鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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最終選別を危なげなく突破し、順調に鬼殺隊生活を送っていた竈門炭治郎。
そんな中、那田蜘蛛山に行くよう緊急指令が下り……。


那田蜘蛛山

炭治郎は鎹烏からの緊急指令を受け、青い蝶羽織を着て、ピンクの蝶飾りで髪を纏めて蝶屋敷を後にした。

 

カナエは別の任務中なので、今回は炭治郎単独で向かうこととなった。

那田蜘蛛山の前で他の隊員と待ち合わせ、一緒に共同で任務に当たれ、との指示だ。

 

山の前に着くと、黄色の隊服を着た小柄で金髪の隊士が真菰に何と、口説いているのが目に入った。

 

「助けてくれ! 俺はこのまま山に入れば死ぬ死ぬ死ぬ! 死ぬ前に結婚してくれ~!」

 

「大丈夫って言っているでしょう。私がついているんだから。あなたそれでも男なのかしら?」

 

心が広い真菰でも、この少年の扱いに戸惑っている様子だった。

 

「お前は真菰に何してるんだ! 嫌がってるだろう!」

 

炭治郎が早速割って入った。黄色隊服の少年は振り返り…

 

「お前誰だよ! てか、何だよ、その髪型は! オトコンナだな! 俺はこの任務で死ぬんだよ!! だから俺の死ぬ前の告白を邪魔するなよ!」

 

声を上ずらせ、早口で彼はまくし立てた。炭治郎は汚いものでも見るような目で一瞥し…

 

「何だよ! その目は!」

 

黄色隊服の彼はすかさず炭治郎を指さして喚き立てた。

 

「俺は竈門炭治郎だ。いいか? 女子に対して乱暴なことするな!」

 

「竈門炭治郎?」

 

黄色の隊服の彼は目を剥き、素頓狂な声を上げた。

 

「炭治郎は胡蝶カナエさんという美人な柱の弟子なの。蝶飾りはカナエさんたちの家族だという証。だからあなたとは違って女子に対してとても弁えてるの。」

 

真菰がニコニコして解説している間に、彼はみるみるうちに恐ろしい形相となる。

 

「竈門炭治郎」

 

これまでとは打って変わった低い声に炭治郎は驚いて背筋を正す。

 

「俺は我妻善逸だ。お前のことは獪岳から聞いた。乱暴して腕を折ったんだってな。それに今まで美人とウキウキウキウキしてたって?」

 

「あの、それは…」

 

「そうよ。初対面だし、炭治郎は先輩…」

 

炭治郎は釈明しようとしたが聞く耳を持たなかった。真菰が止めようとするのも耳に入っていない。

 

「いいご身分だな〜、炭治郎! 鬼殺隊はなぁ〜、お遊び気分で入る所じゃねえ! お前のような奴は即、粛清だよ! お前のような奴はな〜!」

 

「善逸君、落ち着かなきゃダメよ」

 

真菰は小柄な身体で今にも炭治郎に、日輪刀を抜いて飛びかかろうとする善逸の身体を止め、炭治郎も、

 

「待ってくれ、善逸! 俺にも説明させてくれ!」

 

炭治郎が必死に訴えようとした時…

 

「猪突猛進! 猪突猛進!」

 

その掛け声と共に襲われる気配がして炭治郎は身体を動かして何とか回避するが、善逸はもろにぶつかってしまう。

 

「いた〜い! 何なの、ちょっと!」

 

善逸は今までキレていたことなどすっかり忘れたように素頓狂な声を上げ、炭治郎も誰が襲ってきたのだろうと構えたら、猪頭がこちらを向いていた。

 

「誰なんだ、お前は? いきなり襲ってきて何なんだ!」

 

炭治郎が問い掛けると…

 

「勝負だ! 勝負ぅ!」

 

と言って突進してきたのだ。

 

「お前が、並外れて、強いのは、わかった、から、これからの、任務で、その力を、貸して、くれないか?」

 

身体のあちこちを殴ろうとしてくる彼から必死に避けながら炭治郎は途切れ途切れに言った。

 

「そうよ。私、あなたのような強い人に憧れる。だけど、同じ仲間ではなく鬼にその素晴らしい力を向けてくれたらもっと好きになっちゃうな~、私」

 

「……」

 

真菰のフワフワした言葉に猪突猛進の彼はたちまち固まった。

 

「俺たちは仲間だ! お前も鬼殺隊員だろう? 俺は鼻が利くから、匂いでわかるんだ。一緒にこの山に入っていこう?」

 

(善逸が「え〜っ! いやだ〜!」と悲鳴を上げたが一同は無視する。)

 

「お前ら! これ以上俺をホワホワさせんじゃねえ! いいか? 俺は嘴平伊之助だ! 先に行くから、お前らはブルブル震えてついて来やがれ! 腹が減るぜ!ハハハッ」

 

そう言って、猪頭の彼こと嘴平伊之助は山に向かって走って行ってしまった。

 

「腕が鳴るだろ……」

 

善逸が呟くが、炭治郎と真菰は一切気にも留めていない。

 

「よし、俺たちも行こう!」

 

炭治郎が早速、後に続いて真菰も眦を決すると…

 

「ちょっと、ちょっと待ってくれないか!」

 

これまでにない善逸の真剣な声に炭治郎たちは立ち止まる。

 

「怖いんだ! 目的地が近づいてきて! とても怖い!」

 

善逸は座り込んでしまった、その時だ。

 

血の匂いがするや否や……

 

「たす、助けて…」

 

鬼殺隊士が入口で倒れていたのだ。

 

「大丈夫か!」

 

炭治郎と真菰は座り込んだ善逸を置いて駆け寄ったが……

 

「アアアア! 繋がっていた、俺にも! 助けてくれえ!」

 

隊士はひとりでに宙に浮き、山に吸い込まれていった。まるで何かに操られているように。

 

「俺は行く」

 

炭治郎は改めて決心して立ち上がる。

 

「私、善逸を何としても説得して連れて行くから、あなたは猪頭の人を追っていって」

 

「わかった!」

 

真菰ちゃんはどこまで人がいいのだろうと思いながら、炭治郎は那田蜘蛛山に入り、駆けていくと、苛々している伊之助に追いついた。

 

「チッ、蜘蛛の巣だらけじゃねえか! 邪魔くせえ!」

 

那田蜘蛛山は蜘蛛の巣だらけで、伊之助にも蜘蛛の巣がかかったみたいで必死に振り払おうとしているみたいだった。

 

「伊之助」

 

「何の用だ!」

 

伊之助は驚いたように振り返る。

 

「伊之助が一緒で心強かった。山から来る、ただならぬ危険な匂いがして正直、俺はこの山を前にして足が竦んだんだ。ありがとう」

 

炭治郎は笑顔で言うと、伊之助は再び固まってしまった。

 

「……」

 

ホワ、ホワ……

 

「伊之助!」

 

炭治郎は隊士を見つけ、伊之助を促して隊士の下に駆け寄る。

 

「応援に来ました。階級・丁 竈門炭治郎です」

 

「丁……。何で柱じゃないんだ! 柱でない鬼殺隊が何人来ても同じだ!」

 

隊士の顔からは冷や汗が出ており、心底怯えている様子だ。

 

炭治郎はすぐさま、自分は大抵の鬼よりは強い、上弦の弐と遭遇して生き残った実績を話そうとしたが……

 

ドン!

 

猪頭が飛んできて隊士は顔を殴られた。

 

「伊之助!」

 

炭治郎は窘めようとするが、聞く耳を持つ伊之助ではない。

 

「うるせえ!」

 

そして、鼻血を出して倒れている隊士の髪を鷲掴みにして言う。

 

「意味のあるなして言ったらお前の存在自体、意味がねぇんだよ! さっさと状況を説明しやがれ弱味噌が!」

 

「か、鴉から指令が入って十人の隊員がここに来た。山に入ってしばらくしたら……隊員同士が斬り合いになって……」

 

 

 

 

 

 

ちょうどその頃……

 

「ウフフフフフ」

 

山の奥では青白くて長髪の女の鬼が岩に座って複数の蜘蛛の糸を操っていた。

 

「さぁ、私のかわいいお人形たち。手足が捥げるまで踊り狂ってね」

 

 

 

 

 

 

鬼殺隊本部では、胡蝶しのぶがお館様に呼ばれていた。しのぶは所用でちょうど鬼殺隊本部にいたのだ。

 

「私の剣士(こども)たちは殆どやられてしまったようだ。しかも十二鬼月がいるみたいだ。『柱』を行かせなくてはならない。カナエには鎹烏で那田蜘蛛山に直行するように命じた。しのぶも直ちに向かうように」

 

お館様は鎹烏を撫でながら命じ、しのぶは

 

「御意」

 

と言って平伏するや否や、直ちに駆け出した。

 

 

 

 

 

 

炭治郎と伊之助たちは隊員と同士討ちになっていた。先ほどの隊士からの説明受けた後、隊士たちが奥から次々に出てきて襲ってきたのだ。

 

「こいつらみんな馬鹿だぜ! 隊員同士でやり合うのはご法度だって知らねえんだ」

 

伊之助は隊員たちからの攻撃を柔軟な身体を生かして躱しながら言った。

 

「いや、違う! 動きがおかしい。何かに操られている!」

 

「よし! じゃあぶった斬ってやるぜ!」

 

伊之助は二本の刀を掲げる。

 

「駄目だ! まだ生きてる人も混じってる! それに仲間の亡骸を傷つける訳にはいかない!」

 

「否定ばっかすんじゃねえ!」

 

伊之助は味方の炭治郎に体当たりしてきた。

 

「あああ!」

 

悲鳴と共に、隊員たちの動きが激しくなってきた。炭治郎は匂いを嗅ぎ……

 

「糸だ! 糸で操られている! 糸を斬れ!」

 

「お前より俺が先に気づいてたね!」

 

伊之助の意地っ張りな言葉はともあれ、炭治郎と伊之助は隊員たちを操ってい糸を一気に斬った。

 

―――敵はどこだ。操っている鬼の位置!

 

炭治郎は再び匂いを嗅いだが、刺激臭が襲い、うまく嗅げない。しかも炭治郎の隊服には蜘蛛が数匹、よじ登ってきて……

 

炭治郎は蜘蛛を直ちに払い、刀で後ろを一閃して自らを捕えようとしていた糸を斬った。

 

しかし振り返ると、先ほど糸を斬ったはずの隊員たちには再び糸を繋げられ……

 

「糸を斬るだけでは駄目だ! 糸を操っている鬼がいる! その鬼を探さなくては!」

 

そう言って炭治郎は再び鼻を利かせるが、やはり刺激臭でうまく嗅げない。

 

「伊之助! 俺とそこの隊員でこの操られている人たちはどうにかするから、もし伊之助に鬼の居場所を正確に探る何らかの能力があるなら、探ってくれないか?」

 

炭治郎は再び襲い来る隊員をいなしながら言った。状況を説明してくれた隊員も、何とか立ち上がり、糸に操られた隊員をいなす。

 

しかしその時だ。

 

「僕たちの静かな暮らしを邪魔するな」

 

肩まで伸びた髪に、青白くて赤い斑点のある顔の鬼が、宙で浮くようにして立っている。

いや、宙で浮いているのではなく糸の上を歩いているのだ……

 

「お前らなんてすぐに母さんが殺すから」

 

母さん?

 

炭治郎が考えている間にその鬼は踵を返し、伊之助が「オラァ!」という声と共に宙に向かって飛びかかっていっても、届かなかったし鬼も一切振り向かなかった。

 

「クソ! そこ行きやがる! 勝負! 勝負!」

 

「伊之助! あの子は恐らく操り糸の鬼ではないんだ。だからまず先に……」

 

「あーあーあー! わかったっつうの! 鬼の居場所を探れってことだろ! うるせえ、紋治郎が!」

 

伊之助は苛々したように言って、二本の鋸のような切れ込みの入った日輪刀を地面に刺し、しゃがんで両手を横に伸ばし……

 

獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚

 

伊之助は並外れた触覚を持っており、集中することで微かな空気の揺らぎすら感知し、直接触れていないものでも捉えられる。

 

「見つけたぞ! そこか!」

 

伊之助は愁眉を開いた。

 

 

 

 

 

 

花柱・胡蝶カナエは別の任務を終えて夜道を急いでいた。

 

「炭治郎、絶対に死なせないからね! 待っててね!」

 

十二鬼月がいるかもしれないことは鎹烏から報告を受けていた。上弦の弐相手に生き延びれたので、そう簡単に殺されることはないだろうが、十二鬼月は例え下弦でも柱以外の隊士にとって簡単に勝てる鬼ではない。

カナエは目をキリっとさせて那田蜘蛛山へと急いだのだった。

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