ウマ娘×仮面ライダー 作:名無し
マック「はっ……はッ…!!」
マックイーンがコーナーを回る
だが、その脚取りはキレがない、コーナーとは言え、速度が遅い
どんどんと後続に迫られる
マック(…息が乱れて…!脚も、重い……でも!!)
マック「まだ…!!」
コーナーを抜け、直線に入った瞬間の再加速
しかしそれも…足りない、後ろから続く差しや追い込みは…気づけば目の前に
マック「ッ…!……く…!」
あからさまに不満そうな表情のまま、ゴール板を通り過ぎて、コースをでて、すぐに腰を下ろす
こうでは無い、どれ程までにここまで努力してきたのか
どれだけの苦労を乗り越えて戦ってきたのか
なのに、まだこの程度…
マック「……このままでは、天皇賞は…!」
悔しさの余りに歯を食いしばる
パシャリ、カメラのシャッター音が小さく響く
マック「!」
士「模擬レースも終わったのに、帰ってこないと思えば…こんなところにいたのか」
マックイーンが素早く目元を拭い、立ち上がる
マック「……1人にしてくださいまし」
士「名優って呼ばれてるらしいな」
マック「…ええ、それがどうしたと言うのですか」
マックイーンと士の視線が、お互いの瞳を捉える
士「……」
マック「……」
士「帰るぞ」
マック「…わかりました」
マック(さっきの模擬レース…私は、私にとっては…勝たなくてはならないものでした…あれは、次の目標で有る菊花賞と同じ人数同じ距離…。
しかも、内枠で先行策は私と数名、逃げ策も今回は居なかった…これ以上無く、やり易い状況下だったのに…)
マック「……このままでは、メジロの名が泣きます…こんな私では…!
…あら…?」
目の前にひらひらと落ちてきた写真を拾い上げる
マック「なっ…!?」
…先ほどの、マックイーンの顔が写し出された写真…
誰にも見られたく無い、弱さを曝け出した写真…
自身の、許せない一面を…晒された
士「一切のピンボケもない、究極の写真だ…ま、名優の裏側ってとこか」
マック「これの何処が究極ですか!ただの盗撮ですわ!」
士「見られたく無いものだったか?」
マック「…当然でしょう!泣いてる顔なんて誰も…!」
怒りのままにマックイーンが詰め寄る
士「オレはお前を認めてる。」
マック「…なんですって?」
士「お前の努力をオレは知ってる、この写真は…」
マック「……わかったようなことを言わないでください!」
ズカズカと足音を鳴らしながらマックイーンがその場を離れる
士「……」
ゴルシ「おー、もやしじゃねえか!」
士「誰がもやしだ」
ゴルシ「んな事よりよ、マックちゃん見てね?
探してんだけど見つかんなくてよー」
士「アイツなら……」
ゴルシ「おー、そうだ!」
ゴールドシップがプレゼント箱を士に押し付ける
士「なんだこれ」
ゴルシ「マックちゃんに渡しといてくれ!ゴルシ様からの愛の困ったプレゼントだってな!」
士「ちょ、オイ!」
ゴルシ「あ、中身は時限爆弾だから早く届けろよ!」
士「…何言ってんだ?アイツ…」
士がプレゼント箱を開く
士「……なるほどな、大体わかった」
ライアン「…マックイーン?」
マック「ライアン…どうしてここに?」
カラオケボックスの個室の扉が開く
ライアン「昔から、マックイーンは何かあると1人になりたがるから…かな。
ああ、あとは行きつけのお店もここしか知らないし…あと、この部屋の番号、ユタカの背番号でお気に入りだし…」
マック「私が1人になりたいのをわかっているのなら、放っておいてください」
ライアン「……いや、その…」
マック「……」
ライアン「…ごめん、来月の菊花賞で待ってる……それだけ、伝えたかった」
ライアンが部屋を出て行く
マック「……今の私では、勝てるわけがない…」
イクノ「マックイーンさんの居所ですか?」
士「お前なら知ってるって聞いてな」
イクノ「…誰に?」
ターボ「ターボに!」
イクノ「……はあ…」
イクノが気怠げに読んでいた本を置き、メガネの位置を調整し直してから士を睨む
イクノ「門矢士、素行不良の新人トレーナー、マックイーンさんともまだ数ヶ月の駆け出しコンビ。
独自のやり方でのトレーニングにはマックイーンさんはもちろん周りの人たちも疑念を抱いています。」
士「……」
イクノ「貴方が見限られるのは、当然では?」
士「メジロマックイーン、名優と呼ばれる強力なステイヤー、デビューまでの成績などからその期待は高く、引く手も数多…」
イクノ「それがなぜか貴方と組み、そして成績も低迷…原因が貴方にあるのは明白です…貴方はマックイーンさんを見つけ出してどうするつもりですか?」
士「その前に一つ聞かせろ…アイツは、何に焦っている?」
イクノ「…勝利に」
士「そうじゃない、やり過ぎな食事制限、不要なオーバーワーク、そして本番を来月に控えているのに何度も模擬レースを繰り返す理由がオレは知りたい。」
イクノ「…今更マックイーンさんを知ろうとしたところで…」
士「あいつは名優だ、それが正しい事のように振る舞い、オレにそう信じさせた。
だが、今のあいつは…大根役者だ」
イクノ「……その箱は?」
士「…これは…」
プレゼント箱を開いて見せる
イクノ「…これは…?……隣町限定の北海道直産夕張メロンのプリンアラモード…?まさか、マックイーンさんが食べたいのを知ってわざわざコレを?
半日並ばないと買えない代物だと聞きました……それを知って?」
士「あー………そ、そうだ、なに、担当のトレーナーとして当たり前のことをしてるだけだ」
イクノ「…どうやら誤解があったようです、非礼をお詫びします。
さて、マックイーンさんについてですが…恐らく、お婆さまが原因かと」
士「お婆さま?」
イクノ「メジロ家のお婆さま、聞いたことくらいはあるでしょう。
そのお婆さまはマックイーンさんにとって、憧れであり、誇りでした…優しい人だと言っていました。
ただ……ひとくちにメジロ家と言ってもそれは大きな括りでしかありません、本家と分家があるように、お婆さまの近くに居ることのできるグループとそうでないグループがあった。」
士「マックイーンはそうじゃなかった」
イクノ「はい、マックイーンさんが名優と呼ばれる事になった理由は…そこにあるのでしょう。
この話をマックイーンさんに聞かせてもらった時の悲しそうな顔は…名優の姿とはかけ離れていましたから。
大切なお婆さまや、ずっと仲良くしていたメジロの仲間達に…嫉妬や悲しみの感情を悟られたくないという強い意志が、マックイーンさんのあの美しく、勇ましい姿を作り出している…私はそう思っています。」
士「……」
イクノ「…もし、貴方が真の理解者になれるのだとしたら…。
名優の仮面を取ってあげてください。」
士「仮面…か」
マック「……あ…」
士「9月はまだ暑いな」
カラオケボックスの目の前で待ち構えていた士にマックイーンの行く先が塞がれる
マック「…何故ここに、いや、何のためにここに…!」
士「届け物だ」
箱を開いてマックイーンに見せつける
マック「こ、これは…夕張メロンのプリンアラモード…!そ、それにこのラベル…隣町の限定販売の品…!」
士「早くついて来い、プリンが傷むぞ」
マック「……お気持ちは嬉しいです、ですが……これは食べられませんわ、クリームたっぷりで脂質も高いし、糖質も、カロリーも…うう…」
士「よだれを垂らしながら言うセリフじゃないな」
マック「ハッ!?こ、これは…!」
慌ててマックイーンが口元を拭う
士「とにかく来い」
士「食え」
マック(…なんですの?この料理の数々は…しかも、どれも…)
士「お前の好物…の、筈だ」
マック「何故…?いや、それよりも…食べられませんわ!コレは私の作ったメニューとは…!」
マックイーンが取り出したメモ帳を士が取り上げる
士「コレはもう必要ない」
マック「何するんですの!」
士「お前の食事は俺が管理する」
マック「はぁ!?…貴方、今までそんな事…」
士「やろうと思えばできる」
マック「…なら、この食事は何です!栄養バランスも何も…」
士「今のお前には脂質が足りていない」
マック「…何を言ってるんですの、私は脂肪をつけたくないから脂質を…」
士「制限しすぎた、脂質だって必要な栄養だ」
マック「…それはそうかもしれませんが…!」
士「この前の模擬レースで力が出なかったのも、エネルギーが足りてないからだ、脂質は効率の良いエネルギーになるらしい。
それと、脂溶性ビタミンの摂取にも良い…らしい。」
マック「…わざわざ調べたんですの?」
士「わかったらさっさと食え、言っとくが、豪華なのは今日だけだ、明日からはカフェテリアの飯だからな」
マック「……別に、脂質が必要な事くらいは知ってます。」
マックイーンがぶつぶつと文句を言いながら食事に手を伸ばす
マック「それにしても一体何処で買ってきたんです」
士「作った」
マック「作っ…!?ゴホッゴホッ…嘘!」
マック「…ご馳走様でした、その…確かに美味しかったですわ。
…それにしても、どういう心境の変化ですか」
マックイーンがプリンをスプーンでつつきながら疑問を投げる
士「俺は決めた、お前のその名優の仮面を、破壊する」
マック「…は…?」
士「もう一度、お前の顔を写真に写す」
ピンボケしたマックイーンの写真がテーブルを滑る
マック「…これは…ひどい写真ですわね、でも……待って、これはレース中の私…?」
士「先ずは、菊花賞に勝つ、その為に食え」
マック「…話の流れが見えませんわ」
士「そのうちわかる、今は身体作りに必要な分だけ食え。」
マック「……ーーッ!…甘いですわ…!」
士「……」
士が拾い上げた、ピンボケしたマックイーンの写真が暗く染まる
士「……仮面は、邪魔か」