炭治郎もカナエも致命傷は何とか躱したものの、目の前は極寒地獄で、このままいけば二人とも凍死するよりない、という状況だった。
二人とも氷による軽い傷は無数に負っており、童磨の頸を斬るどころか、朝日が昇るまで凌ぐことすら絶望的だった。
「カナエさん。あれで切り抜けます!」
炭治郎はそう言い、カナエが、
「ちょっと炭治郎、やめなさい!」
と止めるのも聞かずに、
日の呼吸 拾参ノ型 円環
ついに切り札を出した。
始まりの剣士、継国縁壱が日の呼吸で生み出した奥義であり、壱ノ型〜拾弐ノ型までを高速で一気に出す技だ。
炭治郎は鼓屋敷から帰ってヒノカミ神楽を日々練習していると、自身が先祖の炭吉になりきって縁壱と家の縁側で話す夢を見た。
その時、鬼無辻無惨と遭遇した時のことをこう語っていた。
「出会った瞬間に私は、この男を倒すために生まれて来たのだとわかった。その男は暴力的な生命力に満ち溢れていた。ぐつぐつと煮えたぎり、全てを吞み込もうとしていた。男が腕を振るうと、それはそれは恐るべき速さと間合いの広さ。攻撃を避けると遥か後方まで竹が斬り倒される音がした。かすり傷でも死に至ると感じた。私は生まれて初めて背筋がひやりとした。男には心臓が七つ、脳が五つあった。この瞬間に私の剣技の型が完成した」
縁壱さんは物静かで素朴な人だった。
無惨との遭遇について語った後、炭吉の妻のすやこさんが型を見たいとせがんだら快く見せてくれたのだ。
それが無惨をも殺しかけた、拾参ノ型だった。壱~拾弐ノ型を繋ぎ合わせた型。それは精霊のように綺麗で、壱~拾弐ノ型を繰り返すことでちょうど円環を成す。
しかしこれは縁壱だから使いこなせた技で、炭治郎のような素人には簡単に扱える技ではない。一回使うと大技の反動で身体に負荷がかかり、しばらくは戦闘不能になる。だから諸刃の剣でもあった。しかし、今はこれで生に活路を見出すしかない。
『縁壱さん、日の呼吸は驚くほど正確に伝わってました。今、あなたの技でこの糞野郎を葬ります! やれるかやれないかではない、やらなければならない!』
炭治郎は刮目し、ヒノカミ神楽の最初から最後までを高速で舞う要領で技を繰り出し、氷に突撃した。
童磨の六体の氷人形を血鬼術ごと破壊して回り、氷刃が多少刺さってもものともせず突進し、菩薩に突進する。
カナエも炭治郎を止めるのは諦め、後ろから残った氷刃を斬りながらついて来る。
「あれ? これだけの血鬼術を放っても生き残っちゃうの、君たちが初めてだよ~!」
童磨は菩薩の上でせせら笑うと、鉄扇を振るう。すると、巨大な手が炭治郎たちに落ちて来た。
花の呼吸 弐ノ型 御影梅
カナエの御影梅でさえも歯が立たないと思われたが……
炭治郎の拾参ノ型に斬りつけられると、巨大な手は焼け落ちた。
返す刀で菩薩をあっさりと砕いてしまった。童磨は慌てて飛び降りる。
「おっと危ない、危ない」
初めて童磨の表情に動揺が走った。
「カナエさんの命はー!」
炭治郎は吠える。
「誰にも奪わせなぁい!」
炭治郎の奥義が童磨を襲う。
花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬
カナエの九連撃も童磨に襲い掛かる。
血鬼術 枯園垂り
童磨は二本の鉄扇から氷刃を出して迎え撃つ。カナエの連撃のうち一撃が童磨の胸をかすり、炭治郎の拾参ノ型は童磨の腕を斬り、腹を負傷させることに成功したが、急所の頚だけは鉄扇で防がれる。しかし……
「いたっ!」
童磨が初めて苦悶の表情を浮かべたのだ。カナエからの傷は直ちに回復したが、炭治郎からの傷はなかなか回復しない。
これを見逃すカナエと炭治郎ではない。
花の呼吸 肆ノ型 紅花衣
カナエの花の一閃と共に、炭治郎も渾身の力を込めて童磨の頚目掛けて刀を入れる。
二人ともこのクズを屠ることでコイツによる『救済』の犠牲者が金輪際なくなることを心から願って。
が……
血鬼術 霧氷・睡蓮菩薩
再び大技を出された。
「悪いけど夜も明けるし、救済はまたの機会だね。うん。じゃあね~!」
「待て! 逃げるな~!」
炭治郎は菩薩を切り刻もうとするが……
がくっ
膝をついてしまった。大技の反動が来てしまったのだ。どんなに憎悪で満ちていてもどうしても身体に力が入らない。同時に菩薩から放たれる極寒と氷刃が炭治郎の体力を一気に奪っていく。
「炭治郎!」
カナエに抱きかかえられ、菩薩から飛び退く。
「逃げるな、卑怯者~! 卑怯者~!」
カナエに抱きかかえられながら、炭治郎はあまりの悔しさに涙を流しながら叫んでいた。その間に菩薩は消えてなくなり、周囲の残存していた氷刃も綺麗さっぱり消え、童磨も姿を消していた。
炭治郎は朝日が差し掛かった空を一瞥した後、意識を失った。もう限界だった。
~大正コソコソ噂話~
炭治郎が出した日の呼吸 拾参ノ型は上弦の弐相手でも一瞬では回復させないくらいの傷を与えることには成功しました。
(人間が傷を負った時のように、しばらく休めば治る傷です)
しかし、縁壱の赫刀のように、斬ったら永遠に回復させなくするまでには全然至っておりません。炭治郎がこれから如何に成長してそれに近付けるか、今後の見所の一つとなりそうですね。