鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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鼓屋敷

珠世たちが隠れていた屋敷を去った後……

 

「炭治郎、また一段と成長していたわね! ヒノカミ神楽もきちんとモノになっているわよ!」

 

「ありがとうございます! 大分ヒノカミ神楽が剣に馴染んできました。これもカナエさんのお陰です! ありがとうございます!」

 

「それにしてもヒノカミ神楽、日の呼吸という立派な呼吸だったのね……。しかも初めての呼吸法で、しかも鬼無辻を追い詰めている。もし炭治郎がヒノカミ神楽を日の呼吸として受け継ぐことができたら、始まりの剣士以来の日の呼吸の使い手となるわね!」

 

「はい! 俺、縁壱様の遺志を継ぎ、絶対に鬼無辻を倒してみせます!」

 

「うん! そのためにもまずは軽く柱くらいの力量になってもらった上で最終戦別を突破しなければならないけど、炭治郎なら近いうちにその領域になれるわ!」

 

「いやいや。カナエさんに比べたら俺なんか」

 

カナエの剣技を目にして、如何に自分が未熟か感じさせられる。

 

「蝶屋敷に戻ったら修行は一段と割り増しにするからね。覚悟しといてね」

 

「はい!」

 

「それと、珠世様に年齢を聞いていたけど、女性に年齢を聞くのは失礼だから、気を付けて欲しいわ。それと炭治郎、珠世さんに抱き着かれていたけど、炭治郎はまだ修行中の身。女性と関わりを持つのは慎重にして欲しいわ」

 

「いや、あれは珠世様に突然、抱き着かれただけで、俺の意思ではありません!」

 

炭治郎は色をなして反論する。

 

「ふふふっ。冗談よ」

 

カナエは笑ってみせた。炭治郎は今日もカナエのペースに乗せられているのだった。

 

しかし炭治郎は蝶屋敷に戻った後、姉妹たちに更に振り回されることとなった。

 

「炭治郎。ちょっといいですか?」

 

しのぶが満面の笑みを浮かべている。しかし、怒りの匂いしかしない……。

 

「はい」

 

炭治郎は一室に連れられ、正座させられた。

 

「いくつか確認したいことがあります。まず鬼無辻無惨と遭遇して、姉さんが止めるのも聞かずに飛び出したんですって?」

 

うわ……。カナエさん、しのぶさんに話してしまったか……。

 

「はい。でも、それは鬼無辻が俺の……」

 

「言い訳は無用です」

 

しのぶは笑顔でピシャリと言った。

 

「私、言いましたよね? 姉さんを困らせたら許しませんよって。それに炭治郎はまだ鬼殺隊士ではない。

鬼無辻が相手の場合、本来であれば殺されていたのかも知れないですよ? それに鬼の珠世さんと抱いたんですって? 説明してください!」

 

この調子で、しのぶからは一時間ほど説教され、その後アオイが眉間に皺を寄せて入ってきて更に三十分ほど説教されてしまった。

 

炭治郎はそれから、毎日、走り込み、カナエとの稽古、ヒノカミ神楽の練習に加え、しのぶとの稽古とカナヲとの身体訓練を行った。

 

しのぶとの稽古では……

 

「蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き!」

 

「ヒノカミ神楽 円舞!」

 

「遅いですね~、炭治郎。そんなんでよく姉さんの業務命令に逆らえましたね~!」

 

笑顔でグサグサ来る。

 

しのぶの武器は「速さ」。「姉さんを困らせた罰」として容赦ないスピードで襲ってくるから、炭治郎としても常に気が抜けなかった。

 

カナヲとの身体訓練では、道場でカナヲと鬼ごっこをするのだが、カナヲもカナヲで速くすばしっこくてなかなか捕まえることができない。

 

過酷さがパワーアップした修行を三ヶ月ほどこなしてようやくしのぶやカナヲの速さについていけるか?となった頃、カナエに新たな任務が舞い込んできたため、同行することとなった。相変わらずカナエの部屋で眠ったままの禰豆子は置いて。

 

場所は屋敷で、元十二鬼月によって稀血の人間が囚われている、とのことだった。

 

問題の屋敷の前に着くと、男子と女子が抱き合った状態で怯えていた。

 

「あら、どうしたのかしら?」

 

カナエは彼らの背丈に合わせて屈み、優しく訊ねる。

 

「ば、化け物の、家だ……。夜道を歩いていたら、お兄ちゃんがだけが連れて行かれたんだ……」

 

凛とした大和撫子に安心したのか、男の子は泣きながらそう言った。

 

「あの屋敷に?」

 

炭治郎が聞く。

 

「はい……」

 

「安心して」

 

カナエはそう言って男子と幼い女子の肩に両手を乗せた。

 

「お姉さんたちがその化け物たちをやっつけてお兄さんも連れ戻すから、あなたたちはここで待ってて」

 

幼子たちは何とか頷くと、カナエに促され、二人は屋敷に足を踏み入れた。

 

廊下が続いており、取り敢えず炭治郎たちは近くの和室に入った。

 

その時だ。

 

ポン!

 

鼓の音と共に部屋が変わった。

 

ポン!

 

また変わる。

 

「なるほど。ここの鬼は鼓を叩くと人を別の部屋に移動させられる血鬼術を操っているのね」

 

カナエが呟く。

 

「炭治郎、私から離れないでね」

 

「はい!」

 

カナエも炭治郎も刀に手を掛けて備える。と、その時、手書きの原稿用紙が落ちており……

 

「あら、原稿用紙ね」

 

カナエは一枚を手にとって読んでいると……

 

「おお! うまそうな子供と女だ! 舌触りが良さそうだ!」

 

足が四本の鬼がのしのしと和室に登ってきた。

 

ヒノカミ神楽 烈日紅鏡

 

カナエが日輪刀を振るう前に炭治郎が一閃し、鬼を灰にしてしまった。

 

「ありがとう! 炭治郎」

 

「いえいえ」

 

「それにしてもここの鬼、人間時代は作家だったのかな~」

 

「そういうことなのですかね」

 

再び鼓の音がし、部屋がポンポン変わり、ついにその鬼は正体を現した。

 

長髪で、図体の大きい身体には鼓を三個つけている。そして片目には「下陸」の文字の上に×が。元下弦の陸、ということだ。

 

「虫め……消えろ……虫め……」

 

呪詛のように言葉を述べている。

 

「あなたは小説家だったのですか?」

 

「消えろ!」

 

鬼は鼓を更に叩いた。

 

「あらあら。私、あなたの小説をきちんと読みたいの。まだ一枚しか読んでいなかったけど、とても興味深かったわ!」

 

「……」

 

鬼は鼓を叩くのをやめた。そして……

 

「小生の小説、面白そうか?」

 

静かに聞いてきた。炭治郎はあっさりと対話に応じてくれたことに一瞬、啞然としたが、すぐにこの鬼は人間時代をはっきりと覚えているんだと確信した。

 

「ええ。最初から最後まで読んでみたい! その鼓で原稿のある部屋まで案内してくれないかしら?」

 

カナエは穏やかな笑みで問い掛ける。

 

「読んでくれるのか!」

 

「ええ。その代わり、読んでいる間は邪魔しないでね?」

 

鬼が鼓を一回、叩くと書斎の部屋になった。その部屋は机が置かれ、原稿用紙が机に畳に散乱している。

 

「炭治郎、読書の邪魔しないよう見張ってて。人間時代、小説家だった彼なら読書を邪魔される時の気持ちはわかると思うけどね」

 

「はい!」

 

そう言って鬼を見ると、鬼はカナエを驚きの眼差しで見つめていた。

 

「あっ、立っているのも何だし座ったら?」

 

カナエが再び声を掛けると、鬼は素直に従った。

 

その後も炭治郎は匂いを研ぎ澄まして鬼を監視したが、襲って来る気配はなく、大人しく正座していた。

 

「読んだわ!」

 

カナエは原稿用紙を机にトントンとして顔を上げた。

 

「感想を言います。設定は素晴らしかった。ただ全体的に説明的な文章が多かったかな? あと会話ももっと流れが良いと面白いかな」

 

それからカナエはざっと改善点を述べると、鬼は心底感動した様子で……

 

「小生は響凱。お主らの名は何という?」

 

「私は胡蝶カナエといいます」

 

「胡蝶カナエの弟子の竈門炭治郎です」

 

「小生は人間だった頃、小説家だったが誰からも評価されなかった。趣味で行っていた鼓も趣味の域を超えることはなかった。それがどうだ? 初めて小生の小説を評価し、あまつさえ改善点まで述べてくれる人と出会った。小生はこれで充分だ。どうか頚を斬ってくれ」

 

そう言って、頭を下げた。

 

「わかりました」

 

カナエはゆっくりと応えた。

 

「あなたの頚を斬る前に、この屋敷に囚われている少年を解放してくれませんか」

 

 

「了解した」

 

響凱がポン!と鼓を叩くと、冷や汗を浮かべている少年の部屋に移った。少年も鼓を持っている。

 

少年は鬼の存在に気付き、悲鳴を上げる。

 

「大丈夫よ。今、頚を斬るからね」

 

カナエがそっと少年を撫でると、大人しくなった。それでもまだブルブルと震えている。

 

「じゃあ炭治郎、お願い」

 

「はい」

 

炭治郎は刀を抜き……

 

「響凱さん。あなたの血鬼術は素晴らしかった」

 

ヒノカミ神楽 烈日紅鏡

 

響凱の頚が宙に舞い、畳にボトっと落ちた。

 

「そこの少年よ、小生の血鬼術は素晴らしかったか……」

 

響凱はそう言いながら灰となり、消滅した。

 

「来世では鬼となりませんように」

 

炭治郎は手を合わせてそう呟いた。カナエも一緒に手を合わせた。

 

「すみません。助けていただき、ありがとうございました!」

 

少年は何度も頭を下げて御礼を言った。

 

「お安い御用ですよ。怖かったでしょう。一緒に屋敷を出ましょうね」

 

カナエは少年を抱きしめると、少年は思いっ切り泣いた。炭治郎も一緒になって慰め、三人は部屋を後にした。

 

「僕、たまたまある部屋に入ったら鼓が置いてあり、それを叩くと部屋を移動できたので、鬼が来たら鼓を叩くことで何とか逃げ回っていたんです。でも、怖かった……」

 

「もう大丈夫よ! 弟さんや妹さんも外で待っておりますよ!」

 

途中、一匹の大きな鬼が

 

「随分活きのいい人間だ! お前らの肉はえぐり甲斐がありそうだ!」

 

と言って襲ってきたが、カナエの紅花衣の一閃で消滅させ、三人は無事、屋敷の外に出ることができた。

 

「お兄ちゃん!」

 

先程の幼い男子と女子が駆け寄った。長兄も二人を抱きしめ、三人は無事、再会できたことを喜び合った。

 

それを確認した炭治郎とカナエは三人と別れ、帰路に就く。

 

「それにしてもカナエさん、どうしてあの鬼にああやって話し掛けたのですか? 襲われるかも知れなかったのに」

 

「ちょっと! それは花柱・胡蝶カナエは急に襲われたら対処できない、とでも?」

 

カナエは頬をプッと膨らませてみせる。

 

「それは……」

 

勿論、少しでも襲われる気配があれば始末つもりだった、ということか!

 

「ふふふっ。響凱さんには人間らしさを感じたのよね。勿論、人はたくさん喰ってきているかもしれないけど、何か屈折している、というか、本当は悪い人ではなかったのに何か間違えて鬼になってしまった、というか。他の鬼と比べて悪意が少ないように感じたのよね~」

 

カナエの相手を見る目をつくづく感じさせられる。

 

「俺も頚を斬った時、これまで誰にも認めて貰えなかったのが、初めて認められた、というような匂いがしました」

 

「私たち鬼殺隊は鬼を殺すためにやっているのではない。みんなの幸せを守るために働いているの。炭治郎もそこを違わないようにね」

 

「勿論です!」

 

そしてカナエと炭治郎がある路地に差し掛かると……

 

「おや? こんな夜中に逢い引きかな?」

 

「!?」

 

カナエと炭治郎は即座に身構える。鬼の悪臭がする。それも強烈な。

 

声がした方を向くと……

 

金髪。ただしてっぺんだけ赤い髪で美男子風の鬼。その両目にはそれぞれ、

 

「上弦」 「弐」

 

と刻まれている。

 

鬼無辻無惨を除けば、二番目に強い鬼がヘラヘラとした様子で立っていた。




次はいよいよお待ちかねの童磨編です!

果たしてカナエと炭治郎は生き残ることはできるのか?

どうぞお楽しみに!
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