ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。 作:yosshy3304
「キュー…。」
「わかった、分かったって…。」
最初こそ涼貴が先頭に立って進んでいたが、いつの間にかチビに袖を咥えられた哲多が先頭になっていた。まるで早く早くと急かすような様子に自然と足は速くなる。
「にしても、ナノマシンって凄いんですね。」
「こんなに強力だったか?」
「まぁ、何にしても助かった事には違いないだろ。」
前を行く哲多を呆れた目で見ながら空は大地の肩に目をやる。巨大な蝿に切られた傷はナノマシンの本来の働きで綺麗サッパリ無かった。
ナノマシンは本来医療用だ。それを無理やりヒーロースーツ用に使っていると言えども、ナノマシン本来の働きが失われた訳ではない。
ナノマシンが、リュウレンイエローに変身した時に大地の傷を感知し、治してしまったのだ。ナノマシンだけではここまで綺麗に治らなかったが、スーツ内に溜まった魔力がナノマシンの働きに触発され、治癒の効果を発揮。短時間での完治を可能とした。
ナノマシンの効果を知っている涼貴が訝しんでいるが、大地は治った事は良いことだし、此処が異世界だという事は、今までの経験で解っている。何が起きても不思議ではないし、儲け儲けと気楽に考えている様だ。
「…さて、近づいているようだな。」
「だな、蛇が出るか、鬼が出るか。」
「急ぐぞっ!!」
ある程度近づいてきたのだろう、轟音が一度空気を揺らし、哲多達の所まで響いてくる。涼貴が警戒するように周りを見渡し、大地が楽しそうに笑った。哲多が我慢できなくなったのだろう、一声掛けて走り出したのだった。
「あれはっ!!」
「真由美さんっ!!」
「あらあら、如何したんですか?」
ズシャーと思わずズッコケてしまいそうになる、おっとりした声で黒屋 真由美(こくや まゆみ)は答えた。地面に座り込んだままの真由美を心配して声を掛けた哲多と空は脱力したまま立ち尽くしたのだった。
黒屋 真由美(こくや まゆみ)は今年24になる天体観測所に勤める女性だ。黒い長髪を三つ編みにしている。出ている所は出て、引っ込む所は引っ込んでいる所謂ボンッキュッボンッな体形はまるで娼婦の様だが、そのおっとりした緩い空気が台無しにしている。
天体観測所が老朽化による立て直しの為、一時的に暇になった真由美は暇つぶしを兼ねてリュウレンジャーに応募した経緯があった。観測所が完成した後もリュウレンジャー自体が夜型勤務を圧迫しない範囲でやっていた真由美であったが、哲多達からすれば何時寝てんの、この人。と思われる程であり、実は何気に五人の中で一番体力があったりする。
「真由美さんは大丈夫だったんですか?」
「…何が?」
「…え、えーと、襲われたとか。」
哲多が真由美に怪我がないかどうか尋ねるも、真由美は首を傾げるだけである。空は真由美の返しに思わず言い淀むも、巨大な昆虫に襲われて無いか尋ねた。
「この子が守ってくれていたから、大丈夫だったわ。」
「うおっ、蝙蝠か?」
「どう見ても違うでしょ。」
えーとと考える様にして指を顎に当て、数秒後その背から巨大な生き物を取り出して、守って貰っていたと答える真由美。その生き物は大型犬ぐらいの大きさでグッタリとしていた。
胴体は細く、哲多が間違えた様に蝙蝠のような翼膜、翼の先に鍵爪があり、頭は後頭部へと鰭の様な物が伸びている。あえて近い物を上げるならば恐竜のプテラノドンだろうか。見る人が見れば、RPGやファンタジーに出てくるワイバーンと言うだろう。
流石に恐竜の方が近い形状をしているものを蝙蝠と間違えるのはどうかしていると、空が哲多に突っ込んでいる。
「ねぇ、哲多君。」
「はい?」
「ちょっと前に来てくれない?」
真由美がギャーのギャーのやっている二人を無視して哲多に声を掛けた。哲多は一度空の方を向き、そして言われたとおりに座り込んでいる真由美の正面に目線を合わせる様にしゃがみ込んだ。
「ちょっとネックレスが邪魔でね。取ってほしいのよ。」
「分かりました。」
「あっ、待って。今後ろに回られると不味いから、前からお願い。」
「へ?あ、はい。」
真由美の首には金色に輝く細い紐の様なネックレスが掛けられていた。それを取ってほしいそうだ。両手は生物を抱いている為ふさがっているし、その程度なら何の躊躇もない哲多は、後ろに回り込もうとする。
だが、後ろに回られるのは不味いと焦る様にして言う真由美に、不思議そうにするも哲多は前から両腕を背後に回して外そうとした。それはまるで真由美に抱きついているようで、空は何故かモヤモヤとしたものを心の内に抱え込む。
哲多がネックレスを外そうと思いの外苦戦し格闘している隙に、真由美はニヤリと空に見えない様に嘲笑う。そしてネックレスを外しやすい様にする為と見せかけて、哲多の首元に顔を近づけた瞬間。
「うおっ!!」
「なっ、涼貴さんっ!?」
哲多の頬を掠め、風の弾丸が跳んで行った。慌ててその場を飛び退く哲多に、何をするんだと抗議の声を上げる空。
跳び出した二人を追いかけて、遅れていた涼貴と大地が追い付いたのだろう。ただしその姿はリュウレンジャーのもの。リュウレングリーンとリュウレンイエローの姿であった。
銃口を真由美に固定したまま、空の抗議を無視する涼貴に空は再び抗議しようと近寄る。
「お前は誰だ。」
「へっ?」
ただし、涼貴が真由美に発した問いに空は茫然としてしまう。五人目の竜巻に巻き込まれた真由美であろうと空が答えるよりも先に、大地がランドホーを突き付けた。
「あーあ、何でバレたんだろ。」
「なっ!?」
観念したのか、真由美だったそれは、体がグネグネと気持ち悪くうねらせると、その姿は中学生ぐらいの男の子になってしまった。慌てて哲多が空の方へと駆け寄ってくる。
「まぁ、予定のもんも手に入れたし、少しばかり遊んでもいいよね?」
そういって右手で握りつぶす様にして翼竜を持つ男の子。確認しているようでそれは、確定事項の様に哲多達へと襲い掛かったのだった。
「な、なにっ!!」
ただし、それは途中で中断される。空中から襲い掛かった黒い影が少年の手を叩き、握られていた翼竜を救出したのだ。更にはその黒い影が来た方向の茂みが揺れ、其処から真由美がヒョッコリと顔を出す。
「あーらら、ねぇ、それ返してくんないかな。」
「駄目ですよ。これはワイバーンさんのものですよ。」
取り返された翼竜を握っていた手を見て、真由美へと声を掛ける少年。だけど真由美はおっとりとした声で、まるで本当に少年へと言い聞かせるように声を掛けた。
じゃぁ、しょうがないなとばかりに、真由美へと襲い掛かる。だが、またしてもその攻撃は中断されるハメになった。いつの間にかヒーロースーツを纏った哲多が少年へと襲い掛かったのだ。
少年の姿とはいえ、真由美の姿を取って哲多達に近づいてきて、しかも翼竜を握りつぶそうとまでしたのだ。襲い掛かってきたこともあり、少年が魔族だと悟った哲多がフレイムハンマーを振り下ろしていた。
「おっ、とっと。邪魔しないでほしいな。ノンノットサンライト!!」
少年が手を空中に向け何かを呟くと、掌から闇と表記したらいいものだろうか。真っ黒な墨のようなものが広がり、光を遮ってしまった。
「くす、僕は此処だよぉ。」
暗闇の中、一メートル先も見えない状況で、右往左往する哲多に、やけに人を馬鹿にする声が聞こえてきた。
「ウインドショットっ!!」
「無駄だって。」
涼貴が風の弾丸でこの暗闇を晴らそうとしたのだろう、銃撃音が一発響くも、闇は晴れない。少年の声が辺りに響くだけ。瞬間哲多の背中が強打された。
「ぐわっ!?」
「へっ?哲多!?」
次の瞬間、近場から空の声が聞こえて来た事から、空の攻撃が哲多に当たったようだ。
「皆、動くなっ!!同士討ちになってしまう。」
「だけどそれじゃ、如何しろってのよっ!?」
哲多が暗闇に向かって叫ぶと、焦る空の声が返ってきた。間違えて哲多を攻撃してしまった事から、焦りが酷くなっている様だ。
「もう少し、待ってて貰えますか?」
そんな中、いつも通りのおっとりとした真由美の声が響いたのだった。