異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】   作:もっそ

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異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~ 3
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 アメリカに来てからもう一週間が経った。

 新しいライフサイクルはスズカを戸惑わせることばかりだったが、日本にはないウマ娘の為の環境があった。

 

 まず、スズカの――というより、タイキファームの一日は牧場を中心に営まれている。

 

 タイキシャトルが日本へと旅立った夜は、初めてのアメリカの静かな夜だった。

 ふと、外へ出てみれば満天の星空で、どこまでも駆け抜けていきたくなると同時に底知れぬアメリカの膨大さに立ちすくんでしまった。

 

 トウカイテイオーが語ったアメリカのいくつかの怪談を思い出して、スズカはすぐに部屋に戻った。

 

 明けて、三月の終わりが近づくと、スズカの生活は本格的にアメリカに組み込まれていった。

 

 まず、朝の四時には起きる。これは日本から変わらぬ習慣だが、その時間にはもうタイキファームも目を覚ましている。

 

「おはようございます」

 

「おや、おはよう」

 

 リビング・ダイニングにまずタイキシャーロックがいて、さらにタイキブリザードと彼女の両親と、レイチェルがいる。

 最初の朝食はミルクをたっぷりかけたシリアルとハムソーセージだけ。これをさっと食べてしまうと家の人たちはすぐに牧場へ出かける。スズカとシャーロックはランニングへと行く。

 

 もう走りなれたキーンランドレース場への国道を往復すると、ちょうど一時間程度だ。

 戻ってくると、牛や山羊たちが小屋から外に出されていて、一頭ずつミルクを搾る順番を待っている。

 スズカとシャーロックも作業の手伝いをする。当たり前だが、シャーロックもジャージ姿で、お互い麦わら帽子をかぶっている。通常のヒトよりも自然の動物に近いウマ娘は大地に根付いた職業・生活をするほうが精神的にも安定するといわれており、トレセン学園に通うウマ娘の授業には酪農作業も必修科目となっている。

 

「この子たちも難儀なものだねえ。我々の都合で必要もないのに乳搾りをされないと逆に落ち着かないっていうんだから」

 

 皮肉めいたことを言いながらもミルクを搾るシャーロックの表情は実にほのぼのとしている。

 

 牛たちを放牧に出して小屋の掃除をすると、汗だくになった体を一度シャワーで流して二回目の朝食になる。

 一回目の朝食で食べたものに自家製のパン、スクランブルエッグ、ベイクトビーンズを加えたものになり、二回目の朝食にはタイキトレジャーたちタイキファームに暮らす人たちが集まってきてバイキング形式に近い形で食べる。

 

 先日のタイキシャトルとのマッチレースが話題になっているのか、オレンジのジャージを着たタイキトレジャーがまとわりついてくる。

 

「スズカ! ラセンガン! ラセンガンできるか!?」

 

「ええと……」

 

 あっという間に時間が過ぎて、九時になるとトレジャーたち学生はスクールに登校していく。

 

 スズカたちは今度はトウモロコシ畑の手伝いをする。これはタイキファームから北東へ数十分走ったところにある100エーカー(400平方キロ)もの畑で、これもタイキファームが所有している分だけで、それ以外の畑も含めればそれこそ「地平線の果てまで」と表現できそうなくらいずらっと畑が並んでいる。

 

 春先は作付け期で、今日は種まき前に土を掘り起こす。

 幅十メートルにもなる耕運機を取り付けた車が畑を縦横無尽にめくり上げていく。スズカたちは耕運機に先行して機械で掘り出せない大きな石をスコップで掘り出していく。

 

「トレセン学園でもやってたけど、こんなにたくさんはやらないわね……」

 

「そうだろうね。だが、これがボクたちの本来の生き方だとも実感するよ」

 

 何トンもの石を積める大きなリヤカーを引くシャーロック。スズカたちが石を拾った場所を耕運機が掘り起こしていく。

 さらに向こうの畑ではリヤカーいっぱいに飼料を積んだレイチェルが歩いている。

 

 日差しを遮るものが一面なにもない畑で、太陽が照り付けてくる。空気は涼しいが、麦わら帽子がなければとっくに熱中症になっていただろう。

 

 休憩を挟んでおよそ二時間、畑の上で歩き通してようやく1エーカーといったところで作業を終えた。

 午後はパカパカレーシングクラブへ行くことになっている。

 

「アメリカでダート競争が重要視される理由がわかる気がするよ」

 

 すっかりペアの行動になっているシャーロックが笑いながら言う。

 

「それこそ昔はトラクターなんてなかったからね。大規模農業に必要なのはとにかくマンパワーだ」

 

「あんな大きな機械、小学校の社会科見学で見た以来だわ」

 

「ウマ娘ひとりいればあのトラクターの代わりになる。江戸時代ではウマ娘が生まれれば大名が年貢を免除して借り上げるというが、隠して育てたほうが割りがいいというので、お上に隠したそうだ」

 

「スペちゃんみたいな子が生まれたら大変そうね」

 

「どうも昔のウマ娘は今ほど食べなくてもよかったらしい。まあ、松風のような規格外となれば話は別だが、そういう時でも隠していた村は正直に大名に話すのかねえ」

 

 シャーロックの哲学めいたぼやきにスズカは時折り答えることができなかった。

 

 

このお話を楽しみにしてくれますか?

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  • とてもします
  • 日本のウマ娘を出してほしい
  • アメリカの名バを知りたい
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