私たちのウェディング・ベル   作:双子烏丸

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第1話

 

 

 

 今日は学校がお休みで。私は幼なじみのヒロトと二人で街に来ていたの。

 小さい頃から一緒で、ガンプラやガンダム作品が好きな、私の大切な幼なじみ。……だけど今は。

 

「ヒナタ、今度はあっちの店とか行ってみないか? 初めての所で気になるし、せっかくの君との……デートだから」

 

 街の通り沿いに寄って、ちょっと一緒にデート。今日はヒロトの方から誘ってくれたんだ。

 恋人として、二人でのデートなの。

 

 ──今はヒロトと幼馴染みだけじゃないの。大好きだって告白して、彼もその想いを受け止めてくれたから──

 

 ずっと前、ヒロトに想いを告白したの。おかげでこうして恋人同士になれて、結ばれたんだ……私達。

 

 ──今までは幼馴染としてのお出かけ、遊びに行ったりだったけど、恋人ならデート……だもんね。

 ヒロトとずっと距離が近くなれて嬉しくて。同時にやっぱり、ドキドキで──

 

 恋人同士になれてからもう大分時間も経った感じで。でも、それでも私は今でもドキッとしているって言うか。……だってヒロトとこうしていられるのが、本当に満足でたまらないから。

 

「……うん。でもちょっと、くっつき過ぎかも」

 

「そうか? これくらいなら普通だと思ったけど、もし恥ずかしいとかなら……」

 

「あっと、大丈夫。むしろ私も良い気持ちだから。……ちょっとだけドキドキするくらい、だから」

 

 ヒロトは私のすぐそばでぴったり、腕を組んでくっついているんだ。そんな風にして街を歩いて、手を繋いでいるよりも密着している感じで。

 

 ──やっぱり緊張しちゃうな。ヒロトとこうした関係になってからしばらく経つけど、やっぱりまだドキドキしちゃうよ── 

 

 手を繋ぐのだったらまだしも、こうしてくっついているのはなかなかないから。それに周りには他の人だっていて、視線もちょっと気になったりも。……だけど

 

 ──でも嬉しいことは嬉しいんだ。ヒロトと一緒で、とっても──

 

 

 

 こうして街を歩いていて、ふと横に見えた店のショーウィンドウの窓に映った、私たちの姿。

 腕を一緒に組んで並んでいる、そんな姿で。こうしている所を見ると、まるで。

 

「本当に仲睦まじいような、お似合いの二人だよね、私たち」

 

 声に出して、ついそう言ってしまった。ヒロトも、ショーウィンドウの方に視線を向けて笑顔を見せたの。

 

「多分、人からはこんな風に見えるんだな。

 ……ふふっ、確かにこうして見ると本当にお似合いだ、俺とヒナタは」

 

「そうかな、私たちってやっぱりお似合いかな!」

 

 そう言われると自分でも喜んでしまって、つい笑顔になっちゃうんだ。ショーウィンドウに反射して映っている自分の顔も笑顔で、それに。

 

 ──このショーウィンドウの中に飾っているのって、ウェディングドレスだよね──

 

 飾ってある純白の、とっても綺麗なウェディングドレス。私はそれにも視線が向いてしまったの。

 

 ──いつか私も結婚して、真っ白なウェディングドレスを着て結婚式をするのかな──

 

 そんなウェディングドレスを、つい立ち止まって眺めていた。

 たくさんの女の子の憧れ、夢だもんね。綺麗な花嫁衣装に身を包んでの結婚式、お嫁さんになる事って。私だって夢だから。 ……結婚式を挙げる事も、それにお嫁さんになる事も。

 

 ──なれるかな……いつか。あんな風に綺麗な衣装で、一番大切な人と──

 

 半分意識して、もう半分は無意識にヒロトの方に視線を向けた。

 ……すると彼も同じようにウェディングドレスを眺めていたんだ。

 

「……」

 

 横目に軽く見ているくらいだけど、でも何だか少し考えてもいる感じにも思えて。だけど私が今はヒロトの事を見ているとすぐに気づくと、こっちの方に微笑みかけて。

 

「このドレス、真っ白で綺麗だな。ウェディングドレス──花嫁衣裳とも言うんだろ? 俺でもつい見惚れてしまう程だ」

 

 他愛のないような彼の言葉。……だけど私は、少し思った事があったんだ。

 

「あのね、ちょっとだけ聞いていい?」

 

「どうかしたのか。聞きたい事があるなら、何だって構わない」

 

「ヒロトはこれから……将来の事をどうしたいって、あったりする? 

 進路や、就きたい仕事とか、それに…………」

 

 でもその先の言葉は、何故か上手く出て来なくて、つまってしまった。とても大切な事だって分かっているのに。

 

「将来の事とは、なかなか難しい質問だな」

 

 ヒロトはちょっと困ったみたいに苦笑いで。もしかして変な事を聞いちゃったかもって思ったけど、彼は真剣に考えて答えてくれた。

 

「──でも、俺は高校を卒業したら大学か専門学校に進学しようと思っている。その方が就職で有利になるかもしれないから。……ただどう言う学校に行きたいか、仕事をしたいのかはまだ決まってない。三年に上がる頃には決めておきたいな」

 

「やっぱり難しいよね、先の事なんて。私だって分からなくて、はっきり決められないから」

 

「俺にとってもヒナタにとっても、将来なんてまだ見えにくいものかもしれない。

 だけど俺は少しだけだけど……決めている事もある」

 

 でも、そう自信を持って言うと、ヒロトは言葉を続けたの。

 

「大人になるからには、やっぱり良い仕事に就きたい。贅沢を言えばガンプラを続ける余裕があればいいし、安定して収入が良い所で働きたい。

 その方がきっと俺や──いつか持つかけがえのない人との、家庭のためになるから」

 

「えっ…………それって」

 

 今の言葉がどう言う事か、私は気になった。だけどヒロトは少しだけはにかんだ様子を見せると。

 

「ちょっと、な。──でも今はこの時間を楽しもう。まだまだ、ヒナタと過ごしたい所があるからさ」

 

 さっきの事は気になったままだけど、今はタイミングじゃない……のかな。

 

「だね。今は私たちデート中だから。やっぱり今こうしているのを、楽しまないとね」

 

 だけどヒロトの言う通り、先の事より今のこの時間が大切だから。

 でも本当は──気になっているんだ。さっきの事、あとで聞いたりできるかな?

 

 

 

 ────

 

 あれからも街中を巡ったり。

 店やショッピングモールにも寄ったりして、小腹が空いたらカフェに行ったりも。デートの内容はあまり変わらないけど、でも私達の街は大きいから……場所は初めて行く場所や、久しぶりの場所が多くて新鮮味もあったんだ。

 ちなみに、今は──。

 

 

「今更だけど赤レンガ倉庫って街でも歴史がある所なんだよね。明治時代に建てられて、それから使われていたんだよね」

 

「ヒナタの言う通りだ。さすがに今では使われていないけれど、それでもこうして史跡として……大事に残してあるんだよな。

 よく観光客が来る名所なのも頷ける」

 

 赤レンガ倉庫にも久しぶりに行ってみたの。ヒロトと一緒にゆっくり歩いて眺めて、それから赤レンガ倉庫の中に建てられた、等身大のストライクガンダムの立像も。

 

「このガンダムも凄いよ。恰好良いのもだけど、あんなに大きいのに立っていられる事も」

 

「多分芯材が丈夫なんだろうな。実際あれだけのものを二本足で支えるのも、相当だろうし。……けどやっぱり良い。

 等身大の初代ガンダムやユニコーンももちろん良いけれど、ストライクガンダムも好きだ。こうして見ると、まるでガンダムSEEDの世界にいるような感じになるから」

 

 そう言ってから、ヒロトは軽くふっと笑うと。

 

「まぁ、赤レンガ倉庫との組み合わせは、やっぱり違うかもしれないけどな」

 

「くすっ……かもね。でも私はこう言うのも、観光名所って感じで好きかも」

 

 私も彼につられてくすりと笑ってしまう。こんな風にヒロトと過ごす事、やっぱり幸せだなって。

 もちろん前のように仲の良い幼馴染として、好きだった彼の事を想っているだけでも幸せで満足もしていた。でも、やっぱり。

 

「せっかくだから一緒に写真を撮ろう。──恋人として来た記念に、ここではまだヒナタと撮っていなかったから」

 

 そう言って、ストライクガンダム像の前に行こうと促すヒロト。

 

 

 

 今こうして感じている、ヒロトに誰より近い、『恋人』として私がいられる事。

 もちろんヒロトだってそんな風に思ってくれて……愛してくれている。以前とはまた違う感じでも私を見てくれて、想ってくれているんだって分かるから。

 

 ──やっぱり幼馴染だけだった時よりも、心が満ち足りてるんだ。ずっとただ傍にいるだけでも満足で、これ以上の幸せなんて長い間想像できなかったし、望んでもいなかったけれど──

 

 だから今の私は、とても……そうとても。

 

 ──その想像出来ないくらいにずっと、ヒロトに告白して付き合ってからは、何だか幸福で満たされているって。

 今の私はそう感じるの。こうしていられるのが夢みたいな程に……そしてもっとヒロトと関係を深めたい、そんな私自身の心だって芽生えているの──

 

 ただ今まで通りで構わない──そうじゃなくて、自分がどうしたいのか正直になれた事も。

 何もかも、幸せでたまらないんだって。

 

 

 

 ────

 

 赤レンガ倉庫に立っているストライクガンダムの前で立つ私たち。腕を組んだままで、ぴたっと私はヒロトの左傍にくっついて。彼は右腕を伸ばして、携帯正面のカメラレンズを自分達に向けると……。

 

「準備はいいかな。こんなにも良い場所だから、俺達に笑顔で撮りたいな」

 

「うん。私も思いっきり笑顔で、二人で……一緒に!」

 

「──っと」

 

 私は横から彼に軽く抱きついて、くっついてみたの。

 そっとだけど、でも少し強く抱き寄せる感じで。もしかするとこのままくっついてしまいそうなくらいに。

 

「こうしても……構わないかな? ヒロトが誰より傍にいるって事、感じたいんだ。

 一番近くで感じる体温や、胸の鼓動も……ヒロトの全部を」

 

「ヒナタ──」

 

 数センチ程しかないくらいにある、ドキドキで少し赤面しているヒロトの顔。

 それにちょっと癖毛気味の彼の黒髪も額と頬に当たってくすぐったい感じで。多分ヒロトと同じように、私を感じているのかな。

 体温とかも、彼の胸がドキドキと鳴っているのを感じている。私の事を思って……強く鼓動しているって、伝わるんだ。

 

「俺だってドキドキしてしまうな。でもヒナタも同じくらい胸が高鳴っているのだって、ちゃんと伝わっている。

 GBNの世界も好きだけど、こうしてヒナタを感じていられるのは……やっぱりリアルがいい。直接ヒナタの事を感じられるのが、ずっといい」

 

 そう言ってヒロトも私の身体を、左手で抱きおさえてくれたの。

 GBNでくっつく事も、今ではよくある事で。向こうでもリアルそっくりに感じられるけど、私も──。

 

「──私もリアルがいいよ。GBNは楽しい事が多いけど、生身で触れ合えるのは、現実だけだから。

 だから今こうして強くヒロトを感じていられるのが……とっても良いの」

 

 

 こうしていると、改めて分かるんだ。 

 ……今更かもしれないけれど恋人になってから一番変わったのが、こうしてヒロトの方から来てくれる事がかなり多くなった部分だと思うの。

 

 ──日常でもそうだけど、GBNでも、映画館や温泉旅行に行った時だってヒロトは私に……スキンシップと言うのかな、よくイチャイチャしてくれたから──

 

 前までは私の方からが殆どだったのに、ヒロトは積極的に好意を示してくれる事が増えたんだ。言葉だったり、行動だったりでも。

 彼を想っているだけだった時でも確かに幸せだったの。だけどこうしてヒロトも私に特別な想いを返して、向けてくれるのは。

 

「やっぱり私は、とっても──たまらないから!」

 

「ヒナタの今の笑顔、最高の笑顔だ。だから…………そのまま」

 

 

 ──パシャッ、と。

 

 

 そうシャッターを押す音が聞こえた。ヒロトは撮った写真を見て満足そうにすると。

 

「うん、やっぱり良い笑顔だ。ヒナタにも見てほしい」

 

 さっそく写真に満足している感じのヒロトは、私にもよく見えるように携帯の画面を向けてくれる。どんな感じか見て見ると……私とヒロト、ストライクガンダムの前で一緒に並んで笑顔でいる写真で。

 

「……本当だね。私って、こんな風に笑顔を浮かべているなんて、自分でもつい思っちゃうくらいに」

 

 写真の中に映っている私は本当に良い笑顔で、ヒロトのすぐ近くに並んでいたの。

 

「だろ! 俺だって君といるとこんなに笑う事が出来て、良い気持ちだ」

 

 それに彼の笑顔も、とっても良かったんだ。……二年前から心からの笑顔を見せる事はなかったけど、エルドラでの事があってヒロトもちゃんと笑うようになったから。

 写真でも、私とこうしている彼の表情はそんな笑顔の中でも、とびきりな感じで。私の笑顔と負けないくらい。

 

「この写真も、それに今日の思い出も俺の宝物だ。デートでも──日常でも、ヒナタと過ごす時間は、全部。俺はもう忘れたりはしないから」

 

 ヒロトから言われた言葉。それに凄く感激しちゃって、また最高に笑顔になってしまって。

 

「私も、ずっとヒロトとの思い出は何より大切だもん! 

 ヒロトも同じように思ってくれて、胸が一杯で……えへへ、っ」

 

「やっぱりヒナタの笑顔は、とても素敵だ。

 ところでさ……良ければこれからGBNに行ってみないか?」

 

 そんなヒロトの提案。リアルでデートを満喫している時に少しいきなりな感じもしたけど。

 

「私は大丈夫だよ、ヒロト」

 

 だからこそ、ワタシはこう答えたんだ。ヒロトはほっと安心したように、嬉しそうにもしながら笑ったの。

 

「良かった。せっかくリアルでのデートの最中だったから、もしかしたら嫌じゃないかって心配でさ」

 

「ううん。GBNだって楽しいし、素敵な場所は沢山だから。全然悪くないって思うもん」

 

「ありがとう。──きっと、後悔はさせたりしない」

 

「?」

 

 最後の言葉はちょっと気にはなりはしたけど、でも今は置いてていいかな。

 そう言うことで私たち二人はGBNに。ここからだと、GBNにログイン出来るガンダムベースも近いから。

 

 

 

 ────

 

 一緒に来たGBN。私達はエリアを移動して、少しメルヘンチックでもある近未来の街に来ていたの。

 

 

 

 草木や自然に調和している所で、ダイバーの人たち以外にも、この街の住民っぽいSDのジムさんとかみたいなロボットがちらほら見えて、街の建物もSF的な感じだけど全体的に曲線的で柔らかいイメージで、ファンタジー的な部分を感じるんだ。

 何だか街全体が都市と言うより、芸術みたいな……そんな街。

 

「人とロボットが共存する街、ネオトピア。SDガンダムフォースと言う作品の舞台だ、良い街だろヒナタ?」

 

 ネオトピアと言う街、その景色がよく見える草原の間の小道を渡る私とヒロト。眺める街景色も、周囲に広がる新緑色の絨毯のような草原も良いし……草原をざわめかせて波打たせる優しい風も心地がいいの。

 

「何だかメルヘンっぽい街……だよね。そのガンダムフォース、だっけ。作品はあまり知らないけど雰囲気は大好きだよ。

 ねぇ、良かったら後で教えて欲しいな」

 

「ガンダムフォースか? いいとも、今度家に遊びに来た時に色々教えるよ。それにDVDもあるから二人で観よう、ヒナタもきっと気に入るアニメだと思う」

 

「今からでも、何だかとっても楽しみだな。ならその時に沢山教えてね」

 

「もちろん。……裏設定はちょっとシビアな面もあるけれど、アニメでもここ、ネオトピアが良い街であるのは間違いない。ほら、やっぱりここから見える──ネオトピアタワーはあんなにはっきりと。

 さすが、ネオトピアの名物だな」

 

 私はヒロトと、街向こうに見える二本の高い塔を眺めるの。まるで大樹のように枝分かれして、その先には丸い庭園がある独特だけど、芸術的な塔。

 

「うん、とってもいいな。

 ヒロト、今日も素敵な所に連れて来て……ありがとう」

 

 そうお礼を言うと彼は得意げに、清々しく笑ったの。

 

 

 

 ────

 

 それからヒロトに連れられてネオトピアの、今度は都市部に。

 

 ──今度はここで一緒に買い物かな? 何だか面白そうな物もありそうだから、ワクワクかも──

 

 私はそんな風に期待してたんだ。そうして都市部の中にある、公園に立ち寄った所で……。

 

「ヒナタ、実はお願い事があるんだが、構わないか?」

 

 そんなヒロトからの言葉。ちょっと意外な気はしたけど私はうんって答えた。

 

「良いけど、どうしたの?」

 

「少し言いにくい事だけど、しばらくの間……ここで待っていて欲しい。ここからは一人で行動させてくれないか?」

 

「──」

 

 ここでヒロトとお別れだなんて、びっくりしたって言うか、ちょっとだけショックかもで。

 

「ごめん。やっぱりショックだと思うけど、ちゃんと戻って来るから。

 だから──」

 

「ううん、いいよ。本当はちょっと寂しいけど……だってヒロトが言う事だもん、何か大切な事だって思うから」

 

 寂しいのはそうかもしれないけど、ヒロトもヒロトで何かあるかもだから。だから私はこう答えたの。

 彼は申し訳なさそうにしている感じだけど、でも返事は優しく返してくれた。

 

「ありがとう。……少しだけだから、どうか待っていて欲しい」

 

 ヒロトはもう一度、ごめんと謝るような感じで言うと、私に手を振って去って行ったの。私も同じように手を振って彼を見送って……でも。

 

 ──やっぱり、こう言うの寂しいな──

 

 

 

 

 ────

 

 ヒロトはネオトピアの街に一人行ってしまって、私は公園のベンチに座って戻って来るのを待っている。

 

「あっ、鳥だね」

 

 ぼんやり傍の大きな木を眺めると、その木の幹に白い鳥が留まっているのが見えた。ここは空気がいいし、天気もいいから。何だか朗らかな気分になれるんだ。だけど……。

 

「……ヒロト、会いたいな。」

 

 こうして、ヒロトがいないのって……やっぱり寂しいなって。

 恋人として付き合って、前よりも彼との距離も親密になって私も気づいたんだ。ヒロトの存在って、やっぱり私にとってずっと大きいんだって。

 まだ幼馴染みだった頃だったら私の傍にいなくても、見守っているだけでも良かったけど。でも今は──付き合って、こうしてヒロトと居られるのが、想ってってもらえるのが前よりもっと幸せだって感じていて。だけど…………。

 

 ──ヒロトと一緒にいてずっと幸せになった分、こうしていなくなった時には……逆に、ずっと寂しくなってしまう事もあるんだ──

 

 

 ううん、少し違うかも。

 本当はヒロトの事を昔から好きでいたから。幼い頃から頼りになって、優しい私のヒーローを。最初は憧れだったけど、いつからか誰より好きな人って気持ちになって。だからヒロトから貰ったものは全部、大切にしているんだ。──あの頃の事、彼の方はどれだけ覚えているか分からないけど、でも私はあの頃からずっと想っていたから。

 だから何処かで望んでいたと思うの。いつかヒロトが私を選んでくれたら、両想いになれて結ばれたい、想ってもらいたいって。それが叶ったから、こんなに満ち足りて幸せなんだと思うから。

 そして……寂しくなるのは。

 

 

 

 公園の木の幹に留まっていた白い鳥。私が見ている前で鳥は翼をはためかせて、空に飛び立って行ったの。

 さっきまでいた木は目もくれずに、そのまま青い──空の果てに。綺麗だって思った。でも同時に…………胸がぎゅっと強く締め付けられるくらいに苦しく、悲しく思えて。

 

 ──もしかすると、いつかヒロトの思いが変わってしまうかも。私の前からいなくなるかもしれないって、そう思ってしまうから。

 やっと手に入った二人でいる幸せがなくなるのが、怖いんだよ──

 

 ヒロトは優しい人だって分かるから。けど、たまに自信がなくなって不安になるの。

 やっぱり私とこうして付き合っているのも無理しているかもって、だからいつか……離れて行ってしまうかもしれないと。

 

 ──イヴさん。前にヒロトから話で聞いた、GBNで出会った大切な人。あの人の存在は、ずっと大きいと思うから。

 もしもイヴさんが今でも生きていたら、多分──

 

 ヒロトには二年前に出会ってGBNで大切な思い出を作った人……ELダイバーのイヴさんがいたの。だけどGBNを守るために彼女はいなくなってしまって、それから長い間ヒロトは苦しんでいたんだ。それだけ彼にとってかけがえのない人だったから。

 ──本当は、多分ヒロトの一番傍にいるのは私じゃなくて、そのイヴさんなんだって。いなくなった今でも、彼はイヴさんの事を忘れていないと思うから。

 だから、もしかすると、本当は今ヒロトとこうしているのが間違いだと──いつかそうなるかもしれないのが怖くて。そうなった時に私の傍から彼がいなくなるかもしれないと、別の誰かの所に行ってしまうかもしれないって、そう思ったりも。

  

 

 ……時々、ヒロトがいない時にそう考えてしまって、たまらなくなってしまうから。

 

 

 

 ──── 

 

「お待たせ、ヒナタ。待たせてすまない」

 

 そうして待ってしばらくすると、街の方からヒロトが戻って来たの。ほっと一安心して、私は呟いてしまった。

 

「……良かった、ヒロトが戻って来てくれて」

 

「あれ? 何か言ったか?」

 

「ううん。なんでも、ないよ」

 

 今呟いたのは、本当に大した事じゃないから。

 

 ──私ってば心配性かも、せっかくヒロトとこうしていられるのに変な事を考えてしまうなんて。でも、何だろう──

 

 今ヒロトと居られるのは嬉しいけど、まださっき思っていた事が少しだけ残っていた。心配したって……どうにもならないのに。

 

「一人で寂しい思いをさせたかもしれない。けど、せっかくだから秘密にしておきたかった。

 ……これからヒナタと行こうと思っている所と関係があるものだから」

 

「?」

 

 不思議な事を言うヒロト。彼の様子も、どうしてかドキドキと緊張しているみたいで。

 そんな風になるような事ってあったかな? 私はよく分からなくて変な気持ちになる。

 

「よく分からないかな? けどすぐに分ってくれると思う。だから──今からまた一緒に来て欲しい。

 それが今日ヒナタとGBNに来た、一番の目的だから」

 

 真っすぐと向けられるヒロトの目。どこに行くのか分からないけど、でも真剣な感じなのは分かるから。

 

「いいよヒロト。ならこれから二人でそこに、行こう!」

 

 それにしばらく一人で待っていたから、ヒロトとまた何処かに行けるのも嬉しいの。だから今はどこでだっていいの、彼と一緒なら。

 

「良かった、俺も安心だ。場所はネオトピアのエリア内で、ここからでも歩いて行けるくらい近い。

 ……けれどあと一つ頼み事がある。大したことでは無いと思うから、良ければ聞いてくれないか。さっきみたいに一人にさせるわけでもないから」

 

 またヒロトからのお願い事。気になったけど、もう一人で待たせることは無いって言ってたから。それならいいかなって思ったの。

 

「ヒロトがそう言うなら。今度はどんな、お願いかな?」

 

「続けて二度もすまない。頼む、その場所に着くまでは少しだけ──」

 

 

 

 ────

 

 私はヒロトに手を引かれて、どこかを歩いていたの。

 

「今歩いているのは、どんな所だろう?」

 

「ここは森の中の一本道。ネオトピアで言えば外れの場所で、周りにいるのは俺とヒナタだけだ」

 

「そっか、森の中を歩いているんだね。…………っとと」

 

 歩いていると足元でつまづいて、つい転びそうになる。だけどヒロトが私を、その前に受け止めてくれた。

 

「ありがと。おかげで、転ばなくて済んだよ」

 

「礼には及ばないさ。何しろ……俺の頼みでヒナタには目を閉じてもらっているせいだから」

 

 ヒロトの言う通り、実はここまで来るまでの間ずっと、目を閉じたまま歩いて来てたんだ。おかげで何も見えなくて、彼が優しく手を引いて案内しているから、歩いて進めるの。

 

「見えないで歩くのは大変だと思う。でも、もう後少しだからそれまで我慢して欲しい」

 

「うん。ヒロトはどこに連れて行ってくれるのかな……楽しみ」

 

 真っ暗だけど、こんなにワクワクするのは不思議な気分。

 そうしてヒロトと歩いて、握っている彼の手も……頼もしく思えるの。

 

 

 

 ヒロトの言うには森の中。その道を目を閉じて歩いて、しばらく経ったくらいに。

 さっきまで歩いていた彼が足を止めた。それから私に、こう言ったの。

 

「ヒナタ、もう目を開けても大丈夫だ」

 

 そっと、優しく言ってくれたヒロト。

 ようやく着いたみたい。でも何処なんだろう? ずっと目を閉じて連れて来られた場所、何だか緊張しちゃって。

 

「どうしたんだ? まだ目をつむったままで、何かあったか?」

 

「あはは、ちょっと緊張でドキドキしちゃって、期待で逆に目を開けるのが怖くて」

 

 私の言葉に、彼はちょっと可笑しそうな笑い声をこぼしたのが聞こえた。

 

「期待してくれて光栄だ。けど、俺はヒナタに見て貰いたいたくてここに来た。だから……目を開けて欲しいんだ」 

 

 ヒロトだって私を想って連れて来てくれたんだ。だから、ちゃんとしないと。

 

「うん。ならゆっくり、目を開けるね」

 

 緊張しながら、私はそっと目を開けるんだ。

 ようやく見た外の景色、目の前にある場所に私は……とくんと胸が高鳴ったの。だって……。

 

 

「ねぇヒロト、ここって──教会だよね」

 

 

 ヒロトが連れて来てくれた場所、そこは真っ白で小さな、森の中の教会だったの。

 上には十字架があって三角屋根、ステンドグラスもあって……教会のイメージそのままの建物が、私の目の前に。

 

「その通り。ここはネオトピアの森にある教会で、隠しスポット的な場所なんだ。

 小さいけど、可愛い建物だと思う。それに他に来る人も殆どいないから、ヒナタと過ごすのも良い所で…………何より」

 

 ヒロトは私の前に来て、教会を後ろにして正面から真剣に見つめるの。そして、まるで告白の時のような雰囲気で、彼は言ったんだ。

 

「教会に君と来たかった。俺とヒナタ──二人だけの結婚式を、GBNでしたかったから」

 

「──えっ」

 

 私との、結婚式って。そう言葉で言われて一瞬何が何だか分からなくなってしまう。

 

「もちろん本当の結婚式ではないけれど、GBNだからこそ出来る事だと思う。こうした形で俺の想いを伝える事が」

 

 ヒロトから言われはしたけど、でも、まだよく分かっていなかったの。

 

「あはは……でも結婚式だなんて、大袈裟だよ。それにいきなり過ぎてビックリで、私……」

 

 ヒロトとの結婚式、もちろん私にとっては凄く喜ぶべき事なんだ。だけど……いきなり結婚式なんてビックリ過ぎで、戸惑って。

 

「驚かせ過ぎたかもしれないな。けど、ヒナタに何かもっと伝えられたらって、俺なりにずっと考えてはいたから。

 この関係になってしばらく経った、だからこそ君に伝えたかった。ヒナタの恋人として今出来る一番の想いを」 

 

 だけどそう言う彼も、私と同じように緊張している感じで。それでも真っすぐ私を見てくれている。

 そんなヒロトの眼差しが──とても。

 

「それで、リアルでのデートで純白のウェディングドレスを見た時に、思いついたんだ。ヒナタの花嫁姿を見てみたい、君と……結婚式をGBNでしてみたいと。

 どうだろうか? ヒナタ、もし気に入ってくれたら……俺は」

 

 少し緊張しながら、彼は聞いたの。確かに驚いてしまったけど、私の答えはもちろん、一つに決まっているよ。

 

「とっても、嬉しいよ! ヒロトとの結婚式──まるで夢みたい!」

 

 ヒロトは喜んでいる私を見て安心したみたいで、それから笑顔を見せて優しく私の手をとったの。

 

「……喜んでくれて、本当に良かった。ごっこかもしれないけど、教会も、それに色々と用意もしてきたから。

 少し早い、二人きりの結婚式を始めよう」

 

 

 

 ────

 

 私達が入った教会。

 左右には椅子が幾つも並んでいて、真ん中の赤いカーペットの先の奥には小さな祭壇があって……普通ならあそこに神父さんがいて祈りを捧げたりするんだろうな。

 それに、今──

 

「お待たせ……似合うかな?」

 

「──」

 

 私はヒロトが買ってくれたウェディングドレスに着替えて、彼に姿をお披露目したの。

 ──さっきネオトピアの街に一人で行ったのも、ウェディングドレスを買いに行ってたからなんだって。待っていたのは寂しかったけど、この為だって分かったから。……それも嬉しくて。

 

「ボーっとして、どうかした? せっかくのウェディングドレス、ヒロトに綺麗だって──言って欲しいな」

 

 ヒロトが用意してくれた──純白のウェディングドレス。それはリアルでデートした時にヒロトと見たドレスとそっくりで、まるで花のようにひらひらした、綺麗で可愛い花嫁衣裳なの。

 こうしてウェディングドレスを着ている私……自分でも本当に夢みたいなの

  

「ヒナタの花嫁姿か。想像はしていたけど、それよりもずっと」 

 

「うん?」

 

 私の姿を見て、ヒロトは何か言おうとしたけど小さい声で、あまり聞き取れなかった。もう一声聞き直すと、彼は顔を赤くしながら……応えてくれた。

 

「ずっと綺麗で、それに最高に可愛い……俺の花嫁だ、ヒナタは」

 

 そう言ってくれた言葉、私はもちろん──。

 

「──幸せだな、花嫁衣裳になれたのも、褒めてくれた事だって、すごく!

 それに……ヒロトもタキシード姿で。こうして揃えてくれるなんて」

 

 ヒロトははにかんだ表情を、ちょっとだけ浮かべていたの。彼も今は、白いタキシードに……着替えていて。ウェディングドレスとタキシード、花嫁と──花婿さん、本当の結婚式みたい。

 

「そう、か? せっかくだからお揃いが良いと思って俺もタキシードを買ってみた。ここまでぴしっといたのは慣れてなくて、本当に似合ってるだろうか?」

 

 少しきついみたいで、襟元を軽く引っ張って広げながら彼は言ったの。そんなの、決まっているじゃない。

 

「とっても似合っているよ! タキシードを着ているヒロトも、凄く恰好いいから。

 さすが私のヒーローだね!」

 

 だって初めて見るから。白くてぴしっとしたタキシードを着た、ヒロトの姿。私の方こそ素敵で見とれてしまうくらいだから。そして彼は私の誉め言葉に、喜んでくれたはにかみ顔を見せてくれた。

 

「ありがとう、ヒナタ。だけどヒーローと言うのは、少し違う」

 

「えっ?」

 

 そっと、ヒロトは右横に並んで、手を差し伸べてくれた。

 

「今の俺はヒナタの──立派な花婿だ」

 

 そう言って向けてくれた、今度は頼もしい笑顔。私は……とくんと胸が高鳴って。

 

「──うん。私も、今日はヒロトの花嫁さんで。……本当に、いいんだよね」

 

 ドキドキしながら改めて聞いてみたの。ヒロトはそんな私に、もちろんって答えてくれた。

 

「当然だ。ヒナタだからこそ、俺はこうしたいから」

 

 そう言葉を交わして、教会の中で私たちは二人で、手と手を繋ぐの。 

 

 

 

 ────

 

 嬉しいな──こうして。

 ウェディングドレス姿の私と、そしてタキシードを着たヒロトと、二人で並んで教会の祭壇に続く赤いカーペット……バージンロードの上をゆっくりと歩いてゆく。

 

「最初は新郎新婦の入場、だよね。こうして二人で並んで、ゆっくり歩いて行くの」

 

 衣装も着替えて、結婚式を始めた私とヒロト。

 本当の結婚式みたいにバージンロードを歩きながら、すぐ傍の彼の横顔を私は眺めた。

 

「本当なら……音楽だとか、俺達の結婚式に来てくれた沢山の人が出迎えてくれるんだろうな。

 けれどヒナタと二人でするのも、とてもいい」

 

「うん。私達だけの、結婚式だもん」

 

 だけどちょっと想像してみるんだ。

 本当の結婚式はどんな感じだろうって、きっとヒロトの言うように綺麗な音楽が流れて、多くの人が拍手で出迎えてくれてお祝いしてくれるんだ。

 

 ──お友達や親せきの人たちもそうだけど、私とヒロトのお母さんやお父さんも。その時には、喜んでくれるかな──

 

「ヒナタに聞いてほしい。

 今はまだ違うけれど、俺が大人になった……その時には、今度は本当の結婚式をしたい」

 

 歩きながら、ふと彼がこんな事を言ったの。私はいきなりの告白にどきっと、ちょっとうつむいてしまう。

 

「──そう、なの?」

 

 うつむいたのはヒロトの顔が、つい見るのが気恥ずかしくなってしまったから。だけど彼は自信を持って続けてくれた。

 

「もちろんだ。でないと、こんな事は君と出来ないから。

 きっと……大人になったら同じように、今度はリアルで。今は真似事かもしれないけど、同時にいつかの本番前の──リハーサルみたいなもので」

 

 私は勇気を出して顔を上げると、そこには優しい表情をした彼が見つめ返してくれていた。

 

「これが俺の願いだ。本当の結婚は先かもしれない。気が早いかもしれないけれど、将来は立派な大人になってヒナタと結ばれて、一緒に素敵な家庭を築きたい。

 だから、もし同じ思いでいてくれたら…………凄く嬉しい」 

 

 嬉しいって、ヒロトは言ってくれた。だけど私だってもっと、ずっと──嬉しいんだよ。

 

「もちろんだよ。恥ずかしくて言い出せなかったけど、本当はね、お嫁さんになりたいって……心から思ってたの。

 デートでウェディングドレスを見た時も、あんな風に白い花嫁衣装で、一番大切に想っている人と──こうして」

 

 朗らかな顔になった私は、得意げにそんな表情を彼に向けたの。

 

「そんなヒロトのお嫁さんに。……私も夢に思ってたから!」

 

 

 

 そうしてバージンロードの先、私たち二人は祭壇の前に辿り着いたんだ。

 私と、ヒロト。互いに向かい合って……。

「ここまで、ようやく来れた」

 

「……うん」

 

 実際だったら神父さんがここにいたりなんだろうけど。彼もちょっと緊張しながら、言ったの。

 

「神父さまもいないけれど、ここで俺達は──互いに誓いの言葉を言おう」

 

 誓いの言葉、みんなの前でお互いの愛を誓う、そんな大切な言葉で。

 

「私たちの、告白だよね。本当なら沢山の人の前で。その時になったら、ちゃんと言えるかな?」

 

 少し心配になったけど、ヒロトは両手をそっと優しく、私の肩に置いてはげましてくれたの。

 

 

「言えるさ、ヒナタなら。その時にはきっと」

 

「そうかな? ……だったらいいな、私」

 

「だからこそ今、こうして結婚式をしているのもあるから。まずはここで、一緒にやってみよう」

 

 まだちょっと心配な私に、彼は微笑みかけて一歩、二歩、近くに寄ってくれたんだ。互いにすぐ傍までの距離でそして、改まって真面目な表情で、口を開いたんだ。

 

「まずは、俺から誓いの言葉を言わせてくれないか。

 俺は──クガ・ヒロトはムカイ・ヒナタをこれから先、病める時も、健やかなる時も、生涯愛し続ける事をここに誓う」

 

 結婚式でイメージする誓いの言葉。

 ……本当に、ヒロトは私にこう言ってくれたの。それに彼は、今度は真面目な表情を優しく緩めて、続けてくれた。

 

「……結婚してないから、まだ妻としてではないけれど。だけど俺が愛していると言う想いは本気だ。──誰よりも、ヒナタを」

 

「そうなの……ヒロト?」

 

「──ああ。

 長い間、ヒナタとの思い出も、いつも君がいるのをどこか当たり前に思ってしまっいた。だから君の事より、別の事ばかり優先していた所もあった。……どこかで寂しい思いをさせてしまった。

 だけど、今はヒナタと過ごした日常や、それに君の想いがどれだけ大切だって気が付いたから。……過去の事は過去で、もちろん大事な物だとは思う。だけどその面影を追うのは、もう止めた」

 

 ヒロトが言ったのと同時だったの。彼はドレス姿の私の身体を両手で引き寄せて、抱きしめた。

 優しくだけど、強く私を……抱いてくれて。

 

「これから先はずっとヒナタの、誰より傍にいたいから。離れたりなんてしない、同じように……いや、それ以上に君の事を想う。

 俺はヒナタと幸せになりたい。一生かけて君を──幸せにしたい。それが俺の誓いの言葉だ」

 

 

 

 ……心のどこかで怖く思っていた。いつかヒロトの想いが変わってしまうかもしれない、そして、私の前からいなくなるかもって。 

 だけど彼は誓いの言葉を、ずっと傍にいたいと、一生幸せにしたいって言ってくれたから。

 

「ヒロト、本当に……そう誓ってくれるの?」

 

 凄くドキドキ、半分期待して……半分怖く思いながら私は聞いたの。そんな私にヒロトは、安心させるように優しく応えてくれた。

 

「──ああ。長い間傍にいたのに、遅くなってしまった答えだけれど、心に決めた事だ。今度は前の告白よりも大事な事だからこそ伝えたかった。

 もちろん何度だって誓う。ヒナタ、俺はこの先もずっと愛している……君と一緒だ」

 

 そう言って──くれたんだ。

 ヒロトがこんなに想っていてくれた。私は、心の中がはち切れそうになって。

 

「おっと」

 

 今度は私からもヒロトを、ぎゅっと抱きしめたの。 

 

「ふふっ。ヒナタがこんなに強く抱きしめるなんて、驚いた」

 

 彼の肩に顔をうずめたまま。私は今、自分の思いを正直に……言葉にする。

 

「当たり前だよ。だって、あんなに誓ってくれたから。

 ……本当はね、私もヒロトがもしそう想ってくれたらって、きっと何処かで願っていたから。だから、今胸の中がこんなに暖かくて、自分でも凄く喜んでいるんだって……分かるの」

 

 しばらく互いに抱き合ったままで。

 そして、満足してからそれぞれ手を離して、また見つめ合うの。

 

「俺の想い、これでヒナタに伝えられただろうか?」

 

「うん。とっても──それに」

 

 私はヒロトに、こう続けたんだ

 

「今度は私も誓っていい? だってまだ、言ってなかったから」

 

「大丈夫だ。ヒナタからの言葉も、俺は聞きたい」

 

 彼の言葉に安心して、一息ついてから私は……誓いの言葉を。

 

「私──ムカイ・ヒナタもクガ・ヒロトをこれからも、どんな時でも一生愛して支えると、ここに誓います」

 

 ヒロトに言えた誓いの言葉、自分でもそれが言えたのが嬉しくて、だからつい思いっきり笑ってしまう。

 

「……やっと言えたよ。この言葉が言えて、とても幸せな気分なの。

 だってヒロトの事、ずっと、ずっと愛していたから!」

 

 私の言葉に彼は微笑んだの。そしてポケットから黒い小箱を、取り出してみせて。

 

「ドレスもだけど──君のためにこれも用意した。結婚式にはきっと欠かせない物だ……互いに愛し合う、二人にとっても」

 

 開けた小箱の中にはきらりと輝いている指輪が二つ。それは結婚指輪だって、すぐに分ったの。私は──感激しちゃって。

 

「指輪まで、こうして持って来てくれたんだ!」

 

「そんなに喜んで貰えると、俺も嬉しい。……GBNでこんな風に結婚式をするのは俺にとっても特別だから、指輪も一緒にと思った」

 

 話しながらヒロトは小箱を祭壇に置いて、中から指輪を一つ、そっと手にとったの。

 

「ヒナタ、左手を出してくれないか。指輪は直接渡すものだから」

 

「うん──お願い、ヒロト」

 

 自分でも胸が高鳴るのを感じながら、私は彼に左手を差し出した。

 

「こうして見るとヒナタの手や指、すらりとして……綺麗だ」

 

「何だか照れちゃうよ。こんな風にヒロトが言うなんて。でも、とっても良い気持ち」

 

「光栄だよ。じゃあ指に、そのまま」

 

 ヒロトは左手をそっと添えて、右手で丁寧に私の薬指に指輪を、はめたの。

 

 

 

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「──わぁ」 

 

 薬指できらきらと輝いている、ヒロトからの結婚指輪。自分の指にこうして彼との指輪を付けているなんて、そう考えただけで嬉しくて、幸せで……喜びで一杯で。

 

「そこまで喜んでくれるなんて、見ていて俺まで、気持ちが良いくらいだ」

 

「当たり前だよ。だってヒロトからの、結婚指輪だもん。喜んで──当たり前だから」

 

「本当にヒナタは……俺の事を」

 

 そう言うとヒロトも笑顔で、そして──。

 

「今度はヒナタが俺の指に、指輪をはめてくれないだろうか? 同じように君の手で」

 

 さっきの私のように、手を差し伸ばすヒロト。

 もちろん。私は祭壇に置いてあった小箱、そこに残っていたもう一つの指輪を手にとった。それから優しく……でもちょっとドキドキしながら私は、ヒロトの指に結婚指輪をはめたんだ。

 

「──」

 

 私と同じ指輪をはめた、彼の左手の薬指。その手を目の前に持って来て、ヒロトは自分でもよく眺めて……それから表情を緩めたの。

 

「自分でも……よく似合うと思う。俺と、そしてヒナタだけの大切な指輪だ」

 

「うん。私たち二人の、大事な。この指輪はGBNでの、きっと宝物だから」

 

 これで二人でお揃いだね。それに、こうした後は……きっと。

 

「──ヒロト」

 

 私の方から、両手をヒロトの首後ろに回して、彼を抱き寄せた。

 

「指輪だって交換したから、後はこれだよね。……誓いの口づけ、それも一緒にしたいの」

 

 自分でもちょっと強引かもって思ったけど。でもこの今だから、想いを一杯に伝えたかったの。

 ヒロトは、私の想いに真摯に応えてくれた。

 

「もちろん。二人の想いを伝え合う、結婚式で一番の事だから。そして……俺にとっても」

 

 彼とそして私、結婚式の誓いの口づけをしようと、一番に想いを伝え合おうとするの。

 そして口づけする前に私は、もう一度ヒロトに告白するんだ。

 

「ヒロト、これからもずっと一緒に……いようね 

 

 私の言葉にヒロトもすぐ目の前で、優しい眼差しで見つめ返してくれて。

 

「ああ。──約束だ」

 

 その言葉が聞けて、良かった。

 とても幸せな思いを胸の奥にに感じながら。私は愛しているって気持ちを、口づけでヒロトに伝えたんだ。

 

 

 本当に幸福感で満ち足りた、そんな瞬間で。

 

 

 

 

 

 

 ──── 

 

 ────

 

「ん──っ」

 

 まだ眠気が残っている中、私はベッドで目を覚ましたの。目をこすりながら、起きたばかりの頭をはっきりさせて。

 

 ──ちょっとだけ眠いかも。でも気持ち良く、眠れたな。とっても──

 

 睡眠もだけど、眠っている間に見た……夢も。その事を思い出しながら私は、左手の薬指にはまっている婚約指輪を眺めて、一人微笑んだの。

 それから、一緒のベッドでまだ眠っているヒロトにも。

 

「……ふふっ」

 

 こっちに向けて気持ちよさそうに眠っている彼の寝顔。見ていると何だか、ほっこりするの。

 

 ──でも起こすのは悪いよね。せっかく、こんなに気持ち良さそうに寝ているもん──

 

 だから、私はヒロトを起こさないようにゆっくりベッドから降りて、朝の支度をしに行くんだ。

 

 

 

 ────

 

 朝起きた私は着替えて、朝支度を整えている所。

 今はキッチンで、私は朝食を作っている最中で。

 

 ──卵焼きは、やっぱり朝ごはんの定番だよね。それに温かいお味噌汁も欠かせないもの──

 

 こうして料理するのも楽しいの。私とヒロトの朝ごはんをこうして、今は──二人分の。

 それに今日は彼がお仕事だから、お弁当も先に作ったんだ。傍のテーブルにはそのお弁当箱も。もちろん、腕によりをかけて愛情もたっぷり込めた……お弁当。ヒロトがお腹空いても大丈夫なように、沢山作ったの。

 

 ──お弁当も美味しく食べてくれたら、嬉しいな──

 

 私が作ったお弁当、ヒロトはいつも全部食べてくれて、帰って来たら美味しかったって伝えてくれるの。昨日のお弁当の時には、和風ハンバーグがお気に入りだって言ってくれたっけ。

 

「おはよう、ヒナタ」

 

 そうしていると、いきなり後ろから声がしたの。振り返るとすぐそこにヒロトがいて……驚いちゃったんだ。

 

「あっ!? おはよう! 早起きで驚いちゃった」

 

「驚かせてごめん。つい、キッチンから良い匂いがしたから起きてしまった」

 

「……なら謝るのは私だよ。せっかく寝ていたのに、起こしちゃったから」

 

 あはは……料理の匂いで起こしちゃうなんて。だけどヒロトは気にしない様子で、傍に来てそっと身体を抱き寄せてくれたの。

 朝から彼とくっついて、何だかドキドキだな。

 

「そんな事ない。むしろ今日の料理当番は俺なのに、作ってくれて感謝している。

 俺より先に起きて……その、申し訳ない」

 

 そう言って少しばつが悪い様子のヒロトだったけど、私はゆっくり首を横に振って、彼に微笑むの。

 

「ううん。今日は私が、そうしたいって思ったから。

 いつもより早起きして、支度をして。その方が……少しでもヒロトと一緒にいられるから」

 

「──ヒナタ」

 

「それにね、ほら、もうすぐ朝ごはんも出来るから一緒に食べよう。私はヒロトと過ごす時間が一番、大好きだから」

 

 もうご飯が出来るから。だから今日も……一緒に、ね。

 

 

 

 それから朝ごはんを用意して、ヒロトと一緒に食べる私。

 ニュースの事や最近の事、他愛のない話をしながらの時間。心地が良いんだ。

 

「うん、やっぱりヒナタが作る朝ごはんはとても美味しい。この卵焼きは……もしかしてだし巻き卵か?」

 

「正解! 使っただしもこの前スーパーで売っていたから。だからチャレンジしてみたんだ、気に入ってくれた?」

 

「当然、気に入ったとも。……ところで」

 

 ヒロトは不思議そうな感じをして、私にこう聞いたの。

 

「今日のヒナタは、朝からいつもと気分が良さそうに見える。何かあったのか?」

 

 気分が良さそうだって。ふふっ、確かにその通り。私はヒロトに笑顔でこたえたの。

 

「うん! 今日はとっても良い夢が見れたから。……私とヒロトとの、結婚式の時の夢を」

 

「結婚式、か」

 

 彼もそれを聞いて、懐かしそうな表情を浮かべる。

 

「ヒナタが夢に見た結婚式、どっちの方の結婚式だったんだ? 大人になってからの正式な結婚式か、それとも……」

 

「ほら、学生の頃GBNで一緒にした結婚式の方だよ。ヒロトが連れて来てくれた教会での──二人だけの結婚式。

 ……もちろん、それから大人になった後の結婚式も大切な思い出だけど」

 

 思い出すだけでも懐かしくて、幸せな気持ちになる。

 私はヒロトと幼馴染で、それから恋人として学生の間過ごしてから……大人になって正式に結婚、晴れて夫婦になったんだ。

 彼も会社員に勤めて働いてくれているけど、私も看護師として働いてるの。ヒロトは大丈夫って言ってたけど、元々医療関係の仕事がしたかったのもあるし、これからの貯金も多い方がいいもん。共働きだけど、家事も彼が手伝ってくれて助かっているし、やっぱり私のヒーローなんだ──ヒロトは。

 そんな彼の左手の薬指にも、私と同じ結婚指輪がきらりと輝くのが見えるの。それが見えて私はまた、嬉しくて微笑んでしまう。

 

「その時のGBNでの思い出、俺もよく覚えている。デート中に見たウェディングドレスがきっかけで、しようと思った結婚式。まだ学生なのに、自分でもよく頑張れたと思う。ドレスや指輪までも、用意までして。

 もしかするとやり過ぎで、ヒナタに引かれたらどうしようかって、あの時は内心ドキドキしていた」

 

「ふふふっ、そんな風に思ってたんだ。でも私はヒロトがああしてくれて、凄く嬉しかったんだよ」

 

「もちろん。あの時のヒナタが喜んでくれていたから、俺も良かったと思っている。

 それに二人だけの結婚式で誓った事は、大切な事だから。これからもヒナタと一緒に幸せになりたいって……その思いは今でも同じだ」

 

 優しく話すヒロト。それから、私にこう続けたの。

 

「あのさ、俺はヒナタの事を幸せに──出来ているだろうか?」 

 

 改めて気になるみたいな彼の言葉。

 

 ──そんなの、当然だよ──

 

 私はにっこりと満面の笑顔で、答えたの。

 

「もちろんだよ! 私はヒロトとこうして傍にいられて、幸せだから」

 

 これが心からの、私の気持ち。

 ヒロトはそんな私を見つめて、にこっと微笑み返して。

 

「そうか──なら良かった。ヒナタが幸せでいてくれるのなら」

 

 

 朝から私とヒロト、二人で笑い合えるいつものこの日常。それがたまらなく私は……好きなの。

 

 

 ────

 

 

【挿絵表示】

 

 

「じゃあ、行って来るよ」

 

 朝ごはんを食べて、支度を済ませたヒロトは仕事へと行こうと、玄関に出ていたの。

 ……彼とお別れするのは少し寂しいけど、でも仕事だから仕方ないよね。

 それにヒロトは真っすぐ帰って来てくれて、早い帰りが多いんだ。私も仕事の日もあるけど、それでも仕事帰りの夜や休みの日を合わせたりして、共働きでも二人で一緒に過ごす時間は多いの。

 先週の休みには二人で温泉旅行にも行って、温泉に浸かってリラックスも出来たり。……休みが一緒の時にはそう過ごすのも、よくやっているんだ。

 

「うん! ヒロトもお仕事を頑張ってね。それと、ね」

 

 それに今日は、大切な日でもあるんだ。ヒロトも覚えくれていたらいいけど。

 だけどそんな心配は要らなかったみたい。彼は当然と言った感じで、答えてくれたの。

 

「もちろん。今日はヒナタとの結婚記念日だ、忘れてなんていないよ。いつもより早く仕事を終わらせて、君の元にすぐ戻って来る」

 

 今日は二人の……結婚記念日。そんな特別な日、ヒロトも覚えていてくれたんだ。

 

「良かった、ちゃんと覚えてくれて!

もう一周年なんだよね。ヒロトと、ずっと大切だった人とこうして結ばれて。……とても幸せなの」

 

「俺もだ、ヒナタ。君は俺にとっても、今は何より大切な──」

 

 彼は私の両肩にそっと手を置くと、顔を近づけて優しく、口づけをしてくれたの。

 

「……これで元気も十分貰った。きっと今日も、仕事も頑張れる」

 

 お出かけ前のキス、今日はヒロトからして貰っちゃった。私もほんわりと暖かい気持ちで一杯で。

 

「ヒロトを元気に出来たかな? なら私も嬉しいよ、今日は私は休みだから帰って来るのを待ってるから。

 結婚記念日だもん、帰って来たらちょっとしたパーティーでも開こう? いつもより豪華な夜ご飯を作って、ケーキを用意して……私は待っているね」

 

「パーティーか! それならなおさら早く帰って来ないとだな。

 夜ご飯は、もし良かったらハンバーグに、後はコロッケが食べたい。ヒナタが作ってくれるコロッケは特に絶品だから」

 

「うん! ならハンバーグに、コロッケも沢山作って待ってるからね。

 ……ねぇ、時間があったらガンプラも作りたいな。昨日二人で作ったフリーダムガンダムも途中だったから、今日こそ完成させたいの」

 

 大人になってからも、私たちがガンダムや……ガンプラが好きなのは変わらないの。ガンプラも時間を見つけて一緒に作ったりで。……もう自分一人でも作れるくらいにはなったけど、やっぱりヒロトと二人で作るのが好きなんだ。

 

「分かった。なら後でフリーダムガンダムの続きも作ろう。

 それに、いつか……今はヒナタのお腹にいる、俺達の子どもと一緒にガンプラを作れたらいいな」

 

 

 

 私は改めてどきっと、頬が熱くなって赤くなるのを感じてしまう。

 

 実はね……まだ生まれてないけど私とヒロトの間には、子どもが出来たんだ。妊娠を知ったのは最近でお腹もまだ膨らんでいないけれど、でも数か月もしたら会えるんだ。とっても……楽しみで。

 

「きっと、子どもが生まれて成長したら、色々と教えてあげられたらいいね。

 ガンプラもだけど、ガンダム作品の事とかもたくさん。その時にはヒロトも頼れるお父さんとして……ね」

 

「お父さん、か。今からでも何だかこそばゆく思ってしまうな。ちゃんと立派な父親として、ちゃんとやって行けるだろうか?」

 

 そのうち私たちも、お父さんとお母さんに。まだ少し先の事だけどヒロトの心配も分かるし、私も良いお母さんになってあげられるかなって気になったりもしちゃう。

 でも、だからこそ私は前向きに、こう言うんだ。

 

「やれるよ! ──私たち二人なら」

 

 ヒロトもそれを聞いて、和らいだ良い表情になったの。

 

「ああ。……俺たちはこれからも、良い家庭を築いていこう」

 

 それから、彼は急にはっとした表情に変わって、私にこう話した。

 

「──っと! 話に夢中になってしまったな。俺は今度こそ仕事に行かないと、本当に遅れてしまうから」

  

「あっ……つい話しすぎちゃったかも。引き留めちゃったみたいで、ごめんね」

 

「ううん、俺もヒナタと話していて楽しかったから。お仕事頑張って来てね、それと──」

 

 私は上半身をヒロトに近づけて、それに右手で軽く彼のネクタイを引いて引き寄せると、その左頬っぺたにキスをしたんだ。

 それから彼ににこっと笑って。

 

「行ってらっしゃいの──キス。今度は私から、したかったから」

 

 まさか続けてされると思ってなかったのかな。ヒロトはぽっと少し顔が赤くなって、でも照れ笑いを見せてくれた。

 

「ふふっ、朝から二回もヒナタとキス出来るなんて……やっぱり今日は良い日だ」

 

「だって、結婚記念日だからね。帰って来たらもっと二人で一緒に過ごそう!」

 

 彼は迷わずにうんと頷いて、真っすぐ答えたの。

 

「もちろん。話の続きも後でしよう、俺も楽しみだ!

 ……じゃあ行って来る。ヒナタと記念日を過ごすために、いつも以上に仕事を頑張らないとな」

 

 

 

 ヒロトは家を出て、仕事に行ったの。

 彼の姿が見えなくなるまで見送って、それから一人、満足そうに空を見上げた。

 澄み渡った──綺麗な青空。日差しも暖かく、心地がいいの。

 

 ──良い天気、洗濯物を干すには丁度いいかも。毛布も一緒に干そうかな──

 

 洗濯日和って感じのいい天気。それに干している間、買い物にも行こうかな?

 冷蔵庫の中も少ないし、石鹸やシャンプーも減っていたから。それに……。

 

 ──結婚記念日のパーティーだって準備もしないと。いつもより美味しい料理も、ヒロトのために作りたいから──

 

 やっぱり良いな。ヒロトの一番傍にいられる、今の生活。

 もちろん仕事もあるから、いつも一緒ではないけど。でも私たちはちゃんと繋がっているんだって確かに感じられるんだ。

 

「……ありがとう、ヒロト」

 

 私はそう一人呟いたの。

 傍にいてくれて──想ってくれて。ヒロトがあんなに愛してくれる事が、今でも変わらずとても嬉しいの。

 

 ──幸せものだよね、私って。だからこそヒロトも幸せにしたいんだ、それこそ一緒に──

 

 だって私はヒロトの、奥さんだもん。奥さんとして……これからも彼を支えてあげたいんだ。もちろんいつか母親として、これから生まれる子どもの事も。

 

 ──だから私も頑張らないと。これからだもん、私たちは──

 

 私の心も、外の天気と同じように晴れ渡っているって。

 何だかとっても──そんな感じなんだ!

 

 


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