最終回っす
今度は噓じゃないっす
――
70億もの人類、そして数多の動植物たちが住まう青と緑の惑星、それが
何億年もの歴史を重ねて保たれてきたその繁栄は今や、たった一球のボールによって塵芥と成り果て、もはや見る影もない。
失われた大自然。干上がった大地。消し炭と化した文明。
全て、全て。『滅びよ……』の一言と共に放たれた白き輝きが、消し飛ばしたのだ。
嗚呼――テニス。
世界に終焉を齎した、忌まわしきスポーツ。悪魔の球技よ。
この何もかもが終わってしまった世界の中で、何故にかの男達は、未だにラケットを手放すことが出来ずにいるのか――
平等院鳳凰とユルゲン・ボルク。二人の戦いを天上から見下ろして、神は独り思考に耽る。
彼らの
神はサイコロを振らない。代わりに粛々と腕を振るい、
『15-0』
「うおおおおおおおおおっ!?」
一歩。巨大化したボルクがほんの一歩踏み出しただけで、船体が真っ二つに叩き折られボルクに得点が加算される。ボルクのサーブを返せなかった、という判定になるのだろう。
だがそれ以上に、船を壊されたのが不味い。足場を失ってしまっては
「キミには水底がお似合いだ、平等院鳳凰……!」
唐突に跡部景吾のような声を出し、駄目押しと言わんばかりに平等院もろとも残り半分の船体を踏み潰しに掛かるボルク。
咄嗟に『已滅無』を発動し、その桁違いの質量を両の手で受け止める平等院。アクシズを押し返そうとするνガンダムの如き無謀な絵面であった。もう回転の無力化がどうとかそういう次元の話じゃないだろ。
(ぐっ……畜生、俺が踏ん張れても
正直、未だに転覆していないのが奇跡と言わざるを得なかった。ただでさえ縦長のマストが残っている側だったのだし、普通ならとっくにひっくり返って沈んでいる筈である。ボルクはむしろマスト折らない方が良かったのではないだろうか。バランス的に考えて。
いずれにしても、これ以上は無理だ。平等院は自身の固有結界、もとい嵐の海空間を解除して、真っ当なテニスコートの上で仕切り直すべきだと判断した。何故にテニスの試合で踏み殺される蟻の気分を味わわなければならないのか。冗談ではない。
という訳で、海賊船からスタッド・ローラン・ギャロスの地へと舞台を戻しに掛かる平等院。サーベルを捨ててラケットを握る時が来た。さあ、人間らしく水の上ではなく土の上で決着を付けようではないか――
「…………!?」
そう思ってから数秒、或いは数十秒か。いよいよ自身の足が甲板を踏み抜き、半壊の船と運命を共にするかという段階になって、平等院はようやく事態の異常さに気が付いた。
(も――
あり得ない。この空間はあくまで、自身が創り出したイメージ映像に過ぎない筈。現にこうして超大型巨人と化したボルクの足を支えている間も、平等院の意識の上ではラケットを振ってラリーを続けているつもりなのだ。にも拘らず、視覚の方がそれに追いついてこない。精神だけでテニスをしている。何を言っているのかわからないと思うが俺にもわからないと平等院は思った。
一体何が起こっているのか。自分たちが今やっているのは、本当にテニスなのだろうか――万人に聞いたら万人が今更だと答えそうな疑念に囚われる中、とうとう船体の方が限界を迎えた。
「
「ぐわあああああああ――っ!?」
『30-0!』
とうとう完全に足場が崩壊した。粉々になった船体諸共、ボルクによって踏み抜かれる平等院。そのままぐちゃりと足裏と海底のサンドイッチにされて、平等院は更に一点を失った。なお試合の方は問題なく続行するものとする。
「がっ……がぼごぼ、ごばっ……」
息の出来ない海中で悶え苦しむ平等院。そんな彼に容赦なく追撃を仕掛けていくボルク。丸太を通り越して大木のような太さになった右腕を引き、コークスクリューブローの要領で捻りを加えたパンチを海面に向けて放つ。
するとたちまち、ボルクの拳を中心に巨大な渦潮が発生する。まさしくこれぞ、『
瀕死。もはや比喩でもなんでもないその状態で、平等院はその声を耳にした。
(……俺は……今度こそ……
こいついっつもテニス中に死にかけてんな。
ぐるんぐるんと大渦の中でぶん回されながら、平等院鳳凰は走馬灯を見ていた。5年前。嵐の夜に
今もそれと同じものが見える。いつの間にか荒れが治まった海の底、沈みゆく自分の前に垂らされた一本のロープ。それを掴み、引き上げられた先にいたのは、海賊衣装に身を包んだ頼れる仲間たち――
「――お、釣れた釣れた。餌もないのにようやったわ俺」
目の前の幻影が、記憶にない言葉を口にした。
朦朧としていた意識が、その一言で徐々に覚醒していく。いつの間にか平等院は、先程まで乗っていたものとは違う新たな船の上に打ち上げられていた。ずぶ濡れの男を取り囲むように、ここには存在しない筈の戦友たちが集っている。
種ヶ島修二、鬼十次郎、入江奏多、大曲竜次、君島育斗、遠野篤京、越智月光、毛利寿三郎。そして――
「お頭……よくぞご無事で……!」
――皆が中世の海賊服を着こなしている中、独りだけ古典的ヴァイキングのような角兜を被らされているデューク渡邊。
これは――幻ではない。自分やボルクと同じように、意思と実体を持ってこの空間にやって来ている。加治風多はやっぱりいなかったが、そんなことは些細な問題である。新テニ読んでない勢からしてみれば『誰?』レベルの知名度しかない男に一々言及している場合ではなかった。
「お……お前ら、一体どうやってここに……!?」
「知らん。なんや気付いたら俺らまとめて船の上におって、そんで辺り見回したらデッカいドイツの兄さんが大暴れしとるやろ? おまけに自分は
頼れるとかご都合とか通り越して何でもありの領域に踏み込みつつある種ヶ島修二であった。ジェバンニが一晩でやってくれましたレベルの神業をさらっと披露するな。
「そうか……デカい借りが出来ちまったな。しかし何故この
「おっと、来たのは俺達だけじゃないぜ平等院」
そう言って、鬼十次郎が何の変哲もない海の一角を指差す。
直後、彼の指し示した先に巨大なホワイトホールが発生し、そこから無数の海賊船が嵐の海に錨を上げた。なんかアベンジャーズの映画で似たようなシーン見たことあんなと平等院は思った。
『はいでぇ――っ!! 比嘉中!!』
「もう中学生じゃないですけどね……」
先陣を切ったのは海洋民族沖縄人こと元・比嘉中
そんな彼らを束ねるは、5年の時を経てインテリヤクザっぷりに磨きがかかった木手永四郎。もう立派に組の若頭としてやっていける風貌をしていた。殺し屋(真)。
「ハァーッハッハッハァ!! なるほど
「んんーっ、
「
「みんな頭が悪過ぎるよ……」
比嘉中海賊団の船を皮切りに、続々と白穴から姿を現す
そして最後に出てきたのは、大海原を小舟で漕ぎ出す男こと徳川カズヤ。今もイカダ同然の一人乗りボートにぽつんと乗っている。きゅっと拳を握り締めてホワイトホールを閉じたかと思うと、真顔で衝撃の新事実を平等院に伝えてきた。
「平等院さん――どうやら、アンタの生み出したこの海賊の世界に、俺達の世界は取り込まれてしまったようだ」
「そういうことか……」
平等院は納得した。テニスで世界が滅ぶこともあるのなら、テニスで世界が創り変えられることもあるだろう。何もおかしな話ではなかった。
滅びでも再生でもない、平等院鳳凰の異能が齎した第三の結末――それこそが、世界そのものの改変。地球上に生き残っていた僅かな
この嵐の海こそ、
「馬鹿な……何だこれは、一体何が起こっている……!」
一方、突然の超展開を前に脳が理解を拒否し始めているユルゲン・ボルク(巨)。試合中であることも忘れて、平等院と元中学生
そう、試合中なのである。最早ラケットもボールもコートも何も見当たらないのだが、これこそが彼らの行き着いたテニスの終着点なのである。マッチポイント、勝利まで後一歩のところに迫っていたにも拘らず、ボルクは自分の行っている競技が何なのか理解出来なくなってしまった。
テニスとは何か。庭球とは何なのか。己の内に芽生えてしまった疑問がボルクを苦しめる中、彼とは逆に全てを悟ったような表情で、平等院鳳凰はニヤリと笑った。
「成程な……今なら
「何……だと……!?」
「ボルクよ……俺達のテニスに、地球という
阿頼耶識さんは割と真面目な人だった。そもそも本来、阿頼耶識に疑似人格と呼べるものなど存在しないのだが今更な話である。原作を読んでも別に平等院が脳内会議をおっ始めるシーンはありません。
「フフフ……まさに異次元のテニス……! キサマか俺か、どちらかが滅ぶまで
「テ、テニスだと……!? これが……こんなものがテニスであってたまるかぁ――っ!!」
大魔王を泣きながらぶん殴る勇者の如き絶叫を上げて、ずしんずしんと海底を踏みしめ平等院らの船へと歩を進めるボルク。平等院はそれを彼のサーブと見做した。ならば
「デューク! 弾を籠めろぉ!!」
「ですなぁ……!」
船長の号令に従い、自身の頭部よりも二回りは大きい砲丸を担ぎ上げて備え付けの大砲にセットするデューク渡邊。観測手の入江奏多が単眼鏡に目を凝らし、迫り来るボルクを指差す。
「照準、よし!」
「ゲージが上がりよった……行けるで平等院!」
入江に続いて、懐中時計のような首飾りに視線を下げて謎の報告をするのは種ヶ島修二。見ると、彼の首飾りには『山』の字と直角三角形を足したような未知の記号が浮かび上がっていた。
「ボルクよ――感謝するぜ。お前と出会えた、これまでの全てに――」
胸の前でハートマークを作り、
直後、彼の身体もまた金色のオーラに包まれ、嵐の海を色鮮やかに照らし始める。事実、平等院の発光と同時に鳴り続けていた雷はぴたりと止み、曇天の空に光が差し、嵐の海に平穏が訪れようとしていた――書き換えられた世界が、いよいよ再生を始めたのだ。
「こ……これはまさか、『
驚愕に目を見開くユルゲン・ボルク。『
古代文献によれば、『天衣無縫の極み』には三つの精神派生が存在するのだという。
テニスを心から楽しみ、快楽を知りし者の『愛しさ』の輝き。
強さの原点を極め、儚さを知りし者の『切なさ』の輝き。
己の限界を打ち破り、自らの強さ――そして、弱さを誇れるように成りし者が放つ『心強さ』の輝き。
心強さは最初から備わっていた。切なさは世界を滅ぼした時に理解した。そして、今。
平等院鳳凰は、『愛しさ』というものを理解したのである。
天上から試合を見守る、古代文献を人々に遺した
ワシの思ってた三つの矜持と解釈が違う……と。
「そう――これこそが俺の辿り着いた境地、『愛しさと切なさと心強さ』の天衣無縫だ……!」
「最終回で俺が普通にやりそうなやつじゃん……」
原作主人公の漏らした嘆きに反応する者は誰もいなかった。
悪いな越前……書いたモン勝ちや!!
「撃てぇ――っ! 平等院!!」
「うおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!!」
鬼十次郎の檄に続いて、平等院が吼えた。いつの間にかその右手には、鬼から託されたワイヤー十字の特製ラケットが握られていた。
発射口から爆炎を噴出して、砲弾が放たれる。それと同時に平等院が跳び上がり、瞬く間に発射された砲弾へと空中で追いついた。真なる天衣無縫に目覚めた平等院の身体能力は、もはや重力や光をも凌駕する。具体的に言えば、徳川カズヤのブラックホールでも止められないし真田弦一郎の『雷』よりも迅い。
その追撃は、
スイングの加速に耐え切れず、ブチブチと破れていくガット。それでも尚、
「お、おのれ……! 世界を滅ぼした男が仲間との絆によって強くなるなど、そのような道理の通らない話を認めてなるものか……!」
まさかのド正論を吐きながら自身の腕に竜巻を纏わせ、せめてもの抵抗を試みるボルク。しかし悲しいかな、先にも改変して引用した通り――世の中勝ったモン勝ちなのである。気持ちの強さは関係ないのである。現に渾身の力を込めて繰り出した竜巻は藁の家の如くブチ破られ、突き出した腕もあえなく消し飛ばされ、そしていよいよどてっ腹をぶち抜かれようという段階になって、ユルゲン・ボルクはその言葉を耳にした。
そう口にした平等院鳳凰の身体は、当然の如く宙に浮いていた。
虚空にて座禅を組み、穏やかに目を閉じ印を結ぶその姿は、まさしく輪廻転生の理を司る神仏が如し。美しい――ボルクの口からそんな言葉が漏れた直後、とうとう彼の身体に虹色の
「――ゲームセット! ウォンバイ――平等院鳳凰!!」
『ワアアアアアアアアアアアア――ッ!!』
「…………!?」
――イギリス、ロンドン。ウィンブルドン選手権決勝の地、オール・イングランド・クラブ――突然の大歓声に囲まれて、平等院の意識は瞬く間に混乱の
これは一体――自分はついさっきまで、海の上で巨大化したボルクと戦っていたというのに――ボルクの『
「――素晴らしいテニスでした」
審判だった。帽子の唾と長い前髪によって目元が隠れており、その顔立ちを窺い知ることは出来ない。しかし、何処かで聞いたような声だなと平等院は思った。
審判――思えばあの新世界のテニスにおいて、審判は一体何処から自分たちの試合を裁いていたのだろう? 世界の改変によって旧世界が失われてしまったのであれば、審判もまた『Genius10』の面々や元中学生組と同じように、あの海の何処かに呼び出されていた筈なのだが――
「『滅びたとして、蘇ることの出来ないやつはそれまでだ』――真理に至った時のような心境に御座います。心が折れようと立ち上がれる者がいるように、滅びたとしても蘇ることの出来る世界がある……貴方のような方が独りでも存在する限り、真に世界が滅びることなどないのでしょうね」
「……キサマ、一体何者――」
「何、只のしがない
そう言って、全てを裁く者はコートの向こう側へと視線を促す。
等身大のサイズに戻ったユルゲン・ボルクが、ネット越しにこちらへと手を差し伸べていた。積もる疑問は尽きないながらも、歩を進めて握手に応じる平等院。その感触にこれが夢ではないことを実感しながらも、彼は思わずこう訊ねずにはいられなかった。
「ボルク……俺は……夢を見ていたのか?」
「いいや――夢ではないさ、平等院。見てみたまえ、キミの左手にあるラケットを」
「…………!」
言われるがままに視線を下ろし、そして、平等院はそれを見た。
世界が一巡しても尚、決して千切れることがなかった仲間たちとの絆の証――
「Bear the cross and suffer――キミは確かにテニスで世界を滅ぼし、そしてテニスで世界を蘇らせたのだ。平等院鳳凰――」
――鬼十次郎の魂が籠められた、ワイヤー入りのスイートスポット。
それこそがまさに、滅びた世界と今の世界を繋ぎ合わせる、平等院鳳凰の背負いし十字架なのであった。
数日後。
平等院はデューク渡邊と種ヶ島修二の二人を連れて、グレートブリテン島の最南東――ドーバーの地を訪れていた。
お馴染みの呪文を唱え、発光するテニスボールを
「チッ……やはり何度試しても、あの時のような『
「ですなぁ……」
「『ですなぁ……』やないわ自分ら。アカンやろこれ、やっとることが普通にテロリストと変わらへんやんけ……ちゅうか平等院、自分ちょいと感覚マヒしとるんとちゃうか……?」
至極もっともな種ヶ島修二のツッコミであった。確かに世界を滅ぼした後で見てみればショボい威力に感じるかもしれないが、そもそも普通はテニスボールで地形は変えられない。『この程度か……』みたいな空気になってる現状がおかしい。世界滅亡杯というお祭りのバフが切れても尚、
「大体自分、こないなところまで連れ出して何の用やねん。またフランスくんだりまで船でも漕いでいこうっちゅうんか? もう世界は元通りになったんやし、飛行機でも乗ってったらええやん。俺は絶対乗らへんけどな」
「何だ、言ってなかったか種ヶ島? 北海の地図に載ってない島で裏グランドスラムって呼ばれてるテニスの大会が開かれてるらしくてな、
「表を制した先には裏がある……いやはや、バトル漫画の王道ですなぁ」
「せやろか? 具体的な例挙げてみ言われても特に思いつかへんけどな……ちゅうかちょい待ち、何さらっと人のこと勘定に入れとんねん。俺は出るなんて一言も――」
「平等院さん。船の準備が整ったぞ」
ブオン……と虚空に発生したホワイトホールの中から、徳川カズヤが姿を現す。平等院から世界を滅ぼす力は失われてしまったが、この男のインフレについては特に修正が入らなかったらしい。
「徳川……自分も出るつもりなんか? その、裏グランドなんたらっちゅうの……」
「俺だけじゃないですよ、種ヶ島さん。――見て下さい、みんな揃ってます」
「うせやろ……」
茫然とする種ヶ島の視線の先、『あの世界』で乗り込んだ海賊船そっくりの船上にて待ち構えているのは、鬼十次郎と入江奏多を始めとした『Genius10』のメンバー――もはや説明不要の面々であった。そして今更になって気付いたのだが、入江奏多は実はGenius10の一員ではなかった。こいつそういえば順位的にはNo.20だった。まあ実質No.4くらいのポジションにいるのは間違いないし正直どうでもいいよね……と作者は思った。もうどうにでもなーれ。
「フフフ……表に出てこねえ裏世界のテニスか……ゾクゾクさせやがるぜ。なあデューク」
「ですなぁ……」
「……ホンマ自分もようやるわ。いや、俺が煽っといて何言うてんねんて話かもしれへんけどな、世界のこととかそっちのけでテニスしてもまだ飽き足らへんか? 平等院」
「フン……答えの分かり切っている問いをわざわざ口にするな、種ヶ島」
「――ま、せやろな」
鼻息一つで一蹴されて、肩を竦める種ヶ島。平等院の言う通り、聞くまでもない話だというのは自分でも理解っていた。
実際、世界を滅ぼし元通りにした程度でこの男が満足する筈もなかったのだ。天衣無縫の極み――その境地へと辿り着いた者のテニス人生に終わりはない。眼鏡に適う対戦相手がいるのなら、たとえ地の果て森の果てでも平等院は赴いていき、そして気軽にラケットを振るうのだろう。
その結果、今度こそ本当に世界が滅びるようなことになったとしても。
(……ま、せやけど――本気の『好き』っちゅうんは、そういうモンなんかもしれへんなぁ)
世界を敵に回したとしても構わない。陳腐なラブソングなどでよく聞く言い回しだが、守り抜く対象がテニスだというのは――地球広しと言えども、この男くらいの話なのではないだろうか。
世界を滅ぼすか、テニスを滅ぼすか。
いつの日か自分も、そのような究極の選択を迫られる日が来たりするのだろうか?
アホくさ、と脳内で最後に呟いて。
『不会無』の応用で消していたラケットを手元に映し出し、種ヶ島修二は苦笑した。
「――しゃーない、乗ったるわ。色々アホなモン見過ぎて疲れてしもたしな、久しぶりにフツーのテニスっちゅうんがしてみたいわ」
「いや……お前にそれは一生無理だろ、種ヶ島」
「ですなぁ……」
「なんでやねん。世界滅ぼしたりバケモン吹っ飛ばしたりブラックホール創ったりする奴らに比べたら俺なんか全然大したことあらへんやろ。なあ徳川?」
「種ヶ島さん……スベってますよ」
「なんでやねん!?」
『無』からラケットを取り出したばかりの男が、悲鳴にも似た声で関西人お決まりの六文字を繰り返す。当然、彼に味方する者など一人もいなかった。ある意味一番おかしいのはお前だ。
「よし……士気も上がったことだし、ぼちぼち錨を上げるとするかよ」
「微塵も上がっとらんわドアホ」
お前は俺を熱くスルー、平等院鳳凰。一体何処で手に入れたのか、例の海賊姿をしていた時に被っていた
「乗り込め――っ! 野郎共ぉ!!」
「ですなぁ……!」
「俺が歴史を変える……!」
「ちったあ聞けや人の話をォ!!」
初めに平等院、続いてデュークが駆け足で船へと乗り込み、徳川はブラックホールを通って船上へと先回りする。最後に種ヶ島がちゃーいと飛び乗ったのを確かめて、海賊の長は下知を飛ばす。
一度は滅んでしまった世界も、今となってはご覧の通り。まるで何事もなかったかのように、平等院鳳凰の
世界を震撼させる、異次元のテニス――まだ見ぬお宝を求めて、海賊の船は海を往く。
※JASRAC申請済
平等院のテニスが世界を滅ぼすと信じて……!
ご愛読ありがとうございました!