鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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宇随天元

竈門炭治郎は既に妻と結婚し、子供が産まれていた。

 

妻は子育てに疲れているのか、寝息を立てて昼寝している。

 

妻に代わり、竈門家に居候しているとある剣士が赤ん坊を見ていた。その赤ん坊も剣士の腕の中でぐっすりと眠っている。

 

「すみません。客人に子供を世話させてしまって。お腹空いたでしょう。どうぞ食べて下さい」

 

炭治郎はそう言いながらおにぎりとお茶を載せたお盆を置く。

 

「いや、私はお茶を飲んだら出ていく。ただで飯を食い続けるのも忍びない」

 

剣士は遠くを見ながら言った。

 

「そんな! あなたは命の恩人だ! あなたがあの時、助けてくれなければ私たちはこうして生きておりませんし、この子だって産まれてきませんでした」

 

「君は何か私を何か凄い人だと勘違いしているようだが」

 

剣士がこちらを振り返った。切れ長の目に物静かそうな出で立ち。

そしてその両耳には耳飾りをつけている。

 

「私は大切なものを何一つ守れず、人生において為すべきことを為せなかった者だ。何の価値もない男なのだ……」

 

剣士の言葉に炭治郎は思わず涙した。

 

―――ああ、縁壱さん。そんな風に言わないで欲しい。どうか、頼むから自分のことをそんな風に……! ああ、悲しい……

 

次の瞬間、炭治郎は目覚めた。涙を流したまま。

ベッドに横たわっており、視界にはたちまち自分の居場所が広がる。

 

「もー! 炭治郎。お姉さん、心配したのよ~!」

 

そのフワフワした声には安心させられる。

 

「カナエさん……」

 

「大丈夫? 戦いの後、ニケ月もの間、意識が戻らなかったのよ。一時期はどうなるかと思って私、心配で心配で!」

 

カナエは思わず涙ぐみ、

 

「みんなを呼んでくるわ!」

 

間もなく、蝶屋敷の撫子たちがやって来て……

 

「炭治郎。姉さんを悲しませたら許さないって言いましたよね?」

 

蟲柱・胡蝶しのぶの凍りつくような笑顔。

 

「……」

 

「しのぶ様の言う通りですよ! 炭治郎さんはもう死んでしまうかも知れないと気が気でなかったんですよ!」

 

神崎アオイが目に涙を浮かべて言った。その後ろで、カナヲも何か言いたそうな表情をしている。

 

「まあまあ。いいじゃないの。炭治郎はこうして目を覚ましてくれたんだから♪」

 

カナエが皆を宥める。

 

「炭治郎。何があっても絶対に死なないで! あなたにもしものことがあればみんなが悲しむわよ」

 

「そう言ってもらえて何よりです。ありがとうございます」

 

蝶屋敷の女子たちに自分の命を気遣って貰えるのはありがたいが、柱ともなると命を賭けて戦わねばならないので、中々そうもいかない所が辛かった。

 

しかし、彼女たち家族のためにもどんな修羅場でも必ず生きて帰ると炭治郎は誓うのだった。

 

「炭治郎。絶対に私たちを置いて命を落とさないで下さいね? あともうしばらく休めば回復するので、そしたら機能回復訓練ですよ? 命を危険に晒す羽目にならないよう、みっちり鍛えますからね?」

 

しのぶの笑顔に、炭治郎はただただ恐縮して返事するのだった。

 

それからカナエたちは寝室を後にし、カナヲだけが残った。

 

「カナヲも無事でよかった。伊之助も無事なのか?」

 

「うん。列車の客の手当をした後、無事に帰れたよ」

 

「そうか。なら良かった」

 

「炭治郎」

 

カナヲがおずおずと声を掛けた。

 

「うん? どうした?」

 

カナヲが話しやすいよう、炭治郎は努めて明るく反応する。

 

「ありがとう。生きて帰ってくれて」

 

そう言うカナヲに炭治郎は一瞬、驚いたがすぐに応えた。

 

「カナヲも生きて帰ってくれてありがとう」

 

 

 

カナエやしのぶをはじめとする蝶屋敷の女子たちの看護もあり、すっかり回復した炭治郎は早速、機能回復訓練を受けた。

 

しのぶの警告通り、地獄の特訓だったが炭治郎は難なくついていった。訓練にはカナヲや伊之助も混じり、次の戦いに向けて切磋琢磨していった。

 

そして炭治郎は任務に復帰し、カナエの補佐としてカナエの警備地区を共に巡回しつつ、日柱として担当地区も割り振られ、鬼が出現しないか警備を行うこととなり、鬼が出てくれば日輪で焼き尽くした。

 

任務に復帰してから二か月後、単独任務から蝶屋敷に帰ってきた時のことだった。

 

「キャー! やめてください!」

 

アオイの悲鳴がした。蝶屋敷の門のあたりで身長2メール以上あり、ヘッドギアをつけている筋肉隆々の美少年風の男―――音柱・宇随天元が、アオイときよ、すみ、なほの身体を纏めて掴んで拉致しようとしている所だったのだ。

 

「炭治郎さ~ん! 人さらいです、助けてくださ~い!」

 

きよが泣き叫ぶ。

 

炭治郎は眦を決し、

 

「ちょっと宇随さん! 女の子に何てことをするんだ! 手を放せ!」

 

早速、宇随に突進して頭突きを喰らわせようとし、打撃を与えたと思いきや宇随の姿は消えており……

 

炭治郎はそのまま地面に投げ出された。

 

「愚か者が」

 

地面に身体を打ち、痛みを堪えている炭治郎に宇随の声が降ってくる。

 

「俺は元忍の宇随天元様だぞ。でめえの鼻くそのような頭突きは俺には通用しねえんだよ」

 

宇随はアオイたちを抱いたまま門の上に飛び乗っていた。

 

「アオイさんたちを返せ、この人さらいめ!」

 

「てめえ、誰に向かって口利いてんだ、コラ! 俺は柱でもベテラン、大先輩だぞ!」

 

「俺はお前を柱とは認めない! むん!」

 

炭治郎は一歩も引かなかった。

 

「何がむん、だ! 脳味噌爆発してんのか? お前が認めないからって何だってんだよ! 俺は任務で女の隊員が要るから連れて行くんだよ! 継子じゃない奴は胡蝶の許可を取る必要はねえ!」

 

「私たちは隊員じゃないです! 隊服着てないでしょう!」

 

今度はきよが必死に訴える。

 

「あっそ。じゃあ、いらね」

 

宇随はあっさりと振り落とした。

 

「何てことするんだ! この人でなし!」

 

落ちてくる三人を炭治郎は何とか受け止めながら抗議した。

(三人は「わーん、落とされました~」と言って泣いている」

 

しかし宇随は無視して続ける。

 

「取り敢えずコイツは任務に連れて行く。役に立ちそうもねぇが、こんなのでも一応、隊員みたいだしな」

 

こんなのと言われたアオイは益々、涙目になる。

 

炭治郎が尚も抗議しようと口を開いたところ、フワフワした声がした

 

「あらあら」

 

花柱・胡蝶カナエだった。いつものようにおっとりとした雰囲気ながらも目が笑っていない。

 

「私の大事な大事な家族への暴力、許せないなぁ」

 

宇随は面倒なことになったとばかりにそっぽを向き、舌打ちした。

 

「何不貞腐れてるのかしら? 今すぐアオイを放して貰えるかしら?」

 

「やだね。俺はこれからの任務にどうしても女が必要なんだよ」

 

「いくら柱だからといって勝手に私の家族に手を出すことは許しません。アオイを放さないならお館様に訴えて柱から追放してもらおうかしら?」

 

よく言った! カナエさん! 

 

カナエは普段はおっとりとしているが、怒ると本当にしのぶに引けを取らぬ程おっかない。

 

炭治郎も畳み掛ける。

 

「そうだそうだ! 俺もお前を柱としては認めない! アオイさんを返せ! アオイさんの代わりに俺が行く!」

 

「そんなに女性に行って欲しいなら私も行くわ! だからアオイを放して!」

 

「俺も今、帰ってきたばかりで体力が有り余っているから行ってやってもいいぜ?」

 

突然、伊之助が門の上に現れて言った。

 

「ありがとう! 伊之助!」

 

「ありがとね! 伊之助君! 助かるわ」

 

炭治郎とカナエはすかさず歓迎した。

 

「おうよ!」

 

「……」

 

宇随は一瞬、沈黙したがやがてアオイを放した。

 

「あっそ。じゃあお前らに来て貰おうかね」

 

宇随は捨て台詞と共に門の外に飛び降りた。

 

(ようやく解放されたアオイはカナエに手を貸してもらいながら降り、泣きながら炭治郎とカナエに礼を言い、三人で抱きしめて暫しの別れの挨拶を交わした。)

 

アオイたちと別れ、蝶屋敷の外には音柱・宇随天元、花柱・胡蝶カナエ、日柱・竈門炭治郎、嘴平伊之助が集まる。

 

「で、どこ行くんだ、オッサン?」

 

伊之助の問いに、宇随は答える。

 

「日本一、色と欲に塗れたド派手な場所」

 

「?」

 

炭治郎たち三人はすかさず疑問に思うが、宇随は振り返って続けた。

 

「鬼の棲む『遊郭』だよ」




次回はいよいよ遊郭編突入です!

お楽しみに!
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