ファンタジーな世界をご当地ヒーローが救います。   作:yosshy3304

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第三章 魔族の男と変身の伝説

目の前の巨大な爬虫類。ズラリと並んだ鋭い歯が顔を覗かせている。つい先ほどゴブリンと呼ばれた生物を一飲みにしたとは思えない眠たげな瞳が哲多をジロリと睨んだ。

 

 

「可笑しな奴だ。」

 

 

どう見ても知性等無いような顔でその爬虫類は日本語を持って哲多に話しかける。

 

 

「キュウイー…。」

 

 

「あっ、チビっ!!」

 

 

唖然とし、言葉無く立ち尽くす哲多の頭の上からチビが飛び出した。

 

幾らチビが哲多の夢に出てきたドラゴンだといえど、圧倒的な体格差に先のゴブリンと同じ運命を幻視する。

 

哲多は慌ててチビに手を伸ばすが、哲多の伸ばされた手をスルリと抜けて、チビは飛んで行ってしまった。

 

 

「ほう、名付けられたか。」

 

 

「チミャー。」

 

 

しかし、巨大な爬虫類は、チビが傍まで来るとノソリと前に出てきて、猫が飼い主に擦り寄るように、親猫が子供にする様にチビに顔を擦り付けた。

 

そこで初めて哲多は爬虫類の全身を見ることが出来た。

 

 

「ド、ドラゴン?」

 

 

その姿はチビに良く似ていた。

 

赤い鱗で覆われたズングリムックリした胴体を地面から十数センチ浮かし、その巨体を飛ばせる蝙蝠の様な羽は折りたたまれている。ニュウと伸ばされた首はチビを囲う様にして丸められ、鋭い牙が覗く爬虫類顔は嬉しそうに笑っていた。

 

丸太よりも太い後ろ足は、何が起きてもビクともしなさそうで。その間から辛うじて顔を覗かせる短い尾はユラユラ揺れている。

 

体の大きさに比べて遥かに小さい前足は一見頼りなさそうだが、その巨体を確りと支え、鋭い爪が並ぶ。

 

 

「あっ、会場の…?」

 

 

そこで哲多は思い出した。

 

竜巻が襲った時、黒い手に追われていたドラゴンの幻影を。

 

確か姿はこんな感じではなかっただろうか。

 

 

「それでお前は、何故こんな場所に居る?」

 

 

「えっ、あっ、それは…。」

 

 

見惚れていた哲多にドラゴンが声を掛けてくる。チビもまた哲多の頭の上へと戻ってきた。

 

突然声を掛けられ混乱する哲多だが、どうせ夢なんだからと今までの事を話した。

 

 

「ふむ、我の逃走に巻き込んでしまったか…。」

 

 

「あ、やっぱりあの黒い手から逃げていたんだ…。」

 

 

「ふむ、事情ぐらいは話すべきだろうな。」

 

 

何故か哲多に親身になるドラゴン。幾ら巻き込んだからと言って事情を話す必要等無いのに話し出す。それも哲多がこの世界の事を知らないと知ってか神話にも及んだ。

 

 

 

 

 

この世界は世界に存在する者よりも上位の存在によって作られた。その上位の存在によりこの世界はエルファンテトラと呼ばれるようになる。

 

その上位の存在は、このエルファンテトラを三つの種族に管理させる。

 

一つは精霊種。彼らはエルファンテトラを改造し、他の種族がエルファンテトラにより住み易くする為に生み出された。

 

一つは竜種。自分達は他の空間から現れる害虫を駆除する為に生み出された。

 

最後は天体種。彼らは二つの種族を統括する為に生み出された。

 

ある時、上位の存在がこの世界を捨てた。

 

それまで上位の存在の手助けもあり、竜種によって駆逐されていた害虫は逃げ延びることが出来るようになる。

 

その逃げ延びた害虫は己の手足となる存在を探してエルファンテトラを彷徨い、天体種の一人に取りついた。

 

その取りつかれた天体種はやがて理性を無くし、エルファンテトラを破壊しだす。

 

当然その行為をやめさせようと竜種が止めに入るも、天体種の肉体を得た害虫は強く、幾つもの竜種の命が奪われた。

 

やがて他の天体種や、精霊種の助力もあり、害虫に取りつかれた天体種は封印される。

 

そう封印だ。倒しきれなかったのだ。

 

一時の平和は取り戻せたものの、封印は何時か解かれてしまう。

 

そこで害虫の力を持つ天体種を作り出すことにしたのだ。

 

天体種は節度を守ってその力を振るう。自制心が強い種族でもあったからな。

 

初めの内は、ただ強い天体種が生まれるだけであったが、何時の日かこの天体種は自身の事を魔族と呼び、エルファンテトラを支配する種族と呼称しだした。そして他の種族に戦を仕掛けてきたのだ。

 

その王として存在したのは害虫に取りつかれ、封印されていた天体種であった。

 

彼は自身の事を魔族の王、魔王と名乗り各地に魔族を攻め込ませた。

 

唯でさえ強い存在が無数と攻め込んでくる。各地は当然の様に窮地に陥った。

 

だが、魔族は自尊心が強く他と協力するということをせずに攻めて来た為、徐々に策を駆使しだした各種族によって敗れ始めた。

 

ある程度まで魔族の数を減らせた各種族は魔族を封印することにする。

 

いつかの様にな。だが、減らしたと言ってもその数は膨大であり、封印が弱かったのだろう。

 

強者には強く封印を施せたが、そこらの一般兵には大した封印を施すことが出来なかった。

 

そんな彼らは封印を解いてしまい、ただ彼らも馬鹿ではなかったのか、魔王の封印を解くことを先決としたのだ。

 

封印を解くには膨大な魔力を必要とする。

 

そこで目を付けたのが、我々竜種である。特にその卵は魔力の塊と言っていい程で。

 

だが、一般兵程度の実力では封印の解除が不完全で実力が下がっていたこともあり、数を用いれば竜種であれば撃退できたのだ。

 

そこで奴らは精霊種を襲い始めた。精霊種は数を頼り、様々な知恵を絞って戦う種族であったが犠牲を無くすことはできず、その犠牲となった精霊種の魔力で一部とは言え、魔王の封印を解いてしまった。

 

魔王の一部、魔王の魔力で編まれた暗黒の手は我を襲った。もっとも近くにいた卵、竜玉を持つ竜種が我だったというだけでな。

 

我は当然逃げ出した。魔王は全ての種族が手を取り合ってしか打倒できず、更には掴まれば魔王の復活を助けてしまう。

 

逃げて逃げて、ある時上位の存在がエルファンテトラに干渉する為の穴と呼べるものを見つけた。

 

我はそこに逃げ込むも、暗黒の手は追いかけてきて、後はお主の知っている通りじゃな。

 

あの竜巻は暗黒の手が世界に干渉した為に起きたもの。お主は竜巻に巻き込まれ、その穴からこの世界エルファンテトラに落ちてきたようじゃな。

 

 

「まさか、上位の存在が害虫の最下種のゴブリンに追いかけられているとは思うまい。」

 

 

そう言ってドラゴンは口を閉じた。

 

話を聞かされた哲多はただ、壮大な夢だなとしか思えなかった。

 

 

「ああ、やっと見つけました。」

 

 

「ぬぅ…。」

 

 

だが、声が聞こえたなと思ったら哲多に向かってドラゴンが向かってくる。慌てる哲多の横に体を出したドラゴンを黒い炎が襲いかかった。

 

 

「ぐぅ…。」

 

 

「あっちぃ、今度は何だ一体!!」

 

 

呻き声を上げ、崩れ落ちる巨体。熱まで防げなかったのか悲鳴を上げた哲多。辛うじてその巨体の奥に見えたのは、イヤラシイ笑みを浮かべる肌が浅黒い男であった。

 

 

「おや?君は精霊種ですか?」

 

 

「なっ!!」

 

 

「まぁ、そんな事はどうでもいいんですが。」

 

 

 哲多がその男を認識した瞬間、男は哲多のすぐ前まで来ており、哲多を見下ろしていた。

 

 哲多が驚いた瞬間、哲多は腹部に強い衝撃を受け、後ろに吹き飛ばされていた。

 

 

「グフッ…。」

 

 

 肺にたまった空気が無理やり押し出され、口から呻き声すら出せず空気の通った音だけが小さく漏れる。

 

 木の一本に全身を打ち、まるで全身がバラバラになったかのような衝撃と痛みが哲多を襲う。

 

 

「キュイィ…。」

 

 

「ああ、貴方に命は要りませんよ。すぐ魔力として利用されるだけですので。」

 

 

 いつの間にか哲多の頭に居たチビをその男は掴んでおり、逃れようとしているチビが首を伸ばして男の手に噛みついていた。

 

 その痛みにチビを改めて見た男は、チビに一言告げてその手に力を籠めだした。

 

 

「キュクゥー!!」

 

 

 苦悶の声を上げだしたチビに笑みを深くする男。

 

 

「待て、この野郎っ!!」

 

 

「おや?」

 

 

 だが、辛うじて立ち上がった哲多の上げた声に哲多の方を向く男。

 

 夢の中だとしても、小さな命が上げた悲鳴を無視できなかった哲多は、全身に走る痛みを無視して立ち上がったのだ。

 

 そして、何度も反復練習を繰り返した行為をする。目の前の訳の解らない存在に対して、もっとも有効だと本能がそれを選択したのだ。

 

 

「流水っ!!」

 

 

 掛け声と共に摘みを押し込み、ギミックを作動させる。

 

 

「なっ!?」

 

 

「…ふむ?あなたは何をやりたいのですか?」

 

 

 だが、変身する為のナノマシンの光は哲多を包まなかった。驚きバックルを見ると、龍の咢の中にある球は罅割れていた。

 

 ナノマシン自体は無事だが、そのナノマシンを制御し操る部分が破損してしまっている。

 

 焦る哲多を見た男は、哲多自体は脅威ではないが、何かされて今から自分がすることを邪魔されては堪らないと、哲多に向かって掌を向けた。

 

 

「取り敢えず邪魔ですよ。」

 

 

「うわっ!!」

 

 

 哲多に向かって黒い炎が打ち出される。

 

 それは遥かに巨大で、哲多がどうしたって倒せないようなドラゴンを地に伏せた攻撃である。哲多は思わずへたり込み、目を瞑ってしまった。

 

 

「…無事のようだな。」

 

 

「なっ!!」

 

 

 熱くも痛くもない事を不思議に思い目を開ける哲多が見たものは、半身のないドラゴンであった。

絞り出された声で掛けられた言葉にドラゴンの目を見る哲多は、そのドラゴンが笑みを浮かべている事に気付いた。

 

 

「…その玉を何とかすればいいのだろう。」

 

 

 言葉無く立ち尽くす哲多に向かって、ドラゴンは哲多の腕にある変身バックルの龍の咢の中にある球を見ながら、ただそれだけを言った。

 

 ドラゴンの体から光が漏れ出す。その光はバックルの龍の咢の中心にある球に注がれ、注がれる度にドラゴンの体が透けていく。

 

 

「ちょっ…!!」

 

 

「…少し頼りなさげだが、何とか息子を助けてやってくれ。」

 

 

 驚きの声を上げる哲多に向かってドラゴンは最後にそう言って消えていった。

 

 

「おやおや、無駄なことを。そんな弱小の存在を修復した所で命の無駄遣いなのですがねぇ…。」

 

 

 男のポツリと呟かれた言葉に思わず俯く哲多。

 

 

「…さねぇ!!」

 

 

「はい?」

 

 

「絶対、許さねぇ!!」

 

 

 正義感の強い哲多に取って、ここが夢の世界であったとしても、ドラゴンの行為や想いを馬鹿にした男を許すことが出来なかった。

 

 

「流水っ!!」

 

 

 左腕を肘から曲げて、顔の前に真直ぐ立てる。拳は顔の方へと向けて、手首に巻いたバックルが男へと良く見える様に掲げた。男側に向けた龍の顔が正面に来るようにして右手で内側の摘みを掴んだ。

 

 青空の下、山の中腹よりもやや上の、木々の中に張りの良い声が響いた。

 

 掛け声と共に、摘みを押しこんだことでギミックが作動する。龍の咢が中心の虹色に輝く龍玉を銜え込んだ。

 

 哲多の体を光が包み込む。医療用のナノマシンを使用し、組み込まれたギミックを作動させると、収納されていたナノマシンが体の周りに放出され、それがゴム質な何かに変質する。

 

 ナノマシン自体には複雑なプログラムを組む事は出来なくとも、磁力の影響を受けることは出来る為、ギミックを作動させた時にバックル側で操作することが出来るのだ。

 

 電気の代わりに魔力によって動かされたナノマシンは真紅なゴム質な何かに包まれた哲多の、肩、胸、腕、腰、足と鈍い鉄色で覆っていく。最後に髭が頬を通って後方へと流れる真紅の龍の顔を模したヘルメットが哲多の頭を覆った。

 

 

「なっ、何者ですかあなたはっ!!」

 

 

「鉄と火の伝説、リュウレンレッド。」

 

 

驚く男に答える様に哲多は男側、正面を向いてポーズを決め名乗りを上げた。

 

 

「さぁ、伝説の物語の始まりだっ!!」

 

 

 哲多は茫然とする男に向かって指を突き付け、決め台詞を言う。

 

 哲多の声は、木々の擦れる音や風の音に負けないぐらい、力強かった。

 




次回は短くなりそうです。
誤字脱字、感想、ここはこうした方がいいですよというアドバイス待ってます。
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