異世界のウマ娘 ~Ancestral Loyality~【サイレンススズカ】 作:もっそ
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サイレンススズカがやってきた二日目もタイキファームはパーティの支度をしていた。
タイキシャトルが日本に戻る為の見送りパーティだ。
「本当にパーティばかりなのね」
自分の体重くらいはありそうなにんじんの箱をいくつも荷車に乗せてタイキシャトルと一緒に押して運ぶ。
「ハイ! ウレシイ時カナシイ時、ヤメルトキモスコヤカナルトキ、デアイの日もワカレの日も、ワタシタチはパーティシマス!」
荷車はごとごとと牧草芝の上を行く。どこまでもだだっ広い一面の草原は「とりあえず目に見える範囲はファミリー」という感じでタイキファームと呼ばれている。
そのタイキファームの中で、スズカが部屋を借りているのはタイキブリザードと彼女の家族が暮らすブラッドストックファームだが、タイキシャトルとトレジャーの家であるハリーズタイキファームとは形だけの柵があるだけで、ほとんど同じ牧場だ。お互いの家の距離も数キロは離れており、羊がめえめえ鳴く以外になんにもない原っぱに二十人は座れそうなばかでかい木のテーブルが十個ばかり置いてある。
ここで昨夜どんちゃん騒ぎのパーティがあったはずだが、その形跡はいっさい見られない。綺麗に片付けられている。
「レイチェルー!」
タイキシャトルが大きく手を振った。その声の先にいるブルーキャップを目深にかぶる一方でクレメロゴールドのしっぽを垂らすウマ娘は積み上げたレンガの上にバーベキュー用の鉄板をセットしていた。
レイチェルはこちらを見て丁寧にお辞儀をした。二人はそのすぐそばににんじんを運んでいく。
鉄板はぴかぴかの新品で朝日を反射して輝いている。スズカの記憶では昨夜のバーベキュー中に鉄板にバーボンがぶちまけられて炎の柱を立てていたと思う。それは今、焼け焦げた姿で傍らに置かれていた。
「フランベをすればアルコールが飛ぶ。子どもが食べてもノープロブレムだ」
パーティー中、凄まじい火炎の雄叫びとアメリカ人の歓声に唖然としていたスズカにタイキブリザードができたてのステーキを持ってきた。人の顔くらいの面積の肉は赤身と脂身が5:5というとてつもない代物だったが、赤身を切り分けるとジューシーな肉汁が滴り出て食べると肉の旨味以外にまろやかな甘みが口いっぱいに広がった。これが蒸留酒――ケンタッキー・バーボンの味だという。
同じように焼かれたにんじんも極上のグラッセのようで絶品だった。しかしこれには沁み込んだアルコールが若干残っており、スズカが早めに眠りにつくきっかけになっていた。
(お酒を飲んで寝ちゃいましたなんて言ったら、びっくりさせちゃうかも……)
レース場から戻った直後にも届いていた日本からのメッセージを思い出していたスズカだったが、
「フゥゥム……これがあの逃げて差す脚の足跡……」
自分の後ろを追跡してくるウマ娘には、それが足元で唸るまでは気づくことができなかった。
「ややっ、これはキーンランドレース場の土かな」
「えっ……?」不穏な気配に下を見て、スズカは飛びのいた。「きゃあぁっ!」
「おや、失敬」
すぐそばのタイキシャトルにしがみついたスズカの前で悪びれた様子もなくウマ娘は立ち上がった。砂色のインバネスに鹿撃ち帽(ディアストーカー)を被った黒鹿毛のウマ娘だった。
「オゥ! シャーロック!」
「……知り合い?」
驚きと喜びをもって相手を迎えたタイキシャトルにスズカが訊ねると、鹿撃ち帽をとった本人が応えた。
「やぁやぁ、ボクはタイキシャーロック。生まれは日本だがシャトルとは昔からのファミリーだ。当然ブリザードもトレジャーもクリスティーもファミリーだ。一応、キミとも同期ではあるのだがね、サイレンススズカくん。ああ、覚えていなくても無理はない。自分で言うのもなんだが、ボクは放浪癖というやつでね。あまり学園にいなかった」
ほとんど一息でしゃべりとおす間にタイキシャーロックはインバネスを取り、鹿撃ち帽と一緒にレイチェルに預けて白いシャツとチェックのパンツスタイルになる。代わりにステッキを地面に立てて体重を預け、パイプをくわえた。しかし、それに火が点けられることはない。
つまり、どこから見てもシャーロック・ホームズの模倣(ミミック)であった。
いっぽうで、見事なセミロングの黒鹿毛と細面は日本的な魅力を携えており、新鮮な輝き(シャーロック)をケンタッキー州の大地に持ち込んでいる。また、スズカと同じくらいの身長だが、体格の厚みは一回り大きい。
「シャーロック! ホワイアメリカに?」
「言っただろう。バカンスの続きだよ。フェブラリーステークスも終わって、初めは紀伊半島で十津川ツアーをやっていたんだがね。ちっとも事件なんて起きやしないから、白浜空港から大阪空港に行って国際便に乗り継いできた」
あけすけに話すタイキシャーロックを見ていて、スズカは久しぶりに純度の高い日本語を聞いた気がした。ブリザードもケンタッキー州に着いてからはほとんど英語を話していた。
しかし、大半の人は日本語を話せた。それは日本人が話す拙いカタカナ英語のような日本語だが、どういう訳か日本語を話そうとしてスズカに話しかけてきていた。
「ここの人って、みんな日本語が話せるの?」
ふと訊ねると、タイキシャトルがうなずいた。
「ハイ。ニホンゴのステディアリマス」
「この辺りは昔から日本となじみが深いと聞いただろう。自然と市民の関心も高くなるのさ」
アバウトな答えの続きをシャーロックが引き取った。
「とくにタイキファームが出来てからはね。かといって、せっかく習得した日本語もアメリカ人同士の会話では宝の持ち腐れになる。なので、日本人がやってくるとこぞって日本語を話したがるのさ」
だから私も遠慮なく日本語を話させてもらっている――そうシャーロックは言った。
「そうだったのね。私、一生懸命勉強してきたのに、みんな日本語で話してくるから、驚いたわ」
「はっは、イングリッシュは必要だよ。街に行けば全部イングリッシュで書いてあるし、やはりイングリッシュでしゃべっている。ユー、ワタシはニホンゴでハナスデキルゼ、ベイベーってね」
「ふふ、それ、昨日たくさん聞いたわ」
口をとがらせたヤンキー口調のシャーロックにおもわず笑みがこぼれた時、遠くからドド、ドド、という重い足音が聞こえた。
「シャ~トル~! ス~ズカ~!」
「ハーイ! トレジャー!」
それは黒い牛に乗ったタイキトレジャーだった。白いシャツに赤いチョッキ、そして麦わら帽子と、また映像化に問題がありそうな格好だった。
「本当にウマ娘がウシに乗ってる……」
話には聞いていても、実際に見ると脳がバグを起こしそうになる。
とはいえ興奮した牛を落ち着かせるならばやはりウマ娘が背に乗ったほうがいい。そうして競争をするロデオレースも世界中で人気のスポーツだ。
「ウオー! シャーロック! グッスイーン!」
「ナイシー、トレジャー」
久しぶりに出会ったファミリーに興奮するタイキトレジャーも混ざってパーティの準備は進んだ。その間もレイチェルは物静かだったが、その傍らにはずっとトレジャーがいる。トレジャーはレイチェルと働くのが好きなようだった。
設置したばかりの鉄板の試し焼きがてら、昼食を用意している時、シャーロックがスマホを片手に言った。
「ブリザードもクリスティーを連れてくるそうだ」
「クリスティー?」
「オゥ! クリスティー! クリスティーはファミリーのベイビーデス! ナウ、ホスピタル、アンド、ブリザードがピックアップにゴー!」
油を塗った分厚い肉をひっくり返していたタイキシャトルがぶー、ぶーと赤ん坊の真似をする。
「クリスティー、ベリーベリーキュート!」
それからまた大きなステーキ肉が焼かれて、皿に盛られた肉を立ったまま食べるワイルドなスタイルにスズカは悪戦苦闘した。
テンションの上がったタイキシャトルはトレジャーの乗ってきた牛にロデオした後、それをスズカに勧めてきた。
「え、えぇ……私は……」
「ノー、ノー。スズカ、ロデオはインポータント。ケンタッキーでイキヌクタメニハ必要ナノデス」
そんなことはないと思うのだが、ここにスズカに同意する者はいない。トレジャーはスズカのロデオに興味津々だし、シャーロックは優雅にパイプを噛んでいる。
こうしてスズカは人生で初めてのロデオに挑戦したわけだが、結果は言うまでもない。そもそも牛の背中に乗るのだってまともにできないのだから……
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