ア・バオア・クーの戦闘が終わり、グラナダで終戦協定を終えた連邦軍が先ず行った事はジオンの武装解除とア・バオア・クー、月、そしてサイド3間の宙域の安全確保であった。
そしてその安全確保の中には戦闘で撃破されたMSの除去もあった。意外かと思われるがア・バオア・クー宙域ではまだ稼働できるMSが大量に漂っていた。プロペラントや弾薬の欠如によるもの、終戦と聞き兵達が放棄したもの、戦闘による損傷で投棄されたが修理すれば稼働するもの等様々であった。
高性能モビルスーツMS-14ゲルググ、重モビルスーツのMS-09ドム、そしてソロモンで多発した連邦艦艇の爆発事故の主犯であったオールレンジ攻撃機やモビルアーマー等を優先して回収した。めぼしいお宝がなくなってからようやくザクや艦艇の回収作業に入る。
あるザクを回収しコックピットを開けるとそこには、ノーマルスーツを着た人が倒れていた。ガラス面には血反吐が塗れており回収班が遺体だと思って避けるとそれはなんと生きていたのだ。
無理もない終戦から一ヶ月近くが過ぎようとしていたのだ、回収班は慌ててア・バオア・クーの統合本部へ連絡をし救急ランチを要請した。
この頃になると連邦軍兵のジオン捕虜への憎しみはだいぶ薄れた、どの部隊もやるべき事が多い上にア・バオア・クー宙域の外には残党がたくさんいるのだ、形式上の終戦であるがその後も少戦闘は多発した。
救急ランチには専属の医師が配属されていた、彼の名前はミノル・ヨシダ少佐、地球連邦軍の軍医であり開戦前は脳外科医であった。
救急ランチが患者を収容して飛び立つ、ノーマルスーツを脱がすとそこにいたのは少女であった。
ヨシダ少佐は救急ランチとア・バオア・クーの地球連邦軍軍病院内で22時間に及ぶ治療を彼女に施した。極度の栄養失調とそれからくる視力の低下、軽度の酸素欠乏症以外は怪我らしき怪我は一切無かった。
その後に通過儀礼として軍法会議に送られ戦犯事項が無ければそのままア・バオア・クー内の収容所へと収容される事となる。
ヨシダ少佐は懇意にしていたジオン軍のオッチャン伍長に彼女の事を任せた。まだ年齢が若年である事と女性であるという事、この2つのパーソナリティは男女混合の収容所内ではかなり危険であった。
オッチャン伍長というのはジオン軍きっての名整備士と呼ばれた老人で、ジオン軍内において尊敬を集めたMSパイロット達が頭の上がらない人物の一人である。
ヨシダ少佐やそれ以外にも収容所の責任者等はそういった、女性や少年兵等を守るために何名かの顔役と通じている。れっきとした違法行為であったが終戦後の混乱のさなかでは些細な事であった。
それ以外にも問題があった、酸素欠乏症の影響から記憶障害となっており生活する上での知識には問題が無かったものの自分の個人情報を全く思い出せなかったのであった。
便宜上彼女の名前は「レス・ヨシダ」と名付けられた。
レスはオッチャンの元で数カ月間穏やかな生活を過ごした、その後に退役するかジオン共和国軍に残るか決める時、レスは意外にもジオン共和国軍に残る事を決めた。レス自身にも自立心というものがあったし「何となく軍に残らないといけない」とレスも言っていた。
モビルスーツから救出された事からパイロットであるとは分かっていたがレスは全く攻撃行為が出来なかった。シミュレーター内ですら全くトリガーが引けず、適正は無いと思われていたがモビルスーツを用いての船外活動に秀でるものがあり、共和国軍の掃海部隊に配属され戦後賠償任務に参加する事になった。
「先生、オッチャンありがとう」
レスは2人にそう言うとまた宇宙へ飛んでいった。