「気にくわんな」
わたしが彼とはじめて合った時に言われた言葉だ、彼が気に食わないのはわたし自身ではなくわたしを取り巻く環境全てにであった。
0079 12月1日
彼と出会ったその日はジオンの敗戦が濃厚になった日だ。だいぶ後になってから知ったのだが地球連邦のジャブローという基地に対し攻撃を仕掛け失敗し、多分地球連邦、ジオン公国共に正確な情報として出回った頃であった。1ヶ月前のオデッサの敗北以降、戦闘に勝ったという情報があっても大局では敗北している事は周りの大人達からなんとなく伝わってきた。
彼の名前はアイザック大尉、事前に
彼はわたし専属のMS教官として呼ばれ、1ヶ月の訓練の後に彼の部下として戦場に出るのだそうだ。
その頃は既にMSの基本的な動作は知っていて、私専用のモビルスーツであるMS-11FZ03 ザクⅡ最終生産型マグネットコーティング処理3号機、通称「アクト・ザクⅡ」のロールアウトも数日後に迫っていた。
「1ヶ月って言ったら動かす、撃つ、殴る、撃破される程度しか教えられない」
アイザックは
「君には動かすと、撃破されるだけを徹底的に叩き込む」
「それで戦争に勝てるの?」
今でこそ愚かな質問だと思うが当時は純粋な疑問としてアイザックに聞いた。
「無理だな、確実に戦争は負けるし勝てる戦闘もほぼ無いだろう。だからこそ生き残る事を重視する」
アイザックの訓練は先ず座学から始まった。
「MS同士の戦闘において被弾や被撃はもはや避けられないものになっている」
「たとえば盾ひとつとっても敵に向かって真正面に構えるのと傾斜を取って防御するのとでは貫通や減衰力が大幅に違ってくる」
アイザックは斜線を2つ書いてから斜線と垂直になる線とホワイトボードと平行になる線を書く、角度の違いで厚みが違ってくるのだ。
「だが君のザクには固定シールドがない以上、基本的に本体の装甲厚でのみ対処するしかない、その上でどのように防御を取るか」
「先ずは障害物、友軍機の影に移動したり敵の射線上に敵機を挟む、これに関しては後に位置取りの訓練として行うから知識として覚えておいて欲しい」
「本体の装甲厚に関しては、当てていい部分といけない部分の二つがある事を覚えて欲しい」
「当てていい部分は本体胸部、両脚部、両腕部、両肩、手甲、それに頭部だ」
「当ててはいけない部分は?」
「それ以外の全てだ、関節部に当たればそこから先はダメになるしスラスターやプロペラントなんてものはカスリでもしたら爆発する。しかも厄介なのは君の機体は高機動型らしく当ててはいけない部分が多いという事だ」
アイザックの授業はナニーの座学よりもとても面白くためになった。特にためになったのは
「船外活動においてはパワーよりも手足を使って掴んだり蹴ったり引っ掛けたりして移動する」
「モビルスーツも同じだスラスターばかりふかすより、蹴った勢いを付けてスラスターをふかすと同じプロペラント量でより遠くに飛ばせる」
「また地球軌道上で衛星に追いつくには衛星を追うのではなく衛星と逆方向に飛び衛星の前に出るようにするんだ」
「アステロイドベルトは薄い部分を即座に見分けろ」
数日後にアクト・ザクⅡがロールアウトし実戦形式の訓練を行う事となった。
『姿勢制御に頼るな! AMBACを意識しろ!」
わたしはE.V.Aで習った事を意識しスラスターを全く使わずにその代わりペズン衛星の構築物やアイザックのザクを使ってアクト・ザクⅡの回避機動を行う。
それ以外にはパイロットが行える乗機のセルフチェックから一歩踏み込んだ簡易的なメンテナンス、座面を外した中に入れるレスキューバッグの中身の選定、意図的にMSをクラッシュさせる方法、特に記憶に残ってるのは乗機に名前を付ける事だ。
「エヴァがいい」
わたしは即座にアクト・ザクⅡをエヴァと呼ぶようになりその頃のわたしは大人達になにかにつけて「いーぶいーえー」と「EVA」の話をしていた、クリスマスには工作部から「EVA」と書かれたネームプレートを送られた、わたしはそのプレゼントをアームレストの裏にリベットで貼り付けてもらった。
ただわたしがエヴァに乗ったのはそれが最後であった。
アイザックが苦い顔をして「お別れらしい」と言った、そうしてからナニー達と共に
ア・バオア・クーではじめて見たのは良くない感情と宙域に浮かぶ大量の軍艦であった、そうしてから17番ゲートを通る。
大人達に促されわたしはそれの前に立った、エヴァとは全く違うMS。頭はザクなのだが身体はエヴァや他のMSとくらべ一回りも大きく両手はビームキャノンになっており、驚きなのは脚がなかった事だ。
それは「ザクⅡ」と接続された「デミ・ジオング」というモビルアーマーなのだそうだ。
25日からはそれの慣熟訓練を行った、アイザックとくらべ大分下手な教え方で何度も打たれたりもした。
28日頃にはようやくオールレンジ攻撃が行えるようになった。
そして運命の12月31日、わたしは警報の鳴る数分前にそれに気づいた。憎悪の大群がやってくる感覚に恐怖した。
警報が鳴ると通常部隊の出撃の後にわたしは出撃した。
オールレンジ攻撃で敵の戦艦を一隻撃破する、するとわたしの中に大量の感情が流れてくる、戦艦に乗っていた人たちの様々な感情がわたしの中に巡る。恐怖、憎悪、諦め、許し。いつの間にか目の前が赤と黄色のまだらになっていた。