「き、斬られた? アタシが?」
上弦の陸・堕姫は頚が胴体と離れていることに気付くや否や、金切り声を上げて泣いて喚いた。
「ウェエエエン! お兄ちゃーーん!」
「あらあら」
カナエは乱れに乱れた息を整えながら堕姫の頚の前に座った。全集中の呼吸を乱発してきたせいか、今にも倒れそうだ。それでも流石は花柱、倒れそうになりながらも尚も堪えて満面の笑みを浮かべる。それは慈悲深い聖母そのものだった。
「鬼舞辻無惨に操られ、さぞ苦しかったでしょう? これで解放されるわ」
「うるっさいわね! アンタに、、私の、何がわかるのよ!」
涙を流しながら堕姫が言った。その間にも少しずつ堕姫の頚、胴体共に少しずつ消えていっている。
「お兄ちゃああん! アタシ、死にたくない!」
堕姫は益々、泣き叫んだ。
「うんうん。今まで辛かったわね。もう十分よ」
そう言ってカナエがその乱れに乱れた堕姫の白髪を撫でようとした、その時だった。
ブン!
カナエは咄嗟に飛び退いた。
カナエや堕姫とは対照的な醜悪そのものの姿。やはり薄汚い両手には血に塗れた鎌を握りしめており、ギョロっと突き出たような両目には『上弦』『参』と刻まれており…
「俺の妹をよくも殺してくれたなぁ。妹を殺した奴には精一杯、取り立ててやらねぇとなぁ。それにお前、いいなぁ。その顔。さっき殺ってきた小娘に似て美しくてなぁ」
「殺ってきた娘……?」
まさか、しのぶのこと?
「ああ。後ろに紫の蝶の飾りをつけていたなぁ。それに、あの方が言っていた耳飾りをつけた少年もいたなぁ。二人とも血鬼術を爆発させて纏めて殺してしまった」
そう言って上弦の参・妓夫太郎はクククっと笑った。
「……」
カナエの表情はキリリと引き締まり、そして厳かに口を開いた。
「あなたとは如何なる話し合いも無駄なようですね」
そう言って、薄桃色の刀を抜いた。
「私の大切な家族を殺し、それでも平然と笑っているあなたを決して許しません」
花柱・胡蝶カナエと上弦の参・妓夫太郎の間に一瞬、夜風が吹き…
花の呼吸 肆ノ型 紅花衣
血鬼術 飛び血鎌
花柱と新上弦の参の技が激突したのだった。
時を僅かに遡る。
堕姫の食糧庫に妻たちを助けるべく、救援に駆け付けた音柱・宇随天元。
「派手にやっていたようだな。流石、俺の女房だ」
そう言って宇随は須磨とまきをの頭を順番に撫でた。
「オイ! 祭りの神! ミミズ帯共が穴から散って逃げていったぞ!」
伊之助が指摘するが、宇随は眉を吊り上げて怒鳴り返す。
「うるせぇ! 捕まってた奴ら全員助けたんだからいいだろうが! まずは俺を崇め称えろ! 話はそれからだ!」
そんな中、まきをが臆せず指摘する。
「天元様! 早く追わないと被害が拡大しますよ」
「よし、取り敢えずここを出るぞ! みんなついて来い!」
宇随も応え、一同は地上に脱出した。
須磨とまきをは手分けして、遊郭にまだ残っている人たちに危険を知らせ、遊郭の外に避難させることとなった。
「お前は胡蝶姉妹や竈門を探して加勢しろ。俺は雛鶴を探してくる」
「おうよ!」
伊之助が返事している間にも宇随はいなくなり、続いて伊之助も鋸状の二本の刀を置いて炭治郎たちの居場所を探知した。
獣の呼吸 漆ノ型 空間識覚
「よし! あそこだ! 見つけたぞ! 猪突猛進! 猪突猛進!」
伊之助も駆け出していった。
宇随天元は、病気にかかった遊女たちが休んでいる切見世という女郎屋で雛鶴を抱いていた。
「ごめんなさい、天元様……」
雛鶴は顔中に汗を浮かべ、身悶えている。
蕨姫花魁が怪しいと気づき、捜査しようとした所を早々に怪しまれ、毒を飲んで病に罹ったふりをして何とか遊郭から脱出しようと図ったのである。
「いや、俺もお前らには申し訳ないことをしたと思っている。解毒薬が効いたら吉原を出ろ。いいな」
そう言って去ろうとする宇随を、「天元様……」と呼び止めた。
「ん? どうした?」
「私、見ました……。ここで。病気に罹った者を喰い物にする鬼が……。しかも恐らくはあなたの弟……」
「その通りだ。天元」
宇随が顔を上げると、額と両頬に×の傷がついた鬼が立っていた。そして片目には「下参」と刻まれているのだった。