鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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カナヲと共に最終選別に参加した炭治郎は日の呼吸で鬼を次々に倒していくが、身体中から手が生えた鬼に花柄の着物姿の少女が襲われているのを目にし、助けに入り……


鱗滝真菰

「まだ幼い少女を踏みつけにして、俺はお前を絶対に許さない! 今からお前を斬る!」

 

炭治郎は飛びかかると、鬼はすかさず手を伸ばして来る。

 

日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

炭治郎は幻日虹による攪乱で鬼の手を躱しつつ、瞬く間に太い首の間合いに入った。

 

―――俺の頚は硬い。あのガキでも斬れなかった。俺の頚を斬り損ねた所に頭を潰してやる。アイツと同じように……

 

鬼はほくそ笑みながら目の前の獲物を待つが……

 

日の呼吸 参ノ型 烈日紅鏡

 

炭治郎は鬼の頚に痛恨の二連撃を浴びせた。

 

花の呼吸 肆ノ型 紅花衣

 

少女を側に座らせたカナヲもジャンプして鬼を斜め上に斬って援護する。

 

手応えはあり、ザン! という音と共に頚は地面に落ち、頚より下もカナヲの一撃によってみるみるうちに崩れ落ちていった。

 

「クソッ! クソ! 死ぬ……」

 

鬼の断末魔の姿から炭治郎は悲しみの匂いを感じた。

 

―――兄ちゃん怖いよ……、どうして俺は兄ちゃんを咬み殺したんだ? 兄ちゃん、手を握ってくれよ……

 

―――しょうがないなあ、お前は怖がりなんだから。

 

「次に生まれてくる時は鬼になりませんように」

 

炭治郎は灰になって消えていく鬼の、大切だった人との切ないやり取りを匂いで感じ、そう願わずにはいられなかった。

 

「大丈夫ですか? 応急処置しないと……」

 

炭治郎が少女に駆け寄ると……

 

「もうした」

 

カナヲが短く答えた。しのぶから怪我している鬼殺隊士がいたら手当しなさいと指導されているので、コインを投げるまでもなく自ら進んで真菰の手当を済ませていたのであった。

少女の手足には包帯が巻かれている。

 

「ありがとうございました」

 

少女は顔を綻ばせた。

 

「私は真菰といいます。鱗滝さんという師匠に水の呼吸を教わり、最終選別を受けに来たんです」

 

「俺は竈門炭治郎で、彼女は栗花落カナヲといいます。俺たちはそれぞれ花柱の胡蝶カナエさんと蟲柱の胡蝶しのぶさん姉妹の継子なんです」

 

「へぇー、そうなんですか~」

 

真菰はフワフワした話し方をする少女だった。どこかカナエさんと似たような話し方だ。

 

「私、あなたたちが来てくれて本当に助かりました。鱗滝さんの弟子は毎回、あの鬼に喰われていると聞いて動揺してしまって……。あのままいけば間違いなく私も喰われてました」

 

「いえいえ。当然のことをしたまでですよ。俺たちは同期。このまま一緒に選別を乗り切りましょう!」

 

炭治郎は微笑むと、真菰も微笑んだのだった。とても優しい目をしていて、可愛らしい少女だった。

 

カナヲもかすかに微笑みながら蝶を手に留まらせている。黙って真菰のことを受け入れてくれている匂いだった。

 

それから三人は行動を共にして、主に炭治郎と真菰が話して最終選別を乗り切った。

朗らかな性格の真菰はカナヲにも当然、話し掛け、カナヲがコインを投げて応えるたびに真菰はニコニコと眺めていたのだった。

 

最終選別を乗り切ったのは炭治郎、カナヲ、真菰ともう一人の四人だけだった。

 

「お帰りなさいませ」

 

「おめでとうございます。ご無事で何よりです」

 

主催者のおかっぱ頭の女子二人が、合格者三人を前にして口々に言った。

 

一人は白髪でもう一人は黒髪で、顔は一卵性双生児の双子かと思うほどそっくりだ。

 

「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」

 

白髪の女子が言い、

 

「階級は十段階ございます。甲、乙、丙、丁、戊、己、庚、辛、壬、癸。獪岳様とカナヲ様と真菰様は一番下の癸、炭治郎様は選別前、上弦の弐と遭遇して生き残ったため、丁からのスタートとなります」

 

黒髪の女子が言うと、もう一人の合格者がいきり立って前に出て、二人の髪を両手で鷲掴みにする。

 

「おい! 何で俺は一番下からの出発なんだよ! 俺には才能がある! そんなこともわからないてめえらはカスだ!」

 

彼は髪の毛をツンツンと立てており、鬼と戦ってきたせいか、黒い服は汚れている。彫りの深い顔からは勝気そうで、とにかくいつも満たされていない、というような匂いがプンプンする。

 

「この子たちから手を放せ! 放さないなら折る!」

 

炭治郎は獪岳の手を掴む。

 

「てめえか? 俺を差し置いて丁から出立するのは? いい度胸だ! やってみろ!」

 

炭治郎は手に力を込める。グニャッという鈍い音と共に言葉通り、彼の両腕を折ってしまった。

 

「……」

 

獪岳は腕を押さえながら悔しそうに炭治郎を見上げる。

 

「お話は済みましたか?」

 

黒髪の女子が口を開いた。今、襲われそうになったことなどおくびにも出さなかった。

 

その後、隊士には鎹烏という烏と刀が十五日以内くらいに支給されることを告知され、刀を造る鋼を選ばされて、解散となった。

獪岳もその後、悪態をつきながらも炭治郎に報復することなく、解散となるや真っ先に帰っていったのだった。

 

「行こうか」

 

炭治郎は二人の女子と一緒に帰った。炭治郎とカナヲが真菰を救ってから三人は一緒に過ごしたことで、自然と絆が出来ていた。

 

「そうそう。私、あなたたちに鱗滝さんを紹介したいと思って。ついて来てくれるかしら?」

 

「いいよ! 是非会いたい!」

 

炭治郎は快諾し、カナヲも頷いた。

 

「鱗滝さんはね、天狗のお面を被っているのよ~。私、家族を鬼に殺されて一人だったからさ、拾ってここまで育ててくれた鱗滝さんが大好きなんだ~!」

 

「俺も似たような境遇だよ。家族を妹以外、全て殺されて花柱様に拾ってここまで育てて貰ったんだ。だから絶対、俺たちの代で悲しみの連鎖を断とう!」

 

「ええ!」

 

狭霧山という山を登り、三人は真菰の師匠の宅に着くと、真菰が言っていたような赤い鬼のお面を被った男が出てきて真菰に駆け寄り、抱きしめた。

 

「よく戻ってきてくれた!」

 

「鱗滝さん! 私、この人たちに救われて戻って来ることができました」

 

真菰は目に涙を浮かべて言った。

 

「おお! そうか! 真菰を守ってくれて本当にかたじけない」

 

彼は炭治郎とカナヲを交互に見て言った。

 

「いえ、当然のことをしたまでです。俺は竈門炭治郎。彼女は栗花落カナヲ。俺は花柱様の、彼女は蟲柱様の継子をしております!」

 

「おお、胡蝶姉妹のか! 立派な隊士だな! 儂は鱗滝左近次だ。昔は水柱だった」

 

その後、鱗滝は炭治郎たちを中に入れてくれ、雑炊を振舞ってくれた。その後、炭治郎とカナヲは鱗滝と真菰に見送られながら別れ、蝶屋敷に帰ったのだった。

 

「二人ともよく戻ってきたわね!」

 

「なかなか帰って来ないから心配したじゃない!」

 

二人の帰りを心待ちにしていた胡蝶姉妹はそれぞれ、第一声を発し、目に涙を浮かべて二人を抱きしめた。

声を聞きつけたアオイやきよ、すみ、なほたちも駆け寄って来て二人を抱きしめた。

 

それから驚いたことに……

 

トテテテテテテテ……

 

「禰豆子!」

 

ずっと眠りについて目覚めなかった禰豆子が駆け寄って来て、炭治郎を抱きしめたのだ。

 

「お前、何で急に寝るんだよ! ずっと起きないでさぁ! 死ぬかと思っただろうがぁ!」

 

炭治郎は涙を流しながら禰豆子を抱き返す。

 

「禰豆子ちゃん! ついに目覚めたのね! なかなか目覚める気配がないから心配したけど、良かったわ!」

 

カナエが炭治郎の上から禰豆子を抱きしめる。しのぶやアオイたちも涙を流しながら禰豆子を抱きしめた。

 

「禰豆子ちゃん!」

 

「禰豆子さん! 生きてて良かったです!」

 

家族っていいなあ。

 

本当の家族は殆ど失ってしまったけど、新たに家族が出来て幸せ者だと炭治郎は我ながら思った。

 

 

最終選別が終わり、鬼殺隊本部では……

 

「四人も生き残ったのかい。優秀だね。しかも上弦の弐と遭遇して生き残った竈門炭治郎も無事、生き残ったか。あの始まりの呼吸の使い手の。また私の『子供』たちが増えた。どんな剣士になるのかな」

 

長髪姿の鬼殺隊当主が、鎹烏を手に留まらせてそう喋っていた。

 

 

 

 

炭治郎とカナヲが蝶屋敷に戻ってきてから二週間後。

 

幾つもの風鈴を下げた笠を被った男性が蝶屋敷を訪れた。

 

「どなたですか!」

 

アオイが応対に出る。

 

「俺は鋼鐵塚という者だ。竈門炭治郎と栗花落カナヲの刀を打った者だ」

 

「こちらへどうぞ」

 

間もなく炭治郎とカナヲは大広間で来訪者と対面することとなった。後ろには二人の師匠であるカナエとしのぶが控えている。

 

「これが日輪刀だ」

 

そう言って彼は二つの細長い箱を出し、顔を上げた。ひょっとこのお面を被っている。

 

―――うわっ

 

炭治郎がお面姿に面食らっていると、鋼鐵塚は話を続ける。

 

「日輪刀の原料である砂鉄と鉱石は太陽と一番近い山で採れる。『猩々緋砂鉄』『猩々緋鉱石』。陽の光を吸収する鉄だ。陽光山は一年中陽が射している山だ。曇らないし雨も降らない」

 

鋼鐵塚の笠の風鈴がチリンチリンと鳴る。

 

―――相変わらず自分から一方的にしゃべりたがる方ね……

 

カナエは心の中で苦笑する。

 

「すみません、取り敢えずお茶を持って……」

 

炭治郎がそう言いかけると、彼はお面をつけた顔を炭治郎に向け、まじまじと見る。

 

「んん? んんん? あぁお前、『赫灼の子』じゃねえか。こりゃあ縁起がいいなあ!」

 

「いや俺は炭十郎と葵枝の息子です」

 

「そういう意味じゃねえ」

 

そう言って、鋼鐵塚は炭治郎を指差して続ける。

 

「頭の毛と目ん玉が赤みがかかっているだろう。火仕事をする家はそういう子が生まれると縁起がいいって喜ぶんだぜぇ」

 

「……そうなんですか。知りませんでした」

 

「こりゃあ刀も赤くなるかもしれんぞ。なあ、胡蝶」

 

「そうなのね~! やっぱり炭治郎は『持っている子』なのね~! 姉さん嬉しいわ~!」

 

カナエはすっかり有頂天で、しのぶは呆れたように姉を見ている。

 

「さぁさぁ、刀を抜いてみな!」

 

そう言って鋼鐵塚は二つの細い箱から刀を取り出し、炭治郎とカナヲに渡す。

 

炭治郎が抜いている間にも鋼鐵塚は解説を続ける。

 

「日輪刀は別名色変わりの刀と言ってなぁ、持ち主によって色が変わるのさぁ」

 

刀を抜くと、ズズズっという音と共に漆黒の色になった。カナヲも刀を抜いており、こちらはピンクでカナエさんと同様だった。

 

「おお!」

 

炭治郎はあまりの黒さに驚いていると、鋼鐵塚も同様に驚いている。

 

「黒っ!」

 

「えっ、黒いと良くないんですか?」

 

炭治郎が聞くと、カナエが代わりに答えてくれた。

 

「お館様に聞いたんだけど、日の呼吸の適性者は刀が黒くなるんですって! 炭治郎はまさに日の呼吸の使い手なのね~!」

 

カナエは益々、微笑むが、目の前の刀鍛冶からは怒りに震えている匂いがして……

 

「俺は鮮やかな刀身が見れると思ったのに、クソーーーっ!」

 

そう言って炭治郎に飛びかかり、頬をつねってきたがカナエがその腕を押さえる。

 

「すみません。炭治郎を制裁していいのは師範である花柱・胡蝶カナエだけですよ? 放してくれませんか?」

 

カナエはニコニコと笑みを浮かべて言う。

 

「……」

 

鋼鐵塚は仕方なく手を放し……

 

「用はこれで済んだから俺は出て行く! 例えお前らが柱であってもこんな扱いをされた以上、これから刀壊れても直してやるかわからんぞ!」

 

挨拶することもなく彼は突然席を立ち、屋敷を荒々しく後にしたのだった。

 

「あらあら」

 

「姉さん、鋼鐵塚さんをあんなに怒らせて大丈夫なの?」

 

「大丈夫よ~! 今度会った時、みたらし団子を持っていきましょう~!」

 

「えっ、鋼鐵塚さんってみたらし団子が好きなのですか?」

 

炭治郎が聞く。

 

「ええ。鋼鐵塚さん、短気なんだけど、みたらし団子をあげるとたちまち機嫌が直るのよ~! だから今度持っていってあげましょうね~!」

 

「はい!」

 

それから間もなく……

 

「カァァ! 竈門炭治郎! 胡蝶カナエと共に北東の街へェ 向かェェ! 鬼狩りとしての最初の仕事デアル! 心シテ、カカレェ!」

 

竈門炭治郎は晴れて鬼殺隊として任務に就くこととなった。

 

それから炭治郎はカナエと共同か、或いは単独でも任務に就くこととなり、次々と鬼を日の呼吸で倒していった。

 

カナヲはしのぶとの共同任務が中心で、任務中に怪我した鬼殺隊を回収する隠と呼ばれる部隊の護衛を主にやり、こちらも並外れた動体視力を活かして次々と鬼を葬り、蟲柱・胡蝶しのぶのサポート役をそつなくこなした。

 

ヒノカミ神楽のおかげで順調な鬼殺隊生活を送っていた竈門炭治郎に、本格的な試練が訪れるのは入隊後一年以上経った後のことであった。




~大正コソコソ噂話~

最終選別が終わった時に出てきたおかっぱ姿の少女二人について。
二人は鬼殺隊当主、産屋敷家の子供で黒髪の方は実は男子、世継ぎの輝利哉君で、病弱とみられていたため、この時は女子として育てられていたのでした。

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