先生Memory! 作:未来景
最終編四章の内容が含まれています。ご注意ください。
窓の外に広がる空は、青い。
書類は積み上がる一方で、減る様子がない。
隣で静かに眠る生徒の寝息は、規則正しい。
あまりに変わりなく、気を抜けば過ぎ去る時に置いていかれそうな記憶を、私は忘れまいと心に決めた。
私は、このありふれた日常が愛おしかったに違いないから。
書類のチェックに飽き、耳を済ませたり。
言い訳をつけて休憩し、珈琲で喉を潤したり。
当番の生徒の行動を、意味もなく見つめていたり。
現実逃避を止め、仕方なく書類に手を伸ばしたり。
何気ない一時すらも、私にとっては奇跡に等しいものだったろうから。
『…』
椅子を下げ、脚を伸ばす。パキパキと数度鳴った脚は、若干の痺れを残しながらも言うことを聞き、私の目を窓辺へと運んでくれた。
道すがら、楽しげに談笑する
これでもかとバッグや、可愛くペイントした銃を振り回し。今にも舞い上がっていきそうな生徒たちの一人が、こちらの視線に気づいたようで顔を向けてくる。彼女を発端に、続々と不思議そうな表情でシャーレの窓に焦点を合わせた生徒たちは、次の瞬間。花よりも可憐な笑みを湛え、手を振ってくれた。
私は彼女たちに頷き、手を振り返す。
やがて建物の影に入り、姿が見えなくなるまで振り続け、役割を終えた手で、ズボンのポケットからあるものを取り出した。
『…』
ひどく焼き焦げ、すんでの所で原型を保っている、大人のカード。
明日を生きる糧とすら引き換えられない程に支払われた
使えば残った中身を得られると白髪の少女が言っていたが、私は使わず、壊れぬようケースに入れる事にした。
これは私のものではなく、私のもの。私の存在を示す、唯一の証拠物だから。
「…せーんせぇ?」
間延びした声で呼ばれ、カードを仕舞いつつ振り返る。
『起こしちゃったね。ごめん、ホシノ』
今にも閉じてしまいそうな、トロンとした瞳に私を映す桃髪の少女。ホシノはその言葉に反応せず、ため息をついた後、仕方ないなぁと言って両手を広げた。
『…』
「…先生。おじさん、ずっとこうしてるの、結構恥ずかしいんだけどなぁ」
沈黙し、じっと見つめていると、ホシノはそう喉を震わせ、手で早くと急かす。
私は、陽だまりみたいに暖かく、優しい彼女の気遣いをあえて無視して、脇の下に手を入れ、赤子をあやすように持ち上げた。
「…全くもう。せっかく、おじさんがハグしてあげようと思ったのに」
『私は大人だからね。このくらいでへこたれないよ」
「ほんとーに?」
『本当に』
「…本当に?」
『本当に』
心に問いかける風に、真摯な目を合わせてきたホシノと、少しの間見つめ合う。
顔のパーツがない為、嘘偽りない本音が伝わるか心配だったが、彼女はしっかりと分かってくれたようだ。なら、良いけどさ、とホシノは柔らかに微笑んだ。
『もうお昼だね、何処かに食べに行こうか。ホシノは、何が食べたい?』
「そういう先生こそ、食べたいものはないの?」
丁度十二時を知らせる時計の音が鳴ったので、そっと下ろしながらホシノに問いかけると、彼女は逆に問い返してきた。
これも、彼女なりの気遣いだろう。でも、私はそれに対する回答を持ち合わせている。
心の底から思う、ありのままの感情を発した。
『ホシノと一緒に食べられるのなら、私は何だって構わないよ』
「おじさんには甘すぎる台詞だねぇ…じゃあ、柴崎ラーメンにでも行く?」
『良いね。行こうか』
長い付き合いのホシノは軽く受け流し、いつもの案を出す。
私は首肯し、彼女が荷物を取ってくるのを待った。
『…誰かの犠牲の上に成り立つような、そんな奇跡のない世界は私が許さない』
二度仰いだ空は、地平線の彼方まで澄み渡っており、一片の曇りもない。
そんな空の下に築かれた世界は、どうだろうか?曇りがないとは言えない。嵐がないとも言えない。けれど…けれど。そこには、愛おしき生徒たちがいる。
『だから、そこに含まれない
私が守りたかった生徒たちが。私が全ての責任を負ってでも守りたかった生徒たちが。喜び、怒り、悲しみ、楽しみ、多様な色に心を染めて、この世界を生きている。
尋常ではない覚悟の末、私が私へ託した、たった一つの願い。
私はもう一度。確固たる意志を以て、それに
『…任せてください。生徒たちは必ず、私が守ります』
最終編クリアで貰える例のアイテムは、使用するを押すとその後確認なく青輝石に変わってしまうそうです。
一応、粉々になった大人のカードというアイテムが手に入るそうですが、元には戻らないみたいなので、ご注意ください。
石橋を叩きすぎる性格が功を奏した臆病者より