異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
クラブでもやることは同じだった。昼過ぎにスクールからウマ娘がやってくる為、クラブのコースや道具の整備を手伝った。
念のために言っておくと、ファームもクラブも人手不足ということではない。不思議と一緒にやるということが決まっているのだ。スズカとしてはシャーロックがこういうことを積極的に手伝っている方が驚きであった。
「お世話になっているのだから、こちらも何らかの手伝いをしなければ気に病むんだよ。その点でアメリカはビジネスライク的な考えで日本より厳しい。おまえ、何で働かないんだという感じでね」
一時を過ぎるとシャワーを浴びてランチをとる。
食堂は開いたばかりで食べ放題だが、当然メニューは日本とは全然違う。メインはやはりパンとステーキ。チキン、ベイクドビーンズ、ヨーグルト、チョコレート、そして自分で材料を選んでつくるハンバーガー、フライドポテトも舟型、短冊型、サイコロ型とあり、それらにかけるソースが無数にある。
「ええっと……」
慣れないメニューに戸惑うスズカに、シャーロックが端のほうを指差した。
「あそこの炊飯器に普通のごはんが入っている。インスタントだが味噌汁もあるし、冷蔵庫には日本の冷凍食品が入ってる」
「ひょっとして、私の為……?」
「違う違う。言っただろう。ここは日本となじみが深い」
意外と自意識過剰だねと言われてスズカは赤面した。
日本から来る人、日本へ行く人、どちらにせよ日本食はいつでもブームになっている。
「まあ、なるべくこちらの食に合わせたほうがいいのは確かだね。本番のレースはニューヨークに行くんだから」
「そうね……ううん、でも……」
数えてみれば、もう三、四日もパンやステーキを食べ続けている。そんな状態で炊き立ての白いごはんを見せられては、しかたない。
「スペちゃんみたい……」
めずらしく大盛りの量をよそって、おかずには出来立てのステーキオブスペシャルキャロットをもらった。
対面にフィッシュフライとフライドポテトをバスケットに重ねたシャーロックが座り、塩とオリーブオイルをふりかけながら訊ねる。
「それで、最初のレースは決まったのかい」
「ええ、来週すぐに」
「ずいぶん早いね」
「四月からG1レースがあるからって」
「ああ、ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーだね。プロモーションとしては良い舞台だ」
シャーロックがうなずきながらフィッシュアンドチップスをつまむ。
ロード・トゥ・ザ・ケンタッキーはジュニア級九月から始まるレースシリーズだ。
対象のレースは三十にも及び、上位入着で得たポイントの合計でダービーとオークスの優先出走権が得られる。
ダービー&オークスの開催週はケンタッキー州では最大の祭典でもあり、開催地であるチャーチルダウンズレース場には及ばないものの同じ州内としてキーンランドレース場も一ヶ月前から毎週のようにG1レースが開催される。
スズカが走るのはその一番最初の開催、ケンタッキー・オークスの前哨戦にあたるアッシュランドステークスの日になる。
当然だが、出走するレースはG1ではなく、リステッド競走というものになる。
「日本のオープンレースみたいなものだって聞いたけど、よくわからないわ」
「ああ、本当にその通りだよ。そもそもを言えば中央ですべてにナントカ記念だのつけてオープン競走って言っている日本のほうが珍しいんだ。単純に未勝利の上がアローワンス(一般競争)、その中で賞金が少し高いのがリステッドでいい。日本だとオープンとG3の間にリステッドを設けるとか話しているが、まあ、賞金が四〇〇万ほど上がって皐月賞に出やすくなるってだけの話だ」
「トレジャーが言っていたクレーミングは……?」
「クレーミングは今言った話とはまた隣りのラインになる話だと思っていい。あえて言えばアローワンスだ。ここから正式なクラブかトレーナーと契約を結んでリステッドレースに出る為の登録をする。あるいは一生をクレーミングのままで走り続けて成功する者もいる。どちらにせよアローワンスにはリステッドを目指す者もクレーミングで走る者も混じり合う」
本当にレースに出走する仕組みひとつをとっても日本とはまるで違う。渡米前の話によると、そのあたりのことはすべてクラブがやってくれると聞いていたが、逆に自分ひとりではなにもできない気がする。
「うーむ、それも少し違うなぁ……それこそクレーミングならレース当日にサインひとつで出走できる。身一つというわけにはいかないが、ふらりとレース場にやってきて、その場で契約を結んで、レースに勝ってまたどこかに行ってしまう。そんなウマ娘だっているわけだ」
「すごいわ……映画みたい」
「ブランケットガールと呼ばれていてね、文字通りブランケットひとつ持って放浪している。まあ、正体は密入国者だったりするんだけどね」
「そ、そうなの……?」
「ブランケットひとつというのも古き良き時代の話で、今ならスマホとかいろいろ持っているだろう。まあ、そういうところもアメリカという国さ」
ランチを終えると、二人はジャージに着かえてコースに出た。
既に何人かのウマ娘が来ており、ウオーミングアップをしていた。
「そういえば、シャーロックはずっとこっちにいるの?」
「五月には帰国して、かしわ記念に出走する予定だ。まあ四月中はこちらにいるよ」
もしかして――と、スズカは思った。
もしもシャーロックがいなければ、スズカはひとりでレーシングクラブに入ることになる。
臨時のコーチとしてはタイキブリザードがいてサポートしてくれる予定だが、つい先日にタイキシャトルの帯同をしてファームから離れていった。また同じようなことがあった時、やはりスズカはひとりで過ごすことになっただろう。
もしかしたらシャーロックは、自分がひとりにならないようにしてくれているのだろうか――しかし、訊いたところで彼女は答えないだろうと思い、黙々とストレッチを続けた。
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