途中ですみません。
あの授業から一週間がたった。毎週一回しか組まれていないので、今日は二回目の授業である。
今日もウォッカとスカーレットは、毎日恒例の掛け合いを終えて、先週の授業について話していた。
「はぁ、先週の授業はあんなことになるなんて思わなかったわ。あんたもそう思うでしょ。ウォッカ。」
ため息交じりに先週の授業を思い出しながらウォッカに同意を求める。
「ああそうだな。でも、俺は狙ってやった気がしたぜ。スカーレットは、そこんとこどう思うんだよ。」
始まる前から想像できないという意味では確かに同意するが、ウォッカは後ろの席であの呟きを聞かずして、そのことに気づいていた。そして、何か確信を持った表情でスカーレットに問う
のである。
スカーレットは、ウォッカの直感には人一倍の信頼を置いている。それは相部屋で一年間ともに生活し、共に同じ授業を受けてきただけでなく、レースの際に発揮される絶妙なタイミング
の仕掛けをするだけの確かなものを持っているし、自らのうちにも否定材料と言えるものはなくとも肯定する材料はあった。それも会心の一撃ともいえるようなものであった。
「はぁ!あんた分かったの。」
故に、今回ばかりはその直感の鋭さに瞠目する他無かった。
「そういうスカーレットは分からなかったのかよ。」
ウォッカはにやりと笑い、そう聞いてきた。まさに勝ち誇った笑みであった。
「はぁ、悪かったわね。分からなくて」
不貞腐れたようにスカーレットは返した。
「へぇ、スカーレットは分からなかったのか。なら、なんであの紙を出さなかったんだよ。普通自分の中で信じられる根拠がなければ、あの紙出しちまうだろ。」
ウォッカもスカーレット同じく、一年かのほとんどを共にしていている。こんきょがちゅうしょうてきすぎれば、スカーレットは間違いなく、あの紙を出すか、出さないかでいえば、出す
と答えるだろう。それにあんなに自らをコケにされたんだ。感情的にならないはずはない。そういった理由でスカーレットの行動に疑問を持った。
「私も、最初は辞めて仕舞おうと思ったわよ。でも、テスト中の最後の問題を見た時に伊吹先生の何かを感じたのよ。それとエアグルーヴ先輩のアドバイスを信じてみようと思っただけよ。
あんたこそよくそんな根拠で残ったわね。」
つんけんしながらもそう答えるスカーレットに
「へっ、何度お前を差し切ったと思ってんだ。俺のちょっかんなめんなよ。まぁ、レースで勝つのは俺だけどな。」
ウォッカは得意げにそう返した。
「それは私よ。私が一番なんだから。いくら直感がすごいからって、あんまり舐めないでよね。」
いつもの調子でそう返した。
「そういえば、あんたは聞こえてないとおもうけど、伊吹先生が『今年も十人前後か』て言っているのを聞いて、知っている先輩に手当たり次第聞いてみたんだけど、ほとんどの先輩が知
らないってっ答えてるのよ。あんたは、どう思う。」
自分ではお手上げだと言わんばかりにウォッカに尋ねた。
それを受けて、
「う~~~~~~~、もう分かんねぇよ。どっちかっていうと考えるのならお前のほうが得意だろ。俺にそんなこと考えさせんないよ。受けて実際に判断すれば、早いだろ。
今考えったって、出てる情報が少ない以上何とも言えねぇだろ。まだ授業自体は一度も受けてねえんだ。エアグルーヴ先輩が言ってたみたいにちゃんと見極めてから判断しようぜ。」
意外とリアクションに対して冷静な判断を下すウォッカにスカーレットは
「そうね、いまだ情報が少ない今は早合点の可能性があるもの。授業を受けて見極めましょ。」
うなずき同意し、これ以上考えるのをやめた。
■
とうとう、この時間がやってきた。
スカーレットは不安を抱きながら情報室に入る。そこには白衣ぴっちりと着こなした伊吹が立っていた。相変わらず隈は抜けていないが、先週よりは表情にしまりがあった。
その見た目の変わりようにスカーレットたちは、声を上げて驚いた。
「「「「「「「「「あんた誰(だよ)!」」」」」」」」」
残った数人の生徒の声が重なった。それは情報室に反響した。
「うるせぇな。伊吹先生に決まってんだろ。他に何に見える。」
ぶっきらぼうにそう返す伊吹に
「真っ当な伊吹先生以外の先生です。」
考えることもなく、即答するスカーレット
「いいか、覚えてけよ。伊吹陽人だ。そして、『競争戦略学』の専任教師だ。わかったな。」
この前のように流れるような冷たい自己紹介ではなく、そこに人間味を感じた。そして、胸を張るその姿は胸を張るにしては、すらりとした見た目の伊吹はマッチ棒のように見え、
思わず鼻で笑ってしまった。
「わらうな。はぁ、毎度これをやるといつも笑うやつが出てくる。まぁいいや。」
コミカルにリアクションをするだが、すぐに落ち着き払って
「先週の僕の態度と今の態度の違いに疑問を持つものがほとんどだろうから。答えてやろう。僕は、教えたい奴と教えたくないを分けるときにいつも少しの情報だけで物事を判断するやつ
か、そうでないかを判断基準にしている。判断するやつは目の前のえさに飛び込んでいくようなやつだから、対象外だ。もちろん、ふざけた態度をとるのも感情的になって判断を誤るもの
対象外だからだ。勘違いしないのでほしいのがこの学問は学んだからと言って必ずしも使えるわけではない。リアルタイムで変わる戦況の中で手に入る限られた情報で戦況を見極め、判断
しなければならない。そして、それはすべて自己判断であり、実力差の大きすぎる敵には一切通用しない。それに自己の判断能力は才能や経験によるところが大きく、この学問は過去から
のデータをもとに学ぶために愚者に教えても何の意味もない。分かったか。だから僕はウマ娘を選別する。」
ここまでが一つの芝居であったことが分かった。しかし、疑問が残る。辞退書を書いたからと言って再び授業に出ることはできるのかと
「あのー先生、教育機関である限り教員に申し出れば、再び受けることができるのではないでしょうか。」
栗色の髪のウマ娘のサトノダイヤモンドが問う。
「あ~そのことだが、辞退書には『授業辞退書を提出した場合は、その後伊吹陽人は非常時を除きその生徒に関して一切関知しない。』と書いてある。
それと理事長ならそんなことさせないって考えるかもしれないが、それはない。この書の承認はURAの理事会になっているからな。」
そんなことが認められるなんてとほとんどの生徒が思った。
「この学校は、自由なのが校風と言える。ならば、選択する自由もまたあるのならば、それに対する責任もあってもおかしくはないだろう。
お前たちはチームと契約して、惨敗した時にトレーナーのみを責めるのか。レース中でもいつでも選択してきたのは自分自身だろう。
レースも人生もこの学校もそんな優しい場所じゃない。それをこの場で再認識すべきだ。ゆえに、私はこのようなやり方をしている。」
堂々と伊吹は演説をし、この場の数人を沈黙させた。
読了ありがとうございました。
感想よろしくお願いします。
キタサトが設定で同級生になっているので同じクラスにしてみました。