──体育館
そこは、多数の障害物が設置された最も実践に近い体育館だ。
体操着に着替え、それぞれが準備運動をはじめる中、市丸はボケっとその姿を眺めている。
「相澤センセ、ハンデはどないします?」
「市丸ひとり対全員だ」
「「「えっ!?」」」
その言葉に1年A組の生徒たちが驚愕するが、ビッグ4の面々は「なにを当たり前なことを」と言いたげに首を傾げた。
はじめからそのつもりだったようだ。
「ほかにないんやったら、この場から一歩も動かん言うんでどうやろか?」
不敵に笑って見せる市丸に相澤も面白そうに笑う。しかし、生徒たちは面白くないようだ。
「そんなこと言ってていいんスか?」
「先輩といえど、侮辱は断固許せません!」
「なら、早速はじめよか。入学試験、覚えてるよね?」
市丸が暗に言ったのは、「実践じゃカウントなんかない」というプレゼント・マイクの言葉だった。
それを即座に理解した数人が市丸のもとへ走り出す。遅れてさらに数人。残りは中距離、遠距離から攻撃しようとそれぞれ構えを見せた。
が、
「遅いわ」
接近戦を得意とする数人が一瞬で崩れ落ちる。
「「え?」」
市丸を見るとその手には30センチほどの鉄パイプが握られていたが、どう考えても崩れ落ちたのは間合いの外だった。
「いったい何が・・・」
「もう忘れたんか?ボクの個性は『伸縮』で触ったもんはよう伸びる」
サイドテールの女子──八百万百の驚愕に答えるようにそう言うと、市丸は鉄パイプをゆっくりと伸ばして見せた。
「世の中じゃあ没個性てよう言われるけど、どんな個性も使い方次第や。オモロいやろ?」
「お前ら、いい機会だ。しっかり揉んでもらえ!言い忘れていたが、そいつ市丸ギンと通形ミリオは、俺の知る限り最もナンバーワンに近い男たちだ」
その言葉に数人が市丸から相澤へと視線を移す。
それを見過ごしてあげるほど、市丸ギンという人間は優しくなかった。
「「ぐはっ、」」
そして相澤はこう続けた「プロも含めて」と。
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その後の訓練は作業のように進んで行った。
近付けば鉄パイプで叩かれ、中・遠距離も鉄パイプを伸ばして叩かれる。
しかも、驚くべきはそのスピードだ。
「くっ!あんなの勝てねーよ」
「構える前にやられてしまった・・・」
「俺、腹をド突かれたんだけど正面から見るとマジで弾丸だったよ」
やられ方は皆おなじ、だが、誰ひとり攻略出来ずにいる。
残るは三名。障害物に潜み隙を伺う緑谷出久と耳郎響香、それと初めからビビって隠れていた峰田実だけになった。
「隙を窺うてるみたいやけど、ボク一歩も動かんねで?そろそろ何かしらのアクションを見せて欲しいんやけど・・・」
そう言ってみるも、三人からは返事すらなかった。
「そうやね。何かやろ思てるみたいやし、待ってあげよか。その間にインターンで学んだことでも話そう思うから、隠れとる三人もよう聞いといて」
市丸はそう言うと、リタイア組の方へと振り返る。
「ボクは入学した時から強かったんやけど、インターンに行ってさらに強うなった。ボクが行ったんはエッジショットいう人のところでね、その人は自分のことを忍者やて自称する変わり者やったわ」
忍者ヒーロー『エッジショット』。
当時ビルボードチャート第五位(現在四位)に位置する紛れもないトップヒーローだ。
「その事務所でボクは『気配』言うのを学んだ。『殺気』や『悪意』、『強い気』から『弱い気』まで色々や。インターンではボクらは
市丸は念の為、通形たち三年の方も見るが、ウンウンと頷くだけで、特に言いたいことはないらしい。
それを確認した市丸は、
「そういう一線級の『緊張』と『経験』が得られるのがインターンいうところなわけや」
と、話をまとめた。
先ほどまで真面目に聞いていた生徒たちが立ち上がって拍手する。思いのほか心に響いたのだろう、なかには『尊敬』の視線もチラホラあったのを市丸は『気配』で知った。
そんななか、隠れていた三人が動く。
拍手の音に紛れて接近した緑谷出久は背後から市丸の頭を蹴りつける。
耳郎響香は、指向性のスピーカーを手に遠距離から音響攻撃。
峰田実は、いまにも泣き出しそうな顔で無差別に粘着性のボールを投げる。
「君らボクの話聞いてなかったやろ?」
静かにそう呟くと、市丸は緑谷の足を掴み、耳郎へと鉄パイプを伸ばし、峰田の元へ緑谷を投げ飛ばした。
「『気配』でバレバレや」
緑谷と峰田は戦闘不能、寸止めされた耳郎も「降参」とアピールした。
個性を活かす新たな武器。
インターンで手にするそれを生徒たちにまじまじと見せつけ、戦闘訓練は終了したのだった。