ヒュンケルの必殺剣ブラッディースクライドによって倒れるダイ。
俺達はそれを見ていることしか出来なかった。
勝利を確信したヒュンケルは止めとばかりに剣を振り上げた。
マァムは弾かれたように飛び出す。
「待って!ヒュンケルッ!」
「お、おまえっ!何時の間に牢から…っ」
ゴメちゃんが心配そうにダイを叩く。
「マァム…ダイが…、ダイが…っ!」
ピクリとも反応しないダイの様子にマァムは顔を青くした。
「ヒュンケル…あなた…何てことを…っ!あなたは自分の後輩を…っ!仲間を斬ったのよっ!」
「何が後輩だ!コイツはオレの敵の弟子だ!」
「違うっ!」
ヒュンケルの言葉にオレは思わず叫んでいた。
「貴様は…」
「オレが何者かなんてどうでもいいっ!それよりも‥マァム!」
「ええ…!アバン先生はあなたの敵なんかじゃないわ!」
「デタラメを言うな!」
マァムは魂の堅殻の入った箱を差し出した。
「隠し部屋で見つけたのよ」
ヒュンケルは受け取った箱を開いてみる。
「これは…、魂の貝殻っ!?死にゆく者の魂の声を封じ込めるという」
「聞いて!あなたのお父さん…地獄の騎士バルドスの遺言状よっ!」
「父さんのっ!?」
ヒュンケルは兜を取ると、魂の貝殻を耳に当てた。
―ヒュンケルよ、我が息子よ―
「と、父さんっ!?」
懐かしい父の声にヒュンケルの表情が歪んだ。
「聞いて、ヒュンケル!あなたのお父さんが残した真実を…地底魔城が滅びた日、何があったのかを…!」
ヒュンケルは再び魂の貝殻を耳に当てると目を瞑った。
父の魂の声に耳を傾ける。
オレはヒュンケルが魂の声を清聴している間にダイに駆け寄った。
「タケル…、オメエも来てたのか…」
「ああ、心配になってな…ダイは…やばい、こりゃ酷いな…」
オレはダイの傷口を手で覆った。
鉄の胸当ては抉り取られている。
だが出血が酷い。
幸い心臓は外れていたが、それでも楽観できる状態じゃない。
「ベホイミ…」
オレはダイにベホイミを唱える。
傷口を治癒魔法の優しい光が包み込み、徐々に傷口を塞いでいく。
「う、ううぅ…」
「気がついたか…大丈夫か?ダイ…」
「…てない」
「え?」
「勝てな……い…。剣でも、魔法でも……」
こいつは…。
魔法剣フラグか…。
オレはダイに耳打ちするように囁いた。
「だったら魔法と剣を同時に使えばいいよ」
「魔法と…剣…っ?魔法と剣…魔法と剣…剣と魔法…」
ダイはムクリと起き上がった。
「ダ、ダイ!」
ポップは嬉しそうに叫ぶが、ダイの様子に眉を潜めた。
目に光がないのだ。
ブツブツと口の中で何かを呟いて目も虚ろだ。
しかし眼光だけはヒュンケルを見据えていた。
闘争心を漲らせた瞳で。
「駄目だ…ポップ、こいつ、意識がない!」
「何だってっ!?」
ゆらりとヒュンケルに向かって歩き出すダイ。
俺は静かにその背中を見送る。
視線の先ではヒュンケルが魂の貝殻からのメッセージを聞いていた。
ヒュンケルは静かに父の言葉を聞いていた。
バルドスはハドラーの玉座の間へと続く門を守る門番だった。
あの日、勇者アバンが地底魔城へ攻めこんできた日。
バルドスはアバント戦った。
だがアバンは強かった。
バルドスはアバンの前に敗北した。
だがアバンは自分に止めをささなかった。
「止めましょう…」
「何の真似だ!情けを掛けるつもりか!?」
アバンはバルドスが首から下げている物を指さした。
それは息子ヒュンケルから貰った手作りのペンダントだった。
「それは明らかに子供が作ったもの…まさかとは思ったのですが、あなたにも家族が…?一瞬そう思ったら斬れなくなりました」
アバンはにこりと笑ってそういった。
負けた…。
バルドスは心の底から敗北を認めた。
実力だけではない。心も…。
バルドスは思った。
勇者アバンになら全てを託せると…。
そしてバルドスは話した。
人間の子供を拾って育てていることを。
魔王の魔力によって活動している自分は、ハドラーが倒れると消えてしまう事を。
「アバン殿、恥を忍んでお願いします!ワシが消えた後、どうかヒュンケルを!ワシの息子を…っ」
―アバン殿は快く引き受けてくださった―
父の言葉にヒュンケルに衝撃が走った。
何から何まで自分の真実とは異なるが故に。
ややあって…。
魔王ハドラーの断末魔が響き渡った。
にも関わらず、バルドスは死ななかった。
何故なら…。
「ハ、ハドラー様!?」
ハドラーは生きていたからだ。
ボロボロの身体を引きずりながら姿を現した。
死の瞬間、魔界の神バーンの超魔力に寄って救われたハドラー。
ハドラーはこれから力を蓄える為に眠りにつくのだという…。
「だがその前に…!お前を処刑しておかねばと思ってな…!」
「な、何故ワシを…」
「お前がとんでもない失敗作だからだ!くだらん正義感や騎士道精神!おまけに人間の情愛に現を抜かすっ!挙句の果てに敵に地獄門を通らせる始末っ!」
「そ、そんな…」
「新たなる魔王軍には…貴様のような不良品は絶対に作らんっ!!」
ハドラーの一撃がバルドスの身体を砕く。
「アバンめ…束の間の平和を精々楽しんでおけ…っ!新魔王軍が誕生したら真っ先に殺してやる!」
ハドラーはそう吐き捨てると姿を消した。
ほどなくして…。
「とうさん!!」
―ワシにはもはや、全てを語る力はなかった―
だからこそ…。
魂の声を密かに隠していた魂の貝殻に込めた。
いつか我が子ヒュンケルが聞いてくれるのを信じて…。
―最後にもう一度言わせてくれ、思い出をありがとう―
「と、父さーんっ!!」
メッセージが終わりヒュンケルは顔を上げた。
そしてわなわなと肩を震わせて下を向く。
「そ、それでは父の命を奪ったのはハドラーだったというのか…!?そしてアバンはオレが父の仇と恨んでいると知りつつ?俺を見守ってくれていたというのか…」
認められない…。認めたくない…。今までの自分は一体何だったのだ?
ヒュンケルの全身を言い様のない悪寒が駆け巡った。
「嘘だ…う、うそだあああっ!!」
ヒュンケルは魂の貝殻を投げ捨てた。
その時だった。
一筋の雷光が地面に落ちた。
そちらを反射的に向いてしまう。
「ダ、ダイ…」
「ば、バカな…ブラッディースクライドの直撃を受けて…」
「待てよ!ダイ、ダイ~~ッ!!」
ポップは必死にダイの足にしがみついて止めようとしている。
「おのれ!今度こそ成仏させてやる!」
「やめて!聞いたはずよ!お父さんの言葉を!あなたが真に憎むべきなのは魔王軍だわ!もう悪の剣を振るうのは止めて!」
「うるさい!」
「う、あっ!」
ヒュンケルはすがり付いてきたマァムを突き飛ばして叫んだ。
「いまさら…今更そんな事が信じられるかっ!俺は、俺はもう魔王軍の魔剣戦士…ヒュンケルなのだぁっ!!」
壁に身体をぶつけて苦痛に顔を歪めるマァム。
頭に血が登っていくのが分かる。
オレはダイから離れると道具袋を探った。
取り出したのは雷鳴の剣。
「雷鳴よっ!」
キーワードを叫び秘められた力を開放した。
「何っ!?ぐわああああああっ!!」
雷鳴の剣から電撃呪文『ライデイン』が放たれる。
それもダイが放った電撃呪文とは違う異質なものだった。
金色の閃光が視界を埋め尽くしヒュンケルを飲み込んだ。
ゲーム仕様の全体攻撃のライデインだった。
「き、貴様…っ!」
鬼のような形相を向けてくるヒュンケル。
今度は兜を脱ぎ捨ていた為、更に大きなダメージを負った様だ。
耳から血を流している。
「オレに構っていても良いのか?」
オレはヒュンケルの後ろを指さす。
「ちぃっ!?」
ヒュンケルの直ぐ目の前までダイが迫っていた。
ダイが剣を振るう。
「な、何だとっ!?」
ヒュンケルの顔が驚愕に染まる。
傷つかない筈の最強の鎧。
それがダイの剣によって引き裂かれたのであった。
「あ、あああ…」
「アレは…」
「ダ、ダイの剣が燃えている…」
ダイの持つ剣は炎に包まれていた。
遂に魔法剣を習得したか…。
後はダイに任せても大丈夫だろう…。
オレはマァムの治療を行う為にヒュンケルに背を向けて歩き出した。
本日の道具データ
雷鳴の剣 攻撃力95 使うとライデイン
雷鳴の言葉で力を発揮。
ドラゴンクエストⅥの仕様です。
もう一度、遅くなって申し訳ありません。