がぼろぼろでいようが、誰も心配することはない。

 ただ、一人で飯をくい、一人で風呂に入り、一人で寝る。

 これが俺の日常だった。

 きっと近しい誰かがいる人にはこの日常が哀れに思えたりするのだろうが、別に俺がそれに悲しみを持つことはなかった。

 

 なぜなら俺には記憶がなかったから。

 

 家族がいたころの記憶なんかではない。そこそこに成熟した肉体でこの家で眠っていたのが俺の持つ最も古い記憶だった。

 日本語すらも忘れるほどの強烈な記憶喪失にあったとかではなかった。いやそもそも俺のそれは記憶喪失でもなかったのだろう。そこ以前の記憶が俺には存在していなかったのだから。

 

 だから俺には一人がいやだなんて思うことはなかった。一人であること以外、経験したことがないから。

 ただ、だからこそ俺は追い求めているのだ。存在していたはずの自分の記憶を。

 

 *

 

 西宮という男は俺が認識している限り、クラスで人気のあるやつだった。

 それもそのはず、声がよく通り、よく笑い、そして他人に対しての思いやりのある彼が人気になるのは当然の帰結だろう。

 だが、俺はそんな彼が好きじゃない。

 彼のことがどうでもいい俺にとってその大きな声は単にうるさいだけだったし、品性の感じられないその笑い方も好きになれなかった。

 

 いや、情けないが正直に話そう。

 

 俺が何よりも許せなかったのは、彼の日常が当たり前に存在していたことだった。

 羨ましかった。自分がどのように生まれて、どのように生きていまがあるのかを認識できることが。

 嫉妬していた。初めから家族がいて、友達もできて、一人じゃないことを当たり前に思えることが。俺にもそんな当たり前がほしいのだと。

 

 本当に情けなく、愚かな話だと今となっては思う。それまで俺は彼のことを何も知らず、知らないくせに勝手に彼を決めつけて、勝手に嫉妬していたのだから。

 

 *

 「西宮……」

 「おう、来たか」

 

 俺たちは次の日を待たずして、あのときと同じ場所に集まっていた。

 

 「早速だが、本題にはいろう」

 「あぁ。それでまず確認なんだが、俺たちは目的は違えどイタリアに用があるということで共通している……この認識は間違っていないよな?」

 「間違いない」

 「OKだ。くどいようだが、今から提案することはそれが前提にないと成り立たないんでね」

 

 確かに、西宮にしてはひどく回りくどいしゃべり方だ。俺としてはこういう石橋を叩きに叩いて会話を進める感じは好みだが、当の西宮はやはりやりづらそうな印象を俺に与えた。

 

 「それで、その提案ってのはなんだ?」

 「堺、奇しくもお前はスタンド能力っていうの厄介なものにめざめてしまった。"スタンド使いはスタンド使いにいずれ惹かれ合う" これは俺が初めてあったスタンド使いが言っていた言葉だ。そして俺はこの言葉がスピリチュアルだとか占いだとかそういうチャチなもんじゃあねえことをこの身をもって体感している」

 

 スタンド使いはスタンド使いにいずれ惹かれ合う。

 西宮がここまでいうのだからそれは事実なんだろうと思う。だが、彼の言うとおりそれはあまりにも厄介なものだ。

 あなたはこれから何度も交通事故に遭うとそう断言されたようなものだからだ。

 

 「つまり、お前はこれからもスタンド同士の戦いに巻き込まれることになる。これは予感なんかじゃあなく、マジなことだ。人が必ずいつか死ぬのと同じように、運命で決められた、必然なことなんだ」

 「それで?結論としてお前は何が言いたいんだ?」

 「俺たちの目的は確かに違うのかもしれねえが、それでも目的地は同じだ。俺はこれに数奇な運命を感じざるを得ない。

 だから俺が言いたいのはただ一つ。

 堺、俺と一緒にこい。

 俺たち二人ならこれからの戦いも乗り越えることができる気がする。いや、俺は昨日の戦いで、そう確信した」

 

 こいつは人たらしに違いない。

 俺はこの短い付き合いで確信した。こいつは普通の人なら恥ずかしくて言えないようなことも、何の気もなしに言ってきやがるからだ。

 本当に……

 俺はそれを嬉しいと思った。こいつは俺という存在を認めてくれる。だから俺はこいつに協力したいと思うし、共に戦いたいとも思うんだ。

 

 「勿論だ。それに俺は初めからそのつもりだったんだぜ?

 西宮、これからよろしく頼む」

 「あぁ、よろしく」

 

 そうやって俺たちの奇妙な冒険ははじまった。

 始めに断っておくが、これは気高きあの血族の物語ではない、その外の物語だ。

 だが、この物語が彼らと同様に数奇な運命を背負った二人の物語であることは間違いない。

 

 *

 

 「それで、イタリアへはどうやって行くつもりなんだ?」

 「……あ」

 

 しまったという顔で固まる西宮。無計画に無鉄砲なこの感じは、学校でよくみる彼と同じだった。

 

 「そんなとこだろうとおもったぜ。お前がそういうやつだってことは昨日でだいだいわかった」

 

 そういって何かのチケットを見せびらかすようにひらひらとしてみせた。

 正真正銘、イタリア行きの航空券だった。さすがにパスポートをもってないなんてことはないよな?

 

 「ああ、パスポートについては心配するな。こう見えて海外へ行くことは少なくないからな。イタリアにだって何回か行ったことあるんだぜ?」

 

 イタリアにいったことがあるっていうのに航空券のことは忘れてたんだな。電車に乗るのに切符がないと言っているようなものだろう?

 

 「それにしても、よく航空券なんて用意できたな。俺たちバイトができるとはいえ高校生だぜ? イタリア行きの航空券だって数万はするはずだろう?」

 「まぁ、それは……色々あるんだよ」

 

 別にやましいことなんて一つもないが、なんとなく言い淀んでしまう。俺だって一人暮らしだし食っていくためにバイトをしている。

 だが、バイト以外に俺が金を持っている理由はある。あの時……俺が初めてあの部屋で目覚めたとき、俺のそばには大量の金があった。だから俺はあれから特に不自由をすることなく学生として生活することができたし、いまもバイトこそできるようになったからしてはいるが、本当は当分何もしなくてもいいほどの貯蓄があるのだ。そのおかげもあってイタリア行きの航空券だって何の躊躇いもなく買うことができた。

 だが、それでも自分で得たものじゃない感覚。それと自分のことを隠しているという、この後ろめたさが俺を言いよどませた。

 

 「……まぁ、いいたくないんなら別に俺は全く気にしない。特に興味があって聞いたってわけじゃあねえしな」

 

 そういって俺から航空券を受けとる西宮。興味ねえんなら聞くんじゃねえよと思ったのは秘密である。

 




これは始まりの物語。
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