異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
ファンファーレが鳴り響く。
オプショナルクレーミング・アローワンス・リステッド
キーンランドレース場 芝1・1/8マイル(1800メートル)
天気はレース日和の晴れ。しかしスズカにとっては久しぶりの真昼のレースで、じりじりと頭が熱い。
出走数も6頭立てとなり、スズカは大外6番だが、あまり関係ない。
『各ウマ娘、ゲートイン完了。位置について――』
<ガシャコン>
『スタート!』
イメージ通りのスタートができた。
三歩目にはもう先頭に立っている。
しかし内に入ろうとすると、そのラインにいたウマ娘たちが気張って前に出てくる。
(おかしいわね。この5番の子は後方にいくはずだけど……)
スズカも一応、出走する相手のウマ娘のことは頭に入れている。必死な表情がちらりにスズカのほうを見た。
(やっぱりマークされてるのね)
「前へ、前へ」と押し出されるアメリカのレースだが、さらにサイレンススズカが大逃げのウマ娘と知っているならば、その作戦を潰すのが第一の目標になる。
第一コーナーに入るまで、五人のウマ娘はしっかりスズカの進路を抑えた。スズカの順位は三位だが、内に入ることができず、縦二列になった集団の、さらに外を走らされていた。
(このレースは1800メートル。大外なら1900いくつ……わかりました。トレーナー)
スズカは一瞬の間だけ目を閉じて、開いてからはペースを上げなかった。
~~
それは五日前、最初の週が明けて月曜日のことだった。
パカパカレーシングクラブでのトレーニング終わり際の時間に、タイキブリザードがやってきた。
「トレーニングは順調かい? クラブのみんなは?」
「ええと……みんなはよくしてくれるけど……」
言いよどむスズカに、ブリザードはうなずいた。
「日本からプレゼントが届いたよ」
「プレゼント……?」
ブリザードから渡されたのはタブレット端末だった。
しばらくそれをいじっていると、突然その画面を見せられた。
『おぉっ、映った』
「……! トレーナー……!」
『よぉ、スズカ。いや、すまん。タイキブリザードに無理言ってつないでもらっちまった』
「そうだったんですか……でも、今そっちって何時なんですか」
『午前二時くらいだ。ちゃんと仮眠とってるからだいじょうぶだぞ!』
「ちょうど十二時間違いですね」
『そうだな、そっちはまだ昼か。まあ、そっちのおえらいさんからスズカのトレーニングについて訊かれてな。いろいろやりとりしているうちに……やっぱり、直接見なきゃわからんってなってな』
「……ありがとうございます、トレーナー」
『おう、まかせとけ。ここからだが、可能な限りアドバイスはさせてくれ。と言っても、今スズカに言えることは同じだ』
「……?」
『思いきり走れ。まずはそれでいい。走らなきゃわからん』
「はいっ。トレーナー」
迷いなくスズカはうなずき返した。
それを見て彼は一瞬、ばつの悪そうな顔になって頭を掻いた。
『あ、あ~……作戦っつうか。あるっちゃあるんだ。ただ、まあ、これでいきなり実戦をするっていうのも、なんつうかな……』
「教えてください」
歯切れの悪い口調だったのが、むしろスズカには気になった。
「ひょっとして、あの課題のことですか」
『う、ああ、そうだ。だがやっぱりこれは慎重に……』
「教えてください」
元から渡米前にレースの〝ある課題〟について教えられていた。
その解決策だというのなら、聞きたいと思うのは当然だ。
『なんか、押しが強くなったな……』
「走りに関係することですから」
『わかった。教えるよ』
~~
右前にいる先頭のウマ娘を視野に入れながら第二コーナーを曲がり終わって向こう正面に入ると、前が少し下がって二位になる。
サイレンススズカを大外に置いたまま第三コーナーから最終コーナーへ。
スズカはさらに外に出た。後ろのウマ娘からのアタックを避ける為だった。
しかし、最終コーナーから直線に入った時、先頭はサイレンススズカであった。カメラの切り替わりで多くの視聴者がいつの間にと思う速度であった。
サイレンススズカはさらに速度を上げる。後ろのウマ娘たちは追い上げることができない。
一秒遅れて事態を理解した観衆が大声を上げる中、サイレンススズカは直線を駆けていく。一周1400メートルの芝コースで1800メートルのレースを行う時、最終直線は縦幅をめいっぱい使う。その距離は300から400になる。しかしそれは毎日王冠よりも短い直線だった。その中ほどまで走ってもサイレンススズカはスピードを落とさない。残り100メートル、追い上げてきた後続たちのほうが先にバテる中、先頭でただひとり、7バ身も離してサイレンススズカはゴール板を通過した。
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