同時に蝶屋敷に着いてから眠りについたまま目覚めない禰豆子について、浅草で診療してくれる話となり、箱に背負って連れていくこととなった。
炭治郎の「体験入隊」の結末や如何に?
「このあたりです! カナエさん。この道の下から鬼と人間の女性の匂いがします!」
炭治郎はそう言って道に剣を突き刺した。すると、黒い渦のようなものが出現したと同時に気を失った女性の身体が姿を現した。すかさず引っ張り上げると、服が破れる音がしながらも何とか地上に上げることに成功した。
「大丈夫ですか?」
カナエはすかさず駆け寄り、そばに座らせる。
しかし、女性を引っ張り上げた渦から鬼が出現し、近くにもう一つ渦ができ、鬼が出現する。二体とも長髪で、激しく歯軋りしているのが特徴的だ。
「貴様!」
「俺が先だ!」
鬼たちが歯軋りしながら渦から出てカナエたちに襲い掛かるが……
「あらあら」
フワフワした声と同時に……
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ピンクの刀が一閃したと思いきや、鬼は二体とも、黒い渦に潜る間もなく頚を斬られた。たちまち塵となり、消滅した。
「速い……」
炭治郎は啞然として師匠の剣裁きを見ていた。
「ん? どうしたの?」
カナエは可愛らしく首を傾げる。とても今、鬼たちを一閃した人とは思えない。
「い、いや。すごいなって」
「炭治郎も今くらいの鬼なら殺せるようになるわよ。そういえば大丈夫かしら」
カナエは救出した女性を思い出し、そばに駆け寄って彼女の身体を触って脈を確かめる。
「脈はあるようね」
そう言った時だった。
ガタガタガタガタ!
炭治郎は慌てて振り返ると、再び黒い渦から長髪の鬼が歯軋りしながら出て来たところだった。
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炭治郎は素早く日輪刀を抜いて一閃した。手応えはあり、鬼は近くの壁に串刺しの状態で叩きつけられた。
「お前たちは腐った油のような匂いがする。酷い悪臭だ。一体、どれだけの人を殺した」
炭治郎が凄むと、鬼は逆ギレする。
「女どもはな! あれ以上生きていると醜くまずくなるんだよ! だから喰ってやったんだ! 俺たちに感謝しろ!」
炭治郎は串刺しにしている刀に力を込める。鮮血が流れると共に、鬼は悲鳴を上げる。
「あらあら。聞き捨てならないわね~」
カナエがやって来てピンクの日輪刀を抜き、首をあっさりと一閃してしまった。
「ありがとうございます!」
「ううん。炭治郎が串刺しにしてくれたお陰で楽に首を斬れたわ! それに今の突き技、見事だったわよ!」
「ありがとうございます! この調子で頑張ります!」
師弟が話している間に鬼は塵となって消え、炭治郎は落ちてきた刀を受け止めた。
鬼の匂いが消えたことを確認し、炭治郎とカナエは救った女性を手当てしていると、間もなく女性は目覚めたので、無事、家の前まで送って街を去ったのだった。
続いて、炭治郎とカナエは浅草に向かった。もちろん炭治郎は箱を背負って。
「そういえば浅草に着いたら炭治郎に蝶の髪飾りを買ってあげようと思っているの」
「えっ、そんな俺、男ですし、いいですよ」
「いや、男でも充分似合うわよ! それに蝶飾りは家族としての証だから是非、受け取って欲しいの。どんな模様にするかは炭治郎が選んでいいから」
「……はい」
「ついでに禰豆子ちゃんの髪飾りも買ってあげなくちゃ。私と御揃いのがいいかしらね……」
禰豆子はどんな髪飾りでも似合う気がする。
「ありがとうございます。何から何まで」
自分に蝶の髪飾りが合うかという不安はあれど、感謝の気持ちを述べずにはいられない。
「お安い御用よ。あなたたちは家族なんですもの~! さ、私から離れないようにね」
そう言ってカナエは炭治郎の手をぎゅっと握った。カナエの手は真っ白で指一本一本が綺麗に整っており、とても温かい。瞬く間にその温もりが伝わってきた。
炭治郎は思わず顔を赤らめた。
「あらあら。恥ずかしがらなくていいのよ~。私たちは家族なんだし」
カナエはすかさず炭治郎の気持ちを見透かすように覗き込み、悪戯っ子のように笑ってみせる。
「そ、そうですね」
炭治郎は辛うじて返事して、師匠の手を握り返す。それを確認したカナエはフフフっと笑ったのだった。
浅草は行きかう人々でごった返していた。田舎に生まれ、過ごしてきた炭治郎にとって衝撃的だった。高くそびえ立つ建物がたくさん立っており、しかも日本の伝統を残していてどことなく厳かで、思わずめまいがしそうだった。
くれぐれもカナエとはぐれてはいけないとその手を強く握りしめる。
「ふふふっ、炭治郎、ちょっと痛いなぁ」
「あっ、ごめんなさい! 都会にきたのは初めてで怖くて」
炭治郎は慌てて握力を緩める。
「あらあら。初めてなのね。はぐれなければ大丈夫よ、炭治郎」
そう言ってカナエはそっと身体を寄せてきた。
「ありがとうございます!」
炭治郎は再び顔を火照らせながら言った。
「ふふふっ、今日も素直ね。そんな炭治郎君には、御馳走してあげましょう!」
そう言って、カナエは近くの店に入って食事を御馳走してくれた。どれもこれも美味しかった。
食事しながら、カナエは何か悩みはないかとか聞いてきたが、特にないですと答え、炭治郎自身について色々聞かれたので、一つひとつ答えていった。「私、炭治郎についてもっと知りたい!」と言って。
炭治郎も炭治郎でカナエに質問したりして、楽しい食事となった。そして剣士として重要な心構えを言われる。
「炭治郎、あなたはとても綺麗な心を持っているわ。だからその心を大切にして、優しくて強い剣士になるのよ? 真に強い人というのは普段は強さの欠片も見せないものだから。鍛錬して強くなった力は自分の身の周り、そして守りたい人がピンチに陥った時に初めて披露する。あとは何より自分自身が身の危険から守る時に使う。普段は決して誰かを威嚇したりするのに力は使わない。このことは忘れないでね?」
「はい! 必ずやカナエさんのような立派な剣士となり、多くの人々の幸せを守ります!」
「うん。期待しているわよ!」
炭治郎とカナエは価値観が似た者同士、分かり合えたのだった。
食事が終わるとカナエに別の店に連れられ、蝶飾りを選ぶことになった。炭治郎は辞退したのだが、断り切れなかった。
カナエとカナヲはピンク、しのぶは紫、アオイは青……。蝶屋敷の面々の蝶飾りの色を思い浮かべる。
「カナエさんとお揃いでお願いできますか? 禰豆子のも含めて」
「わかったわ! 禰豆子ちゃんは髪が長いから、蝶飾り二つ買って私と同じ髪型にしたらいいかしらね~!」
「ありがとうございます。ただカナエさん、俺は男で髪が長くないので、髪飾りをつけるのは髪が伸びてからでもいいですか?」
「仕方ないわね。でもあれは蝶屋敷の家族の証だし、お守りみたいなものだから、出来ればつけて欲しいなぁ~」
「わかりました!髪が伸びたら必ずつけますし、それまでは絶対に肌身離しません!」
今の髪に似合うかは別として、家族の証をもらえたことは率直に嬉しかった。炭治郎は買ってもらった蝶飾りを大事に懐にしまったのだった。
夜になっても浅草は明かりが灯され、明るいままだった。藤の花の宿を目指してカナエと手を繋いで歩いていると、何やら鬼の匂いがした。それも強烈な。
しかも、自身の家族が殺された時、家に残っていた匂いだ!
家族の仇―――つまり鬼舞辻無惨の。
「カナエさん、鬼がいます! あっち側に!」
「そのようね!」
カナエも気配を感じたようで、炭治郎を引っ張って人混みを掻き分けていった。
~大正コソコソ噂話~
原作通り、沼鬼が出てきました。
ピンチに陥ったら黒い渦に潜って地下に退けるのが武器でしたが、花柱・胡蝶カナエは決して地下に逃しませんでした。
さて、次はいよいよ無惨が登場します。お楽しみに。