ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。 作:yosshy3304
「な、何よ、一体!!」
空高く舞い上がった海竜は悲鳴の様な鳴き声を上げながら空の手前の波打ち際に墜落する。
海水と砂利を被った空が文句を言う様に叫んだ。
「あらあら、精霊種がこんな所で何をしているのかしら?」
「へっ?人が海の上に浮いている?」
そんな空に妖艶と言ったらいいのだろうか。やや高い耳につく声が掛けられた。空はその声の出所へと目を向ける。
其処には黒髪の長髪で声から連想させる妖艶で豊満な肉体を持つ美女が海の上を浮く様に歩いていた。
「まぁ、いいわ。じゃあ、さようなら。」
「えっ、へっ!?」
その美女は空の反応等気にした様子もなく、ただ空に向かって手を翳す。
空に向かって翳した掌から水が吹き出し、激流となって空に向かって来た。
「わっ、きゃっ!?」
しかし、水が空に当たる寸前に方向を変える。水飛沫が少し空にかかったぐらいだ。
海竜が巨大な尾を水面に叩きつけ、海面を揺らしたお蔭で、美女が立つ海面に波が起こり美女が可愛らしい悲鳴を上げながらバランスを崩したからだ。
しかし、空は顔を青くする。空のすぐ横で向きを変えた水流が砂浜に着弾し、巨大な穴を作り出したからだ。ソーッとその先を振り返りつつ見る空。黒っぽい岩場まで到達しており、岩を一撃で削ってすらいた。
そんな威力を人である空が真面に受けた場合どうなるかは想像に難くなかった。
「な、なんて事をするのよ!!」
「あら、邪魔なものは退けるなり捨てるなりするでしょ?」
思わず美女に怒鳴る空であったが、美女は悪びれた様子もなく、空を道端に落ちている塵か何かの様に見てくる。
その人を人とも思っていない視線に、ブルリと体を震わせた空。
「それにしても、邪魔よね、貴方。」
「なっ!?」
そう言って美女が掌を向けた先は、浜辺に打ち上げられている海竜。先程空を殺そうとした事を邪魔されたのを根に持っていたのか、水の勢いが強くなっている。
再び、浜の奥の方へと吹き飛ばされた海竜はグッタリと動かなくなった。
「なんて酷い事をするのよっ!?」
空は海竜の方へと駆け寄る。美女は空が海竜に駆け寄るのを妖艶に笑いながら待つ。
「そろそろ、いいかしらね?」
小さく呟いた美女は海竜に駆け寄った空に向かって掌を向ける。美女にとって空も海竜も同じく邪魔なものであり、一纏めにして薙ぎ払おうと考えた故であった。
「それじゃ、今度こそサヨナラ。」
「えっ!?」
何でもない様に言葉を投げかけ、掌から今までよりも比べる事も馬鹿らしい程の激流を放出する。
海竜の傍まで来た空が美女の言葉に振り返った時、既に目の前までその激流は迫って来ていた。
悲鳴すら上げられず、生唾を飲み込んで目を瞑る空。しかし、何時まで経ってもその激流が空を飲み込む事は無かった。
「空っ!!大丈夫かっ!!」
「えっ、…哲多?」
「おう!!」
知っている声が耳に届く。目を開ければ正面に赤と鈍い鉄色の背中。その姿は空も知っているリュウレンジャーの姿があった。
リュウレンレッドの中身が空の知っている通りなら、空のクラスメイトである哲多である。
小さい頃は近くに住んでおり、所謂幼馴染であった。海の方へと引っ越してからは疎遠になったが、田舎な為、高校へと進学しようと思えば都会へと出ていくか、哲多の住む中央部へと通うしかなかった。
空は田舎であるが故郷から離れたくなかった為、このローカル電車で1時間も掛かる高校へと進学したのだ。
そこで再開したのは小さい頃から何一つ変わっていない哲多であった。いや、身長とか顔付とかはそれ相応に成長していたが、正義感が強い性格、三つ上のガキ大将に苛められていた子猫を助ける為にガキ大将に喧嘩を売った事とかである。
あの事件は直情型の空すら混じった事でガキ大将が逃げ出したのだ。
小さい頃は女性の方が成長が早い。ましてや空は当時から泳ぐのが好きで、下手な同年代の男子より筋肉が付いていた。運動神経が飛び抜けていた哲多と空が協力した為あっさり勝つ事が出来たのだ。
それ以外にも、困っている人や生き物が居れば、直ぐに手を貸す哲多のそんな性格は変わって居らず、何より酷くなっていたのが特撮等のヒーロー物への憧れであった。
小さい頃からヒーローになると言っていた哲多は、特撮オタクへとなっていた。
オタクと言っても暗いイメージ等なく、友達は多いし、いつの間にかその中心になって騒いでいたり、運動神経は相変わらずで、殆どの運動部で助っ人エースとして活躍していた。
それでもヒーロー好きは変わらず、合併に際してご当地ヒーローの募集が行われた時に、再開しそれなりに仲良くなっていた為に空は哲多に巻き込まれた形で応募したのだ。
まさか二人して審査に通るとは思ってもいなかったが、演技の練習は大変だったが、子供達のキラキラした瞳と声援は心地良く、それなりに楽しかった。
困った人を放っておけない哲多の性格のせいでこんな事になっているのだが、それでも困った時には必ず居る哲多が頼りに思える。
哲多が変身したリュウレンレッドの姿で空の問いかけに短く答えた瞬間、美女が放っていた激流が弾け飛んだ。
「こ、今度は何?」
「助かったぜ、涼貴さん。」
突然の事に慌てて哲多の背中に抱きつく様に跳び付く。哲多の方は何が起きたか判っているので慌てることなく礼を言う。
「ウインドシュート、榴弾バージョン。」
「へっ?涼…貴さん?」
リュウレングリーンが専用装備であるスナイパーライフル、ウッドスナイパーを構えながら空の横へと並ぶ。
ウッドスナイパーに備えられた機能。風で作られた弾の種類を変えることが出来る。それを使い弾を着弾した瞬間に爆発を起こす榴弾に変えて、激流を弾き飛ばしたのだ。
空が、リュウレングリーンの中身の涼貴の名前を呼ぶ。涼貴は美女の方を警戒するように見ながら小さく頷いた。
「あ、あのさ。」
「なっ、何?」
「当たってる。」
「へっ?」
「いや、だから、当たってる。」
「……、ウワキャー!!こっち見んな!!」
「見てませんよっ!!」
涼貴が追い付き、攻撃すら止んだ為だろうか、冷静になった哲多が空に話しかけてきた。今度は何が起きたのかと慌てる空に、哲多は一言、当たってると言う。
何が何か解らず呆ける空に再び、同じ言葉を投げかける哲多。空は一度下を向き、自身の今の恰好に顔を赤くし、思いっきり抱きついた為、それなりに膨らんでいる自身の胸が哲多の背中に当たっている事に気付いた。
思わず叫び声を上げて、哲多の背中で隠れている事すら忘れて哲多の頭を思いっきり引っ叩いてしまった。
胸元を隠しながら涼貴の方を睨むと、涼貴は明後日の方を向いており、怒りに震える拳を押さえつけ皺くちゃになっている服を着た。
「…貴方達は何をやっているのかしら?」
「何でもいいでしょっ!!次行く、次っ!!」
呆れたように見てくる美女に、空は恥辱と怒りで誤魔化す様に叫ぶ。
その時、美女の立つ場所の近くの砂場がポコポコと盛り上がった。
「あらあら、孵ったようね。」
「なっ!!駄目っ!!」
其処から出てきたのは小さな海竜。丁度其処は先に卵を産んだ場所であった。
小さな生まれたばかりの海竜に手を伸ばす美女の姿に、殺されると思い込んだ空は駆け出し、美女に向かって体当たりを決行した。
「おいっ、空っ!!」
哲多の驚く声を後ろに、空と美女はお互いに海の中へと落ちる。
浜の傍であり、浅瀬であった事から直ぐに海中から顔を出した空であったが、目を開ける前に顔を掴まれ、無理やり持ち上げられた。
「…これ以上邪魔しないでね。」
「うっ、ぐぐ…。」
万力で締め付けられ、口から呻き声が漏れる。
「テメェッ、空を離せぇ!!」
「なっ、がはっ…。」
頭が破裂すると空が思った瞬間、その手は引き離され、海中へと落ちた。
哲多がフレイムハンマーを振り上げ、美女を殴り飛ばしたのだ。空が海中から顔を出した瞬間、遠くで水飛沫が上がる。
「大丈夫かっ、空。」
「げほ、ありがと哲多。」
「おうっ!!」
空は心配し手を差し出してくる哲多に、海水を飲み込んでしまった為少し咽ながら礼を言う。哲多の手を取って立ち上がった。