鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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炭治郎と禰豆子はカナエの招きで蝶屋敷に入ったが……


蝶屋敷(2)

突然、しのぶに悪者扱いされた炭治郎は弁明しようと口を開きかけたが、カナエは「私に任せて」といって代わりに答える。

 

「ちょっとしのぶ。何を物騒なことをしているのかしら? 初対面の相手に刃を向けるなど、無礼にも程があるわよ」

そう諭すカナエは、笑ってはいるもののゾッとするような匂いがする。やはり鬼殺隊トップの一人なだけあって、ただの心優しい乙女ではない。

 

対するしのぶも負けじと姉に向かって抗議の眼差しを向ける。

「私は鬼が居て、それを唆す奴が居たから対処しようとしただけで正当そのものよ。しかし、姉さんのこの行為は隊律違反なのでは? だって鬼殺の妨害よ?」

 

「勿論、そう言われるのはわかっている。しかし、一瞬だけ冷静になって禰豆子ちゃんの姿を確かめて欲しいの。この鬼からは殺意を一切感じないわ。あなたたちも鬼殺隊なら感じるはずでしょ? もしいつもの人を喰らう鬼なら私たちはとっくに襲われているわよ! アオイもお願い、花柱・胡蝶カナエに免じてわかってくれないかしら?」

 

カナエから最後に突然、水を向けられたアオイは溜息をつく。鬼殺隊になれたは良かったものの、鬼への恐怖から鬼を殺す任務には一切就けなくなった過去があるので、しっかりと任務をこなしている鬼殺隊、特に柱に対しては負い目があった。しかもカナエには自分を拾ってもらった恩義がある。

 

「しのぶ様。鬼は籠に入ったまま襲ってくる気配もないですし、処分するのは鬼の姿を見てからでも遅くないのではないですか?」

 

「……」

 

しのぶは言葉を詰まらせる。怒りは続いているものの、どうやり返せばいいか迷っている様子だった。

 

「アオイさん、ありがとうございます! 妹は皆さんを襲ったりは決してしません!」

 

カナエに制されて成り行きをハラハラと見守っていた炭治郎はここがチャンスとばかりに口を挟むと、アオイは仏頂面のまま釘を刺す。

 

「勘違いしないで下さい。別にあなたのために言ったのではありません! 怪しい動きを見せたらしのぶ様が即、毒殺しますから!」

 

うわっ、しのぶさん、毒を使いこなせるのかと驚く間もなくしのぶが口を続ける。

 

「その通りですよ、坊や。あなたがやろうとしているのは鬼を庇うことであり、言語道断ですからね。しかし、アオイの言う通り、見てみるだけ見てみましょう。私も少し感情的になりすぎました。それに坊やが嘘を言っているようにも感じなかったので」

 

しのぶの青筋は少し、緩くなった。炭治郎はすかさず、ありがとうございますと言った。

 

「よし、みんな賛成ね! お姉ちゃん安心したわ~。禰豆子ちゃん、今度こそ出てきて〜!」

 

カナエは笑顔で呼び掛けると、禰豆子は籠から出て両手をペタっと床につけて出てきた。

 

「……」

 

しのぶもアオイもそれまでとはうって代わって口をポカンと開ける。そこには鬼とは到底思えないような、竹の口枷を咥えた、髪の長い美少女が佇んでいた。極めつけは「うー!」と言いながら身体をひとりでにズズズっと伸ばし、今、この場に居る女子たちと遜色ないくらいの背になる。

 

「あら~! 禰豆子ちゃん! なんてかわいいの!」

 

カナエは早速そう言って、禰豆子の頭を撫でる。禰豆子はそれに応えるかのように笑顔でカナエに抱きつく。カナエも抱きしめる。

 

「もう! 姉さんったら!」

 

しのぶはそう言いながらも、禰豆子を許容してくれたような匂いだ。明らかに問答無用で炭治郎ごと排除しよう、という匂いは消えかかっている!

 

「それより、任務を終わったばかりのカナエ様を休ませないと!」

 

アオイは肝心なことを口にする。そもそもカナエにとっては、炭治郎たちを助けに行くという任務から帰って来たばかりなのだ。

 

「姉さん、行きますよ! あなたもさっさと上がりなさい」

 

しのぶは姉を促すと共に、何と炭治郎にも声を掛けたのだ。

 

「えっ、俺、上がっていいのですか?」

 

「いいですよ。禰豆子ちゃんも受け入れることにします。姉から鬼を連れている、というからどんな詐欺師かと思ってしまいました。ところで名前聞いていなかったですね」

 

「竈門炭治郎です。よろしくお願いします」

 

俺は詐欺師と思われていたのか……。炭治郎は心の中で苦笑する。

 

「はい。改めてカナエの実の妹の胡蝶しのぶです。炭治郎君、これだけは約束して下さい。くれぐれも姉さんを悲しませるようなことだけはしないで下さい。悲しませたらわかっていますね?」

 

しのぶの笑顔ほど恐ろしいものはない。炭治郎は改めて感じる。

 

「勿論です! 俺の命に懸けて、禰豆子には人を襲わせませんし、この家でできることは何でもやります!」

 

「約束ですよ?」

 

「はい!」

 

炭治郎としのぶが話し終えると、アオイが口を開いた。

 

「これから炭治郎君には手を洗って貰って、泊まってもらう部屋を案内します」

 

「禰豆子ちゃんは私と来てね?」

 

カナエが言うと、禰豆子は嬉々として彼女の蝶羽織を掴む。すっかりカナエに懐いているようだ。

 

「カナエさん、禰豆子を可愛がってくれてありがとうございます!」

 

「いいのよ~! これからは禰豆子ちゃんは私の新しい妹だし、炭治郎君は弟子であり弟よ!」

 

カナエは快活に言い、しのぶもやれやれといったように続ける。

 

「あらあら。こうなるともう止められないわね」

 

アオイも炭治郎を見て頷いている。家族として受け入れる、という匂いだった。

 

「皆さん、ありがとうございます! この御恩は一生、忘れません!」

 

「ふふふっ」

 

カナエだけでなくしのぶも笑う。

カナエが禰豆子を連れて上がると、炭治郎はアオイに洗面所を案内され、手を洗った。そして、部屋まで連れて行ってくれた。

 

「ここが、あなたの部屋になります!」

 

案内されたのはベッドが1つ敷かれた部屋だった。シーツも枕もシミ1つなく綺麗だ。

 

「いいですか? 絶対にカナエ様やしのぶ様を困らせたりしないで下さいよ? もし困らせたらお仕置きしますからね?」

 

アオイは眉間に皺を寄せて迫ってきた。

 

「はい! 勿論です、誓ってしません!」

 

アオイは扉を閉めて出て行った。

 

「ふう」

 

女子たちからの追及を何とか乗り切り、ようやく炭治郎は休むことができた。窓からは、ささやかな風が木の葉を揺らし、蝶が数匹飛んでいるのが見える。

しかし、あまり休む間もなく扉が開かれる。

 

「夕飯の支度」

 

彼女は戸口に立ったまま、それだけ言った。ピンクの蝶飾り(カナエとお揃いの)で結んだサイドテールに、小柄だったしのぶやアオイよりは背があるものの華奢めな身体つき、そして紫色の大きな瞳が特徴的だ。

 

「こんばんは! 竈門炭治郎といいます。俺は禰豆子という妹以外の家族を鬼に殺された所をカナエさんに拾って貰いました! 宜しくお願いします!」

 

炭治郎は弾かれたように立ち上がり、威勢よく挨拶したが……

 

「……」

 

彼女は微かな笑みを浮かべただけで何も答えない。炭治郎はまたしても啞然とさせられたのだった。

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