鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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日柱・竈門炭治郎

「よく来たね。私の可愛い剣士(こども)たち」

 

『お館様』は開口一番、そう言った。

 

代々、鬼殺隊士たちを束ねる当主を務めてきた産屋敷家。その現当主の輝哉だ。

 

何かの病気にかかっているのか、薄紫に爛れた皮膚。しかし、それを気にさせないほどの温かい匂いがする……。

 

「おはよう、みんな。今日はとてもいい天気だね。顔ぶれが変わらずに半年に一回の柱合会議を迎えられて嬉しく思うよ。しかも今日は新たな『柱』が仲間として加わる。始まりの剣士以来、柱はどんなに多くなっても9人だったが、前回の柱合会議で10人になり、今日で11人目だ」

 

柱が増えるってまさか俺が『柱』、に……? カナエさんが那田蜘蛛山下山の時に言っていたお世辞がまさか現実になるなんて……

 

「お館様におかれましても壮健で何よりです。益々のご多幸をお祈り申し上げます」

 

不死川が頭を下げたまま言った。さっきまでの知性も理性も全く無いような、荒々しさは欠片も感じさせなかった。

 

「ありがとう。実弥」

 

「ところでお館様。『柱』が増える、というのはまさか、この竈門炭治郎なる者ではありませんよね? 竈門炭治郎は鬼を連れており、明らかに隊律違反を犯しております。即座に打ち首にすべきと考えますが」

 

実弥の殺気立ったような直訴にもお館様は全く動じず、笑顔を浮かべながら答えた。

 

「済まなかったね。驚かせて。炭治郎と禰豆子のことは私も容認していて、カナエに預けて貰っていた。それに炭治郎は隊士になる前に上弦の弐と遭遇したにも拘わらず生き残り、柱であるカナエを救い、隊士になってからも多くの鬼を狩って、那田蜘蛛山でも十二鬼月を倒してきた。炭治郎は十分、柱に値すると思うし、みんなにも受け入れて貰いたいと思っている」

 

「ありがとうございます、お館様! 炭治郎は私の自慢の弟子で、始まりの剣士の呼吸技を使えるんですよ?」

 

カナエが畳み掛けるように言ったが……

 

「嗚呼。例えお館様のご意向であってもこればかりは承服しかねる……。鬼を連れた隊士が処罰されないどころか、柱に抜擢されるなど前代未聞……」

 

悲鳴嶼が手を合わせながら言い……

 

「俺も派手に反対するぜ! 鬼を連れた隊士など鬼殺隊の風上にもおけない!」

 

宇随天元が同調し……

 

「信用しない、信用しない、処罰されないどころか柱として一緒になるとか論外だ……」

 

伊黒がネチネチと呟き……

 

「僕はどっちでもいい。どうせすぐ忘れるから」

 

時透無一郎が相変わらずそっぽを向きながら呟き……

 

「心より尊敬するお館様であるが全く理解できないお考えだ! 断固反対する!」

 

煉獄杏寿郎がキッパリと言い……

 

「お館様。鬼殺隊のけじめとして竈門は勿論、胡蝶姉妹も処罰願います!」

 

最後に不死川が殆どの柱を代表してそう言い、頭を下げた。

 

しかしそんな中でも胡蝶姉妹以外で唯一、庇ってくれたのが甘露寺蜜璃で、

 

「私はお館様の命に従います!」

 

と言ってくれた。

 

 

いきり立つ柱たちに対し、お館様は白髪の娘を促して手紙を読ませた。

 

「こちらの手紙は竈門炭治郎の師範である花柱・胡蝶カナエからのものです。一部を抜粋して読み上げます」

 

そして……

 

「炭治郎が鬼の妹を連れていることをどうかお許しください。私が蝶屋敷に引き取ってから、鬼の妹の禰豆子ちゃんは強靭な精神力で人としての理性を保っており、どんなに飢餓状態でも全く誰も傷つけることなく2年が経過しました。俄かには信じ難いことですが、紛れもない事実です。もし禰豆子ちゃんが人を襲った場合は竈門炭治郎及び私、胡蝶カナエ、胡蝶しのぶ、冨岡義勇の4名が切腹してお詫び致します」

 

炭治郎たちの命に、胡蝶姉妹だけでなく何と、水柱・冨岡義勇の命も懸けられることとなったのだ。

炭治郎は驚いて義勇を振り返ると、俺は全く何もしていないとでも言うように能面を浮かべている。

 

炭治郎は思わず涙が出ると共に、禰豆子を絶対に、これからも人を襲わせまいと固く誓う。

 

一瞬の静寂が走ったが、不死川たちは尚も受け入れない。

 

「切腹したから何だと言うのか。死にたいなら勝手に死ねや。命を懸けた所で何の保証にもなりゃせん」

 

「不死川の言う通りです! もし竈門少年の妹が人を喰ってしまったら取り返しがつかない!」

 

煉獄も不死川に同調する。

 

「確かにそうだね。これからも全く襲わないという保証はない。ただ、人を襲うという証明もできない」

 

「……」

 

「それに禰豆子には炭治郎に加え、柱3名の命が懸けられている。これを否定するには相当な根拠がなければならない。それに鬼無辻は炭治郎に向けて追っ手を放っている。炭治郎のお陰でようやく鬼無辻の尻尾が掴めるかもしれないんだよ。それにしのぶ、説明してくれるかい」

 

「はい。禰豆子さんは鬼として非常に特異な状態です。鬼は人間を喰らうことで体力をつけるのに、禰豆子さんは眠ることで体力を回復させております。私は現在、禰豆子さんをどうすれば人間に戻せるのかを研究しており、もしかしたらそこに鬼無辻を倒す手掛かりがあるかもしれない。禰豆子さんのことは責任を持ってこれからも蝶屋敷に預かり、誰一人殺させません。ですのでどうか、わかってください」

 

そう言ってしのぶは頭を下げ、続いてカナエも頭を下げた。炭治郎もここぞとばかりに「お願いします!」

と頭を下げると、何と甘露寺蜜璃もしのぶたちと並んで、

 

「お願いします。こんなかわいい子を殺すなんて……、胸が痛みます」

 

頭を下げ、そして冨岡義勇も黙って前に出て頭を下げた。

 

「……」

 

他の柱たちは言葉に詰まり、遂に容認に転じたと思いきや……

 

「お館様! 失礼仕る」

 

不死川がそう言うや否や、炭治郎に斬りかかってきた。

 

炭治郎は素早く避けて、戦闘態勢に入る。

 

「不死川君! お館様の前よ!」

 

カナエがすかさず炭治郎の前に立って庇おうとするが……

 

「カナエさん、大丈夫です! 不死川さんのように、良い鬼か悪い鬼か区別のつかない鬼は柱の資格などないし、襲ってくるのなら受けて立つまで」

 

「炭治郎! 成長したね! お姉さんは取り敢えず見守っているね」

 

カナエは脇に退くと、不死川は早速、威嚇してきた。

 

「そんな女々しい蝶羽織なんか着やがってるくせにいい度胸してるぜェてめえは! 死にたいようだからお望み通り、殺してやるよォ! 鬼を連れている柱なんざ、この風柱・不死川実弥が全力で排除してやるぜェ!」

 

風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ

 

地面を抉りながら目に見えぬ速さで襲い来る不死川に対し、炭治郎は直ちに回避技を使う。

 

日の呼吸 拾壱ノ型 幻日虹

 

そして……

 

日の呼吸 拾ノ型 火車

 

背後から斬りつけたと思いきや、不死川は素早く振り返って刀で受けた。

 

ガキン! という鍔迫り合いの音が響いた。

 

「アオイさんたちに何をしたんですか!」

 

炭治郎がそう迫ると、しのぶも冷たい笑みを浮かべて同調する。

 

「そうですよ! 何をしたんですか!」

 

「アイツらか? 手刀で気絶させてやったんだよォ! 殺すのは造作もなかったが隊律違反だしよォ! お前ら揃いも揃って鬼殺隊として常識がなってないぜェ!」

 

これには鍔迫り合い中の炭治郎だけでなくしのぶも眦を決するが……

 

「実弥、炭治郎。そこまでだ」

 

お館様の声に、不死川は我に返り……

 

「申し訳ございません。つい熱くなりすぎてしまいました」

 

と平身低頭になった。

 

「炭治郎の実力、みんなも見たでしょう? 実弥の攻撃にもしっかりと対処した。改めて竈門炭治郎は『日柱』として活躍して貰いたいんだけど、大丈夫かな?」

 

「……」

 

柱からは異論は全く出なかった。風柱・不死川実弥相手に渡り合った実力は嫌でも認めざるを得ない、といった雰囲気だった。

 

ただ一人、不死川だけはそっぽを向いたが、反論は一切しなかった。

 

炭治郎はカナエを見ると、カナエは笑顔で頷いた。堂々と拝命していいのよ、とでも言うように。

 

炭治郎は遂に決心した。

 

「わかりました。改めて柱として精進し、十二鬼月、そして鬼無辻無惨に対して刃を振るい、悲しみの連鎖を断ち切ります! 禰豆子のことも俺が責任を持って人を殺さないようしっかりと管理します!」

 

「うん。よく言ったね。これからよろしくね」

 

お館様が笑顔で言った後、白髪の娘が再び口を開いた。

 

「階級・丁 竈門炭治郎。あなたを改めて日柱に任命します」

 

その言葉と共に、新しい日輪刀を渡された。刀の下には『悪鬼滅殺』という字が彫られている。これぞ、柱たる証明だ。

 

炭治郎は使命感で胸を熱くした。絶対に鬼無辻まで辿り着いてやる!

 

その後、屋敷が与えられるとも言われたが、炭治郎は固辞し、当面は蝶屋敷に住むことを選んだ。

 

そして最後にお館様から早速、初任務を仰せつかった。

 

「炭治郎。早速だけど初任務だ。無限列車という列車に十二鬼月がいて、毎日、多くの人々が殺されているらしい。杏寿郎が向かうから、炭治郎も一緒について十二鬼月を討伐しておいで」

 

「かしこまりました!」

 

日柱・竈門炭治郎がここに誕生し、炭治郎は早々に柱としての初任務に向かうこととなった。

 

 

 

 

 

時を僅かに遡る。

 

鎹烏から弟弟子の那田蜘蛛山でのピンチを聞いた獪岳は急ぎ駆けつけた。

 

アイツはカスだ。

 

「消えろよ!」

 

それは木に生っている桃を頬張っていたある時のことだった。

 

獪岳はその言葉と共に、力なく立つ弟弟子の善逸に向かって食べかけの桃を投げつける。

 

「朝からビービー泣いて恥ずかしくねえのかよ! 先生は凄い人なんだ! 柱だったんだぞ? 鬼殺隊最高の称号を貰った人だぞ? 元柱に教わるなんて滅多にない。それなのにお前はなぜ泣き虫なんだ? そんなに涙を堪えられないなら鬼殺隊から消えろよ! カス!」

 

そうアイツはカスだ! あの臆病ぶりは鬼殺隊どころか一般人でもそうはいない。最も鬼殺隊に向いてないタイプだ! なのに未だに鬼殺隊にしがみつき、命の危険に晒されている……!

 

「何やっているんだよカス! 会ったら絶対にぶん殴ってやる!」

 

なお、獪岳が言っていた『先生』とは、元鳴柱・桑島慈悟郎のことだ。元雷の呼吸の使い手で、女に騙されて借金ができてしまった善逸を引き取り、借金も肩代わりして養育してきた。

 

その時に同じく桑島に師事していたのが獪岳で、カスと罵りながらも同じ釜の飯を食ってきた。放ってはおけない。

 

しかし、那田蜘蛛山に着いた時には戦いは終わった後で、どこを探してももぬけの殻だった。

 

獪岳は不安に駆られながらも下山した時、鎹烏から訃報を聞いた。最も恐れていた事態だ。例えアイツがいくらカスでも。

 

「善逸……! このカスが!」

 

獪岳は走り、その身体が眠っているという蝶屋敷に向かった。

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