平等院鳳凰「滅びた……」   作:Amisuru

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今月のお頭が最高にカッコ良かったので書きました




滅びよ……。

 

 

『40-0! マッチポイント、ユルゲン・ボルク!!』

「ハァ……ハァ……!」

 

 

 ――イギリス・ロンドン。ウィンブルドン選手権、決勝。

 あのU-17W杯から5年の時を経て、平等院鳳凰とユルゲン・バリーサヴィチ・ボルクの両名は、世界最高峰の舞台であるテニス四大大会、その一角――ウィンブルドン制覇を懸けて争っていた。

 5年の間に身に着けた新たなる世界の技を駆使して挑んだ平等院。されど、ボルクもまた各国の猛者から『能力共鳴(ハウリング)』によって無数の能力(スキル)を獲得しており、ついに繰り出されたボルクの究極絶技『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』によって、最早その命は風前の灯火――彼の魂の炎は尽きかけていた。

 

 

「お頭ぁ~っ! これ以上は本当に全てを失ってしまいますぞ~っ!!」

「限界だ……もう一度あの『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』の生み出す嵐に巻き込まれたら、今度こそ平等院は――死ぬ!!

 

 

 客席から悲壮感に満ちた絶叫を送る平等院の懐刀・デューク渡邊。その横で只でさえ濃ゆい相貌に更なる陰影を付けて断言する鬼十次郎。

 U-17W杯にてボルクが編み出した『無限の竜巻(ウンエントリヒヴィントホーゼ)』――手塚国光の『ゾーン』とボルクの『渦巻きの洗礼(ウィルベルタオフェ)』が能力共鳴(ハウリング)して生まれた技である――『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』とは、その最終進化系とでも言うべき荒業だった。

 コート上には無数の竜巻が吹き荒れ、一度飲み込まれたが最後――その身は天高く巻き上げられやがて地へと落下する。既に幾度となく地面へと叩きつけられた平等院の全身は己の血で赤く染まっており、生きているのが奇跡と言うべき有様であった。

 

 

「流石は落雷を浴びてなお蘇った男だと賞賛しよう……平等院(ビョードーイン)

 

 

 膝を震わせ、ラケットを杖代わりにして立つのがやっとの平等院。そんな彼をネット越しに見据えるユルゲン・ボルク。虫の息となった対戦相手を前にしても、世界最強のテニスプレイヤーとなった彼に油断や慢心は微塵もなかった。

 こうして追い詰められた時にこそ、真価を発揮するのが平等院鳳凰という男なのだ――と、5年前の死闘で彼は理解している。故に、何処までも冷徹に彼は最後のサーブへと臨んだ。

 

 

「キミのテニスへと懸ける執念、そして情熱に、心から敬意を表する……しかし、俺もプロとしてこの栄光(グランツ)は譲れんのだ」

 

 

 全豪、全仏、全米――齢22にして、ボルクは既に四大大会の三つまでもを制していた。そして、このマッチポイントを手にした時、彼は史上最年少のグランドスラム(四大大会全制覇)達成者となるのだ。

 万感の想いと気迫を籠めて、ボルクはボールを宙へと投げた。

 

 

「今度こそ俺は、キミから全てを奪う……! 散れ! 平等院鳳凰!!

「お頭あああああ――――っ!!」

 

 

 ボルクのサーブが放たれる。平等院は未だにラケットに手を突いたまま動けない。客席で見守る日本の面々が、皆一斉に彼へと呼びかける。

 そんな中、平等院は一人――走馬灯を見ていた。

 

 

(……これは……5年前の記憶……そうだ……俺はあの時も……)

 

 

 彼は想起する。U-17W杯準決勝、初めて『無限の竜巻(ウンエントリヒヴィントホーゼ)』に飲み込まれたあの時も、自分はこうして死の縁を彷徨っていた。しかしそこから自分は蘇り、不死鳥の如く命を燃やし、そして勝利を掴んでみせた筈だ。

 

 

(そうだ……たとえ黄泉路に(いざな)われようと……俺は何度でも現世(うつしよ)へと舞い戻る!!)

 

 

 ぎら、と平等院の目に光が灯る。とはいえ、気力が戻っても彼の身体は既に限界を――

 

 

「否!!」

 

 

 『阿頼耶識』。平等院の体力の有無に関係なく、潜在意識がリターンに最適な位置へと彼の身体を動かしていた。肉体の限界を超え、あちこちの血管から血を噴き出しながらも返球姿勢に入る。

 思い出せ――『無限の竜巻(ウンエントリヒヴィントホーゼ)』を最終的に打ち破ったのは、嵐の夜をも吹き飛ばす大砲の如き一打だった。ボルクが『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』へと己の技を進化させたのならば、自分もまたあの時の『光る球(デストラクション)』を上回る、至高にして究極の打球を繰り出すしかない。

 

 

 そう――これから自分が放つのは、単なる『破壊(デストラクション)』の一打ではない。

 天地を揺るがし、全てを終わらせる――世界滅亡(ワールド・デストラクション)の一打である――!!

 

 

「――よせ、平等院さん! アンタのやろうとしていることは危険だ!!」

 

 

 『阿修羅の神道』――『阿頼耶識』の最も近くへと踏み込んだ男、徳川カズヤが平等院の放とうとしている球の危険性に気付く。しかし客席からプレーを止める術などない。咄嗟に彼は、懐から取り出したラケットで自身の周囲にブラックホールを創り出した。

 

 

「皆この中に飛び込め! 一人でも多く生き残るんだ!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!!!!!」

 

 

 徳川の呼びかけを掻き消すように、平等院が吼え猛る。スーパースイートスポットの更なる中心、アルティメットスイートスポットがボルクのサーブを捉え――瞬間、平等院の返したボールが眩い輝きを放った。

 

 

「ば、馬鹿な……!」

 

 

 ボルクの『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を吹き飛ばし、ネットの上を跳び越えていく光る打球。返せない――そう悟ったボルクは、咄嗟に自身の周囲へと竜巻を引き寄せて身を庇った。この後に襲い来る破滅から、少しでも逃れられるように――という、防衛本能の表れだったのかもしれない。

 リターンエース。発光したテニスボールが、ボルクのコートに鋭く突き刺さる。40-15! この期に及んで職務を全うする審判のコールが会場に木魂した、その直後。

 

 

「滅びよ……」

 

 

 平等院の漏らした一言と共に、白き光がこの世の全てを包み込み――――――――

 

 

 

 

 

 

そうして世界は滅亡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う……うう……」

 

 

 瓦礫の山の上で独り、平等院は目を覚ました。よろよろと起き上がり、周囲の状況を確認する。

 見るも無残な有様だった。荒れ果てた大地、曇天の空、鳴り響く雷光、吹き荒ぶ風――神代にあったとされる大崩壊(カタストロフ)の瞬間を、そのまま切り取ったかの如き終末の風景。平等院は顔を蒼褪めさせ、震えた声で呟いた。

 

 

「これは……俺がやったのか……!?」

「ですなぁ……」

「デューク! 無事だったのか!!」

 

 

 隣の瓦礫からのそのそと、デューク渡邊が這い出してきた。見慣れた腹心の顔に思わず安堵する平等院。ひとりぼっちは寂しいもんな。

 

 

「寸でのところを徳川に救われましたなぁ……彼奴のブラックホールに吸い込まれていたおかげで助かったようです」

「あいつのブラックホールってそんな技だったか……? もっとこうジョジョのクリームとかザ・ハンドみたいな感じじゃなかったか?」

「『阿修羅の神道』の終着点へと至り、彼奴もこの5年間で成長していたということでしょう」

「そういうことか……」

 

 

 平等院は納得した。テニスで世界が滅ぶこともあるのなら、テニスで空間に穴が空くこともあるだろう。何もおかしな話ではなかった。

 きょろきょろと辺りを伺い、デューク以外の仲間たちを探しにかかる。が、二人の他に人の姿は見当たらない。なんか虚空から「ちゃーい」とかいう声が聞こえた気もするが、多分気のせいだろうと平等院は聞き流した。

 

 

「他の連中が見当たらねぇな……」

「ブラックホールの中で、皆散り散りになってしまいましてなぁ……自分もたまたま見つけたワームホールの中に入ったらここに出てきたのです」

「そうか……だが、デュークが生きてんなら他の奴らもきっと無事に違いねえ。世界が滅びた程度でくたばるほどあいつらはヤワじゃない筈だ」

「ですなぁ……」

「ちゃーい……」

 

 

 平等院の主張に力強い頷きを返すデューク。平等院鳳凰、あっという間に世界を滅ぼしたことによるメンタルダメージから回復している。『お前の精神は強過ぎる』と三船入道に評されただけのことはある面の皮の熱さであった。

 ところでそこの『ですなぁ……』botと化しているデューク渡邊、お前の大事な(クロエ)とかも多分死んでるけどその辺大丈夫か? 実はもう精神崩壊起こしてないか?

 

 

「これから如何いたすので? お頭」

「ボルクを探す。あいつとの試合はまだ終わっちゃいねえ」

「ですなぁ……しかし、この荒廃した世界の方はどうなさるのです? まさかこのまま放っておくわけにもいきますまい」

「いいかデューク。テニスで滅びた世界なら――テニスで蘇らせればいい」

 

 

 平等院には確信があった。あのとき自分が放った『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』――あれをも超越する一打を繰り出すには、ボルクとの完全なる決着を付けるしかない、と。

 輪廻転生の理――滅びたものもやがていつかは蘇るのだ。自分がそうであったように、世界もきっと例外ではない。あの越前リョーマが『光る球(デストラクション)』を『希望(ホープ)』と名付けたのと同じことだ。白き光が齎すのは破滅だけではない。その先にある救済へと、自分はこれから手を伸ばすのだ。

 

 

「ボルクは何処(いずこ)に消えたのでしょうなぁ……彼奴はコートの中におりましたから、徳川のブラックホールには飲み込まれていなかった筈なのですが……」

「ドイツだ。世界を練り回った海賊としての勘がそう言ってる。当たるぜ船乗りの勘は」

「龍水理論ですなぁ……」

 

 

 何となくその辺に、平等院は宿敵(ライバル)の気配を感じていた。ウィンブルドンで試合をしていたボルクが如何様にして海の向こうのドイツまですっ飛ばされたのかまでは知らない。乾貞治ならばきっとこう口にするだろう。理屈じゃない、と。

 とにかく方針は定まった。たとえ世界が滅びても、平等院の目的地に変わりはない。それどころか、今まで以上に目標へと近づいているような感覚さえあった。

 世界を震撼させる異次元のテニス――それこそが、平等院鳳凰の求めた境地。とりあえず物理的に滅ぼすところまでは達成した。だがこれはほんの序曲に過ぎない。まだ見ぬ狂気、もとい真理がきっとこの先に待っている。

 さあ、破壊を終えて、再生を始めよう――

 

 

「行くぞデューク! 今度こそ俺は、完膚なきまでにボルクの竜巻を打ち破る――嵐に向かって進路をとるぜ!!

「ですなぁ……!」

「ちゃーい……!」

 

 

 目指すはドイツ、船員は2(3)名。平等院鳳凰の新たなる船出が今、始まった……!

 

 






・平等院鳳凰
元U-17W杯日本代表主将。通称『お頭』。
日本最強の男でありながらも後輩闇討ちするわ鬼さんには一回負けてるわブラックホールに完封されるわで長いこと割と良いとこなしの残念野郎だったが、今月決着したドイツ戦で大分株を上げた。
流石に次のバレンタインではチョコ獲得数100位以内に入れているものだと思われる。
落雷で一度死亡診断を受けた13時間後に何事もなかったかの如く目を覚ました不死身の男。なので世界が滅びても死なない。鳳凰の名は伊達ではないのである。


・デューク渡邊
元フランス代表だったが最愛の妹を平等院に助けてもらったのがきっかけで日本に鞍替えした人。
でも今回その恩人のせいで妹が多分死んでるので恩義と憎しみの板挟みになった結果彼は考えるのを止めた。
とかいう裏事情にすると流石に重過ぎるので妹の存在は忘れて頂きたい。でぇじょうぶだテニスボールで生き返れる。


・種ヶ島修二
『無』の技を操る日本代表No.2。相手の打球の威力を殺したり自分の打球を空中で止めたり
透明人間になったりダブルスの相方を透明に出来たりする。テニスとか関係なしに割と人間辞めてる男。
徳川のブラックホールに入り損ねるも『不会無(透明化)』を発動させるついでに自身の当たり判定を無にして世界の破滅をやり過ごすことに成功。
が、自身の存在を限りなく無に近付けてしまったせいか実体を取り戻せなくなってしまった模様。呑気にちゃいちゃい言ってる場合ではない。
多分言語化能力も限りなく無になっている。本来は普通に喋れる人です。京都出身。


・世界
滅びた……。


たぶん全4話くらい。

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