ペロロンチーノは念のため、ジルクニフがくれたどこぞの民芸品と思わしき仮面をかぶる。多少派手な仮面でその造形は鳥の顔をかたどったものであった。たしかにこれなら見つかっても、顔はわからないだろう。変態におもわれる危険性もあるが。
そして鷹の目を使って音の出どころを探るが、思いのほか早く見つけることができた。
裏路地の一部を塞ぐように止められた馬車。家紋は外されているが、その持ち主が貴族であることは丸わかりだ。
「いや! 家にかえ……」
「やっと捕まえたぞ」
馬車の上に御者が一人。路地には女性が一人。その女性を取り押さえる男が一人と、貴族っぽいいい服を着た男が一人。あと護衛か同行者とおもわしき男が一人。どうやら馬車の扉が開いていることから、女性をそのまま誘拐でもしようというのだろうか?
周りには、人だかりはできておらず、むしろ蜘蛛の子を散らすように人が離れていく。みるからに貴族による面倒ごと。一般人ならある意味で自衛として正解だろう。
「エロゲー イズ マイライフだが、リアルで凌辱モノは胸糞悪い」
そういうと、屋根の上から右手を伸ばす。その手には小さな銅貨が握られている。
見れば女性が口を布か何かで覆われ、馬車にひきずられていく。
――ライトニング・ウェポン
――武技:剛撃
そして雷光をまとった銅貨は、ペロロンチーノのタレントと武技で強化されて普通ではありえない射程を飛び越え、男たちの頭に炸裂する。
「がっ」
口々に悲鳴を上げるも、急所に雷属性の攻撃を受ければどうなるか?
一般人であれば失神する。下手すれば即死であろうが、その辺りはペロロンチーノのタレントによる妙技ともいえる加減がされていた。
女性も何があったかわからない風だったが、しばらくすると我に返り逃げ出す。ペロロンチーノはそれを見送ると、急ぎ親友の下へ戻るのだった。
***
屋敷に帰り、夕食のあとペロロンチーノはジルクニフに呼ばれ、彼の私室を訪れていた。
開け放たれた窓から、気持ちの良い夜風がはいってくる。ジルクニフはペロロンチーノを迎えいれると、ワインを注ぎ一口飲む。ペロロンチーノも促されるままワインを口にする。
「女性を誘拐しようとしたのはサルト男爵の嫡子。相手は一般人、少々有名な商家の娘のようだが、無事に家にかえることができたようだ」
ジルクニフは、指示をだし調べさせた情報を教える。女性が帰れたことに、ペロロンチーノは安堵の表情を浮かべるのだった。
「ペロ。あのような場を見たのははじめてか?」
「話は聞いたことあったが、出くわしたのは初めてだ」
ジルクニフの言うように、今回のような現場に出くわしたのは初めてだった。ヘッセン領ではそもそもこんな話を聞いたこともなく、学院では風の噂程度だった。
しかし自分がそんなに潔癖症だとはおもっていなかったのだが、実際に目にすると嫌悪感で押しつぶされそうになり行動を起こしてしまった。
貴族の行動への嫌悪。だがそれだけではない。一般人の行動もしょうがないと理解することはできるが、そんな行動ができるぐらいに、今回のようなことは日常的に発生していること。その事実に考えが及んだ時やるせないものを感じた。
「なあジル。お前はこんな経験はあるのか?」
「ある」
ジルクニフはペロロンチーノの言葉に、あっさりと答える。いや、形こそ変わるだろうが、貴族に囲まれて過ごしてきたのだ。大っぴらにされるようなものではないだろうが、そんな現場や痕跡を見たことがあるのだろう。
気が付けばジルクニフは、ペロロンチーノをまっすぐにみている。
「ペロ。なぜこんなことが起こると思う?」
「それは……」
ジルクニフの問いに、ペロロンチーノは考えてしまう。
ペロロンチーノは考える。しかしいくつもの原因や方法論は浮かぶが、これと特定することはできない。
「法とそれを正しく執行するもの。そして平等な裁判。それを妨げるのは無能と欲深いものだ。だいたいこれで大方の問題は片付く」
ジルクニフは言い切る。ペロロンチーノも、反論はあるが、たしかに大方の問題が解決するだろう。
「ペロロンチーノ。私と共に来い」
「ジルといっしょに」
「そうだ。この帝国を立て直そう。一人でも多くの人を助けるために」
そういうとジルクニフはワインを置き、ペロロンチーノに手を伸ばす。
――そう。この手を取り、帝国を立て直そう
そう言っているのだ。
ペロロンチーノは息をのみ、ジルクニフを見る。その顔には普段親友として話す笑みなど一切なく、真剣な表情であった。
ペロロンチーノは一度目を閉じ、ゆっくりと一呼吸する。
「ああ」
ペロロンチーノは、ジルクニフの手を取るのだった。