鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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堕姫

花柱・胡蝶カナエと屋根の上で相対した上弦の陸・堕姫は早速、複数の鮮やかな帯を出して絡め取ろうとしてきた。

 

花の呼吸 弐ノ型 御影梅

 

自らに襲い来る帯を全て斬り刻み…

 

花の呼吸 肆ノ型 紅花衣

 

返す刀で上弦の陸の頚に斬りかかった。次の瞬間、頚は帯に変わり、柔らかくなる。

 

よし! これで斬れる?

 

カナエは上弦の陸のあまりの弱さに半信半疑になりながらもピンクの日輪刀に力を込める。しかし、堕姫の頭と胴を接続している帯はいくら力を込めても斬れそうで斬れない。

 

「アタシの頚は硬いのよ。あんたなんかに斬れやしないわ」

 

次の瞬間、衝撃波を出されてカナエは飛び退いた。

 

「そうですか。流石、上弦になっただけのことはありますね」

 

カナエは日輪刀を構え直しながら言った。

 

「そういえばあなたはなぜ、鬼になったのですか? あなたのように美貌であれば人間のまま、遊郭で活躍できたでしょうに」

 

「うるっさいわね! あんたには関係ないでしょう! 人間の頃の記憶なんて綺麗さっぱり忘れた」

 

堕姫は両手を腰につけ、心底煩わしそうに答えた。

 

「それにしてもあんた、稀に見る美貌ね。それは認めるわ。久しぶりのご馳走」

 

堕姫は舌なめずりし、

 

「あんたは上弦に喰われることを誇りに思い、共に生きなさい!」

 

堕姫から帯が再び伸びてきて、カナエは

 

花の呼吸 弐ノ型 御影梅

 

再び防いだ。

 

その時、堕姫は胸騒ぎがした。自分の身体が何かに侵食されているような。

 

堕姫が直感したように、すでに事は起こっていた。

 

 

 

音柱・宇随天元と嘴平伊之助は遊郭の路地を、屋根を走り回り、宇随の妻たちを探し回っていた。

 

「どけどけ宇随様の御通りじゃああ!」

 

「猪突猛進! 猪突猛進!」

 

京極屋の屋根の上に立った宇随は伊之助を向いてこう言った。

 

「俺はここに忍び込み、雛鶴の居場所を聞き出してくる。お前はここら辺で鬼の気配を探ってくれ」

 

「おうよ! 俺は山の王だからな。ガハハハッ!」

 

「は? 何言ってんだ? お前」

 

宇随は心底、白けた表情をした後、続ける。

 

「少しでも自分の命が危ないと感じたら吉原を出ろ。俺はお前たちに悪いことしたと思っている。俺がここに戻ってきて、お前が待っていなければあとは俺一人で動くから気にするな」

 

そう言った瞬間、宇随は姿を消していた。

 

「……何なんだよ! 俺のことを見くびりやがって! 俺は山の王、嘴平伊之助様だ!」

 

そう言って伊之助は鋸状の二本の刀を屋根に置き、両手を左右に伸ばして鬼の気配を探った。

 

獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚

 

「よし! 見つけたぞ!」

 

伊之助は宇随を待つことなく京極屋に突入し、目的地に向かってひたすら猪突猛進した。

 

遊女たちは皆、振り返り、「猪の化け物が出ている」とたちまち騒ぎになるが、伊之助はお構いなしだった。

 

「ここだ!」

 

伊之助は獣の呼吸で廊下の床を破壊すると、細長い穴が出来た。

 

「キャアアア! 誰か!」

 

遊女たちが尚も叫ぶのをよそに、伊之助は穴に身体を突っ込む。が、入らない。

 

「そうか。関節を外さなきゃならないんだな」

 

そう言ってポキっという音と共に伊之助は猪の頭から穴に突っ込んだ。すると入ることができ、下へ下へと滑るように進んで行く。

 

「グハハハハ! 俺は頭さえ入れればどんな小さな穴にも入れる男! 誰にも俺は止められねえ! 猪突猛進! 猪突猛進!」

 

そして間もなく、伊之助は空間に落ちた。そこは桃色を中心とした派手な色をした帯で散らかっていた。まるで巨大なミミズが数多く、蠢いているように。

 

「何だ、このミミズ帯は? 気持ち悪いな。小便かければいいのか?」

 

一瞬、伊之助は戸惑ったがすぐに理解した。何だか知らないが誰か鬼の空間か何かで、ここに捕まえた人間を閉じ込めて好きな時に出して喰うのか……

 

帯からは人間の感覚が伝わって来るのだ。

 

その時、そばの帯がピクっと動いたと思いきや、喋りながら伊之助に向かってきた。

 

「何だい? よそ様の食糧庫に入り込みやがって。汚い、臭い、糞虫が!」

 

「グネグネグネグネ気持ち悪いんだよ! このミミズ帯が!」

 

伊之助は二本の刀で帯を斬ってしまった。すると、女性が落ちてきた。

 

それからも帯は次々と襲いかかるが、伊之助は二本の刀を振り回して次々と斬って喰われた女性たちを救っていく。

 

「アタシを斬ったって意味ないわよ。だって本体じゃないもの」

 

今度は別の帯が喋りながら迫ってくる。それ以外にも何本もの帯が伊之助に向かっている。帯は斬っても斬っても湧き出てくるようだった。

 

獣の呼吸 陸ノ牙 乱杭咬み

 

伊之助は呼吸技で喋った帯に斬りかかるが、斬れそうで斬れなかった。二本で斬っても。

 

「アンタなんかに斬れるはずないわ。そもそも斬る意味すらないのに。哀れだわ」

 

帯がせせら笑い、続ける。

 

「それよりせっかく救えた奴らが疎かだけど、いいのかい?」

 

その言葉と共に複数の帯が地面に倒れている女性たちに向かう。再び帯に閉じ込めるために。

 

「アンタにやられた分はすぐ取り返せるんだよ!」

 

―――クソ! 人間を守りながら戦わねばならねぇのに! やべぇ!

 

さすがの伊之助も焦っていると、どこからか苦無が放たれ、伊之助に迫っていた帯は飛び退いた。

 

「ミミズ帯とは上手いこと言うもんだ!」

 

短い金髪の女性が言った。隣には黒髪の女性が泣きながら怯えている。

 

「ホントその通りです。気持ち悪いです。天元様に言いつけてやります!」

 

「アタシたちも加勢するから頑張りな猪頭!」

 

そう言いながら女性二人は苦無を帯に投げつけていった。

 

「誰だ、お前ら?」

 

伊之助が聞くと、泣いている方の女性が必死に帯を避けながら答える。

 

「宇随の妻です! ごめんなさい、アタシたち、あんまり戦えないですから!」

 

「須磨ァ! 弱気なこと言うんじゃない!」

 

金髪の女性がすかさず殴り、須磨と言われた女性も必死に言い訳する。

 

「だってまきをさん、私が味噌っかすなの知ってますよね? すぐ捕まったし」

 

そして須磨は益々、泣きじゃくる。

 

「無茶ですよ! 人間を守りながら戦うなんて!」

 

「そうだ。よくわかっているね」

 

帯が割って入ってくる。

 

「さあ、どれから喰おうか」

 

―――この帯は斬れそうで斬れねぇ! このまま暫くは凌げるだろうが、斬れない限りは絶対に不利になる……。さあ、どうする!

 

その時だ! 激しい爆発音がしたと同時に、何者かが降ってきた。暫く煙に包まれていて正体が見えなかったが徐々に煙が晴れ、正体を現していき……

 

「天元様……」

 

金髪の方の女性であるまきをが呟いた。

 

煙は完全に晴れ、二本の刀を背負った音柱・宇随天元が立ち上がった。

 

「須磨、まきを」

 

宇随は妻たちの名前を呼び、

 

「遅れてすまなかったな。こっからはド派手に行くぜ!」

 

須磨だけでなく、まきをも嬉し涙を流したのだった。




~大正コソコソ噂話~

宇随は原作通り、京極屋の店員に刀を突き付けて雛鶴とこの遊郭を支配する鬼の正体を聞き出し、その後須磨たちが捕らわれている帯の場所も気配で突き止め、道路に穴を開けて須磨とまきをの救出に向かったのでした。

次回は雛鶴を救出し、鬼殺隊と遊郭に棲む鬼たちとの戦いが激化していきますので、是非、ご期待ください!

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