異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
芝コースは1400メートルの為、第四コーナー終わりからスタートになる。一周して直線途中のゴール板を駆け抜ける形になる。
ゲートはないが、アプリを使ってスタートの合図をする。二人きりだが、枠順も一応決める。コインを投げてスズカが内枠になった。
スズカはコース自体初めて見るので、返しウマの時間をもらった。日本とは違い、アメリカの大地にそのままケンタッキー・ブルーグラスを敷き詰めたターフを一周ぐるりと歩く。
第三コーナーからスタート位置を見る為に視線をめぐらせると、アリーナにちらほらと人が集まり始めているのが見えた。
「……?」
目を凝らしてよく見ると、彼らの前でタイキシャトルが手を振っている。そして何人かがスマホで写真を撮ったり、電話をしていた。
もしかしなくても、この野良レースに人が集まってきているのだ。こうしている間にも入場口から人が来ている。
慌てて小走りに走ってタイキシャトルの袖を引っ張った。
「ど、どうしたの。人が集まってきて……」
「オゥ! ソーリー、スズカ! ワタシ、シークレットにしてマシタガ……」
どこからか――というか、レース場のスタッフが仲間を呼んだのだが――人がどんどん集まってきたのだ。アリーナを観察すると、昨夜のパーティで見た顔もいるし、ほとんどはタイキシャトルと面識があるようだった。
「タイキ……あんまり集まると、その、大変だから……早く始めましょ……」
「ソーデスネ。ブリザードに見つかるとタイヘンデス」
ファームのビッグ・シスターであるタイキブリザードは〝サージェント(鬼軍曹)〟と呼ばれて近所のウマ娘たちに恐れられている――とは、昨夜のパーティでタイキトレジャーに聞いた話だ。
(こんな騒ぎになってたら、もう見つかってると思うけど……)
アルコールを持ち込んで既に陽気になっている観客たちが手拍子して入場アナウンスの真似をしていた。
口笛と歌も混じったカオスなマーチを背中に受けながら、サイレンススズカとタイキシャトルはスタート位置に入っていった。
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『レディ~スエ~ンジェント~メ~ン。ディシ~ズキーンラ~~~ンド~~~』
誰かが放送室に入り込んだらしい。プロとは程遠い間延びしたアナウンスが場内に響き渡り、アリーナは爆笑とブーイングに包まれた。
アリーナの観客は百人はいそうだった。ウマ娘のグループもいくつか見える。
『ア~~ラウンドワーン。ダービーワン、ワンハンドレッドポ~ンド……ジャパニーズニンジャガール、サイレーンススズーカー!』
なぜかアナウンスがボクシング風になっている。そしてアリーナは大盛り上がりでスズカを讃える。
『ダービートゥー、トゥーハンドレッドポ~ンド……チャンピオンオブヤスーダー、タイィーキィシャトォォォォルー!』
「ノー! アイムノットヘビー! ファティーノー!」
タイキシャトルが抗議の声をあげる。1ポンドが0.45キロなので、90キロあることになる。
タイトルコールも安田記念チャンピオンになっている。タイキファームが日本に縁があるからだろうか。
スズカがニンジャガールと言われたのは、やはり昨日のタイキシャトルのせいだろう。たくさん集まったパーティの参加者の前でスズカを紹介する時に、重心の低く長いストライドを真似してみせようとして、時代劇の忍者走りのようなポーズを見せてしまったのだ。名前もサイレンスであるから、本当にみんながニンジャだと信じてしまった。
アメリカで生きていくには〝Sale Yourself〟――売り込みが必要――とは、渡米前によく聞かされたものだが、こんなに強烈なキャラクターはいらないと思う。
『ア~ン……ジシーズレースふごっ!?』
このままレースが始まってしまうのかと不安に思った瞬間、口が塞がれたらしい音声の後、場内アナウンスが切断された。警備員あたりが止めに入ったのだろうか。
「オゥ……キット、ブリザードデース」
しばらく沈黙に包まれた後にタイキシャトルが呟いた。それから、スタートアプリの入ったタブレットを内ラチに置く。
「ファンファーレはトーキョーでオーケー?」
「ええ、いいわ」
今度は邪魔にならないようにとアリーナも静かになっている。
アプリのスイッチを入れて、タイキシャトルがスズカの外側に戻ってくると、二人そろって深呼吸した。
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