トップヒーローたちの登竜門とも呼ばれる雄英高校には数多くの演習場が存在している。
そのなかのひとつウソの災害や事故ルーム、通称『USJ』にいま、四人の生徒たちがいた。
「何度も二年生に負けるなんて俺はこの一年なにをやってたんだ・・・・・・もう、帰りたい」
「あーもう!また負けちゃったー!なんでなんで??ね?後ろに目が付いてるの!?いつも糸目なのに前も後ろも見えるのはなんで??」
この場で行われていたのは、雄英ビッグ4と呼ばれる実力者たちの戦闘訓練。
ブツブツと呟く根暗な男子生徒──天喰環と、マシンガンのように質問をする女子生徒──波動ねじれは、同じ相手によって敗北した。
雄英ビッグ4唯一の二年生にして、雄英始まって以来の天才と呼ばれる少年──市丸ギンによって。
「市丸くん!もう十分休んだよね!?次っていうか大トリは俺なんだよね!」
「ボクはいつでもエエよ。通形サン」
三年最強の男──通形ミリオが拳を構えると、市丸も短めの鉄パイプを前に構えた。
そしてどちらともなく動き出す。
そこに試合開始の合図なんてものはない。ヴィランとの戦闘はいつも唐突に始まるからだ。
静かで、それでいて激しい戦いが続き、十分以上の攻防の間で有効打となったのは、ただの一度だけだった。
「クソー!悔しいんだよね!!」
「ヒャー、やっぱ通形サンは強いなァ。けど、これでボクの五連勝や」
「でも勝ち越してるのは俺なんだよね!」
「アホ。最後に勝ったもん勝ちや」
先ほどまでプロヒーローも顔負けの戦闘を見せていたとは思えない学生らしい口喧嘩に、見届け人をしていた教師は思わず吹き出して笑った。
「プッ!いやあ、お前ら相変わらずだなあ!」
ボイスヒーロー『プレゼント・マイク』。
雄英教師陣でも上位に入るプロヒーローだ。
「どうせやったら山田センセもやりません?」
「フム。それはイイね!やりましょうプレゼント・マイク!」
「いやいや、それは勘弁。教師が生徒に負けるなんてなったら立ち直れねぇモン」
プレゼント・マイクは全力で首を振り、二人の誘いを断る。自信がないと言うわけではないが、絶対に勝てると言いきれるほどの実力差もなかったからだ。
事実、市丸は去年の職場体験で非公式ながらプロヒーローを倒したという。通形も、同僚曰く「ナンバーワンに最も近い男」らしい。
そんな二人を相手にしては、午後からの授業に差し支える、というのがプレゼント・マイクの合理的判断だった。
「しゃアないなあ。それやったら今日は終いや」
「俺たちはもう少しやっていくんだよね!」
「市丸くん、またねー!!」
「次はもう少し粘れるように頑張るよ・・・」
三者三様に見送られ市丸は『USJ』を後にする。
そして周りに人が居ないことを確認すると、フゥ、と小さく息を吐いた。
「市丸さんムーブも楽じゃねえな」
その声は誰にも届くことなく、ただ虚空へと消えていった。
▌▌▌▌▌
市丸ギンが、才能に目覚めたのは彼が十歳の頃だった。それまで彼の個性『伸縮』は触れた物をほんの少し伸び縮みさせられるだけの、いわゆる没個性というのが個性を診断した病院の見解だった。
「戦闘には向かない」「ヒーローは諦めろ」
周りの大人や同級生から言われ続けた言葉だ。
しかし、市丸が諦めることはなかった。
「名前が『市丸ギン』で個性が『伸縮』。そして前世の記憶持ちなのに、ヒーローになれないわけがないだろ!!」
というのが市丸の理屈だった。
そう。市丸は前世の記憶を持っていたのだ。そして『市丸ギン』という名前にも『伸縮』という個性にも聞き覚えがあった。
「絶対BLEACHじゃん!てかなんで『ヒロアカ』だよ!オレほとんど読んでねえし!!決めた!オレ、いやボクは市丸さんムーブで原作ぶっ潰してやる!!」
そんな執念にも似た意気込みが、市丸の個性を大きく進化させる。少しずつ伸ばせる距離が長くなって伸縮する速度もそれに比例していったのだ。
そして市丸が雄英を受験する頃、『伸縮』距離は100メートルに『伸縮』速度は優に音速を超えていた。
その後、無事ヒーロー科に入学したは良いものの、なぜかクラスメイトが次々に除籍され、担任であるイレイザーヘッドこと相澤消太とのマンツーマン授業によって個性は更なる進化を遂げる。
いつしか雄英ビッグ4などと呼ばれるようにもなり、教師たちにも負けないほどの実力者となった。
これはそんな市丸の意外と原作通りに進む物語だ。