平等院鳳凰「滅びた……」   作:Amisuru

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終わりませんでしたなぁ……。
これ開催期間内に完結出来ない可能性が出てまいりましたなぁ……。




どっちかをな

 

 

『40-0! マッチポイント、ユルゲン・ボルク!!』

「ハァ……ハァ……!」

 

 

 ――跡部王国(フランス)・ブローニュの森。スタッド・ローラン・ギャロス――

 『あれれー? この出だし前にも見た覚えがあるぞー?』と思われた方、ブラバせずに暫し踏み止まってほしい。決して読者をタイムループに掛けようとしている訳ではない。単に試合展開がウィンブルドンとまるっきり被ってしまっただけである。

 仲間たちの声援を背に受け、世界最強何のそのと言わんばかりに真っ向勝負を仕掛けた平等院。されど、気持ちの強さは関係ないでしょと言わんばかりに無慈悲にボルクはポイントを積み上げていき、そして再び繰り出された『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を前に、最早その命は風前の灯火――彼の魂の炎は尽きかけていた。まただよ(笑)

 

 

「お頭ぁ~っ! これ以上コピペを続けては手抜きを疑われてしまいますぞ~っ!!」

「限界だ……もう一度あの『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』の生み出す嵐に巻き込まれたら、今度こそ平等院は――」

「鬼さぁ……ウィンブルドンの時にもそう言ってたけど、結局平等院ってその後に世界滅ぼすほどの衝撃に巻き込まれても死ななかったよね?」

 

 

 冷たい視線でツッコミを入れる入江奏多。鬼十次郎、解説の信憑性が王大人の死亡確認レベルまで落ち込んでしまっていた。そんな頼りにならない先輩に代わって、新たに声を上げたのはこの男だった。

 

 

「お頭ぁ――っ!! 何をやっておる!? 何故あの時の『光る球(デストラクション)』を使わない!? 正気かぁお頭! 『滅びよ……』と言え! 今度こそ世界を滅ぼさんかぁ――っ!!

「正気に戻るべきなのはお前だよ真田」

 

 

 こんなことを口にするのなら声を上げるべきではなかった真田弦一郎。関東大会編の頃は立派にラスボスを務めていたというのに、いつからかこの男には芸人属性が身に付いてしまったような気がする。どこで道を誤ったのだろうと思ったが、久々に読み返したら関東決勝の時点で『フハハハハハハ! 絶望と共に散るがいい!』みたいなこと言ってるから割と初期からだったかもしれない。言ってることが完全に魔王なんだよなぁ……。

 

 

「成程……お頭はあの『滅びよ……』球を撃たないのではない。撃ちたくても撃てないのだ」

「ど、どーいうことッスか柳さん!?」

「この柳蓮二の計算に寸分の狂いもない――次にお頭が例の『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』とやらを放った時、地球が耐えられる確率は0%……たとえ『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を破ることが出来たとしても、引き換えに今度こそ完全に世界は滅ぶだろう。弦一郎の望む通りにな」

「たわけが! 俺がいつ世界を滅ぼしたいなどと言った!?」

「真田はもう喋らない方がいいんじゃないかな……」

 

 

 4歳からの付き合いになる盟友を遠い目で見つめる幸村精市。自身の聴覚を奪いたくなる衝動に駆られつつ、コート上の平等院へと視線を向ける。

 

 

「……聞いた話によると、お頭は例の打球を進化させることで滅びた世界を蘇らせようとしているらしいけれど――どうするつもりなんだろうね? このままでは打つ前に試合が終わってしまう」

「幸村くん。あの人はきっと……5年前と同じことをやろうとしている」

 

 

 立海組の会話に割って入ったのは徳川カズヤ。幸村とは5年前のU-17W杯において、プレマッチでダブルスを組んだ中でもあった。荒い息を吐く平等院を眺め、確信に満ちた表情で。

 

 

「『阿修羅の神道』の応用……精神レベルを敢えて下げた上で打ちのめされ、極限まで自分を追い込み、そこから蘇る――そうすることであの人は限界を超えてきた」

「サイヤ人みたいな体質しとるぜよ……」

「今度もそうだ。あの人の中に眠る海賊が目を覚まし……そして必ず、ユルゲン・ボルクという嵐をも乗り越える!」

『うおおおおおおおお! お頭! お頭! お頭!!』

 

 

 徳川の自信たっぷりなフォローに釣られて、ここに来て大盛り上がりを見せる客席の面々。5年も経てば人間関係もここまで変わる。かつては不倶戴天の仇とばかりに敵視した男を、徳川は期待と信頼の籠もった視線で眺めた。

 

 

(そうだ……『阿修羅の神道』の扉を開き、その奥の『阿頼耶識』へと踏み込んだアンタが、こうも簡単に敗れる筈がない――俺に見せてみろ、アンタの魂の底力を……!)

 

 

 

 

 

 

 

 ――で、そんなクソデカ感情を向けられているとは露程も知らない、息も絶え絶えな髭面の海賊おじさん(22)はというと。

 

 

(いかん……)

 

 

 普通に狼狽していた。

 少なくとも、徳川が推測していたわざと追い詰められて云々的な思惑は微塵もなかった。ガチのマジで絶体絶命だった。どうしてこうなった、というのが正直なところであった。

 

 

(さっぱり思いつかん……一体何をどうやったら世界を蘇らせる球なんぞが撃てるんだ……そもそも『滅びよ……』と言ったからって本当に世界が滅ぶやつがあるか……? 話の始まりがそもそも間違ってるだろうが……『これは……俺がやったのか……!?』じゃねえんだよ、俺がやったっていう発想が出てくる時点でおかしいだろうが俺……!)

 

 

 平等院鳳凰、追い込まれ過ぎて正気を取り戻しかけていた。気付いてはいけないことに気付こうとしていた。そうだね。普通に考えたらテニスボールで世界は滅ばないよね。けれど実際、お前の打球で海は枯れ荒れ、地は裂け、あらゆる生命体が絶滅したのである。YouはShockでもそれが現実なのである。海王類? あれはまあ例外。

 

 

(……何が『世界を蘇らせる』だ、クソッ……俺は本当に叶わぬ夢を……)

「――ようやく敗北を認める気になったかね、平等院(ビョードーイン)

 

 

 一方、息一つ切らさずにネットの向こうで仁王立ちするはユルゲン・ボルク。ここまで5ゲーム全てをストレートで制し、気力・体力共に満ち溢れている状態だった。『あと100ゲームやる?』と越前リョーマに誘われても笑顔で承諾してくれそうな程に余裕があった。

 

 

「うっかり再び例の『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』を撃ってしまわぬよう、『阿頼耶識』までもを封じているようだが……切り札を二つも残したまま俺に勝てるとでも思っていたのかね?」

 

 

 そう。『阿頼耶識』――潜在意識が無限の攻撃パターンを導き出し、どんな対戦相手であろうと攻略してしまう、平等院鳳凰の辿り着いた境地。彼はそれに頼ることなく、世界最強の男に挑むという無謀を犯していた。

 この試合、平等院の敵はボルク一人ではなかった。己の内側から聞こえてくる、無意識下の声――『阿頼耶識』までもが、平等院にとっての脅威となっていたのである。

 

 

 

 

 

『滅ぼせ……』

 

 

 

 

 

 『阿頼耶識』は平等院に囁く。『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』を撃て。そうすればボルクの竜巻を撃ち破ることが出来る。それだけの威力がお前の球にはある――と。

 『阿頼耶識』が導き出すのは、あくまで対戦相手の攻略方法のみ。『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』の返し方は教えてくれても、世界を救う術など教えてはくれない。『滅びよ……』の先に必要な言葉が存在しない。

 それが、この期に及んで尚、平等院が『阿頼耶識』へと身を委ねない理由の全てなのだった。

 

 

『滅ぼせ……何を躊躇う必要がある? そうすればお前は試合に勝てる……お前の大好きなテニスで勝つことが出来るのだぞ……』

(うるっせえな……! たった一球返せたとしても、15点と引き換えに世界が滅んだらそこで試合が終わっちまうだろうが……!)

『は? 意味が分からん……テニスボールで滅ぶようなクソザコナメクジ惑星なんてこの世に存在する訳ないだろ……悪い夢でも見てるんじゃないですか……?』

(急にキャラ崩して思わず頷きたくなること言い始めるんじゃねえよ……!)

 

 

 阿頼耶識さん、根っこは意外と常識人かもしれなかった。正直まったくもってその通りだと思ってしまった平等院であった。まあ、潜在意識の声ってことは平等院自身が心の底で同じこと考えてるって意味になるからね。そりゃあ気も合うよね。

 

 

「――未だに『運命石の扉(シュタインズゲート)』が発動しないあたり、どうやら尚も闘志を残しているようだが……それも次で終わりだ。キミもプロのテニス選手(プレイヤー)である以上、試合の結果という現実から目を背けることは出来まい。『勇』を失わない限りは負けではないなどという主張が通るのはサムライ8の中だけだと知りたまえ」

「なんでジャンプの打ち切り漫画なんぞをキサマが知ってるんだこのドイツ人……!」

「NARUTOの頃から岸本先生のファンだったからに決まっているだろう……!」

 

 

 どこか切なさを湛えた表情で平等院の問いに答えるボルク氏。確かにNARUTOは海外人気も高いという話は聞くけれども。ドイツ人かつNINJA好き。ひょっとしたら『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』という技名も某ゲルマン忍者からパクったのかもしれない。ユルゲン・バリーサヴィチ・ボルク、ここに来てまさかの日本オタク説急浮上であった。

 

 

「――とにかく、世界を巻き込んでの茶番もここまでだ海賊……! このサーブで今度こそ、俺はキミの精神を粉々に打ち砕く! 平等院鳳凰――もう……散体しろ!!

(クッ……クソ……! ただ負けるだけならまだしも、テニス人生の最期に聞く言葉がサム8語録じゃ死んでも死に切れねえ……!)

 

 

 決着のサーブを放たんと、天高くボールを放り投げるボルク。木魂する仲間たちの絶叫。脳内に響き続ける『阿頼耶識』の声。

 最早これまでか、という諦念が平等院の心に芽生えようとしていた、その時――

 

 

 

 

 

「更互無」

 

 

 突如として、コート上から平等院鳳凰の姿が消失した。

 

 

「…………!?」

 

 

 まさかの事態に体勢を崩してサーブを空ぶる世界最強の男。フォルト! という冷静な審判の声が会場に響き渡る。お前も少しは動転しろ。

 

 

「なっ……なんやぁ!? お頭のオッチャンが急にどっか消えてもうたで!? やれ(おっと)ろしいこっちゃ!」

「袴田先輩かいな金ちゃん……なあ切原クン、今のはまさか……」

 

 

 驚愕の声を上げる遠山金太郎、それに続くは元四天宝寺テニス部部長・『聖書(バイブル)』こと白石蔵之介。何故この男が他校生の切原赤也に話を振ったのか。5年前のU-17W杯日本代表合宿において、ダブルスを組んだことで縁が生まれたというのが一つ。そしてもう一つは――

 

 

「……種ヶ島先輩……?」

 

 

 この二人の元中学生は、かの透明人間に何かと世話になったことのあるコンビなのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「――ボ、ボルクの奴が空振りだと……!? 一体何が……」

 

 

 一方、こちらは平等院サイド。彼は別にその場から瞬間移動したり別世界へとワープしたりした訳ではない。単に周囲から見えなくなっただけである。

 『更互無』――使い手そのものを透明化する『不会無』の応用であり、効果は至って単純。他人の姿をも見えなくする。U-17W杯ドイツ戦ダブルス1、かの男は最後の最後にこの技を用いて切原赤也を透明化させ、とっておきの奇襲を放ち日本に勝利を齎している。

 5年の時を経て、日本代表No.2の男が再び、仲間のためにその異能を用いた。

 

 

「――なんや、さっきから(えろ)う縮こまったテニスしとるやんけ平等院」

「た、種ヶ島だと……!? お前一体いつからそこにいた!?」

最初(ハナ)からずっとおったわ……ホンマに誰も気付かへんのやもん……ええ歳こいてマジ泣きするかと思ったで自分……」

 

 

 というワケで、最終話手前になってようやく他人と絡めるようになった種ヶ島修二。ボルクや客席の面々からは完全に見えなくなっている二人だが、平等院の目には自分の身体も種ヶ島の身体も半透明になって映っている。透明化を共有しているとそうなるらしい。最早やっていることにテニスのテの字もなかった。

 

 

「思った通りやな……消えとるモン同士やったらこーやって話も出来るっちゅーわけや。ハナから皆こうやって消してまえば良かったんやな」

「再会早々にやべえこと口走って人のことドン引きさせんのはやめろ」

「しゃーないやん……俺の一番嫌いなこと教えたろか? 他人に構ってもらえない時間がいっちゃん辛いねん……世界が滅んでから今の今まで生き地獄みたいやったわホンマ……」

「そうか……なんか知らんが色々大変だったな」

「ぶん殴ったろか自分……?」

 

 

 誰のせいでこないなったと思っとんねん。恨めし気に平等院を睨み付ける種ヶ島。とはいえ、この無責任にも思える言動も『阿修羅の神道』による精神防衛の一環なのだろうということは察しが付いていた。そりゃあそうだろう。常人のメンタルが世界一つを丸々滅ぼしたなどという罪に耐えられる筈もない。事実を知った時点で即発狂して崖からダイブでもかましてなければ嘘である。

 それに何より、恨み言を垂れるつもりで自分と同じ立場に引き摺り込んだ訳でもない。さっさと話を済ませなければ試合が再開してしまう恐れもある。溜息と共に意識を切り替え、種ヶ島は口を開いた。

 

 

「……もうええ。とにかく俺が言いたいんは一つだけや。平等院、自分さっきから余計なこと考え過ぎやで」

「余計なことだと……?」

「自分、さっきからどないしたらこの世界んこと元通りに出来るかっちゅうことばっかり考えとるやろ」

「……そりゃあお前、俺が滅ぼしちまった世界は俺が責任持ってどうにかしねえと――」

「はい、ウソ」

 

 

 異議あり、と言わんばかりに指先を突き付ける種ヶ島。その有無を言わせぬ仕草に平等院がたじろいだところに、二番目の男は言葉を畳みかけていく。

 

 

「別に自分がどうにかせんでも、世界のことやったらそこのドイツ兄さんがどうにかしてくれるっちゅう話やったやん。自分の負けと引き換えにっちゅう話でな。――平等院は今、それが気に入らへんっちゅうワガママだけでコートに立ってんねやろ?」

「……それは……」

「試合が始まるまではそのつもりでおったんやろうけど、何やかんや言うて自分も人の子やったっちゅう話やな」

 

 

 種ヶ島の指摘に、平等院は二の句を継ぐことが出来なかった。

 確かにそうだ。ボルクの掲示した確実な世界の救済よりも、平等院は自身の都合を優先した。他人の世界を救うことよりも、自分自身のちっぽけな世界(エゴ)を守りたいから試合に臨んだ。

 そういう()()()()であることを、認めたのだ。自分は。

 そんな自分自身が、いざラケットを握り締めて、あの時と同じように『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』を撃てるようになった時――揺らいでしまった。

 たとえ、どれだけ世界が馬鹿げていても。テニスボールで滅びるような、ふざけた世界であったとしても。

 もう一度同じ球を撃てば、今度こそ完全に消えてなくなってしまうかもしれない――そんな状況で気兼ねなくプレー出来るほど、平等院は愚鈍にはなり切れなかったのである。

 種ヶ島修二の言う通り――平等院鳳凰といえど、人間だったのだ。結局は。

 

 

()()()()()()。平等院」

 

 

 そんな男の抱えていた重圧を、ふっと打ち消すように。

 あらゆるものを『無』かったことに出来る男は、滅びた世界に似つかわしくない無邪気な笑みと共に、煽った。

 

 

「世界がどうだの、滅びたモンがどうだのはこの際ワキに置いといたらええ。目の前の試合に集中しぃや。ラケット振ってタマ振って、相手のコートにボール入れて、そんだけでええねん。俺らには結局、それ以外に何もいらへんやろ」

「……お前がそこまで大層なテニス馬鹿だったとは知らなかったな、種ヶ島」

「アホウ。俺だけやない、ここに集まっとる奴の誰もがそうや。地球っちゅうデッカい惑星(ボール)のことより、テニスボールの方が気になってしゃーないドアホウしかここにはおらん。――そういうアホばっかりやから、みーんな自分について来はったんやで。()()

 

 

 くい、と。

 顎をしゃくる仕草で、平等院の視線を誘導する種ヶ島。

 試合が始まった時よりも、観客の数が更に増えていた。元中学生の者達だけではない。大曲竜次、君島育斗、遠野篤京、越智月光、毛利寿三郎――かつてのU-17W杯日本代表上位10人、通称『Genius10』の面々。平等院にとっての『船員』とでも言うべき男達が、気付かぬうちに一堂に会していたのである。船に乗れなかった加治風多は泣いていい。

 

 

「あいつら皆、自分が世界最強に勝つところ見たがっとるで」

「……0-5のマッチポイントからか? 種ヶ島……お前、発破を掛けに来るのが遅過ぎるぞ」

「ちゃい☆」

 

 

 平等院の八つ当たりを、その一言でひらりと躱す種ヶ島。全く悪びれる様子のない男の笑顔に、平等院はむしろ、気合が入った。

 『イケるやろ?』と背中を叩かれたような、そんな気がしたのだ。

 

 

「――いいだろう」

 

 

 血塗れの頬を手の甲で拭い、平等院は口元を吊り上げた。

 肩の荷が下りたというのはきっと、こういうことを言うのだろうなと思った。全くもって禄でもない話だが、滅びた世界のことなど気にせず、ただ純粋に目の前のテニスに集中できるということが――心の底から、気持ちが楽で仕方がない。

 

 

 そうだ。

 テニスをしよう。

 世界を救うためではなく、世界最強の男に勝つために。

 ただひたすらに、そのことだけを考えて――テニスをしよう。

 

 

 自分にとって本当に大切なものなど、始めからそれしかなかったのだから。

 

 

「お前らの望む景色ってやつを見せてやる。どん底まで追い込まれたこの状況からの、目を見張るような逆転勝ち――フン、さながら革命だな」

「期待しとるで、お頭。……革命で思い出したねんけど、自分試合始まる前にデュークからなんや言われとったやん。あれ、結局どういう意味か理解したん?」

「ああ……どうやら思い違いをしてたらしいが、()()()()()()()()()()()()()()()()

「……? どういうこっちゃねん?」

「後はぶっつけ本番で出来るかどうかだが――何、やってみせるぜ種ヶ島」

 

 

 何とでもなるはずだ。周囲に吹き荒れる『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』――ユルゲン・ボルクと手塚国光の異能が合わさって生まれた竜巻を見やり、平等院はそう思った。

 別に、特別なことをしようという訳ではない。ネットの向こう側に立つ男がやっているのと同じことをするだけだ。『革命とは決して一人では成し得ないもの』――今度こそ正しく、平等院鳳凰はその言葉の意味を理解できていた。

 

 

「お前と出会ってからの7年間――俺とてただ漠然と、種ヶ島修二のテニスを眺めていた訳じゃあないからな」

「――さよか」

 

 

 平等院の意を察し、ニヤリと笑う種ヶ島。

 それ以上の言葉は最早、不要であった。

 

 

「ほな、やったれや」

 

 

 その一言と共に、平等院の透けた身体が徐々に色を取り戻していく。それと引き換えに、種ヶ島修二の姿は風景の中に溶けて、薄れていく。

 『更互無』を解除するというのは、そういうことだった。互いに『無』となっている状態でなければ、今の種ヶ島を認識することは出来ない――それを理解した上で、他人と関われない時間をこの世の何よりも嫌う男は、不敵に笑って平等院を戦地へと送り出すのだった。

 故に――平等院もまた、口元の笑みを絶やすことなく。

 

 

 

 

 

「……さらばだ、種ヶ島。いつかまた――黄泉路の果てにまた会おう」

「……いやちょい待ちぃや、別に俺自分らから見えなくなるだけで死ぬワケでもホンマに消えてなくなるワケでもあらへんからな!? 何さらっと終生の別れみたいな空気出してんねん、おま、聞こえとるんか平等院!? お頭!? 自分!? 無視すんなやこんボケ!! おま――」

 

 

 訂正。結局最後の最後になって、種ヶ島修二の扱いはかわいそうな人枠へと逆戻りしてしまうのであった。

 うん。無駄に真面目な空気出してたけど、これコメディなんすよ。ごめんね。

 

 

 

 

 

 

 

「――ようやく姿を現したか、海賊」

「ああ……黄泉の国から舞い戻ったぜ」

「せやから死んでへん言うとるやろ……あれ、なんか前より俺の台詞薄くなってへん? なんかもう扱いが完全に背後霊とかそないな感じになってへん? 俺まだここにおるで? もしもーし」

 

 

 という訳で、長い長い脱線を経て帰ってきた最終決戦の地。と言ってもその場から一歩たりとも動いてはいなかったのだが、平等院的にはどこか別の次元へと移動していたような感覚であった。

 平等院らがコート上から姿を消している間、ユルゲン・ボルクはサーブを打ち直すこともなく、悠然とベースライン上に構えたままだった。フォルトから立て続けに二度目のサーブを撃たない場合は失点扱いになるとの話もあるのだが、流石に試合中に対戦相手が文字通り消失した場合はノーカウントだろう。消えた側の扱いはどうなるのかって? 知らん。コードバイオレーションで警告1とかそんな感じでお願いします。

 

 

「黙って俺の帰りを待っているとは、律儀なことだなボルクよ……無人のコートにサーブを入れてしまえばキサマの勝ちではなかったのか?」

「……それでキミの心が折れるのならばそうしたがね、平等院鳳凰……キミの剥く牙を真っ向から砕かなければ、こちらの勝利条件を満たせないのが厄介なところだ」

「フン……成程な。余計なことに囚われていたのは、キサマも同じだったという訳だ」

「……何だと? どういうことだ」

「気にするな。こっちの話だ」

 

 

 怪訝そうな顔で自身を眺めてくるボルクに、ひらひらと手を振って応じる平等院。

 仮にこの男に向かって『世界のことなど二の次にして目の前のテニスに集中しろ』などと言ったところで、相手にされる筈がないのは分かり切っていた。或いは激昂されるか、侮蔑の視線を送られるか――いずれにしても、禄でもない結果になるのは見えている。お前にそれを口にする資格はないだろう、と。

 だから黙って、平等院鳳凰はラケットを構える。

 何。わざわざ言葉にしなくとも、試合が動けばボルクの方もそうせざるを得なくなるのだ。

 これから先の展開で、この男に世界の命運を気にする余裕など、一切与えてはやらない。

 

 

 それでも。

 どうしても言っておきたい一言があって、平等院は口を開いた。

 

 

「――さあ、かかって来なボルク。()()()()()()()()()

「それは――キミを葬り、全てが元に戻った後でそうさせてもらおう……!」

 

 

 

 

 

 ――いいや。今からだね。

 満を持して放たれた、ユルゲン・ボルクのセカンドサーブ。当然今度は空ぶることもなく、平等院のサービスエリアに真っ直ぐ飛んでいく。これを返し損ねた瞬間、平等院の敗北が決定する。

 それこそまさに、平等院鳳凰の世界(テニス)を滅ぼさんとする一打であった。

 

 

 ()()()()()()()

 自分の世界(テニス)を守るために、ユルゲン・ボルクの世界(テニス)を滅ぼそう。完膚なきまでに。

 

 

 もはや、躊躇いも迷いもなく。

 平等院鳳凰は、その言葉を口にした。

 

 

 

 

 

「滅びよ……!」

「な――」

 

 

 かくして、平等院のラケットがボルクのサーブを捉えた時。

 かつてのものと寸分違わぬ破滅の光が、赤土のコートを眩く照らし始めた――

 

 

 

 

 

さあ。

世界滅亡(テニプリ)の、時間だ。

 

 






4話で終わらせるつもりだったから完全にタイトル構成ミスりましたなぁ……。
皆もタイトル決める時は気を付けるべきですなぁ……。

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