鬼滅の刃 蝶と日と   作:毛利カトリーヌ

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とうとう花柱・胡蝶カナエへの弟子入りを認められた竈門炭治郎。全集中の呼吸をマスターし、いよいよ剣技の稽古の火蓋が切って落とされる。


体験入隊

ヒノカミ神楽 円舞

 

炭治郎はヒノカミ神楽を舞った時の感覚を思い出しながら木刀を振る。しかし……

 

花の呼吸 壱ノ型 紅蓮華 

 

あまりに素早くて力強い一撃に、炭治郎は木刀を落としてしまった。

 

「あら? 炭治郎の力はこんなものかしら?」

 

カナエは汗ひとつかかず、涼しい顔で言った。

 

「しっかりと息を吸って全力でかかって来なさい!」

 

「はい!」

 

炭治郎はバネのように前方に飛び出し、カナエの周囲を舞うように動き、彼女の死角を狙って木刀を振るう。

 

炭治郎の必死のヒノカミの舞は、カナエの肩、胴、足、手と狙うが、彼女の表情に焦りは無い。

 

 

 

 ――花の呼吸 弐ノ型 御影梅。

 

 

 

カナエが周囲に放った斬撃は自身を護るように、炭治郎の斬撃を叩き落としていく。カナエは肺活量が半端ではなく、人間くらいの大きさの瓢箪を一瞬で割ってしまうほどだ。呼吸を深くできる分、漲る力も強くなるし、何より激しく動き続ける持久力が凄い。

 

その凄まじい肺活量が遺憾なく発揮されるのがこの“御影梅”だ。相手からのどんな攻撃をも切り刻んでしまい、その防御力は水柱・冨岡義勇の「凪」に匹敵する。

どれだけ炭治郎が必死にヒノカミ神楽を舞ってもその壁は崩せない。

 

 

しかし一週間後には10回に1回くらいは御影梅を突破して間合いに迫れるようにはなってきた。毎日のヒノカミ神楽の舞の練習が剣技に活きてきたことが大きい。

しかし彼女の護りを突破しても……

 

 

花の呼吸 陸ノ型 渦桃

 

 

身体を捻って躱され、捻った勢いで炭治郎の木刀ごと斬り上げられる。

 

「参りました」

 

何度言ったかわからないくらいのギブアップ宣言をする。

 

カナエさん、動きに死角がなさ過ぎてどうすれば白星を上げられるか、全く見当がつかない。

 

それでもカナエは気長に稽古してくれた。炭治郎の場合、とにかく数をこなすことで少しでもヒノカミ神楽を剣に馴染ませるしかないのだと言う。そして……

 

花の呼吸 伍ノ型 徒の芍薬

 

ヒノカミ神楽 斜陽転身

 

ようやく一矢報いることができた。カナエの渾身の九連撃を相殺することができたのだ。

 

「よし! 炭治郎、この調子よ!」

 

 

「はい!」

 

炭治郎は1カ月後、まだまだカナエが優位であるものの、5回に1回くらいは勝てるようになった。

 

「これでようやく鬼殺隊として及第点かな」

 

「これでも及第点ですか?」

 

血を吐く思いで柱相手に渡り合っているのに? 炭治郎は啞然とする。

 

「ええ。でも炭治郎には鬼殺隊に入っても絶対に生きて帰ってきて欲しいから、求める敷居が高いし、最終戦別には柱くらいの実力をつけてから行ってもらいたいと思っている」

 

「えーっ?」

 

炭治郎は気が遠くなりそうだった。少しずつ勝てるようになっているとは言え、柱なんて1万歩は遠い。最終戦別の話は既に聞いていた。鬼が沢山閉じ込められた山中を1週間、生き延びねばならない。しかし、その最終戦別を受けて乗り越えなければ鬼殺隊としてのスタートラインに立てない。

 

しかしカナエは意に介さずニコニコしながら言う。

 

「私は炭治郎には期待しているのよ。炭治郎は近いうちに絶対、柱くらいの実力を身に着ける。そのためと言ったら何だけど、私の任務に同行してもらおうかなって思うの」

 

「カナエさんの任務にですか?」

 

 

「ええ! そうよ。鬼殺隊として強くなるには鍛練も重要だけど、鬼を退治する現場も経験しなければと思うのよね~。いわば鬼殺隊の体験入隊、というやつよ。あっ、勿論私がついているから、炭治郎は私から離れないようにするのよ?」

 

「はい!」

 

いよいよ本格的な鬼殺に足を踏み入れるか!

炭治郎が気を引き締めると、カナエは次の決め台詞を吐く。

 

「もし炭治郎が襲われたりしたらこのお姉さんが守ってあげる」

 

炭治郎はこんな端正な美少女から言われ、一瞬ドキッとするも、

 

「いや、守ってもらうなんてとんでもない! 必死に刃を振るい、少しでもカナエさんの役に立ちます!」

 

炭治郎はどこまでも長男気質だった。誰かに依存する、守ってもらうといった発想は端からなかった。

 

「偉い!その意気よ! 炭治郎がピンチになったら私が受け止めるから、今までの修行の成果を精一杯出しなさい!」

 

「はい! 頑張ります!」

 

そして任務は間もなくやって来た。

 

「カァー! 胡蝶カナエ、胡蝶カナエ〜! 北西の街へ向カエェェ! 北西の街デワァ、毎夜毎夜、少女が消えているゥ! その後は浅草に向かうべしィ!」

 

「少女が襲われているのね。胸が痛むわ」

 

カナエは眉を顰める。

 

「炭治郎、今回の任務で禰豆子ちゃんを連れていくわよ? 禰豆子ちゃんを背負う箱も用意してあるから」

 

「禰豆子を、ですか?」

 

禰豆子はと言えば、カナエの部屋で眠ったままで今も目覚めていなかった。

 

「浅草で、禰豆子ちゃんの今の状態を診てくれる、という方と会えることになったの」

 

「ありがとうございます! カナエさん!」

 

炭治郎はパーッと明るい表情を浮かべて言った。ようやく禰豆子を目覚めさせられるかもしれない!

 

「いえいえ。当然のことをしたまでよ」

 

それから二人は準備し、炭治郎は禰豆子を中に入れた木の箱を背負って蝶屋敷を出た。

蝶屋敷からはしのぶ、アオイ、カナヲ、きよ、すみ、なほと総出で見送りに出ている。最近はずっとカナエと稽古していたため、彼女たちとの接点は少なくなっていた。

それにしのぶカナヲ師弟も稽古が本格化して忙しくしていた。

 

「炭治郎、決して無理はしないで下さいね?」

 

しのぶが言うと、アオイも続く。

 

「炭治郎さんは私にとって初めてできた弟のようなものです。もし炭治郎さんに万が一のことがあればカナエ様だって私たちだってみんな悲しみます。だから絶対に無事に帰ってきて下さい! 約束ですよ?」

 

「大丈夫よ。だって私がついているんですもの~」

 

カナエはフワフワとした声で言う。これには誰も「理屈になってない!」とは突っ込まない。花柱・胡蝶カナエがついている。蝶屋敷一同にとってこれほどの安心感はなかった。

 

「姉さんもお気を付けて」

 

しのぶがそう言うと、他の皆もそれに続き、カナエと炭治郎師弟は笑顔で送り出された。

 

炭治郎は鬼殺隊ではなく、鬼を殺せる所謂日輪刀は支給されていないので、蝶屋敷から借りた刀を帯刀している。隊服も蝶屋敷から借りた者を着ている。

そして両耳には日の耳飾り。ヒノカミ神楽と共に、父からの形見だ。これは肌身離さず身に付けている。

 

「私、禰豆子ちゃんには人間は味方で敵は人間を襲う鬼と毎夜、暗示をかけているの。だからこれから起きたとしても人を襲うとはないと信じたいけど……、もし襲いそうになれば一緒に止めましょう!」

 

「勿論です! カナエさん!」

 

「よし、くれぐれも私から離れないようにね!」

 

「はい!」

 

二人は並んで蝶屋敷から離れて行った。しのぶ達は二人が見えなくなるまで見送っているのだった。

 

 

 

問題の街に着き、二人は状況を把握する。日中、炭治郎は匂いを嗅ぎまわり、鬼が出没したところを探る。カナエは道行く人に聞き取りをしていった。カナエのような美女に話し掛けられて、相好を崩さない者はいない。しかも話すのも聞くのもとても上手い。まるで聖母のようだ。たくさん情報を集めることに成功した。

炭治郎はカナエの情報と合わせ、日が暮れた頃には鬼が出没する路地を特定する。

 

「炭治郎がいて助かるわ。炭治郎がいなければどこに鬼が出没するかこんなに早くわからなかったわよ。姉さん、頼りにしてるぞ~」

 

「任せてください! 俺、鼻だけは利くんで!」

 

炭治郎はニコッと笑って言った。

 

間もなく夜になり、寝静まろうとしていたある家では……

 

炭治郎と同世代くらいの少女が布団を被って眠りに入ろうとしていた。ここ最近、夜な夜な少女が誘拐されている、という噂は耳にしていたので、その子たちは大丈夫だろうか、無事だろうかと頭に浮かぶ。

 

やがて眠りにつくと、布団の周辺はどす黒いものに覆われ、どす黒い何かから爪が鋭い両手が現れた。

彼女は目覚めるが、その刹那、口をその両手で塞がれ、少女の身体ごとどす黒いものに引き込まれ、消えていった。

まるで沼に引き込まれるように。

 

「カナエさん、鬼の匂いが濃くなりました! こっちです!」

 

炭治郎は全速力で駆けていく。

 

「わかったわ!」

 

カナエも炭治郎の匂いを信頼して後に続く。

いよいよ、竈門炭治郎の「鬼殺隊体験入隊」における「実戦稽古」が始まる。




~大正コソコソ噂話~

花の呼吸 壱ノ型 紅蓮華について

原作では出てきていませんが、花の呼吸の基本技で、水平に鋭く相手を斬りつける技です。壱の型ながら威力は凄く、ピンク(花の呼吸使い手の色)の日輪刀で斬りつけると相手からの血しぶきが飛び、まるで紅蓮華のように見えることからこう名付けられました。
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