異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
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Ancestral Loyality 異世界のウマ娘
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飛行機からターミナルまでのスロープの途中、わずかに漂ってきた乾いた砂まじりの風。
これがカリフォルニアの匂いなのだとサイレンススズカは記憶した。
しかし、この記憶を長居させる必要はなかった。ここは日本からアメリカに渡る際にとりあえず到着する通り道でしかないからだ。
広大な国際空港で、小さなリュックサックを背負うスズカはわずかな時間だが、孤独を感じた。羽田空港も大きいと思ったが、ここは比較にもならない。
――ここには私を知っている人はいない。
日本ではトレセン学園のある府中から出ていくと、すぐに誰かに見つかってしまうが、ターミナルを行き交う人々はサイレンススズカという名前も知らないようだ。
ここは、アメリカ。そして一年間、スズカが過ごす国。
「ス~ズカ~!」
「――! タイキ……!」
間延びした陽気な声の方を見ると、そこにはタイキシャトルの姿があった――と、思っているのも束の間、あっという間に駆け寄ってきた帰省中のアメリカン・ウマ娘はスズカの華奢な体を思いっきりハグした。
「ハウディ~! スズカ~! ハッピーシーユー! ウェルカムマイステイ~ツ!」
「タ、タイキ……くるしい……」
「オゥ! ソーリー、スズカ!」
タイキシャトルがパッと離れる。彼女は去年、休養の為にアメリカに帰ってきていたのだった。
「デモ、来てくれてウレシイデス! 迷子にならなかったデスカ!?」
「ええ、だいじょうぶよ。みんな空港まで来てくれたし」
「ソウデシタ! エアグルーヴからメッセージ来てマシタ! イエスタデイにいま、ヒコウキが出た、サッキもうついたかって!」
「ほんとね、私にも来てたわ」
「エアグルーヴ、ベリーベリーウオーリーネ! ワタシとスズカはバッチグー!」と、マルゼンスキーの真似をする。エアグルーヴが見ていれば「そういうところだ」とため息をついていたであろう。
お互いのスマホに届いているメッセージを見せ合っていると、もうひとりウマ娘がこちらに近づいてくる。
「シャトル、見つけたよ。そちらがサイレンススズカだね」
「ワォ! ブリザード!」
タイキシャトルより頭半分大きい黒鹿毛のウマ娘――タイキブリザードだった。
かつて日本に留学して安田記念と大阪杯を制したタイキファームの出世頭である。彼女が「故郷には私より速いウマ娘がいる」と発言したことがきっかけでリギルの東条トレーナーが渡米してタイキシャトルをスカウトし、後のエルコンドルパサー、グラスワンダー来日につながる。
「スズカ、紹介シマス! ワタシのファームのビッグシスター、タイキブリザードデス!」
「よろしくね。アメリカにいる間は私がサポートするよ」
「よ、よろしくお願いします」
穏やかな物腰だが、180を超す身長と怜悧な顔つきに物怖じしてしまう。エアグルーヴとヒシアマゾンが融合したような存在感だ。
「ここはもうアメリカだけど、私たちのファームのケンタッキー州まではまだ遠い。オーシャンブルーの代わりにグレートプレーンズがあるからね」
そう言ってスズカの荷物を預かり、次の飛行機を待つロビーへ向かう。
スズカがアメリカ滞在中に暮らすことになるタイキファームは名前のとおりタイキシャトルの故郷である。昭和後期から日本となじみが深く、タイキという冠名のウマ娘が多く生まれた為、この地名に変わった。あくまでも地名であり、この地域にあるいくつかのファームの名前はそれぞれに違う。
たとえばタイキシャトルはハリーズタイキファームの出身だが、ブリザードはブラッドストックファームの出身になる。
「ワタシたち、生まれたオウチはチガエド、死ストキはオナジヒオナジトキオナジファミリー! ミンナワタシのファミリーデース! ファミリー、たくさんたくさんイマース!」
この話を渡米前に聞いた時、思わずスズカは、
「どうしよう、タイキみたいな子がたくさんいたら……」と、不安になったものだが、すくなくともタイキブリザードは落ち着いた性格のようだ。
並んで歩きながらタイキシャトルはうんうん頭を捻る。
「スズカはこれからアメリカ。バット、ワタシは日本にバッタ帰りデス……」
「とんぼ帰りね……それに、そもそも意味が違うのよ」
「オゥ! ソーデシタ! デモデモ、チョットだけなら一緒にいられマス! スズカが来たから今日はパーティーデース!」
「やっぱりパーティーするのね……ふふっ」
「ホワッツ! スズカ、笑ってマス」
「えっ? だって、タイキといえばパーティーでしょ?」
「ノー、スズカはパーティーの時、最初だけチョット困リマス。デモ、イッショにいると楽しんでくれマス。デモデモ、今日は最初から笑ってマス!」
「そ、そうかしら……」
「ハイ! スズカ、スマイル多くなりました!」
そう言われるととても恥ずかしい。
「そうかもしれないわね、ふふ」
恥ずかしいが、この胸の奥が満たされる感覚はとても心地よい。およそ一年の空虚な時間の穴には、まだまだたくさんの想いが注がれて少しも減ることがない。
(私、本当にアメリカに来たのね。ずっと前までは日本どころか学園を出ることさえ考えていなかったのに)
走れる場所ならどこでもいい――そう思っていたサイレンススズカは今、知らない場所を走りたいという目標を手に入れていた。
そして、その目標を叶える為に、今度はケンタッキー州行きの飛行機に乗っていった。
アメリカ合衆国ケンタッキー州。
そこは、アメリカのウマ娘の聖地である。
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