異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
パドックに出たサイレンススズカは記憶していた以上の熱狂的な声援を浴びて、やはりG1は格が違うんだなと思った。
そしてやや左のほうに緑と白でサイレンススズカと日本語で書かれた横断幕を見つけた。
どうやら日本人のファンらしい。それもけっこうなグループだ。「スズカー!」と大声を張り上げている。
「ありがとうございます。がんばります」
そう言って手を振ると卒倒せんばかりの悲鳴を返された。
ベルモントパークのパドックは日本のようにすり鉢状になっておらず、レース場裏側の公園の一部のようなつくりで、ステージから下りてパドックを一周する時も、観客との距離は近くて手を出し合えば触れあうことができる。やはり地下バ道はなく、ファンが押し合いへし合いしながらくっついて横に並んで歩いてくるくらいだ。危険だとスタッフが声をあげるが、歓声にかき消されてしまう。
しかし、コースに出るわずかな距離の入場ゲートをくぐると、そこは異次元に迷い込んだかのように広いレース場となる。
入場してきたサイレンススズカのコールがされると、ここでもスタンドの一角に陣取っていた日本人グループが大きな歓声を上げる。
そちらにも手を振ると、ダートコースを横切って芝コースに入る。日本人からすれば、芝で走るウマ娘はいつもより遠くで見ることになってしまって困るだろうなと思った。
「はろー、ミス・スズカ」
手を振って話しかけてきたのはミドルセクスドライブだった。
都会的に洗練された黒鹿毛に頭頂部を斜めにカットした長い白のシルクハットを乗せて、蝶ネクタイを巻いた紳士風の男装の勝負服で、スズカにも既視感があった。
「わかる? これ、ニッポンのドーナツ屋さん。アタシ、ミセスとミスドでニックネームがふたつあるんだけど、今日はニッポン向けってワケ。今日はニッポン人もたくさん見てるんデショ」
名前の由来のミドルセクスはイギリスのとある地方だが、当人はれっきとしたアメリカ生まれのアメリカ人である。
陽気なテンションでウィンクする都会派のウマ娘にスズカは相槌を打つ。
「なんてったって、今日の逃げウマはアタシとアナタだもんね。それで、今日はやっぱりアナタが先?」
「えっ?」
先、とはなんだろう――というスズカの顔を見て、ミドルセクスドライブは両手を広げてみせた。
「そりゃあ、だってアタシたちふたりでロスするくらいなら、打ち合わせでもしたほうがいいデショ。そういうの、ニッポンにはないの?」
「ああ……えっと」
作戦が同じ者同士やマークすべき相手がいる時などは、ライバルであっても途中まで協力し合うことはある。残り200メートルまでは味方――そういう考えだ。それもまた、出し抜かれることもあるが。
しかし、スズカにはそういった駆け引きはほとんどしたことがない。常に先頭で走り続ければいいという大逃げだからだ。
「オーケー、そうだとは思ってたワ」
ミドルセクスドライブもスズカの大逃げは承知している。気を悪くした風もなく大げさに肩をすくめた。
「風よけに使ってあげる。シーユー」
手を振り、ウィンクをしてミドルセクスドライブは後ろで怖い顔をしているヤグリーのほうへ歩いていった。
ヤグリーの勝負服は黒い探鉱帽に前が赤、後ろが黒の作業服に似たジャケットを着ていた。両脇から斜め下に金色の線が二本入っている。膝下までの青いジーンズにゴツい蹄鉄シューズを履いていた。腰にくくられているのはオリーブの枝だろうか。
見ていたスズカの背中を誰かの手のひらが触った。
「っ!」
「あ、ごめんなさい」
驚いて振り返ると、そこには褐色の肌にカフタンと言われるトルコ衣装に似た勝負服のウマ娘が、やはり驚いた顔で立っていた。
「あなた、マンダー?」
「はい。あの、また落とし物ですよ」
くすりと笑いながらマンダーが差し出した手にはスズカの靴に使われているリボンが乗っていた。
「本当だわ、ごめんなさい。ちょっと直してくるわ」
勝負服の乱れたウマ娘はレースも乱れる――日本ではそう言われるほど勝負服の取り扱いには厳しい。アメリカではどうだかわからないが、慣習づけられたことなのでスズカは一度コースを出て着かえ直すことにした。
十分に離れたスズカにまた手を振るマンダーの呟きは誰の耳にも入らなかった。
「……成功した。良かった」
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