本来の世界線と数多くの違いがあるものの、やはりニニャの姉の名前がツアーレニーニャ・ヴァイシオンだとというのは実に些細なことであろう。
私と、ツアーレお姉ちゃんと、モモンさんの旅は実にいろいろなことがあった。ようやく大きな街に着いた時、リ・エスティーゼ王国の王都とは比べ物にならない活気にとても驚いた。
「ここがアーグランド評議国なんですね!モモンさん!」
「え?えぇ、きっとそうですとも」
うん?きっと?
「違うよ。」
お姉ちゃんは違うと言い切ったけど…
「アーグランド評議国は王国の北東、僕達は西に向かって歩いていたからね。ここはバハルス帝国だと思うよ。少なくともアーグランド評議国では無いことだけは確かだ。」
「…え?もしかしてモモンさん、道に…?」
「…そうですとも、私は、方向音痴ですとも…」
モモンさんは四つん這いになり、わなわなと震えている。お姉ちゃんのは話だとまるっきり逆方向に来てしまったわけだ。
「というかなんでお姉ちゃんもわかってて何も言わなかったの!?」
そう、問題はそこだ。姉の口振りではしっかり目的地の方角と現在の進行方向を理解している様だった。道が間違ってるならただしてくれればいいのに
「いやぁ、すまないね。てっきりこちらに用があるのかと。それに海外旅行という目的自体は果たせてるわけだしね」
お姉ちゃんはたまにこうだ。事なかれ主義というか、問題が起きない限り何もしないというか。まぁ、来てしまったものは仕方がないだろう。
「あなた、私とそんなに歳が変わらないのに第三位階が使えるなんて、努力したのね」
「えっ?」
突然声をかけられて振り返ると、金髪の可愛らしい女の子が立っていた。
「どうしたんですかアルシェ?その方達はお知り合いですか?」
「ううん、違うのロバー。この子も第三位階が使える様だったからつい」
女の子はアルシェ言うらしい。近くにいるガタイのいい男の人を見ると、かつての仲間…ダインを思い出してしまう。しかし二人とも冒険者かと思えばプレートがない。まぁ、帝国は王国よりマジックキャスターの地位が高いと言うし、そう言う仕事についているのかもしれない。男の人も神官っぽい風貌だ。
「見たところあなた方は冒険者の様ですね。帝国では珍しいですね」
「珍しい?」
「えぇ、帝国では我々の様なワーカーが冒険者の仕事を…まぁ、横取りしているので冒険者への依頼はあまりないんですよ」
彼らはワーカーという仕事らしい。
「ワーカー、聞いた事があるよ。報酬次第で後ろめたいこともやる…組合を介さない冒険者の様な存在だね。」
ツアーレお姉ちゃんは物知りだ。
「えぇ、そちらのお嬢さんの言う通り…我々は報酬次第で後ろめたいことにも手を染める冒険者崩れです。ですが、人々を癒すのに誰かの許しを得なければならないような生き方は御免ですのでこれでも満足しているのですよ。」
「わかりますとも。人を助けるのに誰かの許可など必要ないですとも」
「おお、わかっていただけますか。申し遅れました。私はロバーテイク。アルシェと同じワーカーチーム、ファーサイトの一人です。立ち話もなんですし、少し店で話をしませんか?」
「いいですとも」
私たちはロバーテイクさんの案内でとあるお店に入った。
「ようロバー、アルシェ、遅かったなって…その人たちは誰だ?」
「彼らは王国から帝国の観光に来た冒険者の方々ですよ」
「このニニャは私と同じ第三位階の使い手。」
「へぇー!アルシェと同じくらいなのに凄い。」
ロバーテイクさんから紹介を受け、双剣の使い手ヘッケランと弓矢使いのイミーナさんと知り合った。戦士、弓矢使い、神官、マジックキャスター…どことなく漆黒の剣を思い出してしまい、少し涙が出てしまった。
「どうしたのニニャ。何か気に障ることでも…」
アルシェが心配してくれるが私は首を振る。
「少し昔の仲間を思い出してしまって。」
そこから不思議とポツリポツリと言葉が出てくる。姉を貴族に攫われ、冒険者になった。冒険者の仲間達はみんな殺されてしまった。モモンさんに助けられ、たまたま向かった先で姉と再会する事ができたこと
「そうだったの。辛かったわね、ニニャちゃん」
「お姉さんと再会できたことは喜ばしいですが、その貴族達は許せませんね」
フォーサイトのみんなは私に優しい言葉をかけてくれた。私のせいでしんみりしてしまったお店に、突如男の人が駆け込んできた。
「大変だぜアルシェちゃん!あんたんとこのお屋敷が!」
「!」
「クーデリカ…ウレイリカ…嘘…」
駆け出したアルシェの背を追い向かった先、へたり込むアルシェの視線の先の家は今も激しく燃えていた。アルシェが急に立ち上がったと思うと屋敷に駆け出していくのをロバーテイクさんと共に押さえつける。
「離して!まだ!まだ妹たちが!」
「流石に無理ですよ!あんなに激しく燃えてたら!」
我ながら非情なことを言っているのはわかる。けれど仕方がないじゃないか…こんな激しく燃える屋敷の中からいるかもわからない子供たちを救い出すだなんて…
「じゃあ!じゃあ誰か妹達を助けてよ!誰か!」
「良いですとも。私がいきましょう。」
そう言って駆けていったのはモモンさんだ。いくらなんでも無茶だと思う反面、もしかしたらモモンさんならと言う気持ちもある。
「ふんふんふんふんふんふん!」
モモンさんがバスターソードを両手に持ち、回転させながら進んでいく。燃える屋敷を粉々にしながら突き進み、やがてモモンさんは両脇に何かを抱えて出てきた。
「二人ともご無事ですとも。気は失ってますがね」
「ありがとうございます…ありがとうございます…!」
アルシェは泣きながら何度もモモンさんにお礼を言っていた。やっぱりモモンさんは凄い人だ。
火事騒ぎの次の日のこと、火事の原因は放火だったらしい。借金だらけでろくに賃金を払わないことに腹を立てた使用人がやったとのことだ。調べではアルシェの両親は包丁で刺し殺されていたとか。そして不幸とは度重なるもの。改めての感謝を伝える為にアルシェの妹達を連れてモモンさんを訪れていたアルシェを夜道だからと送っていったモモンさんは暫くするとアルシェ達を連れたまま帰ってきた。
「私はもう、この町では暮らしていけない。」
アルシェ曰く、借金まみれだったアルシェの家はとっくの昔に屋敷自体も財産として押さえられてたらしい。それを毎月決められたお金を払っていたらしく、父には「家族が住むにふさわしい家を維持するための維持費です」と伝えていたそうだ。そしてそんな人の資産になっていた家を焼失させてしまった。今ある借金に屋敷のお値段が上乗せされ、さらには利子だ。どんなに苦労しても払い切れるはずがない。そして宿を襲われたそうだ。仲間達は殺され、身包みを剥がされ、金も取られていたらしい。帰り道アルシェを狙って襲ってきた輩が50人ほどいたらしいが全てモモンさんが返り討ちにしたとか。
「お願いする、モモン殿。私と妹達を連れて行ってはくれないだろうか。私たちには帰る家もない、頼れる仲間も居ない。この通りだ」
頭を下げるアルシェをモモンさんは優しく起こした。モモンさんは私の方を見たので、小さく頷くと、モモンさんも頷き返してくれた。
「頼れる仲間がいないなんて寂しいこと言わないでください!私たちはもう仲間です!ですよね?モモンさん!」
「そうですとも、それに旅の仲間は多い方が楽しいですからね」
こうして、私、お姉ちゃん、モモンさんの旅にはアルシェ、クーデリカちゃん、ウレイリカちゃんが加わった。
「しかしよかったのかい?この姿の私もだが幼子達も非戦闘員だ。旅は危険だと思うけどね」
「きっとどこかに定住すれば追手が来ます。ツアーレさんみたいに誘拐されて…その、無理やり働かされるくらいなら…」
「…そうかい。意志は固そうだね。ならばアーグランド評議国に来ると良い。あそこならば不埒な輩に手を出させないと約束しよう」
またお姉ちゃんの妄想が始まったらしい。でも、確かに人間種でないものが統治する国にまで追ってくる輩などそうそう居ないだろう。元々私たちの旅の目的地もアーグランド評議国なのだから問題もない。
こうして私達はアーグランド評議国への旅を再会した。とは言え一先ずは王都に立ち寄ることになっている。理由としては懐事情と食料の兼ね合いだ。流石に帝国から直接評議国に食料補給もせずに向かえるはずが無い。喜ぶ双子姉妹を両肩に乗せたモモンさんの頼れる背中を追いながら…たまに姉から方向が違うと注意されるところはお茶目だ…僕達は王国の王都に向かっていた。すると場所が後ろからかけてきて私たちの前で止まり、中から刀を持った男が降りてきた。
「あなた方ですね?支払うべき金も支払わず帝国を去ろうとしている極悪人というのは」
「違いますとも。」
モモンさんは双子姉妹を降ろし、アルシェに預けていた。モモンさんは戦うつもりらしい。
「モモンさん!私とアルシェで3人を守るから背中は気にせず戦って!」
「それは頼もしいですとも。降りかかる火の粉は払わなければいけませんからね」
モモンさんがバスターソードを抜き、構える。
「あなたの様なトロい重戦士と小娘二人を相手するだけで金が手に入るとは楽な仕事だ。おいお前ら!強化魔法をよこせ!」
刀を持った男は後ろの女性達を怒鳴り付け、更には引っ叩いている様に見えた。そしてみるみるうちに強化魔法が付与されて行っている。こちらも対抗しないと。
「モモンさん!受け取ってください、レッサーストレングス!」
「私も、リーンフォースアーマー!」
「お二人とも、嬉しいですとも。これで負けるわけにはいかなくなりましたね」
刀を持った男は既に駆け出し、こちらを振り返っているモモンさんに対し、刀を振り下ろさんとしていた。
「死ねぇ!」
「それは無理ですとも。」
モモンさんは刀を指の二本で止めると空いた腕で男の腹を殴った。更に刀を持つ腕を握り締め、ぎりぎりと力を加えていく
「なっ!?何だお前!馬鹿な!!私の腕が!!」
モモンさんが刀から指を離すと未だに刀を握っている腕に手刀を加えていく。
「これは!あなたの!悪い腕への!罰ですとも!!」
だん!だん!だん!とテンポ良く手刀を叩き込まれ、みるみるうちに腫れあがっていく。とうとう刀を離した男に対し、モモンさんは刀を拾い上げる
「返…せ!俺の、刀だ!」
「わかりましたとも」
モモンさんは刀を振り下ろし、男の腕をバサリと切り落とした。
「うがぁぁぁぁ!!!腕が!おい!早く回復をよこせ!何してる!」
女性達に魔法を唱える気配はなかった。
モモンさんがもう一つの腕も刀で切り落とし、私たちはその場を後にした。
「ねぇ〜!何も見えない!」
「私も見えない!」
彼らが乗ってきた馬者だが、どうやら御者はとっくに逃げたらしい。刀の男が連れてきていた女の人の一人が御者ができると言ったのでお任せし、私たちは馬車で王都へと向かった。因みに、彼女達がエルフで耳が切られていることに気づいたアルシェが、生前のイミーナがエルフの奴隷について胸を痛めていたことを思い出し、それをモモンさんに伝えたところ、手持ちのアイテムを使ったことで切り落とされたはずの耳はすっかり元通りになり、そのまま彼女達も私たちの旅に同行することとなった。たまたま手に入れた馬車もありがたく頂戴して私たちは旅を続けることにした。
え?刀の男はどうしたって?今頃スケルトン達と仲良くしてるんじゃないかな。
アルシェが私に自分のタレントと最近のマジックキャスターとしての成長限界を相談してきたので、私はモモンさんに相談した。暫く、夜な夜な少し離れたところでフライを使いながら魔法を使う鍛錬をしているアルシェを見た。それに負けられないと私も魔法の修行を始め、馬車での移動時にはモモンさんから魔法について教わろうと話を聞いている。魔法が使えないモモンさんだけれど、どんな魔法をどんな時に使えれば効果的かと言うことや、魔法三重化などの概念を教わりとても為になる。とくに伸び悩んでいたアルシェは魔法の二重・三重化とフライと同時の魔法使用について特に力を入れているらしい。
こうして、私と、ツアーレお姉ちゃんと、モモンさんと、アルシェ、クーデリカちゃん、ウレイリカちゃん、の6人にエルフの3人…レンジャーのレイ、ドルイドのルイ、神官のプリスを合わせての計9人で仲良く旅をした。失った何かを取り戻すための悲しい旅は終わりだ。これからはもっと楽しい旅をしよう。きっと…
…ちょっと人多すぎない?しかも女の子ばっかだし。
「ははは、これは"はーれむ"と言うやつなのかな」
「ち、違いますとも」
-私の姉はツアーレニーニャ 第二期 完-
我ながらまさか続きを書く事になるとは。
そして続きません。