平等院鳳凰「滅びた……」   作:Amisuru

5 / 6


先に言ってしまいますが……


終わりませんでしたなぁ……(二度目)




戦う奴は負けるかもしれない/戦わない奴は既に負けている

 

 

「滅びよ……」

「な――!?」

 

 

 ――それは紛れもなく、かつて世界を破滅に導いた終焉の光。

 輝きを放ちながらネットを越えんとするテニスボールを目の当たりにして、ユルゲン・ボルクはあらん限りの怒声を上げた。

 

 

「血迷ったかぁ平等院鳳凰ぉぉぉ――っ!!」

 

 

 咄嗟に自陣の『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を掻き集め、少しでもボールの勢いを弱めんと発光する打球に向けて浴びせかける。しかし止まらない。天まで伸びた竜巻の群れを、たった一球のテニスボールが次から次へと貫いていく。

 そう、テニスである。別に神代の英雄たちが争っているとかそういう訳ではない。単なるテニス選手(プレイヤー)たちのワンプレーが今、再び世界を大崩壊(カタストロフ)へと導こうとしていた。試合を見守っていた観客の面々も、これには流石にどよめかざるを得なかった。

 

 

「あれはワシの裏百八式より危険だぁ――!! みんな逃げや――っ!!」

「なるほどDANGERじゃねーの」

「プリッ」

「「世界が滅びる確率100%……」」

「ならサッカーで行くよ」

「き、菊丸が11人いる!?」

「最高じゃねーの!!」

「いけねーなあ……いけねーよ……」

「氷帝! 氷帝!」

 

 

 リアクションは人それぞれながら、誰もが割とパニックに陥っていた。そんな中、辛うじて冷静さを保っていた入江奏多が、以前この状況を一早く察して動いていた男へと視線を向ける。

 

 

「徳川くん! ブラックホールを――出してない!? 嘘だああああああああああ!!」

 

 

 そう、徳川カズヤは動かない。ブラックホール? 人間に創れる訳がないじゃないですかそんなもの。頭でも打ったんじゃないですか入江さん――そう訴えるかの如く微動だにしていない。

 この世の終わりだと言わんばかりに、というか実際に終わりかけているのだが絶叫する入江。そんな錯乱同然に見える先輩の姿を見て、徳川は苦笑と共にこの一言。

 

 

「入江さん――スベってますよ」

「だよねー」

 

 

 嗚呼――いよいよ打球が地面を叩こうとしている。その輝くテニスボールが赤土の上をタァンと跳ねた瞬間、たちまち世界は忌むべき白色に覆われ、あらゆるものが灰燼に帰すのだろう。

 在る者はキエエエエと奇声を上げ、在る者は月面宙返り(ムーンサルト)を放ち、また在る者は心を閉ざし、またまた在る者は自身の五感を奪っていた。世界の終わりに相応しい狂乱の中、コートの中に立つ髭面の男は独り、静かな声で。

 

 

「未生無」

 

 

 と言った。

 途端、眩いばかりの光を放っていた打球が単なる黄色いゴムの塊にその姿を取り戻し、地表すれすれでぴたりと制止したかと思うと、呆然とするボルクや観客たちを嘲笑うかのように、ぽとりと力無く地面に落下した。

 そうしてころころと、コートを転がるただのテニスボール。言葉もないボルクや元中学生組。俺は分かってた、と言わんばかりにうんうん頷く元高校生組。会場が沈黙に包まれる中、誰よりも真っ先に声を上げたのはこの男だった。

 

 

「40-15!」

 

 

 審判だった。

 続けて、歓喜に沸き立つ客席の面々。それは果たして平等院に待望の初得点が齎されたが故か、果たして世界が第二の破滅を免れたが故か。いずれにしても、滅亡後の世界とは思えぬ熱狂が会場に生まれ始めた中、平等院はネットの向こうで固まっている世界最強の男に向けて、言い放った。

 

 

「さあ――こっからだぜ」

 

 

 鳳凰(フェニックス)

 不死鳥の名を冠する男の反撃が今、始まろうとしていた。

 

 

 

 

【第6ゲーム/ゲームカウント0-5 平等院鳳凰 15 - ユルゲン・ボルク 40 】

 

 

 

 

 

(『未生無』――シュウジ・タネガシマが使っていた『無』の技か……!)

 

 

 ユルゲン・ボルクは思い返す。5年前のU-17W杯において、かの男が使っていた魔技の一つを。

 自身の放った打球の威力を空中で完全に殺し、制止させることで返球のタイミングを狂わせる。平等院はその『未生無』と、自身の『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』を併用したのである。

 平等院鳳凰の『滅び』と、種ヶ島修二の『無』――存在を消し去るという点で言えば、似通った意味合いを持つ二つの異能。考えてみれば、噛み合う可能性は十二分にあったのだ。

 

 

能力共鳴(ハウリング)か……!)

 

 

 『能力共鳴(ハウリング)』――二名(ペア)の異能が惹かれ合うことで新たな超能力が生まれるという、本来であればダブルスでしか起こり得ないテニスの神秘。しかし、世界に唯一シングルスでそれをやってのける男が存在する。何を隠そう、ユルゲン・バリーサヴィチ・ボルクその人である。

 されど今や、単身での『能力共鳴(ハウリング)』はボルクの専売特許ではなくなっていた。

 

 

「滅びよ……滅びよ……」

 

 

 ばこんばこんとボルクの攻撃を打ち返しては、気軽に手元で球を光らせる(世界を滅ぼそうとする)平等院。この男はもう完全に、『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』を放つことへの躊躇が無くなっていた。

 種ヶ島修二の『無』の技術を習得したことで、平等院は自力で世界の滅びに待ったを掛けられるようになった。『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』でボルクの『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を打ち破りつつ、ボールが地面に落ちて世界が滅ぶギリギリのところで『未生無』を発動させる。そうすることによって、ノーリスクで滅びよ滅びよ言えるようになった平等院。今の彼の前では、天地を結ぶ突風の群れもポッキー同然の脆い枯れ枝に過ぎなかった。

 

 

「おのれ……! ならばキミ自身が渦の中に飲まれるがいい!」

 

 

 であれば防御ではなく攻撃に転じるまで。自陣の上で滅びの光が解かれ失速したボールを打ち返しつつ、ボルクは相手コート上の竜巻を操り平等院へと殺到させた。平等院そのものを竜巻で吹き飛ばし、戦闘続行不能に追い込もうという魂胆だった。繰り返し言わせてもらうがこれはテニスの試合描写である。

 

 

滅びよ(已滅無)……」

 

 

 しかしそれも、今の平等院には通じない。『已滅無』――あらゆる回転を無力化する、日本No.2の男が誇る絶対防御壁。平等院へと押し寄せた竜巻の全てが、彼の振るうラケットの前にあえなく消し飛ばされる。ドーバー海峡の荒波をも難なく乗り越えた奇跡の御業が、その力を存分に発揮していた。

 『滅び』という最強の矛、そして『無』という最強の盾。並び立ってはいけなかった二つの力を前に攻略の糸口を掴めぬまま、1点、また1点とポイントを失っていくボルク。そして、ついに――

 

 

「ゲーム平等院1-5!」

『しゃああああ――――っ!!』

 

 

 断崖絶壁の縁まで追い込まれていたその足を、ようやく一歩。

 敗北という名の奈落ではなく、勝利という名の陸地に向けて、平等院は踏み出した。

 

 

 

 

【第9ゲーム/ゲームカウント3-5 平等院鳳凰 0 - ユルゲン・ボルク 0 】

 

 

 

 

 

 勢いのままに第7、第8ゲームも連取した平等院。大幅にスコアを盛り返し、迎えた5度目のサービスゲーム。当然、世界を滅ぼす男の攻撃はこの一言から始まる。

 

 

「滅びよ……」

 

 

 サーブでも容赦なく世界を滅ぼしに掛かる平等院鳳凰。この男、先程から『滅びよ……』以外の言語を口にしていない。息をするように世界を滅ぼそうとする、この世全ての悪(アンリマユ)と言い換えても差し支えない有害生命体が誕生しつつあった。

 当然、本気で滅ぼそうとしている訳ではない。確実に空中で発光は収まり打球の勢いも弱まる。それは理解しているのだが、そもそも世界の命運とか関係なしに『未生無』の空中静止が厄介だとボルクは感じていた。

 何しろ、静止のタイミングも一定ではないのだ。ある程度宙に浮いた状態で失速することもあれば、本当にあと1mmで世界が滅ぶぞというタイミングで止まることもある。そんな打球をタイミング良く打ち返すのがどれだけ困難なことか。案の定今回も、さあラケットを振るぞというところでぴたりと止まったボールにリズムを崩され、辛うじてラケットには当てたものの、その返球がネットの上を越えることはなかった。

 

 

「15-0!」

「チッ……」

 

 

 ボルクは思った。『未生無』のタイミングを掴まないことには勝機はない。その前に飛んでくる『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』は只の囮に過ぎない。訪れる筈のない破滅を意識して、身体が固くなっていることも思うように打球を返せない原因に違いないのだ。一歩間違えれば世界が滅ぶという状況で、平静を保ってテニスが出来る人間がいるなら見てみたいものだが。

 

 

(俺一人の目では見極められんか……(ベルティ)よ……俺に力を貸してくれ……!)

 

 

 世界最強の男、ここで動く。手塚国光との『能力共鳴(ハウリング)』を解除し、新たな魂の相方に選んだのは自身の弟、ベルティ・B・ボルク。『テニスAI』の異名を持ち、こと観察眼において彼の右に出る選手(プレイヤー)は存在しないと言っても過言ではない男である。彼の眼力(インサイト)を借りることによって、ボルクは平等院の世界滅ぼす詐欺戦法に対抗しようとしていた。

 

 

「フン……俺の船もようやく嵐を抜けた、ということか」

 

 

 手塚との『能力共鳴(ハウリング)』を解除した以上、当然彼の異能によって創られていた『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』も消滅する。赤土の上に吹き荒れていた無数の竜巻が掻き消えて、ようやく表面上は普通のテニスコートが帰ってきた。

 

 

「『滅び』と『無』による緩急を付けたテニス……キミの新たな戦術は中々に厄介だったが、それもここまでだ。俺の『勝利への哲学』と(ベルティ)の『AI』もまた『能力共鳴(ハウリング)』を起こす――最早キミの世界を人質に取るような攻撃は通用しないと言わせてもらおう」

「人聞きの悪いことを言うな。キサマの竜巻を消し飛ばすだけの球を打とうと思ったら何故か毎回世界が滅びる威力になるだけだ」

「もう少し適切な火力の調整というものが出来ないのかねキミは……!」

 

 

 そうは言われても、自分自身何が原因で世界を滅ぼすような球が撃てるようになったのか理解出来ていないのだから答えようもない平等院である。なんかもう、気付いたら普通の『光る球(デストラクション)』が打てない身体になってしまっていた。『滅びよ……』と言って球に気合を入れたら勝手に光って世界が滅ぶ威力の球になってしまうのだ。ここまで来ると世界の方が『滅びよ……』という単語に反応して自動で滅ぼうとしているようにしか思えなかった。そんなことある?

 

 

「悪いな……0()100(滅び)しか存在しないのが今の俺のテニスだ。キサマは今100が0になる瞬間を見極めようと躍起になっているようだが、何なら100(滅び)の方を打ち返してくれてもいいんだぞ」

「……ちなみに確認しておくが、万が一キミの球が光っている状態で俺のラケットがボールに触れたら世界はどうなる?」

「滅ぶよ……」

「とんでもない罠ではないか……!」

 

 

 事実上のボレー封印宣告だった。こんな卑劣なテニスがこの世に存在していていいのだろうか。

 ボルクは激怒した。必ず、かの邪智暴虐の髭を除かなければならぬと決意した。ボルクには政治が――割と分かっていそうだがそれはそれとして、ボルクはテニス選手である。ラケットを振り、ボールを叩いて暮らしてきた。けれども邪悪に対しては、人一倍に敏感であった。

 

 

「もはや加減はせん……今度こそ完璧に打ち返してくれる! さあ、サーブを打て平等院(ビョードーイン)!」

滅びよ(いいだろう)……」

 

 

 かくして、再び炸裂する平等院の『世界滅亡の光球(ワールド・デストラクション)』。発光するテニスボール。ラケットによって生み出された、世界を滅ぼすほどの圧倒的な回転エネルギー。しかしその全てがまやかし(フェイク)。カーブが掛かる前の直球(ストレート)、ギャラドスに進化する前のコイキング、グレートモスに孵化する前のラーバモス――無視して差し支えないもの。

 進化の瞬間を見極めるのだ。おや? 『ほろびよ……』のようすが……? と思ったら即Bボタンを叩くのだ。そうすることが、『未生無』の完全なるリターンに繋がるのだ。故にボルクはじっと見た。目が眩むほどに輝くボールを瞬きもせずに眺め続けた。滅びの呪文(バルス)を唱えられても目が潰れないムスカ大佐がそこにいた。凄いよ父さん! ラピュタは本当にあったんだ!

 

 

「キミのテニス、見えたぞ……!」

 

 

 かくしてついに、ボルクのレシーブが『未生無』を捉えた。打球の跳ね際を見事に叩く(スーパー)ライジングショット。新テニ時代になってもツイストスピンショットで戦う旧世代の男こと不二裕太も裸足で逃げ出す強烈な反撃を前に、平等院は成す術もなくリターンエースを奪われてしまった。

 

 

「15-15!」

「ほう……やるなボルク。まるで普通のテニス選手(プレイヤー)のようじゃないか」

「キミは一体自分のことを何だと思っているのかね……?」

 

 

 何故普通にテニスらしいプレーをしただけで称賛されなければいけないのか。まるで自分たちが普段真っ当なテニスをやっていないかのようではないか。さっきまでコート上に無数の竜巻を生み出していた男は、さも心外だと言いたげな顔でそう思った。なんというか、このドイツ人も割と大概であった。

 とにかく最早、『滅び』も『無』も恐るるに足らず。残り3点で自身の勝利が決まる。こちらの圧倒的優位は未だに揺らいでいない。決して油断や慢心ではなく、純然たる確信を持ってボルクはそう判断した。

 

 

「フン……ボルクよ。俺のテニスを見切ったつもりでいるようだが、そいつは流石に気が早ぇな」

 

 

 一方の平等院も、『未生無』を打ち破られて尚、焦燥を浮かべた様子はない。むしろ、ようやく面白くなってきたと言わんばかりに嬉々として口元を吊り上げている。

 

 

「そもそも俺が世界を滅ぼす羽目になったのは、キサマの『疾風怒濤(シュツルムウントドランク)』を打ち破る必要があったからだ……あの鬱陶しい竜巻が消え失せた以上、俺はようやく俺本来のテニスに戻ることが出来る」

「間接的に破滅の原因を俺に押し付けようとしているような言い分が気に喰わんが……なるほど」

 

 

 そう。すっかり只の滅亡おじさんと化しつつある平等院鳳凰であったが、彼のプレースタイルは決して『滅び』一辺倒ではない。かつての徳川カズヤを圧倒し、(ダークサイド)のテニスを操るスイスのプロ選手(プレイヤー)、アレキサンダー・アマデウスをも追い詰めた、日本最強の男の真骨頂が存在する。

 

 

「いいだろう……久方ぶりに見せてみろ、()()!」

「ボルクよ――体感するがいい! 別次元のテニスを――――っ!!

 

 

 今度の平等院のサーブは光らない。世界を滅ぼすほどの圧倒的なエネルギーは籠もっていない。一見は何の変哲もないテニスボールが、ネットを越えてボルクのコートに入り込む。

 

 

 瞬間――赤土のコートは消え失せて、ユルゲン・ボルクの肉体は、嵐の海を往く海賊船の甲板にワープしていた。

 

 

(来たか……!)

 

 

 腰を落として油断なくラケットを構えるボルクの正面、中世ヨーロッパの軍服を着こんだ白骨の剣士が一人、サーベルを手にして立っていた。

 猛然と駆け出し、袈裟斬りにボルクへとサーベルを振るう骸骨剣士。その一撃をラケットで受け止め、懐から取り出した拳銃で剣士の脳天を撃ち抜くボルク。骸の頭部が粉々に砕け散り、首から上の吹き飛んだ相手がばたりと倒れ伏す。

 

 

「15-30!」

 

 

 ボルクに得点が入った。

 そう――これこそが、平等院鳳凰本来のテニス。固有結界を発動したサーヴァント戦でも何でもない。テニスである。They are playing tennis。自身の中に棲まう海賊を解放した時、たちまちテニスコートは荒れ狂う大海原の上の海賊船へと変貌し、対戦相手は白骨化した海賊との殺し合いを余儀なくされる――テニスだ。テニスである。誰が何と言おうとテニスなのである。

 この空間が発生している間、現実のコート上でどのようなプレーが為されているのかは定かではない。しかし、結果自体はシンプルだ。骸骨剣士が対戦相手を殺せば平等院にポイントが入り、相手の方が骸骨を打ち倒せばその逆となる。

 今回の争いはボルクが制した。これで勝利まで残り2得点。拳銃を握り締める手に力を込めて、ボルクは姿の見えない平等院に向けて声を放った。最早その手にラケットは握られていなかった。

 

 

「どうした平等院! そのような生温い攻撃でこの俺が殺せるか(ポイントが奪えるか)!」

 

 

 直後、今度はボルクの心臓を背後から新たに現れた骸骨剣士のサーベルが貫いていた。ガハァと血を吐きその場に倒れ伏すボルク。吹き荒れる風。打ち付ける雨。嘶く雷光。そして木魂する「30-30!」の声。一進一退、白熱の試合展開と言わざるを得ないだろう。

 ボルクの胸元の傷が塞がったのを確かめて、俯せになったボルクの背中に容赦なく刃を突き立てる骸骨剣士。一応これでも彼らがやっているのはテニスなので、先制攻撃、つまりサーブの権利は現在骸骨側にある。こんな体勢からでも、ボルクは置き上がって反撃しなければならなかった。

 

 

「お、おのれ……! ならばもう一度その頭骨を撃ち砕いてくれる!」

 

 

 テニスの試合中とは思えない台詞を口走り、ごろりと身体を反転させて串刺しを逃れるボルク。仰向けに寝転がったまま拳銃をぶっ放し、宣言通りに骸の頭蓋を弾丸が粉砕する。

 これで得点は30-40。ユルゲン・ボルク、この試合二度目となるマッチポイントであった。がばりと身を起こし、ボルクは再び平等院を挑発する。

 

 

「さあ――どうだ! 今度こそ追い詰めたぞ海賊!」

「フン……やるな。そこらの野良(モブ)海賊では最早勝ち目がないか」

 

 

 そう言って、物陰から姿を現したのは新たな白骨死体――ではない。海賊船の長を務める、平等院鳳凰その人であった。この男もまたテニスウェアではなく、骸骨たちが着ていたのと同じ西洋服に身を包んでいる。完全にコスプレ以外の何物でもない絵面だった。

 

 

「あと一()だ、平等院……それでキミのテニス人生は終わり、俺は四大タイトル(グランドスラム)の全てを手に入れる――この船と共に海の藻屑と化すがいい!」

「乗ってきたなボルク――だが、さっきも言ったぞ。俺のテニスを見切ったと思うにはまだ早えってな」

 

 

 そう言って、いよいよ平等院自身がその手にサーベルを構える。ボルクもまた銃口を真っ直ぐに平等院へと向ける。この期に及んで尚もテニスをしていると言い張れるこいつらの面の皮を見習いたいものである。

 

 

「――ならば見せてみろ、平等院。どのような一撃を繰り出してこようと、キミの刃が俺の喉元を貫くよりも迅く――キミの心臓を撃ち貫いてみせよう」

 

 

 ボルクは引き金を引けない。先にも言った通り、今はまだ平等院のサービスゲーム中なのだ。故に意識を相手の剣先へと集中させる。その刃が僅かにでも揺らぎを見せた瞬間、即座に人差し指へと力を込めるつもりだった。

 気分はさながら荒野の決闘。西部のアウトローと化したドイツ人に向けて、東洋の海賊は気さくな調子で語り掛ける。

 

 

「よお、ボルク――キサマの弟とやらは、5年前に日本(ウチ)の連中全員との戦い方を頭に叩き込んだ上で試合に臨んだらしいな」

「……? 平等院、今更何の話を……」

 

 

 ユルゲン・ボルクの現在の『能力共鳴(ハウリング)』パートナー、ベルティ・B・ボルク。試合中の洞察力や対応力にも長けている彼だが、その本領は13歳にして名門大学を卒業するほどの優れた知能が齎す圧倒的記憶力にある。

 対戦相手のありとあらゆるデータを予め脳内にインプットし、プロファイリングに基づく攻略法で試合を有利に展開する――実兄のユルゲンをして『世界で最も対戦したくない相手』と評される男。その実力たるや、世界各国の強豪たちに変身(イリュージョン)した仁王雅治のテニスにも1ゲームで対応し切った程である。

 しかし、何故今になってそんな話を――

 

 

「何……ようやく俺も『能力共鳴(ハウリング)』ってやつに慣れてきたんでな。キサマの弟が単なるホラ吹きだったのかどうか確かめてみたくなった」

「……!? まさかキミは、シュウジ・タネガシマ以外の男とも――」

 

 

 平等院の意図を察して、ボルクは驚愕に目を見開く。自分が手塚国光やベルティ・B・ボルクら、元ドイツ代表の面々と自由自在に『能力共鳴(ハウリング)』が行えるように、まさかこの男も――!

 そうと判れば気は抜けない。いかなる動きをも見逃す訳にはいかない。それ程までに神経を研ぎ澄ませ、目の前の敵を凝視しても尚――

 

 

 ――次の平等院の一撃を、ボルクは避けることが出来なかった。

 

 

「行くぜ野郎共――――っ!!」

 

 

 ――音速(マッハ)

 その男の繰り出した刃は、音を置き去りにしていた。瞬き一つしていなかったにも拘らず、気付いた時にはボルクの胸元に平等院の刃が突き立っていた。漏れ出す血反吐。舞い散る深紅。「デュース!」審判。がくりと膝を突いたボルクを見下ろして、何故か前髪で目元の隠れた平等院が口を開いた。

 

 

「『さして興味はない』」

「……これは……越智月光(ツキミツ・オチ)の『マッハ』か……!」

 

 

 越智月光。『Genius10』の一人にして、世界屈指の超高速サーブ『マッハ』の使い手である。226cmの高身長から繰り出される理論上最高のフラットサーブは、5年前の学生時代においてもプロ選手を凌ぐと評される程の速さを誇った。それを海賊と化した平等院が再現するとこうなるらしい。まるきり杓死か天剣の宗次郎か、という踏み込みの疾さであった。

 ちなみに、本来『マッハ』を再現するには最低でも身長が190cmは必要なのだが、平等院の身長は189cmとギリッギリのところで妖怪いちたりないさんが仕事してしまっていた。まあ高3時のデータだしギリギリまだ成長期が残ってたってことで一つ……。

 

 

「ぐっ……確かに我が弟(ベルティ)のデータよりも鋭い斬撃(サーブ)ではあったが……! 今の一撃も分析は済んだ! これ以上のポイントは断じて与えんぞ!」

「分析ね――だったら、自慢の頭脳とやらでこいつらのテニスも見極めてみな……!」

 

 

 そう言うと平等院はおもむろに目を閉じ、サーベルだけは握り締めたままぐったりと脱力したかと思うと――事もあろうに、漫画のような鼻ちょうちんをぷかぁと出して寝息を立て始めた。

 

 

「……!?」

 

 

 ボルクの気が一瞬緩み、平等院への警戒心が薄れる。刹那、突如として手足を無茶苦茶に引っ張られたマリオネットの如き体勢で斬りかかってくる平等院。有体に言って変態染みた動きだった。おまけに瞼は閉じられたままである。

 

 

うおおおおっ! こ、今度は毛利寿三郎(ジュサブロー・モーリ)の睡眠テニス……!」

「『真夏の光~サンサン浴びて~ルルルル~ル~♪』」

「こ、この歌は君島育斗(イクト・キミシマ)の――交渉!? 何と交渉しているのだこれは!?

「処刑法其ノ二『銃殺(真)』!!

「ゴハァァァッ!!」

 

 

 いつの間にかサーベルからピストルへと自身の獲物を切り替えていた平等院。ズキュウゥゥンと心臓を射抜かれ吐血するボルク。『コート上の処刑人』こと遠野篤京の殺人テニスは、この何でもありの船上と余りにも相性が良過ぎた。それにしてもさっきから何というか、やっていることが『能力共鳴(ハウリング)』というよりも単なる仁王雅治(モノマネ)じゃないかという気がしないでもない。この何者にでもなれる利便性、そりゃ新テニに入ってからもやたらと出番が多い訳である。

 

 

『ゲーム平等院4-5!』

「デカ勘弁しろし……」

 

 

 使うタイミングを失った大曲竜次の口癖を呟きつつ、再び抜き放ったサーベルの峰で自身の首をとんとんと叩く平等院。右手にサーベル、左手にピストルを構えるその姿はまさしく二刀流。

 ちなみに乾貞治&柳蓮二のデータマン's曰く、『ラケットを2本使ってはいけないなどとルールブックには書かれていない』との話だったのだが、実際は普通にラケット1本が原則化されているとの話である。おとな(許斐先生)はウソツキではないのです。まちがいをするだけなのです……。

 

 

『チェンジコート。ユルゲン・ボルクトゥサーブ』

「クッ……か、かくなる上は……!」

 

 

 よろよろと弱々しく身を起こし、ボルクは一つの覚悟を決めた。これだけは使うまいと心に決めていたのだが、この殺し合い(テニス)は最早正気を保ったまま勝ちを拾えるものではない。常識を疑えユルゲン・ボルク。己のテニスの幅を広げるのだ。平等院が仲間たちの力を最大限に利用するのであれば、こちらも同じことをするまでのこと。

 そして、我がドイツのテニス選手(プレイヤー)の中で、最もこの狂気(状況)に相応しい男といえば――

 

 

「――ぬおおおおおおおおおおおおおおおお……!!」

「コ、コイツは……!?」

 

 

 ぎしぎしと音を立て、二人を乗せた海賊船の船体が軋み始める。嵐の激しさに耐えられなくなったのか――否。そうではない。

 理由は極めて単純明快。()()の重さが増したからである。それも10kgや20kg程度の話ではない。急速に膨れ上がったその肉体は、甲板を踏み抜き、背丈は船のマストを超え、平等院が目一杯見上げなければ目を合わせることすら出来ないほどであった。

 

 

 

 

 

「――俺からも例の台詞を言わせてもらうぞ、平等院鳳凰――」

 

 

 

 

 

――それは、人というには余りにも大き過ぎた。

大きく、分厚く、重く、そして大雑把すぎた。

 

 

それはまさに、巨人(ギガント)だった。

 

 

「――デカ過ぎんだろ……!」

「滅びよ……!!」

 

 

 ユルゲン・ボルクの新たな『能力共鳴(ハウリング)』対象は――元U-17W杯ドイツ代表、ダンクマール・シュナイダー。

 『巨人(ギガント)』の異能を持つ、テニプリ界の人間やめました大賞であった……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――次回、今度こそ最終回――

 

勝手に戦え!!

 

 






開催期間が終わってしまいましたなぁ……。
間に合いませんでしたなぁ……。
最終話は必ず書きますので気長にお待ち頂ければ幸いですなぁ……。


最早世界滅亡杯とか関係ない只のテニスSSですなぁ……。


すなぁ……。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。