妓夫太郎から血塗れの鎌が力一杯振り下ろされると、胡蝶しのぶはすかさず飛び退き、
その怜悧な頭脳からどれくらいの毒を叩き込めばいいか瞬時に算出し、刀に猛毒を装填すると……
蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ
独特の形をした日輪刀を月光に輝かせながら蝶そのもののように四方八方に飛びながら、すれ違いざまに妓夫太郎の身体に複数回、猛毒を叩き込んだ。
妓夫太郎はその醜悪な顔を歪め、鎌を持ったまま血を吐いた。
「このクソ女~! 何しやがる!」
妓夫太郎の呻きに、しのぶは
「誰がクソ女ですか?」
と涼しい笑顔で言ったと思いきや、トドメを刺しにいった。
蟲の呼吸 蜻蛉ノ舞 複眼六角
しかし……
血鬼術 跋孤跳梁
妓夫太郎はいつの間に立ち直ると鎌で迎え撃ち、斬りつけてきた。上弦相手には毒が通じない、ということか……。
しのぶは辛うじて避けるが、今度は妓夫太郎からトドメの一撃が繰り出された。
血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌
螺旋状に繰り出される斬撃。ああ、私ってなんて無力なんでしょう。あまりに高速で避けようがないし、腕力が足りないため、迎え撃つこともできない……。
姉さん、炭治郎、カナヲ、アオイ、きよ、すみ、なほ、ごめんなさい……。
しのぶが斬撃に吞み込まれようとしたその時だった。
日の呼吸 玖ノ型 輝輝恩光
「炭治郎……」
日柱・竈門炭治郎がしのぶの前に降り立った。妓夫太郎は飛び退き、新たに現れた敵の正体を見極める。
「しのぶさん、大丈夫ですか?」
「私は何とか大丈夫ですけど、この鬼、上弦の参ですよ?」
「上弦の参?」
上弦の参ならこの間、無限列車で煉獄さんと共に倒した筈だが……。もう補充されたのか?
「お前、耳飾りをつけた日の呼吸の剣士、そうだよなぁ?」
妓夫太郎が薄汚い指を炭治郎に差しながらそう絡んできた。
「だったら何だ! しのぶさんを殺そうとしたの、俺は決して許さない!」
「あぁぁぁぁ! そうか! お前も死んでくれねぇかなぁ! あの方も、始まりの剣士によって負けそうになったと仰っていたなぁ。その剣士は日の呼吸を使っていたそうだ。だから根絶やしにした筈なんだけどなぁ。なんで日の呼吸の剣士が生きているのかなぁ。死んでくれねぇかなぁ。それにその綺麗な眼。美しいなぁ。憎いなぁ。お前ら二人、纏めてあの世へ行ってくれねぇか……」
蟲の呼吸 蜂牙ノ舞 真靡き
妓夫太郎の醜悪極まりない愚痴が終わるのを待たずに、しのぶが妓夫太郎の目を突いた。
「炭治郎! お願い」
しのぶに頼まれるまでもなく、妓夫太郎が毒でよろめいた一瞬の隙を炭治郎は鋭く突いた。
日の呼吸 陸ノ型 日暈の龍・頭舞い
いくつもの円を描くように斬りかかったが……。
血鬼術 円斬旋回・飛び血鎌
妓夫太郎はいつの間に立ち直り、再び渾身の攻撃を仕掛けてきた。
日の呼吸 肆ノ型 灼骨炎陽
炭治郎は刀を両手で握り、太陽を描くように振るいながら妓夫太郎の斬撃を迎え撃ち、
蟲の呼吸 蝶ノ舞 戯れ
しのぶが毒で援護してくれたが、妓夫太郎はすぐに立ち直って血鬼術で炭治郎を追い詰めてくる。
「オイオイ、どうした? この女を守るんじゃないのか? 男なら守ってやれよなぁ。みっともねえなぁ」
妓夫太郎はせせら笑いながら、当たったら死に至る、竜巻のような円斬旋回の斬撃で猛攻してくる。
しのぶはなおも妓夫太郎の死角を狙いながらも自らの無力さに思わず目に涙を浮かべていた。
誰かの不幸が人間以上に美味な『餌』である妓夫太郎なら即、しのぶのことも罵倒しただろう。
しかし炭治郎が全力で迎え撃ち、しのぶを罵倒する余裕すら与えなかった。主君の血で強化された妓夫太郎の血鬼術は鋭く、炭治郎は幾度となく押しつぶされそうになるも、刀に力を込め、何とか耐え続けた。
しかし次の瞬間、
「お前ら、纏めてお陀仏だ!」
妓夫太郎の声と共に血鬼術が盛大に爆発した。
花柱・胡蝶カナエと上弦の陸・堕姫、女同士の戦いを佳境を迎えていた。
堕姫は食糧庫にしている帯から、獲物である美女たちが脱出したのを感じていた。もういい。柱であるこの女をすぐに殺してしゃぶりつくしてくれようじゃないの!
堕姫の身体には各方面から帯が次々と吸収されていき、髪は白髪になり、端正な顔には紋様が現れた、
「あらあら」
カナエはいよいよ攻撃が本格化することを悟り、薄桃色の刀を構える。
血鬼術 八重帯斬り
次の瞬間、無数の鮮やかな帯が交差しながら空から降ってきた。
「アンタとはこれでおさらばね! 私の餌になりなさい」
帯がカナエに落ちてくる刹那、
花の呼吸 弐ノ型 御影梅
カナエは振り落ちてくる帯を斬り裂き、躱しながら堕姫の死角を探る。
しかし帯は無尽蔵で、次々にカナエを襲ってくる。
花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬
カナエは次々に襲い来る帯を縦横無尽に切って回り、堕姫に迫る。堕姫も後退しながら次々と帯を繰り出す。
上下左右を帯に襲われながらも、カナエは帯をかわし、斬ってまわり、付け入る隙を与えなかった。
しばらく双方共に決定打がないまま、堕姫の無数の帯をカナエが迎え撃つ構図が続いていたが、カナエはついに勝負手を放った。
花の呼吸 陸ノ型 渦桃
カナエは身体を空中に反転させながら堕姫の頚を斬りつけた。頚は次の瞬間、帯に変わったのだが、その帯が斬れそうで斬れない。
フゥゥゥゥ!
カナエはまさに全集中で薄桃色の刀に力を込める。が、
「アンタにあたしの頚なんて斬れやしないわよ」
その声と共に、数本の帯が襲ってきたことでカナエは一旦、飛び退き、屋根から地面に降り立った。
「逃がさないわよ?」
堕姫も降りてカナエの前に立ちはだかり、再び無数の帯で襲ってきた。
花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬
カナエは再び高速で帯を縦横無尽に斬って回った。堕姫は後退を繰り返しながらも次々と帯を繰り出してきたが、カナエの斬撃の速さがやや、上回り始めた。
カナエは鬼殺隊に入ろうとした時のことを思い出していた。
両親を鬼に殺され、自分たち姉妹も殺されそうになったところを岩柱・悲鳴嶼行冥によって救われた。
そこで胡蝶姉妹は鬼殺隊に入ることを志願し、悲鳴嶼の許を訪ね、猛反対に遭いながらも条件つきで鬼殺隊を育てる育手を紹介してくれることとなった。
その条件がとてつもない巨岩を動かすことだった。
どう考えても動かしようのない岩。鬼殺隊入隊を拒むためにわざとこんな試練を課したとしか思えなかったし、事実、悲鳴嶼自身もそのつもりで、入隊を断念させるつもりだった。
しかしカナエは渾身の力を込めてしのぶと共に岩を押した。全ては鬼によって家族を殺されるような悲劇をなくすために……。
当時の感覚を思い出しながらカナエは身体にこれ以上ない程の負荷をかけて帯を切り刻むや、ついに堕姫の目前に迫り、
花の呼吸 肆ノ型 紅花衣
高速で再び頚を斬りつけた。頚は再び帯に変わり、斬れそうで斬れなくなるもカナエは渾身の力を込めて帯に切り込みを入れ、そして……
堕姫の頚はとうとう胴から離れ、営業が終了して灯りがすっかりと消えている店の扉に跳ね返り、地面に落ちたのだった。