異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】   作:もっそ

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-8- マッチレース VSタイキシャトル

 ファンファーレが鳴り響く。

 

 マッチレース キーンランドレース場 芝1600

 

 時刻は朝5時。ところどころ出ていた霧もすっかり消え去り、素晴らしい快晴である。

 

 スタートアプリはいろいろな設定を入れられるが、日本のレース場のみの対応なので、東京レース場のファンファーレが鳴り響いた後はすぐにスタートの合図になる。

 

 一時はこのファンファーレも怖いと思うことがあった。怪我が治り、リハビリの一環でG1レースを直に観戦した時、ファンファーレを聞いてフラッシュバックが起きた。今はもう幻覚を見ることもないが、本当にレースに出られないかもしれないと恐怖した。

 

『各ウマ娘、ゲートイン完了。位置について――』

 

 <ガシャコン>

 

『スタート!』

 

「ふっ!」

 

 サイレンススズカは最高のスタートを切った。あの日の出来事は常に脳裏を掠めるが、それに身体が支配されることはない。

 アメリカのターフは固く、蹄鉄から伝わる感触は抉って踏み出すよりも噛んで前に送る感覚に近かった。

 

(これがアメリカの芝。まるで滑っているみたい)

 

 それは、スズカの大きなストライドでは完全な加速が得られないという意味だった。

 脚の動きは速いが、自分で思っている以上にスピードが増していない。

 

「ハリーハリーハリーハリー!」

 

 スタートから100メートル。前に出たのはタイキシャトルだった。ちらりとその脚下を見ると、頭ぐらいの大きさの土塊が高く蹴り上げられている。

 タイキシャトルが逃げを打っているのではない。スズカが速く走れていないのだ。

 なによりも、タイキシャトルは本気だ。心身ともに充実しているのがはっきりとわかる。

 

「……っ!」

 

 スズカはギアを上げた。

 二人の距離はアタマ分の差だが、このままではコーナーで内に切り込まれて先行される。

 スタート位置から最初のコーナーまでに直線をすべて使ってタイキシャトルに並び、インと同時に左回り、そこでわずかに順位を切り替えた。

 

「ムム……!」

 

 後ろに回ったタイキシャトルが唸った。

 先頭を獲った以上、スズカはもうそこを譲るつもりはない。特に彼女が相手とあれば、だ。

 

 チームリギルに在籍していた時、東条トレーナーからライバルとして紹介されたのがタイキシャトルだった。方向性が似たもの同士を同じチームに在籍させてライバル関係とするのはトレーナーの戦略である。

 しかし実戦においてスズカがタイキシャトルに勝つことはなかった。

 クラシック期間においてスズカは安定して実力を発揮できなかった一方でタイキシャトルは連戦連勝。

 直接対決となったマイルチャンピオンシップでは〝抑えて逃げる〟走り方とハイペース展開の折り合いがつけられず、15着という惨敗に終わった。

 

(やっぱり。タイキが相手だと違う……)

 

 向こう正面の直線が終わる一瞬、スズカは後ろを見てタイキシャトルの姿を確認しようとした。

 他のウマ娘なら、先頭を獲った瞬間から気にならなくなる。後はひたすら走り抜けることに集中できる。

 

 しかし、タイキシャトルは別だった。並んで走ることさえ久しぶりなのに、背中に与えられるプレッシャーはあの時のままだ。

 

 第三コーナーから第四コーナーへ。

 いつものタイキシャトルなら、ここで膨れてスパートをかける。それに遅れない為には自分もスパートに入らなければならない。

 

「スズカ――」

 

「っ!」

 

「アー・ユー・レディ?」

 

 耳の裏から伝わったセンセンフコクに、スズカの肚は決まった。

 

「ゴー!!」

 

 コーナーの終わりが見えると同時のタイミングでタイキシャトルが一気に前に出た。地面が爆発したかと思うほど芝が蹴り上げられる。

『ウオオオオオオ……!』遠いアリーナから歓声と拍手が沸き起こった。

 

(焦らない……)

 

 弾ける土の匂い、揺らぐ地鳴りに心臓が早鐘を打ち出したが、スズカは決して焦らなかった。

 タイキシャトルを相手に大逃げはできない。この1マイルの支配者は彼女だ。

 

 タイキシャトルがインに入った。スズカの前が塞がる。

 逆に、スズカは直線前のコーナー終わりで外に膨れた。遠心力を利用して、外に出た。

 

 そこは広かった。

 

「ここ!」

 

 体勢が完全に直線を向いた瞬間、スズカはスパートをかけた。

 既にインから抜き出ていたタイキシャトルとは1バ身半。

 

「スズカ!」

 

 前を走るタイキがこちらを見た。

 

「ベリーナイス!」

 

 さらなるスパートがかかる。日本でも何度も見せた直線のすさまじい伸びがスズカとの距離をあけようとする。

 しかし、スズカは離れなかった。

 離れないだけでは終わらない。

 一度譲った先頭の景色も必ず取り返す。

 景色はどんどん鋭くなっていき、青と白と緑で埋まる。

 1バ身半の差が既に1バ身。

 ラスト1ハロンのポストを越えて、半バ身になる。

 

 タイキシャトルは自分の腰ほどの位置に映り込んできた栗毛に唸り声をあげた。

 

「ムウ、ムウ! ムウ!」

 

 少しでも力を振り絞ろうとしたが、もういっぱいだった。

 

『オーマイガー!』アリーナの声が届いた。

 

 サイレンススズカはもうタイキシャトルを抜いていた。既に半バ身。すぐに1バ身。ゴールポストと自分のちょうど真ん中にサイレンススズカがいた。

 

 しかし、タイキシャトルもそれ以上の差を開かせなかった。

 歓声と絶叫が飛び交う中、ゴールラインを突き抜けたのはサイレンススズカだった。

 

 

__

 

 

 

 ――シャトルとブリザードが、ジャパニーズニンジャを連れてきたと聞いて見に行ったが、来たのはシンカンセンエクスプレスだった。

 

 後にレキシントン市新聞に載ったレースの回顧録である。

 

 

 

「ス~ズカ~!」

 

「タイキ……きゃあっ!」

 

「スズカ~! スズカ~! イッツエキサイティ~ン!! ワンダフー!! マッハバローン!!」

 

 ゴールポストの前で息を整えていたスズカはタイキシャトルに押し倒されて芝の上でごろごろと転がされて抱き着かれて撫でまわされた。

 

「スズカ~アメイジーング! ヤッパリスズカはサイコーデース!!」

 

「あ、あのね、タイキ……は、はなしてぇ~!」

 

 過去最高にハイテンションになったタイキシャトルが離れるまで10分以上もかかった。

 

 それが終わる頃には二人とも汗だくでレースの疲労とは関係なく動けなくなっていた(そしてそれを眺めていたアメリカ市民は皆、神の門をくぐった)。

 

「タイキは……」

 

 まだ六時にもなっていない朝の空を見上げてスズカは訊ねた。

 

「タイキは、すぐ日本に帰るの?」

 

「ハイ。トゥモローには」

 

「そうだったの……ごめんね」

 

「ノープロブレム。スズカとオモイデデキマシタ」

 

「日本で……レースに出るのよね」

 

「ハイ! モチロンデース!」

 

 それは希望に満ちたメッセージだった。

 

 

 

このお話を楽しみにしてくれますか?

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  • 日本のウマ娘を出してほしい
  • アメリカの名バを知りたい
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