異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
「レイチェルイズメモリーズオフデース」
一緒のランニング中、先導するタイキシャトルがスズカの質問に答えた。
「日本語だとどう言えばイイノデショウ……」
「……記憶喪失?」
「オゥ! タブンソレデス!」
バッグを背負って走るタイキシャトルが教えてくれたところによると、レイチェルがタイキファームにやってきたのはブリザードが〝yearling〟となってのこと。州最大のチャーチルダウンズレース場があるルイビル市からの帰路で出会ったが、その時から一切の記憶がないのだった。
それ以来、タイキファームのスタッフとして働いているが、記憶が戻るきっかけもないまま数年が経っている。
「レイチェル、トッテモロンリー……レイチェルもホントの名前じゃアリマセン……デスガ、ミンナレイチェルダイスキ! レースに出られなくテモ、トッテモヤサシーノデス!」
「レースに出られない……? 走れないの?」
「ノー、レイチェルは走れます。デモ、ブラッドステータスがないのデス」
「……血統証明がないということ?」
訝しんだ返事をしたスズカにタイキシャトルがうなずいた。
血統証明、ブラッドステータス、ファミリーライン、スタッドブック……ウマ娘は母親からの遺伝によって誕生することが最も多いが、両親ともに普通のヒトから生まれることもある。その場合に祖父母、曾祖父母と家系を遡ってウマ娘としての血統を確認する。
これは特に誕生した際の名付けに影響する。多くの場合は出産した母親に天啓のようにその名前が思い浮かぶのだが、その母親がヒトであった場合、血統上にいるウマ娘が代わりに天啓を受けることもある。ウマ娘の存在にはヒトとは違う霊魂が関係するという説は、こういう事例に科学的な否定ができないという点で根強く信仰されている。
だが、稀に一切の血統が確認できないウマ娘がいる。それがレイチェルだった。
本人の記憶がないだけでなく、血液検査においても一切のデータが見つからない。欧米では十五世紀には医療輸血の実験が試みられるなど血液保存に関与するデータが蓄積され、戸籍と同時に血統証明がつくられていったが、どのラインを探ってもレイチェルの血統を証明することはできなかった。考えられるのは血統証明がされなかった地域――主にかつて植民地だった場所――の先祖返りであろうということだった。
そして、99%以上のウマ娘の血統が確認可能な現代において、血統が証明できないウマ娘はレースに出走できないのだ。
これはレースのルールが現代の形に整備された頃には既に血統は身分の証明でもあり「そのようなウマ娘はもはや存在しないであろう」という共通認識が前提にあった為である。
もちろん、非公式なレースには出られる。レイチェルはファームのコースを使用した草レースに出走していたし、渡日前のタイキシャトルの併走相手を務めていたこともある。
「レイチェル、トッテモトテモ速いデス。それにスタミナイッパイ! テンノーショーもキット勝てマス!」
おそらく天皇賞(春)のことだろう。それほどの実力がありながら正式なレースに出られないのは忸怩たる思いがあるだろう。
「ウェル……レイチェルは走るのあまり好きじゃなかったみたいデス」
「そうだったの……」
ウマ娘なのに、走るのが好きではない――これはトレセン学園にいるとあまり触れることのない話だ。たしかに中央の実力についていけなかったり、トレーニングが合わないことでレースがイヤになるウマ娘もいるが、根本的に走ることに興味がもてないということは少ない。
レースに出ることなく人生を過ごすウマ娘でも、ほとんどが何らかのスポーツに参加している。
(私も……走れなかった時でも、走らないという選択肢を選ぶことはなかった……)
レイチェルに感じた深い虚無の正体は、ウマ娘という種族そのものに対する大きなクエスチョンをサイレンススズカに突き付けたことなのかもしれない。
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