ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。   作:yosshy3304

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大地の過去編です。
読み飛ばしても問題はありません。


第十七話 過去と覚悟の伝説

 大地はリュウレンイエローの中で激怒していた。怒りが視界を狭めていると何処か冷静に考える部分が無ければ、周りを無視して今にも飛び出してしまいそうだ。

 

 何とか周りの名乗りと、変身後のポーズまで待っていたのが不思議なぐらいに体が疼いている。

 

 ああ、だから俺が『大地と力』なんだなと冷静な部分で納得した。

 

 リュウレンジャーの何々と何々の伝説という名乗りはその人の出自や名前、職業の中で合った物が選ばれている。哲多なら中流域の特産である金属加工技術と哲多の名前を掛け合わせたもの。空なら、最下流域の海を前面に押し出したレジャー施設や、スカイダイビング。そして空自身の名前だ。

 

 だが、涼貴と大地に関しては、名前だけなのではないかと大地は考えていた。

 

 涼貴は猟師であり、日々命を狩っている。それに対し、大地は農業家であり、命を育んでいるのだ。

 

 だが与えられた名乗りは、涼貴が『命』であり、大地が『力』なのである。

 

 それには訳があった。大地の出自である。涼貴自身、日々命を貰って生きているからか、小さな命に対しても確りと感謝を込めている事もあるのだが、それでも大地にはそれ以外に思い浮かぶ事項がなかったのだ。

 

 大地の小さな頃の記憶は暴力と共にある。父親からの暴力。所謂、家庭内暴力DV(ドメスティックバイオレンス)だ。飲んだくれで、酒が切れかかると身近な者に殴りかかるのだ。そんな父親の標的にされたのは幼い大地と、そして大地の母親であった。

 

 この事が明るみに出れば警察も動けたのだろうが、母親は幼い大地ですら何処を好きになったのか判らないこの男を好いており、警察に届ける事をしなかったのだ。その上、この男酒が入っていない、要するに外用の顔は優しさ溢れる、頼れる良い父親と言ったもので、誰もそんな男が暴力を振るっているとは思ってもいなかったのだ。

 

 過疎化が酷くなり始めた時期の上、大地の住む地域は隣の家まで一キロ以上離れていた事も原因だったのだろう。

 

 大地は母親に抱かれるようにして守られていた為、直接的な暴力を振るわれた事は無かったが、それでも母親の頭から赤い血が流れ落ちてくるのを見れば、その男に恐怖心を抱いても仕方がなかっただろう。

 

 直接であれ間接であれ男の暴力が原因になったのは明らかであろう、母親がまだ四十にも届かない歳で逝ってしまった。外様には病死とされたが、疑う人も居たのではなかろうか。だが幸か不幸か、その頃には大地の体格は今ほどでは無いにしろガッシリとした印象を抱かせるものに成っていた。

 

 男の暴力を自力で跳ね除ける様になっていたのだ。その頃からだろうか、男は酒をやめ、何をやるにしても、自身の息子、大地の顔色を窺うようになったのは。そんな男が許せなく数発殴っては、苛立ちのまま、まだ人がそれなりに溢れていた中流域の裏路地に出かけた。

 

 そこで屯っていた不良と呼ばれる連中相手に喧嘩三昧の日々。同い年所か、大人よりも体が大きかった大地にとって、それなり程度しか実力のない相手は体のいいサンドバックが向こうからやって来てくれるだけであった。

 

 朝方、路地裏のごみ溜めで目覚めた大地は家に向かって歩き出す。バイクとかの免許はまだ取れる年齢ではなく、暴力沙汰と深夜徘徊以外には良い子ちゃんであった大地は基本的に自身の足で移動していたのだ。その辺りは父親の血が流れていたのだろうと思える。

 

 またヤンチャしてきたのかい?家に向かって帰っていると、何時も決まった場所で声を掛けられた。自身の家から二件隣の母親の知り合いであった老婆である。

 

 母親が大地を産む前にしていたパート時代の大先輩だそうだ。大地のオシメも換えたことがある人で、大地自身苦手な人でもある。結構な歳であり、何時ポックリ逝ってもおかしくない皺くちゃの婆だったが、大地には何故かこの老婆の言葉が耳に付いた。

 

 そんな老婆にウルセェとだけ返して、その老婆の家に上がり込む。これも日課であった。知らない中では無し、その老婆の家で風呂に入り、汚れを落としてから食う野菜中心の朝食は美味かったのを覚えている。

 

 老婆は朝風呂等入らないのだが、何故か沸かしてあったのだ。大地が入る為だけにである。朝食も、家庭菜園で生った物を使用して、色取り取りな物を大地に食わせていたのだ。

 

 老婆は朝食を食べ終えた大地に決まってこう言うのだ。今日は何で泣いていたんだい。フザケンナ、ババァ。そう返す大地に優しい母親の様な眼差しで見られると、それ以上言えなくなる大地。

 

 だけど、偶々その日は、マタ、食いに来るよ。そう言って帰路につくのだった。その老婆はその日の夜半に亡くなったと、次の日に知るまでは。

 

 何時も通りの日常を送り、何時も通りの道を帰っていると、何時も必ず掛かる声がない。それどころか、何時もの家に黒と白の布が飾り付けられ、何時もの玄関前に提灯がぶら下がっていた。黒いスーツを着た人が疎らに出入りしている。

 

 バァサン、如何したんだっ。慌てた大地が、出入りしている見知らぬ人を捕まえて問いただす。体格が大人よりいいとは言え、顔はまだまだ幼さが抜けない大地の権幕に、近所の知り合いであろうと考えたその人は、大地に老婆が亡くなった事を告げて、焼香をあげていくかどうか聞いてきた。

 

 茫然とした大地を無理やり焼香の前に連れてきて、そこで白黒の生前の笑顔の写真を見た大地の目から涙が溢れ出したのだ。母親が亡くなった時でさえ、やっぱりという思いが強く、涙が出なかったのだが、この時ばかりは大声で泣きわめいてしまった。

 

 子供の様に泣きわめいて迷惑を掛けたであろうに、その老婆の親族は泣き疲れて眠ってしまった大地を、部屋の一室に寝かせてくれていた。

 

 目が覚めて最初に見た風景は、その老婆の育てていた野菜達である。夏に差し掛かろうかという時期に、真っ赤になって朝露を滴れせているトマトに曲がりすぎだろうと突っ込みを入れてしまいそうになる一回転したキュウリは、家主が亡くなっても、まるで大地を待っていたかのように見事に生っていた。

 

 涙が溢れそうになる心に整理を付けた大地は、親族の人達に許可を貰って、その野菜を植木鉢ごと貰ったのだ。

 

 高校に上がった大地は農業家への道を歩き出す。家に持ち帰った野菜は、毎日欠かさず世話をして、老婆程のものは流石に無理であったが、それでも食べたら美味しかったのだ。まるで、老婆が生きていた時に出してもらった朝食の様に。その感動を、他の人達にも味わって貰いたくて、自身の育てた野菜を出す店を開くのが大地の夢と成っていたのだった。

 

 やがてその夢は叶う。だが、過疎化の進んだ地域では客の入りが無いも同然であり、感動を別の人にもというのは、まだまだであった。

 

 そんな時に、地域活性化を考え合併という話が浮上してきた。その事にいの一番に賛成した大地は、その合併に際し考え出されたリュウレンジャーに応募したのだ。

 

 現場監督が、大地と同い年であったが、他の作品で大当たりしている以上下手は打つまい。そう考えていたが、出身も同じ、年も同じだとすれば、何処かで大地の過去を聞いていたのかもしれない。

 

 その事に溜息を吐きたくなるも、過去を思い出していた為か、収まった怒り。しかし、視線を魔族の、蝿の方へとやると、怒りが溢れてきたのだ。

 

 ああ、そうか。似ているんだ。目の前の蝿が、暴力を振るっていた頃の父親に。そしてあの巨大陸亀の目が朝食を食わせて貰っていた老婆に。

 

 

「おい坊主、お前は一発デカいの頼むぜ。」

 

 

「大地さん?」

 

 

「涼貴はその補佐な。嬢ちゃんは遊撃で頼む。」

 

 

「黄広さん?」

 

 

「…あの蝿野郎は、俺にやらせてくれ。」

 

 

 大地が一歩前に出て、哲多に指示を出す。その事に不思議そうに大地を見る哲多。哲多の様子に笑ってしまいそうになりながら、更に一歩、歩を進め涼貴に哲多に協力するよう言葉に出した。

 

 涼貴にも大地の行動を訝しむ様な声を出され、そんなに俺は信用無いのかよと思いながら、更に一歩踏み締めて振り返り頭を下げる。

 

 そんな大地に三人は息を飲み、大地が顔を上げた瞬間、応っ!と答えたのだった。

 




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