平等院鳳凰「滅びた……」   作:Amisuru

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最終回っす
今度は噓じゃないっす




Death Parade

 

 

 ――()()()が全てを滅ぼすまで、世界という言葉は地球そのものを意味していた。

 70億もの人類、そして数多の動植物たちが住まう青と緑の惑星、それが地球(せかい)。我らが故郷。

 何億年もの歴史を重ねて保たれてきたその繁栄は今や、たった一球のボールによって塵芥と成り果て、もはや見る影もない。

 失われた大自然。干上がった大地。消し炭と化した文明。

 全て、全て。『滅びよ……』の一言と共に放たれた白き輝きが、消し飛ばしたのだ。

 

 

 嗚呼――テニス。

 世界に終焉を齎した、忌まわしきスポーツ。悪魔の球技よ。

 

 

 この何もかもが終わってしまった世界の中で、何故にかの男達は、未だにラケットを手放すことが出来ずにいるのか――

 

 

 平等院鳳凰とユルゲン・ボルク。二人の戦いを天上から見下ろして、神は独り思考に耽る。

 彼らの殺し合い(ラリー)が行き着く果てに、どんな結末が待っているのか。

 神はサイコロを振らない。代わりに粛々と腕を振るい、下界(コート)の者達に向けて口を開く。

 

 

 

 

 

「チェンジコート! ユルゲン・ボルクトゥサーブ!」

 

 

 

 

 

 

審判(かみ)は公正に見定める。

 

この試合の決着も、世界の真なる終わりをも。

 

全てを裁く者として、じっと見守り続けていた――

 

 

 

 

 

 

 

【第10ゲーム/ゲームカウント4-5 平等院鳳凰 0 - ユルゲン・ボルク 0 】

 

 

 

 

 

「滅びよ……!!」

 

 

ドゴォ!!

 

 

『15-0』

「うおおおおおおおおおっ!?」

 

 

 一歩。巨大化したボルクがほんの一歩踏み出しただけで、船体が真っ二つに叩き折られボルクに得点が加算される。ボルクのサーブを返せなかった、という判定になるのだろう。

 だがそれ以上に、船を壊されたのが不味い。足場を失ってしまっては殺し合い(テニス)をするどころではない。海へと投げ出される寸でのところで、近くにあったマストへとしがみ付く平等院。ならばと続け様にボルクが腕を振り、手刀の要領でマストをも叩き折った。やっていることがもはや怪獣と大差なかった。多分ゴジラかウルトラマンともいい勝負できる。

 

 

「キミには水底がお似合いだ、平等院鳳凰……!」

 

 

 唐突に跡部景吾のような声を出し、駄目押しと言わんばかりに平等院もろとも残り半分の船体を踏み潰しに掛かるボルク。

 咄嗟に『已滅無』を発動し、その桁違いの質量を両の手で受け止める平等院。アクシズを押し返そうとするνガンダムの如き無謀な絵面であった。もう回転の無力化がどうとかそういう次元の話じゃないだろ。

 

 

(ぐっ……畜生、俺が踏ん張れても足場(ふね)の方が持たねえ……!)

 

 

 正直、未だに転覆していないのが奇跡と言わざるを得なかった。ただでさえ縦長のマストが残っている側だったのだし、普通ならとっくにひっくり返って沈んでいる筈である。ボルクはむしろマスト折らない方が良かったのではないだろうか。バランス的に考えて。

 いずれにしても、これ以上は無理だ。平等院は自身の固有結界、もとい嵐の海空間を解除して、真っ当なテニスコートの上で仕切り直すべきだと判断した。何故にテニスの試合で踏み殺される蟻の気分を味わわなければならないのか。冗談ではない。

 という訳で、海賊船からスタッド・ローラン・ギャロスの地へと舞台を戻しに掛かる平等院。サーベルを捨ててラケットを握る時が来た。さあ、人間らしく水の上ではなく土の上で決着を付けようではないか――

 

 

「…………!?」

 

 

 そう思ってから数秒、或いは数十秒か。いよいよ自身の足が甲板を踏み抜き、半壊の船と運命を共にするかという段階になって、平等院はようやく事態の異常さに気が付いた。

 

 

(も――元の世界(テニスコート)に戻れねえ……!?)

 

 

 あり得ない。この空間はあくまで、自身が創り出したイメージ映像に過ぎない筈。現にこうして超大型巨人と化したボルクの足を支えている間も、平等院の意識の上ではラケットを振ってラリーを続けているつもりなのだ。にも拘らず、視覚の方がそれに追いついてこない。精神だけでテニスをしている。何を言っているのかわからないと思うが俺にもわからないと平等院は思った。

 一体何が起こっているのか。自分たちが今やっているのは、本当にテニスなのだろうか――万人に聞いたら万人が今更だと答えそうな疑念に囚われる中、とうとう船体の方が限界を迎えた。

 

 

生命(いのち)の海に還るがいい……!!」

「ぐわあああああああ――っ!?」

 

 

グシャアッ!!

 

 

『30-0!』

 

 

 とうとう完全に足場が崩壊した。粉々になった船体諸共、ボルクによって踏み抜かれる平等院。そのままぐちゃりと足裏と海底のサンドイッチにされて、平等院は更に一点を失った。なお試合の方は問題なく続行するものとする。

 

 

「がっ……がぼごぼ、ごばっ……」

 

 

 息の出来ない海中で悶え苦しむ平等院。そんな彼に容赦なく追撃を仕掛けていくボルク。丸太を通り越して大木のような太さになった右腕を引き、コークスクリューブローの要領で捻りを加えたパンチを海面に向けて放つ。

 するとたちまち、ボルクの拳を中心に巨大な渦潮が発生する。まさしくこれぞ、『巨人(ギガント)』の力を得たボルクによる『真・渦巻きの洗礼(ヴァール・ウィルベルタオフェ)』。溺れる平等院にその激流を防ぐ術などなく、たちまち彼は洗濯機の中に放り込まれたボロ雑巾と化した。破れて使い物にならなくなるまで後僅かという有様であった。

 瀕死。もはや比喩でもなんでもないその状態で、平等院はその声を耳にした。

 

 

 

『40-0! マッチポイント、ユルゲン・ボルク!』

 

 

 

 審判(かみ)からの、死刑宣告を。

 

 

(……俺は……今度こそ……死ぬ(負ける)のか……)

 

 

 こいついっつもテニス中に死にかけてんな。

 ぐるんぐるんと大渦の中でぶん回されながら、平等院鳳凰は走馬灯を見ていた。5年前。嵐の夜に海上(コート)で吹き荒れる『無限の竜巻(ウンエントリヒヴィントホーゼ)』を前に、乗っていた船から落とされかけた平等院。窮地に立たされた彼を救ったのは、種ヶ島修二を始めとしたGenius10――船員(なかま)たちの幻影だった。

 今もそれと同じものが見える。いつの間にか荒れが治まった海の底、沈みゆく自分の前に垂らされた一本のロープ。それを掴み、引き上げられた先にいたのは、海賊衣装に身を包んだ頼れる仲間たち――

 

 

「――お、釣れた釣れた。餌もないのにようやったわ俺」

 

 

 目の前の幻影が、記憶にない言葉を口にした。

 朦朧としていた意識が、その一言で徐々に覚醒していく。いつの間にか平等院は、先程まで乗っていたものとは違う新たな船の上に打ち上げられていた。ずぶ濡れの男を取り囲むように、ここには存在しない筈の戦友たちが集っている。

 種ヶ島修二、鬼十次郎、入江奏多、大曲竜次、君島育斗、遠野篤京、越智月光、毛利寿三郎。そして――

 

 

「お頭……よくぞご無事で……!」

 

 

 ――皆が中世の海賊服を着こなしている中、独りだけ古典的ヴァイキングのような角兜を被らされているデューク渡邊。

 これは――幻ではない。自分やボルクと同じように、意思と実体を持ってこの空間にやって来ている。加治風多はやっぱりいなかったが、そんなことは些細な問題である。新テニ読んでない勢からしてみれば『誰?』レベルの知名度しかない男に一々言及している場合ではなかった。

 

 

「お……お前ら、一体どうやってここに……!?」

「知らん。なんや気付いたら俺らまとめて船の上におって、そんで辺り見回したらデッカいドイツの兄さんが大暴れしとるやろ? おまけに自分は怪獣(ゴジラ)に踏み潰されそうになっとるし、こらアカン思うて急ぎで船寄せに行ったっちゅうワケや。あ、渦巻きは俺の『已滅無』で止めたで」

 

 

 頼れるとかご都合とか通り越して何でもありの領域に踏み込みつつある種ヶ島修二であった。ジェバンニが一晩でやってくれましたレベルの神業をさらっと披露するな。

 

 

「そうか……デカい借りが出来ちまったな。しかし何故この世界(コート)にお前らが……」

「おっと、来たのは俺達だけじゃないぜ平等院」

 

 

 そう言って、鬼十次郎が何の変哲もない海の一角を指差す。

 直後、彼の指し示した先に巨大なホワイトホールが発生し、そこから無数の海賊船が嵐の海に錨を上げた。なんかアベンジャーズの映画で似たようなシーン見たことあんなと平等院は思った。

 

 

『はいでぇ――っ!! 比嘉中!!』

「もう中学生じゃないですけどね……」

 

 

 先陣を切ったのは海洋民族沖縄人こと元・比嘉中海賊団(テニス部)。船の先端、甲斐裕次郎がブォォォォンとU字型の笛を吹き鳴らしている。そう、これこそが本当の海賊の角笛(バイキングホーン)。5年前よりも更に太った田仁志慧が跳ね踊り、操舵手の平古場凛は飯匙倩(ハブ)の如き変態軌道で船を操り、知念寛の見た目は今見るとスペシャルウィーク(ウマ娘)に似ていた。

 そんな彼らを束ねるは、5年の時を経てインテリヤクザっぷりに磨きがかかった木手永四郎。もう立派に組の若頭としてやっていける風貌をしていた。殺し屋(真)。

 

 

「ハァーッハッハッハァ!! なるほどCARIBBEAN(カリビアン)じゃねーの!!」

「んんーっ、絶頂(エクスタシー)っ!」

You still have lots more to work on(もう帰っていい?)...」

「みんな頭が悪過ぎるよ……」

 

 

 比嘉中海賊団の船を皮切りに、続々と白穴から姿を現す海賊たち(テニスプレイヤー)。氷帝学園海賊団(テニス部)、四天宝寺海賊団(テニス部)、青春学園海賊団(テニス部)、そして立海大付属海賊団(テニス部)――他にも山吹不動峰六角聖ルドルフetc、名高き海賊団(テニス部)の面々が次から次へと参戦してくる。

 そして最後に出てきたのは、大海原を小舟で漕ぎ出す男こと徳川カズヤ。今もイカダ同然の一人乗りボートにぽつんと乗っている。きゅっと拳を握り締めてホワイトホールを閉じたかと思うと、真顔で衝撃の新事実を平等院に伝えてきた。

 

 

「平等院さん――どうやら、アンタの生み出したこの海賊の世界に、俺達の世界は取り込まれてしまったようだ」

「そういうことか……」

 

 

 平等院は納得した。テニスで世界が滅ぶこともあるのなら、テニスで世界が創り変えられることもあるだろう。何もおかしな話ではなかった。

 滅びでも再生でもない、平等院鳳凰の異能が齎した第三の結末――それこそが、世界そのものの改変。地球上に生き残っていた僅かな人類たち(テニスプレイヤー)の全てが、新世界のテニスを繰り広げるこの嵐の海へと召喚された――そういうことだろう。テニスの王子様が新テニスの王子様にタイトルを改めたのと同じように、一度滅びた(完結した)世界もまた、世界(誌面)を移してやり直す必要があったのだ。

 この嵐の海こそ、地球(ジャンプ)を失った者達の辿り着いた新たなる理想郷(ジャンプSQ)。きっと海の彼方では流浪人の剣士がブンブン刀を振っているし、また別の地ではマジキチメンタルの眼鏡が冷や汗垂らしながらせっせとワイヤーを張り巡らせていることだろう。ワールドトリガーは毎月4日発売のジャンプSQにて好評連載中です。応援よろしくお願いします。

 

 

「馬鹿な……何だこれは、一体何が起こっている……!」

 

 

 一方、突然の超展開を前に脳が理解を拒否し始めているユルゲン・ボルク(巨)。試合中であることも忘れて、平等院と元中学生海賊団(テニス部)の面々を見比べている。

 そう、試合中なのである。最早ラケットもボールもコートも何も見当たらないのだが、これこそが彼らの行き着いたテニスの終着点なのである。マッチポイント、勝利まで後一歩のところに迫っていたにも拘らず、ボルクは自分の行っている競技が何なのか理解出来なくなってしまった。

 テニスとは何か。庭球とは何なのか。己の内に芽生えてしまった疑問がボルクを苦しめる中、彼とは逆に全てを悟ったような表情で、平等院鳳凰はニヤリと笑った。

 

 

「成程な……今なら理解(わか)るぜ、どうして世界は滅びなければならなかったのか……」

「何……だと……!?」

「ボルクよ……俺達のテニスに、地球という舞台(コート)はあまりにも狭過ぎたのだ――この(せかい)はきっと、俺とキサマが心置きなく殺り合う(テニスをする)ために用意された宿命の地なのだ。そう、俺の中の『阿頼耶識』もさっきから囁いている――」

 

 

滅ぼせ(普通に)……滅ぼせ(テニスをやれ)……!』

 

 

 阿頼耶識さんは割と真面目な人だった。そもそも本来、阿頼耶識に疑似人格と呼べるものなど存在しないのだが今更な話である。原作を読んでも別に平等院が脳内会議をおっ始めるシーンはありません。

 

 

「フフフ……まさに異次元のテニス……! キサマか俺か、どちらかが滅ぶまで()るしかねぇな――ボルク!!

「テ、テニスだと……!? これが……こんなものがテニスであってたまるかぁ――っ!!

 

 

 大魔王を泣きながらぶん殴る勇者の如き絶叫を上げて、ずしんずしんと海底を踏みしめ平等院らの船へと歩を進めるボルク。平等院はそれを彼のサーブと見做した。ならば反撃(リターン)をしなければならない。それがテニスの(ルール)だからである。

 

 

「デューク! 弾を籠めろぉ!!」

「ですなぁ……!」

 

 

 船長の号令に従い、自身の頭部よりも二回りは大きい砲丸を担ぎ上げて備え付けの大砲にセットするデューク渡邊。観測手の入江奏多が単眼鏡に目を凝らし、迫り来るボルクを指差す。

 

 

「照準、よし!」

「ゲージが上がりよった……行けるで平等院!」

 

 

 入江に続いて、懐中時計のような首飾りに視線を下げて謎の報告をするのは種ヶ島修二。見ると、彼の首飾りには『山』の字と直角三角形を足したような未知の記号が浮かび上がっていた。

 謎の記号(イデゲージ)が輝きを増し、いつか見た滅びの光と同じような眩しさを放ち始める。平等院はそれを見て、不意に一つの結論へと辿り着いた。

 

 

 

 

 

()()()()()()

そう思った。

 

 

 

 

 

「ボルクよ――感謝するぜ。お前と出会えた、これまでの全てに――」

 

 

 胸の前でハートマークを作り、敬愛(リスペクト)すべき宿敵に向けて感謝の念を飛ばす平等院。

 直後、彼の身体もまた金色のオーラに包まれ、嵐の海を色鮮やかに照らし始める。事実、平等院の発光と同時に鳴り続けていた雷はぴたりと止み、曇天の空に光が差し、嵐の海に平穏が訪れようとしていた――書き換えられた世界が、いよいよ再生を始めたのだ。

 

 

「こ……これはまさか、『矜持の光(シュトルツシュトラール)』……!? いや、それだけではない――平等院、キミはまさか……!」

 

 

 驚愕に目を見開くユルゲン・ボルク。『矜持の光(シュトルツシュトラール)』――またの名を『天衣無縫の極み』。

 古代文献によれば、『天衣無縫の極み』には三つの精神派生が存在するのだという。

 

 

 テニスを心から楽しみ、快楽を知りし者の『愛しさ』の輝き。

 強さの原点を極め、儚さを知りし者の『切なさ』の輝き。

 己の限界を打ち破り、自らの強さ――そして、弱さを誇れるように成りし者が放つ『心強さ』の輝き。

 心強さは最初から備わっていた。切なさは世界を滅ぼした時に理解した。そして、今。

 平等院鳳凰は、『愛しさ』というものを理解したのである。

 

 

 天上から試合を見守る、古代文献を人々に遺した審判(かみ)は思った。

 ワシの思ってた三つの矜持と解釈が違う……と。

 

 

「そう――これこそが俺の辿り着いた境地、『愛しさと切なさと心強さ』の天衣無縫だ……!」

「最終回で俺が普通にやりそうなやつじゃん……」

 

 

 原作主人公の漏らした嘆きに反応する者は誰もいなかった。

 悪いな越前……書いたモン勝ちや!!

 

 

「撃てぇ――っ! 平等院!!」

「うおおおおおおおおおおおおおおおお――っ!!」

 

 

 鬼十次郎の檄に続いて、平等院が吼えた。いつの間にかその右手には、鬼から託されたワイヤー十字の特製ラケットが握られていた。

 発射口から爆炎を噴出して、砲弾が放たれる。それと同時に平等院が跳び上がり、瞬く間に発射された砲弾へと空中で追いついた。真なる天衣無縫に目覚めた平等院の身体能力は、もはや重力や光をも凌駕する。具体的に言えば、徳川カズヤのブラックホールでも止められないし真田弦一郎の『雷』よりも迅い。

 

 

(スーパー)テニス人。

金色に輝く今の平等院を一言で言い表すならば、まさしくその呼び名こそが相応しかった。

 

 

「『世界再誕の光球(ワールド・リザレクション)』!!」

 

 

 その追撃は、放たれた砲弾(ワールド・デストラクション)を生まれ変わらせる至高にして究極の一振り。後方から尻を引っぱたくように、平等院のラケットが空中の砲弾(テニスボール)を捉える。

 スイングの加速に耐え切れず、ブチブチと破れていくガット。それでも尚、戦友(とも)に託された十字の絆は決して千切れはしなかった。二段ロケットの要領で更なる加速を得た砲弾が、白から金色、そして虹色の光を纏って大巨人(ボルク)へと飛んでいく。

 

 

「お、おのれ……! 世界を滅ぼした男が仲間との絆によって強くなるなど、そのような道理の通らない話を認めてなるものか……!」

 

 

 まさかのド正論を吐きながら自身の腕に竜巻を纏わせ、せめてもの抵抗を試みるボルク。しかし悲しいかな、先にも改変して引用した通り――世の中勝ったモン勝ちなのである。気持ちの強さは関係ないのである。現に渾身の力を込めて繰り出した竜巻は藁の家の如くブチ破られ、突き出した腕もあえなく消し飛ばされ、そしていよいよどてっ腹をぶち抜かれようという段階になって、ユルゲン・ボルクはその言葉を耳にした。

 

 

「滅びよ……そして蘇れ……」

 

 

 そう口にした平等院鳳凰の身体は、当然の如く宙に浮いていた。

 虚空にて座禅を組み、穏やかに目を閉じ印を結ぶその姿は、まさしく輪廻転生の理を司る神仏が如し。美しい――ボルクの口からそんな言葉が漏れた直後、とうとう彼の身体に虹色の打球(砲弾)が着弾し、眩い光がこの世の全てを包み込み――――――――

 

 

 

 

 

そうして。

 

 

世界は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ゲームセット! ウォンバイ――平等院鳳凰!!

『ワアアアアアアアアアアアア――ッ!!』

「…………!?」

 

 

 ――イギリス、ロンドン。ウィンブルドン選手権決勝の地、オール・イングランド・クラブ――突然の大歓声に囲まれて、平等院の意識は瞬く間に混乱の最中(さなか)へと追いやられた。

 これは一体――自分はついさっきまで、海の上で巨大化したボルクと戦っていたというのに――ボルクの『運命石の扉(シュタインズゲート)』が発動したのだろうか? しかし、それなら試合は自分の負けで終わっている筈――急過ぎる状況の変化に付いていけない平等院の前に、一人の人物が歩み寄ってくる。

 

 

「――素晴らしいテニスでした」

 

 

 審判だった。帽子の唾と長い前髪によって目元が隠れており、その顔立ちを窺い知ることは出来ない。しかし、何処かで聞いたような声だなと平等院は思った。

 審判――思えばあの新世界のテニスにおいて、審判は一体何処から自分たちの試合を裁いていたのだろう? 世界の改変によって旧世界が失われてしまったのであれば、審判もまた『Genius10』の面々や元中学生組と同じように、あの海の何処かに呼び出されていた筈なのだが――

 

 

「『滅びたとして、蘇ることの出来ないやつはそれまでだ』――真理に至った時のような心境に御座います。心が折れようと立ち上がれる者がいるように、滅びたとしても蘇ることの出来る世界がある……貴方のような方が独りでも存在する限り、真に世界が滅びることなどないのでしょうね」

「……キサマ、一体何者――」

「何、只のしがない審判員(Judgementer)ですとも――さあ、私のことなど気にせずに、彼と健闘を称え合って下さい。先程から待ちくたびれた様子ですよ」

 

 

 そう言って、全てを裁く者はコートの向こう側へと視線を促す。

 等身大のサイズに戻ったユルゲン・ボルクが、ネット越しにこちらへと手を差し伸べていた。積もる疑問は尽きないながらも、歩を進めて握手に応じる平等院。その感触にこれが夢ではないことを実感しながらも、彼は思わずこう訊ねずにはいられなかった。

 

 

「ボルク……俺は……夢を見ていたのか?」

「いいや――夢ではないさ、平等院。見てみたまえ、キミの左手にあるラケットを」

「…………!」

 

 

 言われるがままに視線を下ろし、そして、平等院はそれを見た。

 世界が一巡しても尚、決して千切れることがなかった仲間たちとの絆の証――

 

 

Bear the cross and suffer――キミは確かにテニスで世界を滅ぼし、そしてテニスで世界を蘇らせたのだ。平等院鳳凰――」

 

 

 ――鬼十次郎の魂が籠められた、ワイヤー入りのスイートスポット。

 それこそがまさに、滅びた世界と今の世界を繋ぎ合わせる、平等院鳳凰の背負いし十字架なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「滅びよ……」

 

 

 数日後。

 平等院はデューク渡邊と種ヶ島修二の二人を連れて、グレートブリテン島の最南東――ドーバーの地を訪れていた。

 お馴染みの呪文を唱え、発光するテニスボールをホワイト・クリフ(ドーバーの白い崖)に目掛けてぶっ放す平等院。白球が崖の先端部に着弾し、ボンッ! と水蒸気爆発を起こして爆心地をごっそりと抉り取る。齧られたチーズケーキのように先っちょが丸ごと消し飛んだ観光スポットを眺めつつ、平等院は舌を打った。

 

 

「チッ……やはり何度試しても、あの時のような『光る球(デストラクション)』は打てそうにないな……今度こそイギリスくらいは滅ぼせるんじゃないかと思ったんだが」

「ですなぁ……」

「『ですなぁ……』やないわ自分ら。アカンやろこれ、やっとることが普通にテロリストと変わらへんやんけ……ちゅうか平等院、自分ちょいと感覚マヒしとるんとちゃうか……?」

 

 

 至極もっともな種ヶ島修二のツッコミであった。確かに世界を滅ぼした後で見てみればショボい威力に感じるかもしれないが、そもそも普通はテニスボールで地形は変えられない。『この程度か……』みたいな空気になってる現状がおかしい。世界滅亡杯というお祭りのバフが切れても尚、根本的な世界(テニプリ)の歪みはどうしようもなかった。

 

 

「大体自分、こないなところまで連れ出して何の用やねん。またフランスくんだりまで船でも漕いでいこうっちゅうんか? もう世界は元通りになったんやし、飛行機でも乗ってったらええやん。俺は絶対乗らへんけどな」

「何だ、言ってなかったか種ヶ島? 北海の地図に載ってない島で裏グランドスラムって呼ばれてるテニスの大会が開かれてるらしくてな、()()でそこに殴り込みを掛けに行くんだよ。聞けば数年前に失踪した越前リョーガなんかも出てるって話らしいからな。まったく――とんだお宝が眠っていやがったもんだぜ」

「表を制した先には裏がある……いやはや、バトル漫画の王道ですなぁ」

「せやろか? 具体的な例挙げてみ言われても特に思いつかへんけどな……ちゅうかちょい待ち、何さらっと人のこと勘定に入れとんねん。俺は出るなんて一言も――」

「平等院さん。船の準備が整ったぞ」

 

 

 ブオン……と虚空に発生したホワイトホールの中から、徳川カズヤが姿を現す。平等院から世界を滅ぼす力は失われてしまったが、この男のインフレについては特に修正が入らなかったらしい。運営(かみさま)仕事しろ案件もいいところであった。

 

 

「徳川……自分も出るつもりなんか? その、裏グランドなんたらっちゅうの……」

「俺だけじゃないですよ、種ヶ島さん。――見て下さい、みんな揃ってます」

「うせやろ……」

 

 

 茫然とする種ヶ島の視線の先、『あの世界』で乗り込んだ海賊船そっくりの船上にて待ち構えているのは、鬼十次郎と入江奏多を始めとした『Genius10』のメンバー――もはや説明不要の面々であった。そして今更になって気付いたのだが、入江奏多は実はGenius10の一員ではなかった。こいつそういえば順位的にはNo.20だった。まあ実質No.4くらいのポジションにいるのは間違いないし正直どうでもいいよね……と作者は思った。もうどうにでもなーれ。

 

 

「フフフ……表に出てこねえ裏世界のテニスか……ゾクゾクさせやがるぜ。なあデューク」

「ですなぁ……」

「……ホンマ自分もようやるわ。いや、俺が煽っといて何言うてんねんて話かもしれへんけどな、世界のこととかそっちのけでテニスしてもまだ飽き足らへんか? 平等院」

「フン……答えの分かり切っている問いをわざわざ口にするな、種ヶ島」

「――ま、せやろな」

 

 

 鼻息一つで一蹴されて、肩を竦める種ヶ島。平等院の言う通り、聞くまでもない話だというのは自分でも理解っていた。

 実際、世界を滅ぼし元通りにした程度でこの男が満足する筈もなかったのだ。天衣無縫の極み――その境地へと辿り着いた者のテニス人生に終わりはない。眼鏡に適う対戦相手がいるのなら、たとえ地の果て森の果てでも平等院は赴いていき、そして気軽にラケットを振るうのだろう。

 その結果、今度こそ本当に世界が滅びるようなことになったとしても。

 

 

(……ま、せやけど――本気の『好き』っちゅうんは、そういうモンなんかもしれへんなぁ)

 

 

 世界を敵に回したとしても構わない。陳腐なラブソングなどでよく聞く言い回しだが、守り抜く対象がテニスだというのは――地球広しと言えども、この男くらいの話なのではないだろうか。

 世界を滅ぼすか、テニスを滅ぼすか。

 いつの日か自分も、そのような究極の選択を迫られる日が来たりするのだろうか?

 

 

 アホくさ、と脳内で最後に呟いて。

 『不会無』の応用で消していたラケットを手元に映し出し、種ヶ島修二は苦笑した。

 

 

「――しゃーない、乗ったるわ。色々アホなモン見過ぎて疲れてしもたしな、久しぶりにフツーのテニスっちゅうんがしてみたいわ」

「いや……お前にそれは一生無理だろ、種ヶ島」

「ですなぁ……」

「なんでやねん。世界滅ぼしたりバケモン吹っ飛ばしたりブラックホール創ったりする奴らに比べたら俺なんか全然大したことあらへんやろ。なあ徳川?」

「種ヶ島さん……スベってますよ」

「なんでやねん!?」

 

 

 『無』からラケットを取り出したばかりの男が、悲鳴にも似た声で関西人お決まりの六文字を繰り返す。当然、彼に味方する者など一人もいなかった。ある意味一番おかしいのはお前だ。

 

 

「よし……士気も上がったことだし、ぼちぼち錨を上げるとするかよ」

「微塵も上がっとらんわドアホ」

 

 

 お前は俺を熱くスルー、平等院鳳凰。一体何処で手に入れたのか、例の海賊姿をしていた時に被っていた海賊帽(パイレーツハット)を頭に乗せて、世界を蘇らせた男は意気揚々と声を上げた。

 

 

「乗り込め――っ! 野郎共ぉ!!」

「ですなぁ……!」

「俺が歴史を変える……!」

「ちったあ聞けや人の話をォ!!」

 

 

 初めに平等院、続いてデュークが駆け足で船へと乗り込み、徳川はブラックホールを通って船上へと先回りする。最後に種ヶ島がちゃーいと飛び乗ったのを確かめて、海賊の長は下知を飛ばす。

 

 

 

 

 

「さあ――裏の世界も獲りに行くぞォ! 抜錨だ!!

『おおおおおおおおお――――っ!!』

 

 

 

 

 

 一度は滅んでしまった世界も、今となってはご覧の通り。まるで何事もなかったかのように、平等院鳳凰の船旅(テニス)は続いていく。

 世界を震撼させる、異次元のテニス――まだ見ぬお宝を求めて、海賊の船は海を往く。

 

 

 

 

 

――次に滅ぼされるのは、あなたの世界かもしれない。

いつ空から破滅(ボール)が降ってきても打ち返せるよう、枕元にはラケットの準備をお忘れなく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

-EDテーマ-

『Death Parade~どちらかを選べ!!~』

作詞 許斐 剛

作曲 ササキ オサム

 

 

さぁ 命の()り合いの中で

勝ち負けの意味を知らない奴等に

Get up to something

これが俺のやり方

 

並べ骸の行列 これがDeath Parade

 

ただ伝えたいのは言葉じゃない

心折られ 魂尽き果てて Feel despair

目をそらすな

お前の磨き続けたダイヤは砕け散らねぇ

 

命尽き果てても突き進め

When the flame of life burns out 死に場所へ

滅びたとして蘇る事の出来ない奴はそれまでだ

 

お前の痛み 渇望の声が

木霊し続ける ここは戦場

滅びたとして蘇る事の出来ない奴は所詮逃げるだけ

 

 

お前も選べ どっちかをな

 

 

人それぞれの価値観の中で

挑み続ける意味を深く知りたいなら

Get up to something

お前の覚悟見せてみろ

 

いざ行け骸の行進 あれがDeath Parade

 

ただ伝えたい真実を

羽を休め 翼羽ばたかせ Fly away

目を見開け

お前の隠し続けた爪で獲物を捕えろ

 

命尽き果ててからが勝負

When the flame of life burns out 笑えるぜ

命を懸けて蘇る事の出来ない奴はまだまだ

 

お前の希望・欲望の声が

木霊し続ける ここは楽園

命を懸けて蘇る事の出来ない奴は所詮生半可

 

 

お前にゃ選ぶ価値は無え

 

 

信じた奴等の俯く背中が 涙が 俺の心を鈍らす

強くなりたきゃ友より敵を増やせと

この世界に広がる刹那の涙の海原を

俺はまた一人小舟漕ぎ出すぜ Don't freak out

 

 

嵐に向かって進路をとれ

 

 

命尽き果てても突き進め

When the flame of life burns out 死に場所へ

滅びたとして蘇る事の出来ない奴はそれまで

 

お前の痛み 渇望の声が

木霊し続ける ここは戦場

滅びたとして蘇る事の出来ない奴は所詮逃げるだけ

 

 

お前も選べ

 

 

お前も選べ

 

 

お前も選べ

どっちかをな

 

 






※JASRAC申請済

平等院のテニスが世界を滅ぼすと信じて……!
ご愛読ありがとうございました!

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