鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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家族を惨殺された炭治郎は鬼殺隊に入る決心をするが……


胡蝶カナエ

炭治郎の言葉を聞いた胡蝶カナエは一瞬、驚くもすぐに冷静になり諭す。

 

「鬼殺隊は決して甘いものではないのよ。家族を殺されて無念なのは痛いほどわかる。ただ、鬼殺隊は明日の命の保障はない。それに禰豆子ちゃんだって鬼にされているし、私だって禰豆子ちゃんなら有り得ないと信じているけど、もし万が一禰豆子ちゃんが人間を食べたらどうするつもり?」

 

「……」

 

「食べてしまった場合、禰豆子ちゃんは即座に殺し、あなたは切腹しなければならない。そこまでの覚悟はあるかしら? 私は炭治郎君に命を粗末にして欲しくないし、御家族の分まであなたには幸せになって欲しい。」

 

「いや、禰豆子は絶対に人間を傷付けさせませんし、もし傷付けてしまった時は責任を取る覚悟はできております! だからどうか、鬼を殺す方法を教えてください!俺、このままで普通に暮らすなんて到底できません!」

 

炭治郎は眦を決して言った。すると、カナエは溜息をついた。

 

「わかったわ。御家族の遺体を埋めた後早速、あなたの鬼殺隊としての適性を試しましょう。」

 

「本当ですか? ありがとうございます!」

 

その後、炭治郎はカナエを自分が住んでいた家まで案内し、遺体を埋めるのを手伝ってくれた。そして鬼は日光を浴びると溶けて死んでしまう、ということで竹を使って禰豆子を背負う箱を一緒に作ってくれた。そして禰豆子の口には竹の口枷が嵌められた。禰豆子は遺体を埋めている時に目を覚まし、大人しくしていた。

 

「禰豆子、この籠に入れるか?」

 

禰豆子はゆっくりと籠に向かい、頭から入る。禰豆子の身長ではこの籠には収まりそうにない。

 

「禰豆子、小さくなれ小さく!」

 

炭治郎はおまじないをかけるように言う。さっき襲われそうになった時、身体がひとりでに大きくなったような気がした。だからもしかして、縮ませる力があるかもしれないと思った。

 

炭治郎が念じた通り、禰豆子は最終的に籠に収まった。脚を折り曲げて見事に収まっている。

 

「あらあら~いい子ね!禰豆子ちゃん」

 

カナエが満面の笑みを浮かべて禰豆子の頭を撫でる。炭治郎も続けて「偉いぞ!」と言いながら頭を撫でる。

 

二人に頭を撫でられ、禰豆子はニコニコと笑みを浮かべる。鬼になってもやはり、人間の頃の気持ちは忘れていなかったみたいだった。禰豆子は絶対に人喰いなんてしないし、させない!炭治郎は改めて決意するのだった。

 

 

「よし、これで大丈夫でしょう!」

 

「すみません。何から何までありがとうございます。」

 

「お安い御用よ。」

 

ニコニコしながらそう言ったカナエの顔は急に真剣なものになる。

 

「炭治郎君。確認だけど、鬼殺隊に入るという覚悟、本物よね?」

 

「ええ! 勿論です!」

 

炭治郎は力強く答える。どんな茨の道も全速力で駆け抜けてやる!

 

「わかりました。私がこれから責任を持ってあなたを鍛えるので、必ずついて来ること。ついて来れなければ鬼殺隊に入るのは諦めなさい。」

 

「はい!必ずついていきます!」

 

「では、今から私の家まで走ります。炭治郎君、禰豆子ちゃんを背負った状態でついてきて!」

 

そう言うや否や、カナエは走って行ってしまった。

 

「待ってください! カナエさん!」

 

炭治郎は慌てて追い掛ける。

 

――速い!こういっては失礼だが、とても乙女とは思えない速さだ!それにカナエさん、全然息を乱していない……

 

カナエは汗ひとつかかずに涼しげに走っている。

 

「今日は夜まで走り通すからね。街に出たら宿に宿泊して、明日もひたすら走って私の家に向かうわよ~。明日早朝に出て走ればそうね、早ければ夕方くらいに着くかしらね~」

 

カナエは振り返ってさらりと言ってのけた。

 

――うわ……。気が遠くなりそうだ。。しかし、禰豆子のためだ!ただ心配なのは、走り続けることで籠が激しく揺れてしまうことだった。

 

――禰豆子には小さい時から我慢ばかりさせて来たな……。

 

炭治郎は兄弟が多く、自分が一番上で禰豆子が二番目だったため、禰豆子は何かと我慢することが多かった。今もこうして我慢させてしまい、本当に申し訳ない! だからせめて人間に戻す手掛かりを掴むべく、歯を食いしばってカナエさんについていかねば!

 

「わかりました!」

 

炭治郎が息を切らして宿に着いたのは深夜頃、周りがすっかりと寝静まって人通りもまばらになった時だった。

 

宿の前には藤の花の紋があり、鬼殺隊専用の宿であり、各地にあるようだった。応対に出たのは年老いた女性であり、早速、和室に通してくれた。そこには既に布団が何と、禰豆子の分まで3つ敷かれている。

 

「ここの宿の人は鬼殺隊に救われた、という人たちで、私たち鬼殺隊を無償で泊めてくれる宿なのよ!」

 

カナエは早速、布団に仰向けになって言った。

 

「そうなんですね! ここのおばあさん達からも何か、カナエさんのような温かい匂いがしました!」

 

「もう!炭治郎君ったら! たらしなのね!」

 

カナエは頬を赤らめて笑ってみせる。

 

「しかし炭治郎君、よく私について来れたわね。何かやっていたのかしら?」

 

「俺の家は炭売りでしたから、炭を籠いっぱいに背負って街に運んだりしていたのと、あとはヒノカミ神楽という舞を舞っていたくらいです!」

 

「ヒノカミ神楽?」

 

カナエは驚いて聞き返す。

 

「竈門家に代々、伝わる舞です。全部で12あるんですけど、全てを舞おうとすると、息が続かなくて」

 

「そうなのね!じゃあ、私の家に着いたら見せてよ?」

 

「わかりました! ちゃんと舞えるかわかりませんが」

 

そう言って、炭治郎も布団を被って横になる。禰豆子もすっかり籠から出て布団に横になり、スヤスヤと寝ている。そんな禰豆子を挟んで炭治郎とカナエは話し続ける。

 

「それにしてもカナエさん、ここまで走ってきて息を全く乱していませんでしたね!」

 

「まあ、鬼殺隊員で鍛えているからね。あなたも鍛練すれば息を乱さずに走れるようになるわよ」

 

そう言って、炭治郎に顔を向けてこう続ける。

 

「さっきも少し話したかもしれないけど私、鬼と仲良くしたいと話したじゃない、炭治郎君とならこの目標を共有できるんじゃないかと思っていて、凄く嬉しいわ。この禰豆子ちゃんこそが鬼と仲良くできる象徴となる気がするの。ただ鬼殺隊には禰豆子ちゃんを鬼だからということで、どうしても受け入れられない、という人が多いかもしれない。鬼殺隊に入る人はみんな炭治郎君や私のように家族を鬼に惨殺されて……、という人ばかりだから。しかし安心して。私がその都度説得するし、炭治郎君とともに禰豆子ちゃんを守るわ!」

 

カナエの力強い言葉に、炭治郎の胸が熱くなる。

 

「ありがとうございます! 俺、家族を失いましたが、あなたが助けに来てくれたのが本当に救いでした。感謝してもしきれません! カナエさんに必死についていき、いつかカナエさんをも守れるような立派な鬼殺隊士になってみせます!」

 

「またまた~、嬉しいこと言ってくれるじゃないの~!禰豆子ちゃんを守るという使命、私にも背負わせてね? 炭治郎君はこれまで十分、家族のために頑張ってきたと思うの。これからは私も肩代わりさせてもらうし、炭治郎君一人に抱え込ませないから」

 

「ありがとうございます!」

 

炭治郎は再び礼を言い、ふと疑問に思ったことを口にする。

 

「ところで俺たちを一緒に住まわせてくれると言ってましたが、今カナエさん以外に誰か住んでいるのですか?」

 

「そういえば私の家について話してなかったわね!うん、今から話すわ。私は蝶屋敷という所に住んでいて、しのぶという妹や、それ以外にも鬼に殺されて孤児になった女の子たちを家族として迎え入れているの」

 

「えぇ~! そうなのですか?」

 

炭治郎は驚きの声を上げる。

 

「そうよ! 両親を鬼によって殺されたから、私のような目に遭った人たちの少しでも救いになれば、と思って」

 

「そこまでするって凄くないですか?」

 

「そうかしら? 炭治郎君も覚えておいて欲しいんだけど、人のためにすることは結局、巡り巡って自分に返ってくるのよ」

 

「そうですね。俺は長男でしたから今までずっとその心掛けで生きてきましたが、これからも忘れません!」

 

「ふふっ。私たち、気が合いそうね」

 

カナエは一瞬、笑みを浮かべた後、話を戻す。

 

「私と住んでいる家族、詳しくは屋敷に着いてから紹介するけど、しのぶは正直、怒りんぼな所があって私と違って鬼に対しての憎悪も凄いから禰豆子ちゃんに対しても最初は敵意を剝き出しにするかも知れない。しかし私が説得するし、根は世話好きでいい子だから必ず禰豆子ちゃんも含めて受け入れてくれるはずよ。」

 

「鬼殺隊に入ろうとしながら鬼を連れて来るんですから、普通は受け入れられないですよね。大丈夫ですよ、カナエさん。俺も禰豆子についてちゃんと他の鬼殺隊員を説得する覚悟はできておりますから。ところでしのぶさんも鬼殺隊員なのですか?」

 

「そうよ。私たち、家族を殺されたから、私たちで鬼を狩って少しでも私たちのような悲劇を減らすことを約束したのよ。その思いで頑張り、私、これでも柱という鬼殺隊員の最高位に就いてま~す。」

 

「柱、ですか?」

 

「そうよ。鬼殺隊には流派があって、岩、風、雷、水、炎の五つが基本の流派で、その五つから派生している流派もあり、それぞれの流派の最上が柱になるのよ。例えば岩の最上なら岩柱になる。ただしどんなに多くても9人までしかなれない。私は花柱よ。水から派生している花という流派よ。しのぶも最近、柱になって、花から更に派生した蟲柱になったわ!」

 

「えっ、それってつまり姉妹で柱、ということですか?」

 

炭治郎はヤバいくらい偉い人に会ってしまったかもしれない、と改めて恐縮する。繰り返し失礼になるが、このような乙女に見えて、鬼殺隊の最高幹部の一人なのだ。しかも妹も。

 

「うん! 柱は継子といって弟子を取ることが認められているから、もし炭治郎が私についてきてくれるならビシビシ鍛えるから、覚悟しておいてね?」

 

「はい!」

 

「鬼殺隊に入れば正直、常に死と隣り合わせになるわ。茨の道よ。しかしそんな中でも私は炭治郎君には生きて帰って欲しいの。私もこれまで継子を取ったけど、鬼との戦いに敗れて亡くなってしまった人もいる。だから炭治郎君にどんな強い鬼と遭遇しても必ず生きて帰って来れるよう私、心を鬼にして指導するから、絶対についてきてちょうだいね?」

 

「わかりました! お願いします!」

 

炭治郎は改めて身が引き締まる思いがした。

 

「ただこれだけは忘れないで。私は常に炭治郎君と禰豆子ちゃんの味方だから。何かあったらいつでも私に相談して。何でも受け止めてあげるから。」

 

「ありがとうございます!」

 

ああ、この方はどこまで慈悲深いのだろう……。これまでも鬼によって家族を奪われた人たちを家族として迎え入れて……。

 

「あと、今、しのぶの継子でカナヲという女の子がいるんだけど、彼女は身売りに出されていた所を私が救って家族として受け入れたの。なかなか自分の思いを伝えるのが苦手な所もあるけど、炭治郎君と同じくらいの歳だから、仲良くしてあげてね」

 

つまりカナエさんの下で修業することになったら、同僚ということになるのか。

 

「わかりました!俺、どんな相手でも心を開かせるのは得意ですから、任せてください!」

 

「ええ、頼むわ!」

 

カナエは笑顔で頷いた。

 

それから間もなく二人は眠りに就いたのだった。




次回は蝶屋敷編です。果たして禰豆子も含めて無事、蝶屋敷から家族として認めてもらえるのか? そして炭治郎の地獄の修行が始まります。お楽しみに。
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