ウォッカとダイワスカーレットが入学してはや一年経過したころにその授業は始まった。
いまだにトゥウィンクルシリーズが出走するウマ娘がいないこの時期にそれは始まった。
朝のカフェテリア、そこはウマ娘に食べ物を振る舞うと同時に朝もっと賑わう場所である。そこでトレセン学園の栗東寮の相部屋であるウォッカとスカーレットはいた。
そして、ダイワスカーレットはいつもと同じくムッとしていた。
「ウォッカ!あんたは毎朝毎朝どうして私が起こさなきゃいけないわけ。あんたが起きないと相部屋の私の先生からの心証が悪くなるでしょ。」
彼女は、一番に拘るあまりに日常においての一番にも拘るために、ウォッカのことを見逃せないのである。
「別に、ギリギリに着こうが俺の勝手だろ。気にしなくったっていいだろうよ。」
そんな彼女の言葉を何でもないように返すこのウマ娘はウォッカである。
「わたしが気にするの!」
このような掛け合いは彼女たちの日常風景である。
そんな中、ウォッカが話を切り出す。
「そういえば、今日から新しい教科が増えるらしいな。」
「あぁ、競争戦略学ね。私も気になるわね。先輩に聞いてみるわよ。」
そして、カフェテリアを見回すと凛々しい顔の美しい黒い髪をなびかせたウマ娘が朝食をとっていた。
「エアグルーヴ先輩、今よろしいでしょうか」
先ほどのウォッカへの態度とは異なり、礼節をもって話しかけていた。
「なんだ、スカーレット」
エアグルーヴは親しげに返す。
「お聞きしたいことがあります。競争戦略学についてどんな授業なのか教えていただけませんか。」
「はぁ、毎年そのことについて聞きに来るが。間違ってはいないが。あれはとらえ方によっては職務放棄に近いからなぁ。」
エアグルーヴは深くため息をついた。
「しょ、職務放棄とはどういうことですか。」
たまらず返すスカーレット。
「そうは言われても、そうとしか答えられないが。一つアドバイスをするのならば、しっかりとその男を見極めてから、その授業を必要か不必要か判断しろ。私に言えるのはそのくらいだ。間違ってもすぐに
見限るようなことなんて考えるべきじゃない。私自身が言えるのはそこまでだ。」
この様子を見るに担当の先生はなかなかの問題児らしい。しかし、魑魅魍魎が跋扈するこの学園でそれも今更かと一人心の中で納得するスカーレットであった。
■
そして、競争戦略学の時間がやって来た。
指定された教室はまさかの情報室だった。そして、教室に入った時に白衣を着た特徴的な隈の20代の後半の男が教師用の机で眠っていた。
スカーレットたちは,寝不足であろうと思い。授業開始までそっとしておくことにした。しかし、チャイムが鳴って起きるような動作を見せた教師はあろうことか再び二度寝した。
「ちょっと、二度寝しないでくださいよ。」
たまらず突っ込むスカーレット
もう一度起き上がった男は立ち上がり、
「まだ、8時30分。4度寝の時間だろうが。邪魔すんな。」
堂々と4度寝とのたまったこの男に気づけば、スカーレットは・・・
「四度寝なんてあるわけないでしょうが。さっさと授業を始めろぉ----!!」
飛び蹴りをかましていた。教室の壁にたたきつけられる教師を見て、自分のやってしまったことを自覚した。
ウマ娘が人を蹴ってしまえば、どうなるのかという質問の答えはウマ娘は時速80kmで走ることが可能であることを考えると自明の理である。
「よっこらせ、お前いい脚力持ってるな。」
そんな言葉が静まり返る教室に響いた。その言葉は今さっき壁叩き込まれた男のほうから聞こえた。
スカーレットはいつも優秀な自らの耳すらも疑った。
「うそでしょ。」
見れば腹部をさすることはあっても、呆気からんとした表情で立っていた。ぼさぼさの髪を掻いて、
「分かったよ。授業を始めるぞ。」
と仕方なさそうにそう言った。
「おい、そこのお前は何を呆けている。席に座れ」
「分かったわよ。」
今の現状を読み取ることができないスカーレットはそう返した。
「今日は、初回のため、ガイダンスだ。この授業では競争の常識テストで合格できれば、単位を取ったことになる。まぁ、そのあとは受講辞退書を出してくれれば、授業の時間にどこで何をしようと自由だ。
俺は、その後何があろうともその生徒に関して関知しない。今すぐ始めたいなら初めてもいい。始めない場合は、自習だ。」
その言葉に皆は瞠目し、この教師はふざけているのかと思った。
「ちょっと、意味が分かんないんだけど。」
皆の声を代弁し、スカーレットが突っ掛かる。
「言葉の意味道理だが、なんか文句ある。」
これが正常であると言わんばかりの態度で教育機関の中での異常さを気にも留めいない。
「いや、他の授業とシステムと違い過ぎるんだけど、どういうこと?」
「はぁ~~~~、お前らそんなことも分かんないの?そもそも、勝利したものが正解の選択をしたことになるのに授業して、この場合はこうしろって言ったって、仕様がないだろ。」
言動のすべてから失望の色が隠せていない。
「どう教えるのかを考えるのがあんたの仕事でしょ。」
それを聞いた男はすぐさま
「テストを始めるから、筆記用具出して」
テストを用紙を配りだした。
「ちょっと、答えなさいよ。」
「いやだね。それに理事長からこの教科に関しては、一任されているから、変えられないよ。それが嫌だったのなら、テストに合格しておさらばすればいいよ。」
スカーレットは、あまりにも大人げない仕打ちに黙る他なかった。
そして、初めの声でテストが始まった。
テストの大部分下馬評の読み取りばかりで常識的な問題ばかりだった。しかし、最後の問題は趣向が違った。
◇
大問2 ミスターシビーの菊花賞での早仕掛けの戦術的意義をこたえよ。(10点)
◇
この問題に垣間見えた気がした。
テストが終わり、合格点が80点だと発表され、辞退書が配られると大抵のウマ娘が書いてすぐに提出し、退出した。
退出する生徒の波が消えると
「今年も10人残るくらいか、最後の問題に意味を見出せなかったのかね。」
と呟きが聞こえた。そこでスカーレットは己の直感に確信を持った。
そして、一泊おいて、
「僕は、伊吹 陽人《いぶき はると》だ。これから卒業するまでよろしく頼むよ。」
それまでは異なる態度で自己紹介をした。
この時まで名前を聞いていなかったことにスカーレットは驚いた。それは教室内のほとんどの生徒も同様だったようで驚いていた。
そして、スカーレットは言葉の中に違和感を感じた。それともう一つ、エアグルーヴ先輩ですらどれだけふざけていようと呆れ交じりではあるが、認めていることに疑問を持った。
しかし、スカーレットはいまだ短い期間でしか関わっていないが、エアグルーヴのその『女帝』としての心眼や人間性について信頼していても、今回ばかりは、甚だ疑問であった。
そんなことを伊吹の自己紹介の後に考えていると、ウォッカの呼びかけによって思考が意識から戻ってくると同時に授業が終わっていることに気付いた。
しかし、あの教師の本性は、捉えることはできなかった。
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